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“向社会性”という価値観―“「良心ある企業」の見わけ方”を読んで

前回、コンサルタントと顧客企業の間には“共感”し得る 共通の精神的バックグラウンドが 必要であると述べました。
つまり ビジネスの世界には ある程度の最大公約数のような 共通の価値観が無ければ、あらゆる局面での交渉や、折衝、意思疎通が 基本的なところで上手く行かないだろうと思われます。
この本は “「良心ある企業」の見わけ方” という標題ですが、実は 現代の国際ビジネス社会での 共通の精神的基盤としての“良心”の側面である “向社会性Prosocial”について 述べています。

ビジネスには“共感”が 必要です。より広く 人々からの“共感”を得た 企業がビジネスに成功するものと思います。それは、“人々の共感”を得ることは 人々の支持を得ることにつながるからです。信玄の言葉とされる “なさけは味方、仇は敵なり” です。
この“共感”を獲得するためには、背景に“良心” が無ければなりません。悪徳は “共感”の対象にはなりません。悪徳の本質は 利己的だからです。“良心”こそ “共感”のための基盤であると 私は思うのです。

この本では、著者・小樽雅章(こぐれまさあき)氏は 次のように切り出します。
“いまや企業は品質や単価だけでなく、「向社会性=社会のために、人のために」なっているかどうかによって、消費者に選ばれる時代になりつつある。”
これは 今や 誇張ではないと私も思います。

今、人類世界の大問題は 次の3つであると著者は 指摘します。
①多国籍企業の跳梁
②貧富格差の拡大
③環境とエネルギーの障壁

この本の最初に 次のようなエピソードが紹介されています。それは ナイキのスニーカーであるエア・ジョーダンをめぐるニューヨーク地下鉄での少年犯罪の話で、私には かなりショッキングでした。ブランドが犯罪を誘引しているのです。
そして、その一方で このスニーカー・メーカーはアジアの開発途上国で 安い労賃で生産し、利益を上げているのです。この多国籍企業は、より低い生産コストを求めて、つまり安い労賃の国・地域へ 生産拠点をどんどん移動して行くのです。その移動して行く生産拠点周辺には 想像を絶する貧困があるのです。
カナダの女性ジャーナリスト、ナオミ・クラインをして“ブランドなんかいらない”と言わしめるのも当然です。
このような事例が 示していることは “多国籍企業の跳梁”が 世界に“貧富格差の拡大”を撒き散らしている世界経済の構造になっているというのです。お行儀の悪い多国籍企業の振る舞いは、人類社会に 甚大な悪影響を与えているのです。
この目に余る“多国籍企業の跳梁”と“貧富格差の拡大”に 前国連事務総長のアナン氏が 世界のビジネス・リーダーの集まるスイスのダボス会議で1999年1月にアピールを出し、倫理的原則を遵守するよう盟約することを迫ったとのことです。
これが いわゆる“グローバル・コンパクトThe Global Compact”と言われているものとのことです。この事実は 私も 全く不明にして、知りませんでした。日本では 何故か、あまり知られていない事実ではないかと思います。そして、その後2004年6月に腐敗防止に関する原則が追加され、以下に示す 今日の“原則”となったようです。



さて、企業の社会的責任CSR(Corporate Social Responsibility)とは何か。それは、コンプライアンスでしょうか。法令遵守は 最低限 普通の社会的企業であれば当然のことで そんな子供じみたことを 大企業のトップが真顔で言うのは“噴飯物”だと この著者は 言い放ちます。
そして 日本経団連の定義は 次のようだけれど、非常に分かり難いと論難しています。
“CSRの具体的な内容については国、地域によって考えが異なり、国際的定義はないが、一般的には、企業活動において経済、環境、社会の側面を総合的に捉え、競争力の源泉とし、企業価値の向上につなげることとされる。”
国、地域で考えがことなり、状況によっても変化するようなCSRであれば、具体的に何をやれば良いのかさっぱり分からない、というのです。

著者の結論はCEP(Council on Economic Priorities:経済的優先順位に関する協議会)というNPOが “良い企業”を求めて作った“企業の良心を測る7つの評価軸”が判断基準だ、と主張しています。その軸とは 次の7つです。
①情報公開 ②環境や自然への配慮 ③女性の処遇・昇進 ④少数民族の処遇・昇進 ⑤慈善・寄付 ⑥労働環境への配慮 ⑦従業員家族への福利厚生

こういう“貧困、搾取、児童、教育、倫理、企業、国家・・・・・”がテーマとなり、ISO9001やISO14001を参考にSA8000という国際規格が 作られたとのことです。
そして 著者は 次の7つの質問を“企業の良心の健康診断”のために用意しています。



この後、この本では8社の“良い企業”の事例が “お口直し”のように紹介されています。浮世離れしたような会社や 少々怪しそうな会社(ダスキン)や 未だ創業初期の会社も含めて 著者の目で実際に調査した実例が書かれています。

次に、地球環境のためのバルディーズ原則(今は“セリーズ原則”と呼称)が紹介されています。これは、アラスカ沖で座礁し沿岸を重油汚染させたエクソン社のバルディーズ号の名を取ったものです。(①生物圏の保護 ②自然資源の持続的な使用 ③廃棄物の削減と処分 ④賢明なエネルギーの利用 ⑤リスクの削減 ⑥安全な製品とサービスの提供 ⑦損害賠償 ⑧情報公開 ⑨環境担当の取締役および管理者の設置 ⑩評価と年次監査)
この原則はISO14001の規定要求事項を順守していれば OKのように思うのですが・・・。

読後感想としては、この本には多数の現代企業・組織の良くない行為が 想像以上に書かれていると感じました。これが 21世紀の人類社会かと思えるほどです。現代社会は19世紀社会へ 後戻りしている印象です。これは まさしく人類史の反動です。現代は19世紀と違って 科学技術の発達で、規模が大きくなっているだけに その挙動の影響力は甚大です。下手すれば地球の崩壊へと突き進みかねない問題を孕んでいると言えます。

気が付けば規制緩和を標榜する“新自由主義”が あたかも新たなイデオロギーであるかの風を 装って地球上を席巻しているように思います。そして それが 格差を生み、その格差の拡大に貢献しているのです。これが 現代の搾取の構造なのですね。それに 知らず知らず巻き込まれている。天真爛漫に 加担さえしている可能性が大きいのです。
“新自由主義”の自由は 巨大多国籍企業と、それに寄り添い利益を得る少数の人のみの“自由”であるかのようです。
そのことに気付き、一人一人が しっかりと現実を認識し、社会に参加しなければとんでもないことになるという警告だと思いました。

“他人に悪いことをしない” つまり “殺人”も含めて“不快感を抱かせない”ために お互いにどうするか、それを深く考察することが 人類社会に問われていると思うのです。この問題を 一人一人自覚的に克服しなければ 地球環境のバランス崩壊とともに人類社会は滅亡するのでないかと思うのです。“今、そこにある危機”なのです。
さて ここまで考えて、私自身は 今あらためて、世界人権宣言から 読み直して 足元を固めるべきだと思った次第であります。

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コメント
 
 
 
こんにちは (memaido)
2007-05-24 02:16:54
はじめまして、楽しく拝見させていただきました。
またちょくちょく拝見させていただきます。
 
 
 
めまい堂 様へ (磯野及泉)
2007-05-26 20:26:55
ありがとう ございます。
今回 チョット 言い過ぎたかも知れません。
ですが、よろしく お願いします。
 
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