井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

燕尾服は夜会服

2010-12-25 10:55:04 | うんちく・小ネタ

先日のマチネー(昼公演)、若手演奏家と一緒にステージに立った時、彼らは燕尾服を着ていた。私はタキシードである。これを見た瞬間、様々な思いが頭をよぎった。

「燕尾服は夜会服」

オーケストラのエキストラ奏者の仕事を始めた頃、そのように教えられた。

一般には結婚式の貸衣装くらいでしか目にしない燕尾服、ところがオーケストラの男性奏者にとってはユニフォームである。ただし、夏場は着ない。

その「着ない」時期から仕事を始めた関係で、当初は何も知らなかった。そして、ある時「本番は燕尾服」と言われ、慌てふためいた。千香士先生に聞くと、いわゆる「既製服」の「つるし」はウィーンくらいにしかなく、「イヴニングドレスコート」と呼ばれるくらいの高級なものだから、本来は安物はない、とのこと。「N響のはペラペラの生地だったけどな。」

同級生に仕立て屋の娘がいたので、そこにも聞くと、やはり2,30万はするとのこと。数万円頂く仕事に数十万の衣装がいるものなのか?

オーケストラによっては、持っていなければ通常のスーツで良いところもあり、エキストラ用に古い燕尾が一着保管されているところもあった。

先輩はどうしていたのか?

「○○さんはね、持っていなくてお父さんから借りたら、それがモーニングでさ、モーニングで出ちゃったんだって。」

は? モーニング?

余計わからなくなり、同級生と話す。

「おい、どうする?」
「あ、買ったよ」
「どこで?」
「カイ・ンド・・・」
「海品問屋?」
「カインド・ウェア!」

20世紀後半、燕尾服など着ているのはダンサーとオーケストラ奏者くらい。当時すでにパリ管弦楽団ではカルダンあたりがデザインした服を着始めていたが、それ以外、ヨーロッパと日本のオーケストラは相変わらず燕尾服である。結局、何回も使うものだから、買うべきものだとの結論に達し、私もカインド・ウェアへ。十数万の定価のものを「問屋」だからということで75,000円で手に入れたと記憶している。

「シャツも作りますか?」

などと聞かれた。そんなものは間に合っている、とその時は思った。ところが、その頃からこまごまと燕尾服に関する情報を仕入れていくうちに、シャツも本当は通常のカッターとは違うのが正式なのだと知った。

私の知りえた「正式」は以下の通り。

・燕尾服の襟

剣襟(けんえり)、または「へちま襟」

・ズボン

サイドにラインが一本ないし二本入り、サスペンダーで吊る。スーツのズボンよりやや上まで長くなっている。

・ベスト

白のチョッキ。燕尾服はベストが正式で、カマーバンドは正式ではない。またシャツは内着で、いわゆる下着扱い、そこに直接着るから直着「チョッキ」という、とも。

・カマーバンド

俗に「腹帯」(ふくたい、はらおび)とも言う。女性の「サッシュ」を幅広にしたような形態だが、タキシードで身につけるのが正式。しかし、燕尾でベストは冬場でも暑いので、オーケストラ奏者は、このカマーをつけている人が多い。

ちなみにウィーンには「前だけベスト」というのを売っていた。背中がないので、あまり暑くない。

・シャツ

プリーツ入り、またはイカ胸。

襟は「ウィング・カラー」といって、正面に三角形の小さな翼がとび出している。あとは襟が縦に立っているだけなので、ネクタイが横から見えるのが特徴。

ボタンは隠しボタンで、ボタンの部分が二重になっている。その上に「飾りボタン」をつける。これはカフスボタンと共通のものをつける。

・ネクタイ

白の蝶ネクタイ。

・靴

エナメル・パンプス。

・靴下

絹またはナイロン製。

いやはや、面倒な洋服である。それで、正式ならば良いというものでもない。当時ウィング・カラーのシャツを着ていたのはウィーン帰りの先輩と、テレビドラマの中の小村寿太郎くらいしか見たことがなかった。そのような中で、ウィングカラーに飾りボタン、エナメルパンプスでもはいてステージに上がろうものならば、「何だ、この生意気な小僧は」と思われるのがオチ。適当に崩して着ることになる。さらに面倒。

そしてオーケストラによって、細かい習慣がまた違うこともあり、タキシードが共存するという日本独自と思われる慣習もあるのだが、長くなったので、また次の機会に・・・。


鉄道旅行地図帳

2009-07-16 23:14:49 | うんちく・小ネタ

話題の地図帳の九州沖縄編を、やっと買えた。「ありそうでなかった正縮尺の鉄道地図」だ。

日本鉄道旅行地図帳 12号 九州沖縄―全線・全駅・全廃線 (12) (新潮「旅」ムック) 日本鉄道旅行地図帳 12号 九州沖縄―全線・全駅・全廃線 (12) (新潮「旅」ムック)
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発売日:2009-04
日本鉄道旅行地図帳 5号 東京―全線・全駅・全廃線 (5) (新潮「旅」ムック) 日本鉄道旅行地図帳 5号 東京―全線・全駅・全廃線 (5) (新潮「旅」ムック)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2008-09

廃線や未成線(完成しなかった路線)まで載っているのだ。「あそこに鉄道が走っていたんだ」とか「これが完成していればなぁ」などと想像しているだけで楽しい。

初めて知る事実も少なくない。 その一つ、駅舎。明治初期、お雇い外人に指導を受けた関係で、本州はイギリス、北海道はアメリカ、そして九州はドイツの影響をうけているそうだ。

そう言えば、九州弁はドイツ語に似ている、とのたまわった先輩がいたなぁ。

「ほら、よく言うじゃない?○○シトルケン、って」


ルーモとアードゥ

2006-10-26 17:55:52 | うんちく・小ネタ

コメントの返事の書き方がわからん!

ので,新規の記事にします。と言っても,私がエラそうに言うことではなく,團先生の受け売りです。

お気付きのようにドゥアとモールをひっくり返した言葉で,それ以上の意味はありません。ひっくり返して隠語にするのは,かなり長い歴史があるようで,私もいつからなのか存じません。音楽業界にはいったのは大正時代の浅草オペラだというのが團先生の説です。

浅草オペラの近辺で暗躍されていた様々な方々が使っていたのを(女を「ナオン」のように)そのままでは芸がないと思われたのか,ドイツ語をとりいれ,1,2,3をツェー,デー,アーなどと言い,楽隊を気取っていたのが現在の音楽界と芸能界に伝承されている,のだそうです。

今でもよく「ヒーコー飲んでシータクで帰ろう」などと言いますが,個人的にはあまり好きではありません。特に(偏見ですが)女性の演奏家には絶対に使ってほしくない言葉です。茶を飲もうだったら「アーチャを飲もう」になるのですよ。8はオクまたはオクツェーなので800円はオク百円。頭の中で翻訳機が忙しく稼動します。
まあ,私の師匠のように「今からスンレツがあるから」とまで言う人は,さすがにいらっしゃらないとは思いますが。