徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ポリオワクチンで気になること

2012年05月19日 20時46分47秒 | 小児科診療
 不活化ポリオワクチンが単独では9月、三種混合(DPT)と合わせた四種混合(DPT-IPV)は11月開始予定と報道され、ようやく世界標準に追いつきました。
 ポリオワクチンについて、日々感じることを書いてみます。

■ 経口生ポリオワクチンは悪者?
 ポリオワクチンに関して、現在日本では副反応の視点から「生は悪、不活化は善」一色という感じになっています。
 しかし、生ワクチンは過去の流行を制圧してきた実績もあり、悪者扱いは少しかわいそうな気もします。私としては「今までご苦労様」と云いたいところです。

 1950年代までは日本でもポリオが流行し、何万人単位の患者さんが発生していました。
 当時の日本が選択・導入したのは不活化ポリオワクチン。
 接種を始めたところ、流行は治まるどころか広がるばかり。

 不活化ワクチンの効果に不満な国民は日本政府を責めました。
 当時の記録動画で「ポリオの被害者が多数発生しているのは、生ワクチンを採用しない選択、つまり医原性だとお考えですか?」と母親代表が説明会で政府に詰め寄る場面を拝見したことがあります。
 皮肉なことに今の状況と真逆ですね。

 民意に押されて日本政府は生ワクチンをロシア(当時はソ連)とカナダから緊急輸入しました。接種を始めると、あれだけ流行していたポリオが瞬く間に征圧されたのでした。

 それから50年・・・すでに流行はなく、1980年を最後に患者さんもゼロ更新が続きました。
 実は流行が制圧された段階で生から不活化へ移行するのがポリオ政策のセオリーです。
 世界を見回すと、先進国では着々と不活化へ変更していきました。
 しかし日本は問題意識に乏しく、国民が騒がないのでなんとなく生を接種し続けたのでした。

■ 不活化ポリオワクチンの効果の限界~流行抑制効果はない
 不活化ポリオワクチンは接種した個人を守ってくれるものの、流行は抑制できません。そのカラクリは、ワクチン接種により獲得できる免疫の種類によって説明可能です。

 経口生ワクチン:血中免疫と腸管免疫
 不活化ワクチン:血中免疫のみ


 つまり不活化ワクチン接種後でも腸管免疫がないので、野生ポリオウイルスが口から入った際に腸管(消化管)での増殖を許してしまうのですね。すると、便の中にウイルスが排泄され、他人にうつす感染源になってしまう(被害者にはならないけど加害者にはなり得る)・・・よって流行が抑えられないことになります。

■ 野生ポリオが今輸入され流行したら?
 日本では制圧された野生ポリオ、海外での状況はどうでしょうか。
 アフリカ、インド、そして中国では現在も発生しています。
 グローバル化した現代、野生ポリオが飛行機や船に乗って日本に侵入してくるかもしれません。特に情報公開がされていない中国の状況が気になります。
 ワクチン接種率が低下している現在、子どもを中心に感受性者が多数存在する状況ですから、野生ポリオが侵入すると流行する危険があります。
 
 もし、野生ポリオが流行したら、日本政府はどんな政策を選択するでしょうか?
 私見ですが、正解は「生ポリオの緊急強制接種」ですよ。

■ 生ワクチン接種を避け、不活化ワクチンを待っている子どもが背負うリスク
 生ワクチンで問題になっている麻痺の副反応(VAPP、vaccine-associated paralytic poliomyelitis)は480万接種に1人の割合(近年では100万接種に1.4人というデータも)。
 生ワクチン接種者から家族や周囲の人にウイルスが伝播(cVDPV、circulating vaccine-derived poliovirus)して麻痺が発生する頻度は780万接種に1人。
 ということは・・・生ワクチンを接種せずに不活化の開始を待っている子ども達は「780万人に1人」の麻痺リスクを背負ってしまうことになります。

 また、これからプールの季節になります。
 生ワクチンを接種すると腸管で増殖したウイルスが便に排泄されます。
 接種していない子どもを一緒にプールに入れてよいものか・・・問題になりそうです。
 一応、ポリオ研究所のQ&Aでは「お風呂、プールは問題ない」となっていますが。
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