徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

HPVワクチン関連情報:2016年12月

2017年01月05日 16時14分15秒 | 小児科診療
 すでに2016年は終わってしまいましたが、気になる情報をメモしておきます。

 まずは2016年12月末に流れた情報を。
 副反応とされる体の痛みは、HPVワクチンを接種していない思春期女子でも一定数存在するというデータです。

■ 子宮頸がんワクチン、非接種でも「副作用」...症状を追加分析へ
2016年12月27日 読売新聞
 子宮頸がんワクチン接種後に体の痛みや歩行障害など原因不明の副作用疑い例が相次いだ問題で、厚生労働省研究班は26日、接種歴のない女子でも一定程度、同様の症状を訴えているとする調査結果を有識者検討会に報告した。
 ただ、接種者との比較は「年齢構成の違いなどからできない」との内容で、委員からは研究班に追加の分析を求める声が相次いだ。追加分析には数か月かかる見通しで、検討会はその後に同ワクチンの積極的な勧奨を再開するかどうか、議論を進める。
 研究班(主任研究者=祖父江友孝・大阪大教授)による調査は今年1〜11月、全国の計1万8302の小児科や精神内科などを対象に実施。昨年7〜12月に受診した12〜18歳で、関節痛や歩行障害など約20の症状のうち、一つ以上が3か月以上続き、通学や就労に影響がある患者を調べた。
 その結果、原因不明の痛みなどの症状を持つ患者数は、ワクチンを接種していない女子では10万人当たり20・4人、接種した女子では同27・8人と推計された。2013年6月に勧奨が中止されたことで、接種者は10歳代後半に偏っており、非接種者の年齢構成とかなり異なっていることなどから、祖父江教授は「単純な比較はできず、接種と症状との因果関係も言及できない」と説明した。
 これに対し、検討会の委員からは、調査結果を評価するためには、さらなる分析が必要との意見で一致。年齢構成の差などを踏まえ、年齢別の特徴などの分析を追加で行うよう求めた。
 検討会終了後、座長を務めた桃井真里子・国際医療福祉大副学長は記者会見で、「接種していない人でも、これだけの人が症状を訴えているということを国民に理解してもらうのは重要なこと。接種勧奨の方向性は現段階では言えない」と述べた。

◇ 弁護団「調査に問題」...学会は勧奨再開求める
 今回の調査結果について、子宮頸がんワクチンで健康被害を受けたとして国などを相手取り損害賠償訴訟を起こしている原告側弁護団が26日、東京都内で記者会見し、「非接種者でも副反応(副作用)と同じような多様な症状が出ているという結論は不当だ」との見解を示した。
 弁護団は、原告の女性の中には運動障害や認知機能障害など複数の症状が出ている人がいるのに対し、調査では、頭痛など一つの症状だけでも対象としていることを問題視。代表の水口真寿美弁護士は「調査の設計自体に問題があり、今回の結果をワクチンの接種勧奨の再開に向けた基礎データとして使用することに断固反対する」と述べた。
 一方、日本産科婦人科学会の藤井知行理事長は今回の調査を受け、「多様な症状がある女性の診療に真摯に取り組むとともに、多くの女性が子宮頸がんで命を落とすなどの不利益が拡大しないよう、国の勧奨再開を強く求める」と話した。
 厚労省によると、国内では年間約1万人が子宮頸がんを発症し、約2700人が死亡。ワクチン接種でがんの原因となるウイルス感染を50〜70%防ぐことができるという。同ワクチンの接種率(推計)は、18歳が81・2%であるのに対し、15歳は42・9%、13歳は0・7%にまで落ち込んでいる。


 これと同じようなデータは以前にも名古屋市の調査で発表されています。

 次に副反応の頻度の捉え方について。
 現時点で"重篤な副反応の発生率は0.007%"とされていますが、これは10万人に接種して7人に発症するというレベルです。これを多いと感じるか、少ないと感じるかは個人差があります。
 視点を変えて"99.993%は重篤な副反応がない"と捉えるとどうだろう、という報告を紹介します。

