秋野ひとみ
『思い出をつかまえて』
1991年11月5日 第1版発行
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たとえば、ね。
思い出を色にたとえるとしたら。
それは、どんな色をしていると思う?
白?
グリーン?
それとも、セピア色?
それとも、もっと別な色?
その思い出のが夏のまぶしい校庭の出来事なら、それはきっと白。
若葉のあいだを風がかけぬける初夏の出来事なら、それは緑。
生暖かい春の夜の出来事なら、それは、桃色かもしれない。
それとも、思い出はみんなみんな、古い写真のようにセピア色なのかもしれない。
でも。
でもね。
それはたぶん、きっとちがうの。
そう。
思い出の色は、空の青。
ラベンダーの花のような、褪せてしまった、空の青。
最後まで残る大切な思い出は、きっときっと、そんな空の青だと、あたしは思う。
「どうして、別れちゃったのかしらね、わたしたち?」
「あとでね、ずっとあとでね、こう思ったわ。幸せにする資格がないならないで、いいじゃない?なら、どうしてわたしは、あなたといっしょに不幸になっちゃいけないの?って……わたしには、あなたといっしょに不幸になる資格もなかったのかなって……」
「あたしたちはそうじゃなかった。なにかヘンにカッコをつけて、お互いの趣味や領分を尊重しようとして。無理に相手のことを知ろうとはしなかった。だけど、それは間違ってると思うの。ほんとに好きだったら、その人のこと、もっともっと知りたいって思うのが当然なんだと思う。あたしとあの人は、そうじゃなかった」