“ISOを活かす― 12. ISO9004でシステムを構築して、パフォーマンスを向上する”

今回は ISO9004で 経営のパフォーマンスを改善することが推奨されています。この意見は　少々いかがなものでしょう。

【組織の問題点】
３年前にISOの認証を取得した電子機器用プリント基板の組立てメーカーのA社では この3年間で文書化が進み、仕事はルールどおりに実施され、定期審査や内部監査での不適合指摘もほとんどなくなりました。
しかし、製造不良、生産性、製造コストなど経営パフォーマンスは ほとんど改善されず、社長は“ISOが経営に役立っていない。”と考えています。

【ISO活用による解決策】
著者は次のように指摘しています。
“ISO認証を取得しても、最低基準である要求項目を満たしたことにはなりますが、パフォーマンスが改善されるというわけではありません。”
“パフォーマンスの改善を扱っているのは、ISO9004(品質マネジメントシステム―パフォーマンス改善の指針)です。”
“すでにISO9001認証を取得している企業も、パフォーマンスの改善に結びつく具体的な内容に関しては、ISO9004を参考にするとよいでしょう。・・・パフォーマンス改善のためにもっともよい方法は、品質マネジメントシステムをISO9004にもとづいて構築することでしょう。”
そして ISO9004で審査するようなことがあってもよいのではないか、と言っています。

【ポイント】
以下が 著者による総括結果です。



【磯野及泉のコメント】
著者・岩波氏の言い方は ISO9001信奉者から見ると、何だか 突き放したような言い方です。
ここで ISO9004を 持ち出すのは 混乱の素になりかねないように思いますが、著者・岩波氏の狙いは 恐らくは ISO9004という規格もあって エクセレンスを目指すには 参考になる提案的事項が いろいろ書かれているから 一度 目を通してみて欲しいという 意図があるのでしょうか。はたまた、知識としてパフォーマンス改善の指針規格であるISO9004を紹介しているのでしょうか。

さて ここで焦点となる ISO9004は どういう規格で どのように考えれば良いのでしょう。
公式には ISO9004はISO9001と 相互補完的なコンシステント・ペアの規格である、ということになっています。
ISO9001に “0.3 ISO 9004との関係” という説明があります。(ISO9004では 0.3 ISO9001との関係 とあり同じことが書かれています。)
ここでは、それぞれの規格の特性について書かれていますので、要約的に 下表に紹介します。



正直言って、ISO9004は あまり精読したことは ありませんが、枠線で囲まれたISO9001の要求事項の前に、ISO9004の“手引(推奨)”事項が記載されています。文章表現は ISO9001の“～すること(shall)”に対して ISO9004では “～するとよい(should)”となっています。あるいは 解説文があったり、“～するとよい”事項の具体的事例が 丁寧に例示されている場合もあります。したがって、その内容は 当然ながら“ためになる”ものです。

“手引”としてのISO9004は推奨規格であり、全ての推奨事項を 規定要求事項化して順守しようとするのは 少々無理があるような気がします。94年版のISO9001シリーズでは 組織に適したTailoring(仕立て直し)という考え方が 強くありました。私は このISO9004にはこのTailoringの考え方を 存分に適用し、自分に都合のよい 有用な記載事項を 自分たちの組織要求事項として採用し、エクセレンスというか 卓越モデルを目指せばよいと思っています。
つまり、私のホンネとしては やはりいきなりISO9004から その記載事項を 組織要求事項に ドンドン取り込んで行くよりは、前回のテーマであった“「品質方針，品質目標，監査結果，データの分析，是正処置，予防処置，及びマネジメントレビューを通じて」継続的改善を目指す”ことが 地に足がついた 本当にその組織にふさわしい卓越モデルへの道になるものと考えます。何が　自分たちの組織にとって問題なのか、それを　どのように改善することが最良なのか　よく考え実行してみることが　大切なような気がします。
そういう意味では、あまりISO9004を 振り回すことは得策ではないように考えています。まぁ、改善のための適切なアイデアが ない時に ISO9004を参考にする程度でよいのではないか、と考えています。

とは言うものの、ISO9004の ご一読をお勧めいたします。損はないと存じます。