徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

子どもへの「かぜ薬」をめぐる議論あれこれ

2015年01月18日 06時35分28秒 | 小児科診療
 かぜ薬は無効? 
 子どもには使ってはいけない?
 咳止めはハチミツで十分?

 等々、かぜ薬をめぐる議論は絶えることなく続いています。
 最近の論調は「かぜ薬が有効であるというエビデンスは乏しい」「薬より十分な説明を」というものですね。
 欧米では2歳未満の小児への市販かぜ薬(OTC:Over The Counter)の投与は厳しく制限されています(処方薬の制限はありません)。
 これは、欧米の医療事情も関連しており、かの国では日本のようにフリーアクセスではなく医療費も高額のため「市販薬(OTC)で治らなかったら受診」が一般常識。
 さらに、市販かぜ薬の形態も問題で、日本の液剤より10-20倍濃い濃度で発売されており、過量誤飲事故が後を絶たないという事情もあります。
 以前、調べてHPにまとめましたので、興味ある方は御一読ください;

かぜ薬のお話(当院HP)

 参考になりそうな記事をいくつか紹介します。

■ 「乳幼児の風邪薬使用に警鐘 OTC薬のみならず医師の処方にも見直しの余地
(2011/3/10 日経メディカル)
 諸外国では、有効性が乏しい上、重篤な副作用を来し得ることからOTC風邪薬の乳幼児への使用を規制する動きが出ている。一方、国内では注意喚起止まりで、OTC薬と同様の成分を処方する医師も多い。
 「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」─。昨年末、厚生労働省が小児の用法があるOTC風邪薬の製造販売元に対し、こんな注意喚起を行った。
 きっかけは昨年11月、薬害オンブズパースン会議(東京都新宿区)が、OTC風邪薬の6歳未満への使用禁止を求め、厚労省に要望書を提出したことだった。OTC風邪薬は、抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬などを配合した医薬品。小児への使用について米国や英国などでは、症状緩和の有効性のエビデンスが十分でない上、重篤な副作用の発生や誤用・過量投与の恐れがあることなどを理由に、2歳未満もしくは6歳未満への使用を厳しく規制している(表1)。


表1 小児のOTC風邪薬の規制に関する諸外国の対応


 だが、日本OTC医薬品協会は「国内の製品は海外に比べて成分含量が少なく、本来の用法・用量を守って服用する限りは十分安心して使える」との考えで、厚労省も「全く効果がないというエビデンスはなく、国内では副作用報告もほとんどない」(医薬食品局総務課)とのスタンス。対応は冒頭の注意喚起にとどまり、使用年齢の見直しには至らなかった。


表2 風邪に処方される薬剤の乳幼児に対する主なエビデンス(西村氏による)


 実際、西村氏は風邪と診断した乳幼児にこれらの薬剤を処方していない。「風邪の多くは治療の有無に関係なく、数日間の経過で自然治癒する」からだ。
 にもかかわらず、わが国では長年、投薬が風邪診療の“標準治療”として行われてきた。患者は「薬をもらうことが当たり前」と刷り込まれているから、当然処方を希望する。よって、医師の処方行動も変わりにくい。
 西村氏はその一因が医学教育にあると指摘する。風邪のようなコモンディジーズの診療スキルを学ぶ機会は乏しく、「重症疾患の治療の仕方は教わっても、『どのような患者を治療すべきか?』という教育はほとんど行われてこなかった」(西村氏)。結果、治すことに重きが置かれ、投薬が優先されてしまう。
 京都府立医大救急医療学助教の安炳文氏は、風邪薬の有効性を示すエビデンスが乏しいことは認めつつも、「だからといって患者ニーズを一切無視して全く処方しないというのも、現状では保護者の納得が得にくい」と話す。保護者の求めに応じて風邪薬を通り一遍に「セット処方」することには否定的だが、症状がひどく保護者の不安が強い場合、副作用のリスクを評価した上で、症状緩和効果を期待し抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬を処方することもあるという。
 「まずは、保護者の疑問や不安、ニーズを把握した上で納得いく対応をすること、そして予想される風邪の自然経過を伝えることが重要だ。説明は時間がかかるが、こうした積み重ねが、長い目で見ると救急外来の適正受診にもつながるのではないか」と安氏は話している。


 誤解を防ぐために繰り返しお断りしておきますが、欧米で使用制限しているのはあくまでも「市販かぜ薬」であり「処方薬」ではありません、念のため。
 記事に出てくる小児科医の西村先生は咳止めとして実際にハチミツを処方されているそうです。

「薬よりも効果が高い?かぜの代替療法」より引用
(2014/12/24 日経メディカル)