■ 子宮頸がん予防のために"0.007%"を母親にどう説明するか
第19回日本ワクチン学会学術集会で勧奨メッセージを発表
2015.11.23:メディカル・トリビューン
 子宮頸がんの予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは,副反応をめぐる報道や国の積極的勧奨の中止を受けて接種率が低迷している(関連記事)。HPVワクチン接種対象年齢の娘を持つ母親にアンケートを行った大阪大学大学院産科学婦人科学病理研究室の八木麻未氏らは,娘へのワクチン接種に対する母親の意向を向上させるためには,重篤な副反応の発生率である0.007%*の伝え方を変えることが有用であると報告した。なお,今回の報告は第19回日本ワクチン学会学術集会(11月14〜15日,会長=江南厚生病院こども医療センター顧問・尾崎隆男氏)で行われた。

* 製造販売業者と医療機関からの報告のうち,医師が重篤と判断した,接種回数当たりの副反応件数(第10回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,平成26年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料〔資料7 各ワクチンの副反応報告件数〕)

◇ 現時点で接種させる意向のある母親はわずか0.2%
 八木氏らは,HPVワクチンの接種を促進するためには,母親の意識を変える働きかけが重要であることをインターネット調査で既に明らかにしている(関連記事)。今回は,HPVワクチンの普及に必要な勧奨手法を検討するため,ワクチン接種に対する母親の意向や条件などについて,小学6年から高校1年のワクチン未接種の娘を持つ母親2,060人を対象に調査を行った(調査期間2015年5月25〜26日)。
 その結果,厚労省の積極的勧奨が中止となっている現在,娘にHPVワクチンを条件なく接種させる意向のある母親は0.2%にすぎなかった。一方,「勧奨再開したらすぐに接種(させる)」と答えた母親が3.9%,「周りや知り合いが接種してから(接種させる)」と答えた母親が16.9%だったことから,積極的勧奨が再開された後の接種率はこれらの合計である21.0%まで自然に伸びると見込まれた。これに対し,「同世代の多くの子が接種してから」などの,接種により厳しい条件を課す母親が63.5%で,「接種しない」と答えた母親が15.5%だったことから,これら計79.0%の母親らにワクチン接種の啓発活動をいかに行うかが重要であると示唆された。

◇ 勧奨再開と"99.993%が健康"で接種率は27.3%に上昇?
 次に,母親らに対し,「子宮頸がん予防ワクチンは,世界120カ国で接種されており,効果と安全性の高さが証明されています。日本でも,接種を受けた方のうち99.993%の方は,重篤な副反応などなく,健康に暮らしています」などの,接種を勧奨するメッセージを見せた。すると,メッセージを見せた後の,厚労省による積極的勧奨が再開された場合の接種率は27.3%まで伸びることが見込まれ,メッセージを見せる前の21.0%に比べ有意に上昇した(P<0.001,Fisherの正確検定)。また,母親らがワクチン接種を決めるときに考慮する情報について検討したところ,ワクチン接種に消極的だった前述の79.0%の母親らは,副反応の情報を特に重視することが分かった。
 勧奨メッセージを"重篤な副反応の発生率は0.007%"ではなく"99.993%は重篤な副反応がない"とした理由について同氏は「行動経済学におけるフレーミング理論では,同じ情報でもどの部分にフォーカスを当てるかによって与える印象が変わるとされる。この理論に基づくメッセージで,恐怖感を与えずに副反応情報を提供し母親を行動変容させることで,HPVワクチン接種率を向上させられる可能性がある」などと述べている。


 最後に、ちょっとくだけた新見正則先生のコラムを紹介します。
 視点が斬新で、ワクチンを車のエアーバッグに例えており、なかなか興味深い論理だと感心しました;

■ イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常「予防接種を打たないのは…エアバッグが作動しない車に乗るのと同じ」
2016年9月9日:読売新聞
 先日、我が家に車のリコールのはがきが届きました。僕の愛車は10年以上前に販売されたもので、走行距離は12万キロ近くを走っている国産の四輪駆動車です。エンジンの大きさも、車のサイズも大きすぎず小さすぎず、立体駐車場にも入るのでとても気に入っています。現在までまったく問題なく走っていますので、これからも動く限り乗り続けようと思っています。
 エアバッグの不具合だそうで、日本のメーカーのエアバッグで、アメリカなどで死亡事例が発生し、それに関連したリコールが僕の車にも行われるということです。助手席のエアバッグに関するもので、エアバッグを膨らませる装置であるインフレーターの金属片がエアバッグ作動時に助手席の同乗者に当たり、それが原因で死亡することがあるそうです。2016年の時点で、リコール対象車は世界で1億台以上、そしてリコール費用は1兆円を超えると報道されています。

