チェッカーズは第二弾の「涙のリクエスト」がヒットしてから、デビュー曲の「ギザギザハートの子守唄」も注目されて引きずられるようにヒットしたという話を思い出しました。というのも、高杢禎彦著の「チェッカーズ」を久々に読んでるので。
これは高杢さんの闘病記であり自伝であり、チェッカーズの結成からサクセスストーリーから解散のゴタゴタまで記された本で私の愛読書であります。大変面白いので、皆様も是非お読みください。特に興味深いのは、デビューが決まって上京し、人気グループになるあたりの話。
デビュー曲の「ギザギザハートの子守唄」は当初まったく売れなかったのですが、別に本人たちがやる気がなかったわけでもなく、事務所が力を入れなかったわけでもありません。この本の記述を見ると、「苦肉の策で、レコード店に入るや、『この曲かけてください。いい曲なんで。』といって、店内にレコードをかけてもらった。しかし、反応はゼロに近かった。」のだそうです。
初期のチェッカーズのシングルを作曲した芹澤廣明先生は、彼らがデビューする数ヶ月前からレッスンしており売れる事は確信していたようですが、「ギザギザハートの子守唄」は特に自信作だったようです。あれだけのヒットメーカーが「売れる」と思っても最初からヒットしない事はあるということで。
なので、いくらいい曲を良質なパフォーマンスでリリースしたとしても、売れない事はあると。大事なのはいい作品を作りたいという志であって、ちょっとしたネタとかアイディアとかキャラクターを利用して売れる事だけを狙ったものは音楽としてはどうなのでしょうということです。ヒットする曲には何かがあると思いたいのですが、瞬間最大風速的に一瞬チャートの1位を獲ったとして、翌週にはランキングから消えるようなものは流行歌とかヒット曲と言えるのでしょうか。
そういう曲とリリース時期が重なったり、なかなか一般大衆には理解されにくくてヒットには繋がらなかった曲でも、いい曲はいっぱいあります。ヒットチャートだけ追いかけるのも虚しいので、古今東西いろんな曲を知って心豊かに過ごしませんか?というのが今日のテーマです。
メロディーに心打たれるもよし、歌詞に潜む深い意味を考えてみるもよし、アレンジの妙を楽しむもよし、歌声に耳を傾けるもよし、ティッシュペーパーのようにすぐにゴミ箱行きとなる音楽よりは、自分なりにずっと好きでいられる曲やアーティストを見つけられれば幸せに生きられると思う次第。まあこの辺は好みの問題なので、週間チャートの1位になる曲はすべて好きで、そういうのを聞いてるのが本当に好きという人は別にそれでいいです。ただ、売り方にもやり方とか志はあるのでは?と思ったりします。
なお、その芹澤先生は別にチェッカーズに惚れ込んで後押ししたとかいうことはなく、初対面では「お前ら、何ができるんだ?」という態度で臨み、その後のデビューまでのレッスンでは言ったことを言ったとおりにできるようにしてこなかったメンバーはスタジオから閉め出して、ちゃんとできるようになるまで許さない厳しさもあったとか。
それでいて「今日はここができなかったバツな。」と言って、練習が終わってから二人ずつ自宅に連れて行っては、説教かと思いきや給料の安い彼らに奥さんの手料理を腹いっぱい食べさせるという男気を見せていたとか。本当に素敵な人です。
そんな厳しい芹澤さんが、デビューが迫った頃に「人気がでてきたら、こんな練習ももうできないんだからな。」と言ってニッコリ笑ったのを高杢さんは鮮明に覚えてるそうです。しかし、それでもデビュー曲は当初は売れなかったので、本日のタイトルの通り「いい曲がすぐ売れるわけでも必ず売れるわけでもないという」のを実感しました。
かの小椋佳さんは堀内孝雄さんと組んで曲を作る時に、「堀内さん、とにかくいい曲作りましょうや。」と言ったとか。もちろん、それでヒットするのがベストですが、音楽の作り手にはそういう思いを持って欲しいです。私は、世間ではヒットしなかった、あるいはまだヒットしたとはいえないけど、凄くいいと思う曲はいっぱい知ってます。それで結構幸せです。あなたはいかがですか?