『大江健三郎全小説11』
2019年7月10日 第一刷発行
株式会社講談社
【収録作品】
河馬に噛まれる
懐かしい年への手紙
キルプの軍団
──理想郷の建設・学生運動
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・懐かしい年への手紙
第一部
第一章 静かな悲嘆(グリーフ)
僕 妹 ギ―兄さん オセッチャン(ギー兄さんの妻)
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年をとる、そして突然ある逆行が起る。非常に荒々しい悲嘆というものが自分を待ちかまえているかも知れぬと、Kちゃんよ、きみは思うことがないか?
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隠遁者ギー セイさん(オセッチャンの実の母親)
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——「時ハ過ぎ行ク」だからね。困って逃げだしたい気分の時も、その場にじっと残っておれば、「時ハ過ぎ行ク」で、いつまでも困ったままじゃないよ!
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W・B・イェーツ
第二章 カシオペア型のほくろ
バッハ『平均律クラヴィア』
僕はギ―兄さんに再会してイェーツの詩の記憶を揺さぶられる。
オユーサン
第三章 メキシコの「夢の時」
マルカム・ラウリー『活火山の下で(アンダー・ザ・ヴォルケイノ)』
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現実にメキシコ・シティーで暮らしながら、一方では四国の森のなかの「夢の時(ドリーム・タイム)」、あるいは「永遠の夢の時(ジ・エターナル・ドリーム・タイム)」を経験しているようである。それが僕の奇態な両義性の内実であったのだ。
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第四章 「美しい村」
柳田国男の文章から選び出した「美しい村」
第五章 死すべき者の娘とは見えず
アサ 「メイスケサン」
谷間と在の昔語り
僕は森のなかの土地の神話や歴史の伝承を勉強するよにと示唆された。
第六章 「懐かしい年」
ヒカリ
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——ヒカリさんが、健常な生まれ方をしていたならば、かれらは兄弟ともに、見るから愉快な若者になっただろうね。
——僕は、そういうふうに考えたことはないよ、ギー兄さん、オユーサンともそういう話をした記憶がない。障害がなかったなら、というふうにはね。
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第二部
第一章 父祖たちが家郷と呼んだ谷間から離れることはないものと/むなしくたてた子供の誓いを思っている‥‥‥
ギー兄さんの「千里眼」
第二章 キウリと牛鬼、イェーツ
「千里眼」の責任
『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』
第三章 〔naif〕という発音のあだ名
再び結ばれた僕とギー兄さんの師弟関係
学生時代のナイフ事件
結構根性あるじゃない?大江さんの意外性
ディケンズ『荒涼館(ブリーク・ハウス)』
第四章 原紙がわかっても問題は難かしい
受験に失敗
「壊す人」の森から生まれ森へと還る筋道が見えた。
第五章 性的人間
題名がダブる・・
まぁこちらは下ネタ系です。
『大江健三郎全小説3』完読 - ◆BookBookBook◆
第六章 性的入門の別の側面
二組の性関係
正直うんざり・・
第七章、第八章 感情教育(エデュカシオン・サンチマンタール)(一)(二)
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処女作は、作家の行く末を示している
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ギー兄さんの言葉
『死者の奢り』は批判され、『奇妙な仕事』は賞めてくれた。
何だかめずらしく本気モードの自分史
ある意味ナゾ部分が解消された感
第九章、第十章 根拠地(一)(二)
ギー兄さんと繁さん(新劇女優)・・今は女優じゃなく「俳優」 時代を感じる。
デモ隊「安保闘争」に加わったギー兄さんが騒動に巻き込まれる。
Kちゃんは暢気坊主
第十一章 事件
P434-436 『個人的な体験』抜粋
第三部
第一章 さていと聖なる浪より歸れば、
我はあたかも若葉のいでて新たになれる若木のごとく、
すべてあらたまり/淸くして、諸々の星にいたるにふさはしかりき
ギー兄さんが獄中にいた10年間
直接連絡を取らず疎遠になっていたが、それでもどこかで繋がっていた。
「事件」
第二章 自己(セルフ)の死と再生(リザレクション)の物語
メキシコ帰りに成城学園の家にギー兄さんが現われた。
ダンテ『神曲』
第三章 臭いたてる黒い水
黒い水 人殺し
黒い水と言えば、新天地への移住に際しての大岩塊の爆破での黒い水
第四章 「懐かしい年への手紙」
最終章・・
ギー兄さんへの爆破に対する語り。
プロフェソールFB
ギー兄さんの死
家族の団らんする姿を夢想する平和な時間
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ギー兄さんは草原に横たわっている。いくらか離れて、オセッチャンと妹は草を採んでいる。そしていつのまにか僕もまた、ギー兄さんの脇に寝そべっているし、ヒカリとオユーサンも草採みに加わった様子だ。陽はうららかに揚の新芽の淡い緑を輝やかせ、大檜の濃い緑も夜来の雨に新しく洗われて、対岸の山桜の白い花房が揺れている。時はゆっくりとたつ。
あらためてギー兄さんと僕とは草原に横たわって、オセッチャンと妹は青草を採んでおり、娘のようなオユーサンと、幼く無垢そのもので、障害がかえって素直な愛らしさを強めるほどだったヒカリが、青草を採む輪に加わる。陽はうららかに揚の新芽の淡い緑を輝やかせ、大檜の濃い緑はさらに色濃く、対岸の山桜の白い花房はたえまなく揺れている。
ギー兄さんよ、その懐かしい年のなかの、いつまでも循環する時に生きるわれわれへ向けて、僕は幾通も幾通も、手紙を書く。この手紙に始まり、それがあなたのいなくなった現世で、僕が生の終りまで書きつづけてゆくはずの、これからの仕事となろう。
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威厳ある老人は端折る。
ラストは美しく描かれている。
失速せずにがんばりが伝わる結びである。