村上春樹
『ザ・スコットフィッツジェラルド・ブック』★★★★
感慨深い。
このようにして我々は絶え間なく過去へと引き戻されながらも、
寄せくる波に向かって、その舟を力のかぎりに漕ぎ進むのである。
― SO WE BEAT ON BOATS AGAINST THE CURRENT, BORNE BACK CEASELESSLY INTO THE PAST ―
世間は我々の想像力を越えた行為や出来事で充ち充ちているのだ。
一生のうちで真の愛に巡り会うなんて極めて稀なことなのだというのが彼にも分かってきたのだ。
「あなたは身を固めることのできない人なのよ」
そのひと言がアンソンの背中にぐさりと突き刺さった。よりによってそんな咎めを受けるなんて、彼にはとても信じられなかった。
僕は思うのだけど、誰かに愛されていないことには彼は幸せにはなれないのだ。