徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

赤ちゃんの予防接種情報、いつ欲しいですか?

2012年03月21日 07時07分06秒 | 小児科診療
 ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの同時接種後の死亡例が話題になり、一時接種停止となってから1年が経過しました。
 その後検証が行われ、「同時接種と死亡に因果関係はない」と判断され接種再開に至ったことはご存じの通りです。
 しかし、未だに同時接種に二の足を踏むご両親が多くいらっしゃいます。
 「同時接種はなんとなく怖いから・・・」という漠然とした不安が拭えないのでしょう。

 小児科医の私は、粘り強く説明していくしかありません。
「同時接種は世界標準の方法です」
「三種混合(DPT)、麻疹/風疹ワクチン(MR)も同時接種です。針を1回刺すか、複数回刺すかの違いだけ。」


 心にハードルが残っている方は、「KNOW*VPD」のHPをご覧ください。
 また、国立感染症研究所のHPにも「予防接種スケジュール」が紹介されています。
 決して同時接種を強制していません;
1.単独接種
2.同時接種(2つまで)
3.同時接種(2つ以上)
 と分けてスケジュール表が例示されていますので、ご両親の考え方に合わせて選択可能です。

 そして現場で感じるもう一つの問題点が「はじめるのが遅い」こと。
 たくさんのワクチンがあるので、生後2ヶ月からせっせとこなしていかないとスケジュールが組みにくい。その相談で、日々当院スタッフは悩まされています。

 なぜこうなってしまうのか、最近ようやくわかりました。
 赤ちゃんのご両親に予防接種の情報が伝わるのが遅いことが根本的な原因です。
 市町村から予防接種の案内がはじめに届くのは「新生児訪問」が一般的。
 しかし、生後1ヶ月前後の新米ママは、日々の子育てで疲れ切って予防接種のことを熟考する余裕なんてありません。また、たいていの小児科医院では予約が1~2ヶ月先まで埋まっているのが現状です。
 その次は「4ヶ月検診」になってしまい、これでは遅い。

 この問題を解決するには、妊婦検診/母親学級、生後1ヶ月検診などの場を利用して繰り返し情報提供/啓蒙していく必要があると思います。
 前述KNOW*VPDのHPにあるように、「ワクチンデビューは生後2ヶ月!」を目指して。

 先日ネットでこんな記事を見つけました;

宋美玄のママライフ実況中継予防接種デビュー」(2012年3月14日:読売新聞)
 (産婦人科の女医さんのブログから一部抜粋)
 娘が生後2か月になって、予防接種を受けさせるという重要なミッションが浮上しました。区役所で母子手帳と一緒に予防接種のクーポンをもらったのですが、定期接種のものしかついていなかったので全貌がよく分かりませんでした。
 私は主に総合病院で勤務してきたので、生後1か月を過ぎた赤ちゃんは小児科の先生が診てくれ、産婦人科医が診ることはありませんでした。そのため、予防接種についての知識がお世辞にも十分だとは言えず、恥ずかしながら妊娠してから勉強し始めました。

ワクチンで防げる病気
 予防接種には定期接種と任意接種のものがあり、定期接種は無料で受けられますが、任意接種は接種費用を自己負担しなければなりません(自治体によって補助が出ることもあります)。また、ワクチン接種後に重篤な有害事象が起きた場合に任意接種だと十分な補償が受けられません。
 このように主に経済的な違いがありますが、「任意」接種は別に「受けさせなくてもいい」というものではありません。ワクチンで防げる病気(VPD:Vaccine Preventable Diseases)は数多くあり、定期接種も任意接種も物言えぬ我が子のために漏れなく受けさせてあげることが親の責務のようです。

スケジュールが大変
 ワクチンの種類はたくさんあり、複数回接種しないといけないものも多いので、スケジュールを組むのが大変に思えますが、日本小児科学会の推奨するスケジュールがあるので参考になります。複数のワクチンを同日に接種する同時接種をしてくれる小児科でないと、このスケジュールはこなせないので、小児科医で作る「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会のホームページに載っていた近所の小児科で打ってもらうことにしました。
 肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ菌ワクチンを含むワクチン同時接種後の乳幼児において複数の死亡例が報告されたため、一時ワクチンの接種が控えられたり同時接種を恐れる風潮ができたりしたようですが(報道のされ方にも問題があったと思います)、因果関係があるとは言えず日本小児科学会は同時接種を推奨しています。
 ワクチンの種類が増えたので、実際のところ同時接種にしないとワクチンをすべて受けることが難しくなっています。

