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すごく勉強になります>「南沙織がいたころ」

2019年02月23日 | ブックレビュー

 ニュースでは毎日沖縄の話が出る昨今なので、久しぶりにこの本を読んでみました。何回か話題にしてますが、朝日新書の「南沙織がいたころ」(永井良和著)です。著者は関係者ではなくファンの方で現在は大学の社会学部教授なのですが、当時の雑誌記事や関連書籍、ファンクラブの会報、近年の南沙織さんのインタビュー記事などを基に執筆されたものです。あとがきによると、資料に関しては大宅壮一文庫、国立国会図書館、京都府立図書館、京都ノートルダム女子大学学術情報センター図書館、東京大学情報学図書室、関西大学図書館などのお世話になったそうです。巻末の参考文献・資料一覧には、本だけでも70冊くらいの書籍が並んでます。

 

 で、勉強になる点の一つは当時の沖縄の事情。南沙織さんが通ったのが沖縄の「アメリカン・スクール」だったとされることがよくあり、私もそう思ってました。が、実際にはインターナショナルスクールであり、米軍基地で働くフィリピン人が中心となって1953年に設立されたカトリックの学校だそうです。

 

 以下この本からの引用です。「1940年代後半から1950年代にかけて、フィリピンで採用され沖縄の米軍基地で働くようになった男性たちのなかに、沖縄の女性と結婚して家庭を築く人があらわれました。しかし、フィリピン国籍の子供たちは米軍の学校にかよえません。」ということで、カプチン会の神父に頼んで学校を作ってもらったそうです。この学校の評判がよくなるにつれ、基地内の学校に通っていた米国軍人の子供たちも転校してきたそうですが、なんか勝手な話で「米国軍人ならなんでも許されるのか」という気もします。

 

 南沙織さんは、母親がフィリピン系の方と結婚したため、ご本人は両親とも日本人ですが妹さんや弟さんはハーフということになります。フィリピン系の子供はアメリカンスクールにも日本の学校にも通うことが難しく、その受け皿としての私立の学校に兄弟みんな通っていたということですね。そんな事情は知りませんでした。ちなみに家庭内では母親とは日本語で、父親や妹さん、弟さんとは英語で会話していたそうです。おかげで、私なんぞは当時の沖縄の人はみんな英語をそこそこしゃべれるのかと思ってたくらいで、いかに沖縄のことを知らなかったかと。お恥ずかしい…。

 

 ちなみに、南沙織さんもお父さんがフィリピン系だったり通っていた学校のことで沖縄では差別を受けたことがあるのかもしれませんが、後年もそういう話はほとんど語っていないそうです。故郷を悪く言うのは控えたいという遠慮があったのかも、とも記されています。あとは、デビュー当時は「父親はフィリピン人、母親は日本人なのでハーフ」とされた上に、生まれは「奄美大島」だったり「鹿児島県」だったりという情報でした。奄美大島はお母さんがそちらの方面の出身ではないかという今になっての情報ですが、当時沖縄はまだアメリカだったので、ハーフはOKでも沖縄生まれはNGだったのかという不思議な感じ。売り出し方にはいろいろ謎が多いです。

 

 もう一点勉強になるのは当時の芸能プロダクション事情。1970年当時は今のようにメディア戦略をじっくり練って本人の成長過程も含めてスターを作り出すようなことはなく、芸能人はプロダクションの「所有物」と考えらえていたのだとか。それを撮影やステージなどの現場に送り込み、興行主と組んで公演の売り上げから取り分を得るような商売をしていたと。

 

 なので、「住まいを用意する」「学校にもちゃんと行かせる」という約束で沖縄から連れてきたのに、実際はホテル住まいや社長宅の居候、忙しくなると仕事を詰め込み学校にはほとんど行けず試験も受けられず、体調が悪くてドクターストップがかかっても仕事を強行させ結果入院する事態になってようやく休業、そのあげくに「引退したい」という発言が出たと。

 

 まだ返還前だった沖縄からパスポートを持って「来日」した少女が、プライバシーもなく、学校での友達もできず、話し相手も信用できる大人にも恵まれず、という状況におかれよく精神を病まなかったものだと。そこは相当芯が強かったのでしょうね。あとは、最初のプロダクションはクソでしたが、幸いなことにレコード会社(CBSソニー)では名プロデューサーとして知られる酒井政利さんや、作曲家の筒美京平先生、結果的に「南沙織」の名付け親になった作詞家の有馬三恵子先生らのスタッフに恵まれたことが良かったのでしょう。

 

 というような話があれこれ出てきて、これらはほんのさわりだけですが、読むたびに目からウロコが千枚くらい落ちるというこれは本当に素晴らしい本です。南沙織さんのファンだけじゃなくて、アイドルとか歌謡界、果ては沖縄問題に関心のある人にも読んでいただきたいと。どーですか、お客さん。