劇団カプチーノHPカウンター5桁突入記念に…インドの思い出。
喉は渇いている。中にはホットチャイ。
だが、乱雑な置かれたおちょこサイズの小さな器。そのふちは欠け、うす汚れている。
口をつけずに飲む方法は…?
インドの思い出の数は旅行日数と合致しない。
目的地に着かない。暗闇に放り出される。優しかった人が、料金交渉で豹変する。
トラブルと暑さにやられ、宿に引きこもっていたからだ。
そこで私はその宿に暮らす一人の日本人女性と出会う。
彼女は友人だといってインド人を紹介してくれた。彼は船頭を生業にしていた。
彼の舟に乗り、ガンガークルーズ。河から岸を眺める。
体を洗う人、洗濯する人、祈りを捧げる人、死んだ牛が流れてゆく河、水浴びを楽しむ人、沐浴する人、遠くでたなびく火葬の煙…。
最終日の朝も、彼の舟に乗った。櫂をこぐ手が震えている。
降り続けたスコールの為、ガンジス河の水かさは増し、流れは速くなっていた。
先を進む年若い船頭の舟は、もはや進むことができず、流されないよういるだけでやっとの状態。
彼は私たちの乗る舟を橋のたもとにくっつけると、前で立ち往生する舟に飛び乗った。
二人がかりで、ガンガーの流れに逆らう。押しては元に戻されるの繰り返し。
岸にいる男たちが様子に気づき、ガンジス河に飛びこむ。素手で船を押す。
私たちの見守る中、舟が渦の中心を抜けた!
先の舟の安全を確認した彼は私たちの待つ舟に戻り、再び渦に挑む。
その日のガンガーは容赦なかった。踏ん張る彼の細い体にくっきりと見事な筋肉が浮かび上がる。
その無駄のない美しさにくぎづけだった。私たちも渦を抜けた。
手をかした男たちは何事もなかったようまた岸に戻ってゆく。
ガンガーと共に生きる、を見た。
例え今回の旅が、このたったひとつの光景を見る為の旅だとしても…
惜しくないと思った。
初めてのインドに私は完敗だった。それでもまたいつか行きたいと思うのは
あの朝の光景が忘れられないからだろう。
暑い日、カフェでホットチャイを頼む。砂糖をたっぷり入れたチャイに、
あの日おそるおそる口をつけ、飲んだ甘いチャイの美味しさを懐かしむ。