娘のファーストワクチン
 生後2か月の娘のファーストワクチンは、インフルエンザ菌、肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルスのワクチンでした。すべて任意接種ですが、インフルエンザ菌と肺炎球菌のワクチンは神戸市が全額補助してくれました。この2つの菌で小児の細菌性髄膜炎の約4分の3を占めるため、ぜひとも受けさせたいワクチンですが、高額なのでとても助かります。
 B型肝炎とロタウイルスのワクチンは自費で、合わせて2万円ほどでした。子供手当など一瞬で吹き飛びますが、意味のある出費です。小さい子供たちは遊ぶときに舐めたり噛んだりして感染する可能性もあるので、B型肝炎のワクチンは打っておいた方が良いと小児科医の同級生に言われました。娘がワクチンを受けた小児科ではB型肝炎のワクチン製剤は事前に言って取り寄せてもらう必要がありましたが、そのようなところが多いようです。
 ちなみに私の大学では臨床実習が始まる前にB型肝炎のワクチンを打ってくれたので私は抗体を持っています。

産前に情報提供を
 予防接種はシステムもスケジュールも簡単とは言えず、出産後に育児に明け暮れながら情報を集めるのは負担が大きいと感じました。出産前に、妊婦健診の際にでも情報が与えられるといいと思うのですが、前述のように産婦人科医の私も自分が妊娠するまであまり詳しく知りませんでした。医師が診療時間内に説明するのは物理的に難しいと思いますが、何らかの形で産前に情報提供するべきだと思います。

 ロタウイルスのワクチンは飲むワクチンでしたが、他はすべて注射だったので、娘は大泣きでした。
 次は生後3か月になったら肺炎球菌、インフルエンザ菌、B肝、ロタウイルスに加えて3種混合です。まだ時間はありますが、それまでに風邪を治さなくてはいけませんね。


 産婦人科の医師でさえこの状態ですから、一般のお母さんは推して知るべし。もっとサポートが必要です。

高校生に予防接種説く(2011年4月29日 読売新聞)
 茨城県最東南端の神栖市にある県立波崎高校。2月上旬、普通科2年A組のホームルームでは、長谷川純子・養護教諭(38)が、はしかと風疹の説明をしていた。
 「風疹は、妊娠中にかかると流産のほか、赤ちゃんに障害が生じる恐れがあり、はしかは、母子ともに命を落とすこともあります」
 生徒たちはきょとんとした様子だったが、長谷川教諭が「はしかと風疹の予防接種は2回必要ですが、みんなの中には受けていない人や1回のみの人もいます」と告げると、真剣に資料を読み始めた。この日は、接種対象者の中学1年生と高校3年生には自宅に通知が届くことや、予防接種を受けたことを入学条件とする大学があることも学んだ。
 船倉亜結美さん(17)は「病名を聞いたことはあったが、具体的な症状も予防接種があることも知らなかった。怖い病気と知り、予防接種を受けようと思った」と話した。
 はしかも風疹も、予防にはワクチン接種が有効とされ、かつては乳児期に1回接種していた。だが、免疫が少ない10~20代の若者の間ではしかの大流行がたびたび発生。1回の接種では不十分だと分かり、今では2回行われている。
 4年前に流行した時、同高で、はしか患者は出なかった。しかし、高熱が出ても病院に行かずに登校し、「具合が悪い」と保健室に来る生徒が何人もいた。予防接種の通知をよく分からずに捨てた生徒もいた。長谷川教諭は「感染力が強く、命にかかわる可能性もあるのに理解が足りない」と痛感した。
 ワクチン接種は、対象者が医療機関に行く「個人接種」の自治体が多い。長谷川教諭は市に現状を訴え、2009年度から同高を含む市内の3高校で校内での「集団接種」を始めた。担任教諭の協力を得て、各クラスを回って病気の知識や予防接種の大切さを伝え、学校側が生徒から予診表の回収も行った。
 この結果、同高3年の接種率は09年度は94・0%となり、同年度の全国の高校3年の77・0%(厚生労働省調べ)を大きく上回った。同高は10年度には100%を達成した。
 国立感染症研究所の小児科専門医・竹田誠氏は「はしかや風疹はワクチン接種を受けないリスクが大きい。副反応やアレルギーは医師に相談すれば大丈夫であることなど、学校現場で正しい情報を伝える必要がある」と語る。
 養護教諭の指導が、生徒たちの予防意識を高めている。


 日本は「健康教育」が手薄です。
 子宮頚癌ワクチンも、性行為で感染する病気が将来癌化することを説明せずに「ワクチンを打てば大丈夫」という雰囲気で終わることを懸念しています。ワクチンを無料化する前に、健康教育を充実させ検診率を上げる方が医療費の抑制に繋がるのではないでしょうか。
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