筆者の学生時代は約30年前、声楽においてテノール人口がとても少なく、日本人はバリトン民族とか何とか言われていたものだ。芸大の受験者もバスの方がテノールより多かった。
それが20年ほど前になると、テノールの受験者が激増したのだ。一挙に日本人の声が甲高くなった・・・はずはない。
芸大の先生曰く「三大テノールの影響」
ちょっと高い声が出る男どもが、我も我もと受験に参加したようなのだ。
さて、10年ちょっと前、少子化の波に逆行して、コンクールのヴァイオリン受験者が増えていった頃があった。比例して芸大のヴァイオリン受験者も多かった。
芸大の先生に伺った「ハカセの影響ですか?」
芸大の先生曰く「そう・・・かな・・・?」
かなり歯切れの悪い返事だった。
ところで数年前から、東京芸大が直接子供の教育に乗り出し始めた。
「あんなの、私学いじめよ!」と私学関係者の大御所が言ったら、
「いえ、そういうことではなく・・・」と芸大関係者。
ここのところ東京芸大も受験者が激減し、すでに邦楽科は定員割れを起こし始めた。
この受験者の減るペースは少子化のペースよりも激しいそうで、そこに東京芸大は危機感を持ったとのこと。なので、とにかく音楽に関心を持ってもらう子供を増やそう、というのがまず第一義なのだそうだ。
もっともらしい説明で、嘘ではないと思うけと、筆者としては、ついにバブルがはじけたか、という感じが強い。
つまり少子化が始まっていたにも関わらず、ヴァイオリンの受験者が増えていたのは「バブル」だと思うのだ。
名付けてハカセ・バブル。
筆者は幸か不幸か、太郎氏とは入れ違いだったので面識はないけれど、ということはちょっと下からずっと下の人まで、太郎氏と面識がある年代がいる、ということになる。
その年代の皆さんと芸大の教員の皆さん、ほとんどが、このハカセ・バブルを認めないような気がする。(特に太郎氏より年上の皆さんは。)
でも、ほとんどの皆さんは、このハカセ・バブルの恩恵を被っているはずだ。受験者が多いのはもとより、筆者でさえ「情熱大陸」を弾いたことがある。パガニーニが弾けなくても情熱大陸さえ弾ければ、大ウケ間違いなし!だったでしょう?
全日本学生音楽コンクールの全国大会のプログラムには、出場者全員「共演したいアーティスト」を書く欄がある。旧聞で申し訳ないが、3年前にはここに太郎氏の名前が3回も書いてあるのだ。3回も出てくるのはあと小澤征爾のみ。(ちなみに最多は5人の佐渡裕。)
スターが出てくれば、そのジャンルが盛り上がるのが常識だ。野球やサッカーはコンスタントにスターがいるし、愛ちゃんが出てくれば卓球に、ヤワラちゃんが出てくれば柔道に、と日本人は動いてきた。
そして太郎氏は20年以上、ヴァイオリン界を盛り上げてくれた訳だ。すばらしいことである。
もちろん今からもずっと盛り上げてもらいたい。一方で20代30代の中からドクター次郎とかマスター三郎とか出てきてくれないのだろうか。東京芸大が子供育成に手を出すより、はるかに効果があると思うのだけれど・・・。