◇ 「凶器」の作動停止が目的
 その1億台の中の1台が僕の愛車だったようです。さて、電話で予約すると、30分で終わるとの話です。「簡単に交換できるんだな」との印象で修理工場に持って行くと、30分の修理時間に担当者が説明をしてくれました。なんと今回の処置は助手席のエアバッグが作動しないようにするためだそうです。エアバッグ本体の製造には時間がかかり、早くても6か月以上も先になりそうだと説明してもらいました。
 つまり、今まではエアバッグが作動すると金属片が飛び出して死ぬかもしれない状況で乗っていたのが、少なくともエアバッグは働かないので、エアバッグの使用で死亡することはないという説明です。
 ちょっと納得いかないですよね。助手席のエアバッグは衝突時に助手席の同乗者の命を守るために装着されていると思っていました。ところが、それがむしろ「凶器」で、今回の処置はエアバッグの作動停止が目的です。エアバッグは車の保安基準の対象外のため、取り外したり、または作動不能にしても罰則はないそうです。

 娘が質問します。
娘「リコールって、何してきたの?」
僕「助手席のエアバッグ、事故の時に助手席に乗っているお前が、ダッシュボードに頭をぶつけたり、フロントガラスを突き破って外に出ないように風船が膨らむような装置に不具合があったんだって」
娘「それを交換してきたの?」
僕「しばらく交換の部品がないので、今日はエアバッグが動かないようにしたようだよ」
娘「それじゃー、追突事故があったら、私は頭をぶつけたり、外にとびだしたりするのね」
僕「そういう可能性を減らすためのエアバッグが作動停止だから、そうなる可能性が増えるよね」
娘「わかった、今日から助手席には乗らないね」
 娘の純粋な対応が当たり前に思えますね。
 僕が知りたいことはエアバッグが装着されていることによる死亡リスクと、エアバッグが装着されていないことによる死亡リスクです。リコール対象のエアバッグでの死亡事故は、ある報道によると15例だそうです。1億台に装着されていて、そして15人が死亡です。まったく読めないのが、エアバッグによって命が助かった数です。死亡に至らない事故を世界中のこのエアバッグ装着車すべてで記録し、そしてエアバッグによって救命できたかを正確に判断することが難しいのでしょう。でも、ある程度の試算ぐらいは見つかると思いましたが、僕には見つけられませんでした。

◇ 何事にも利点と欠点が…
 何事も利点と欠点があります。そのバランスでそれを選択するかどうかを決めます。医療でも同じですよ。例えば、全身麻酔です。全身麻酔をすることによって死亡する率はだいたい0.001%と説明している病院が多いと思います。10万人に1人は全身麻酔という行為で、特異体質などによって死亡するということです。しかし、全身麻酔をしなければ施行不可能な手術はたくさんあります。ですから、このわずかな危険率を承知した上で、治療を行う方も、治療を受ける方も、手術に臨むのです。
 また、予防接種もそうですよ。公衆衛生の立場からは、できる限り多くの人、できれば全員に予防接種は打ってもらいたいのです。でも、予防接種によって死亡することも、または重篤な後遺症が残ることもわずかながら存在します。ですから、その利点と欠点のバランスで予防接種の必要性を決めます。1994年に予防接種法が改正されるまでは、予防接種は強制義務でしたが、1994年からは努力義務になりました。公衆衛生のために本当に必須であれば、国は強制義務として予防接種を行い、そしてごくまれに不幸な転帰をとった人は国の責任で救済すべきと思います。努力義務であれば、予防接種を受けないという選択肢も当然に選べるわけであって、そんな選択肢を選んだ人が、SNSなどで、「反国民的行為」の様にバッシングされるのはいかがなものかと思ってしまいます。努力義務に関しては東京都福祉保健局の「接種を受ける努力義務」などを参考にしてください。
 予防接種を打たないという状況は、エアバッグが作動しない車に乗っているのと同じことです。そこに法的な罰則はありません。エアバッグが作動しなければ、エアバッグの誤作動で死亡することは有り得ません。しかし、エアバッグで助かる命は、残念ながら救えないことになりますね。

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