図A 小児の咳嗽に対する蜂蜜の効果


 「子どもの咳には蜂蜜が効果的かもしれない」─。にしむら小児科の西村龍夫氏はこう話す。実際、就寝30分前にスプーン半分から2杯の蜂蜜を与えた小児の群は、プラセボを投与した群に比べ夜間の咳嗽が緩和され、夜間の咳に伴う本人と親の睡眠状態を有意に改善したというランダム化比較試験(RCT)のデータがある(図A)。
 日本薬局方には「ハチミツ」が収載されている。「外来で親に説明し、初回は薬局で処方してもらうとよい」(西村氏)。ただし、蜂蜜にはボツリヌス中毒の恐れがあるため、1 歳未満には与えないよう注意が必要だ。
 このように、対症療法が中心となるかぜ診療では、補完代替療法のエビデンスが数多く報告されている。
 またdL-カンフルやテレビン油からなる「塗るかぜ薬」と称する「ヴィックスヴェポラッブ」が近年、2~11歳の小児の夜間咳嗽や睡眠の改善といったかぜ症状の有意な緩和の効果を持つことが証明された(Paul IM, et al.Pediatrics.2010;126:1092-9.)。ただし、成人のエビデンスはない。
 一方、かぜの予防や罹患期間の短縮効果が有力視されてきたビタミンCには有効性なしというシステマティックレビューが最近報告された(Hemila H, et al. Cochrane Database Syst Rev.2013;1:CD000980.)。


図B 医師の共感の有無による治療効果の違い
(12歳以上の350例を対象に調査・出典:Rakel DP. et al. Fam Med 2009;41:494-501.)


 このほか、医師の「共感」が治療効果に影響を与えるというデータもある(図B)。診療で医師に共感してもらったと感じた患者群は、そうではなかった患者群に比べかぜが治ったと感じるまでの期間が短かかった(Rakel DP. et al.Fam Med 2009;41:494-501.)。かぜ診療で最も重要なのは、薬の処方よりも患者の不安を取り除き、納得させる診療なのかもしれない


 ムムム・・・いろいろありますねえ。
 さらに、西村先生の主張を否定する「ハチミツ類も無効である」という報告も出てました。
 下記報告は、ハチミツ類は有効であったが、プラセボ=偽薬(ニセぐすり)も有効であり、両者に差がなかったというもの;

乳幼児の夜間咳嗽にはプラセボでも効果 アガベネクターとプラセボでは無治療よりも有意に改善、RCTの結果
(2014/11/20 日経メディカル)
 急性の非特異的咳嗽で受診した生後2~47カ月の乳幼児に対して、就寝前のアガベネクター(アガベシロップともいう。リュウゼツラン由来の天然甘味料で、主にフルクトースとグルコースからなる)またはプラセボの投与により、無治療に比べて有意に症状の軽減効果があることがランダム化比較試験(RCT)の結果として示された。米Pennsylvania州立大学のIan M. Paul氏らが、JAMA Pediatrics誌電子版に2014年10月27日に報告した。
 小児の咳嗽を和らげるために米国などで用いられるのは蜂蜜だ。ソバの蜂蜜が夜間の咳嗽を緩和する効果がRCTでも示されている。しかし蜂蜜は、ボツリヌスの胞子を含む危険性があるため、1歳未満の乳児には使用できない。
 アガベネクターは蜂蜜に似た特徴を有し、ボツリヌス感染の報告はない。炎症のある粘膜を保護する作用が予想されており、甘みもあることから、蜂蜜と同様に小児の咳嗽を和らげる効果を持つのではないかと著者らは考えた。そこで、殺菌されたアガベネクターもしくはプラセボ、治療なしが、急性の非特異的咳嗽で受診した乳幼児における夜間咳嗽と睡眠障害に与える影響を調べるために、部分的二重盲検のRCTを実施した。
 アガベネクター、プラセボ、治療なしの比較により、非特異的咳嗽に対するプラセボ効果が示された。また、アガベネクターにプラセボに優る効果がないことも示された。ただし著者らは、「急性の非特異的咳嗽を呈する乳幼児には、注意深い観察よりも、プラセボ効果のみが期待される治療の実施を検討してもよいのではないか」と述べている。
 原題は「Placebo Effect in the Treatment of Acute Cough in Infants and Toddlers: A Randomized Clinical Trial」。


 ここまでくると、何が有効で何が無効なのか、わけがわからなくなってきます・・・(苦笑)。

 私は「お母さんの看病」が一番のクスリではないかと感じでいます。
 昔から「手当て」という言葉がありますが、体に手を当ててさすってあげると痛みやつらさがやわらぎますよね。

 また、「効果を実感できる」という意味では、漢方薬の方が西洋薬より上でしょうか。
 西洋薬を飲んでいてもなかなかよくならず「もう少し何とかなりませんか?」という患者さんに対して「では漢方薬を試してみますか?」というスタンスで私は処方しています。
 同じ「咳」でも、漢方では乾いた咳と湿った咳ではクスリが異なりますし、やっかいな「鼻閉」「膿性鼻汁」は耳鼻科を受診すると抗菌薬(=抗生物質)を長期に処方されますが、漢方薬を上手く使うことにより抗菌薬使用を減らすことができます。
 まあ、「苦いクスリを飲む」というハードルがありますが・・・そこは「工夫次第」ということで。
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