徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ワクチン「接種率」の重要性

2012年05月20日 07時13分01秒 | 小児科診療
 予防接種の有効性の要素のひとつに「接種率」があります。
 簡単に云うと「みんなが受ければ流行しなくなる」ということなのですが、今ひとつピンと来ません。
 ちょっと解説を試みてみます。

 予防接種関連書籍を読んでいると「herd immunity」という言葉に出会います。「集団免疫率」と訳されていますが、意味は?・・・より正確には「感染伝播を抑制するのに必要な集団免疫率」らしい。これでも言葉が硬いなあ・・・「接種率をこの数字以上に保てば流行を防げる」といったところでしょうか。
 
 感染症はその病原体により他人にうつす力~流行する力が異なります。
 これを基本再生産数(Ro)という数字で表します。
 Ro とは1人の患者が周りにいるヒト何人に感染を広げるかを示す数字です。つまり、1人患者が発生したら Ro の人数だけ患者がいると思え!ということですね。
 herd immunity は Ro の値から計算式で求めることが可能です(省略)。
 各感染症の数字を列挙してみます;

 (感染症)ー(Ro)ー(herd immunity)
 ジフテリアー(6~7) ー (85%)
 麻疹 ー  (12~18)ー(83~94%)
 おたふくかぜー(4~7)ー(75~86%)
 百日咳 ー (12~17)ー(92~94%)
 ポリオ ー (5~7) ー(80~86%)
 風疹 ー  (6~7) ー(83~85%)
 インフルエンザー(6~7)ー(67%)
 水痘 ー  (8~10) ー(90%?)


 等々。
 
 こんなわかりにくい数字に興味を持ったのは、昨年(2011年)のヨーロッパにおける麻疹の流行でした。
 ヨーロッパと云えば先進国、かなり以前から麻疹に関しては2回接種を始めていたはず、なのになぜ?
 答えは「接種率が herd immunity の数字に届かなかった」という説明なのでした。
 上記のように麻疹ワクチンの herd immunity は83~94%、つまり95%以上の接種率を達成して初めて流行が制圧されるのです。

 さて、わが日本ではどうでしょうか。
 2007年に大学生中心に麻疹が流行した事実は記憶に新しいところです。
 当時の日本の麻疹ワクチン接種率(10~20代)は85%程度で、麻疹に罹ったことのあるヒトが5~10%、麻疹ワクチン未接種かつ未罹患者が5~10%という状況でした。このような集団に麻疹ウイルスが侵入し、大規模な流行が発生したのですね。

 翻って、2011年、麻疹ワクチン2回接種が浸透した後、「麻疹輸出国」と非難されてきた日本が「麻疹輸入国」へ切り替わったと報道されました。ワクチンの効果が証明されたことになります。

 ワクチン接種率が低下すると流行する可能性上昇、と聞くと「ポリオ」が気になりませんか。
 ポリオの herd immunity は80~86%、つまり接種率87%以上を維持しないと流行が抑えられないのです。
 最近30年ポリオの発生をゼロに抑えてきたのは、取りも直さず接種率が高く維持されてきた効果に他なりません。
 昨今「生ワクチン接種控え」で既に80%を下回っているという報道も散見します。

■ ポリオ生ワクチン接種率、急減 「不活化」導入待ちか
(2012年4月21日:朝日新聞)
 ポリオ予防のため自治体が現在使っている生ワクチンについて、昨秋の都道府県別の予防接種率が20日わかった。厚生労働省によると、全国平均の確定値は前年同期比15.5ポイント減の76.2%だが、千葉57.6%、埼玉65.8%、東京66%、神奈川66.2%と首都圏で特に低かった。まひが起きない個人輸入の不活化ワクチンの接種が受けられる医療機関が多いことなどが背景とみられる。
 千葉は前年同期比32.6ポイント減で最も落ち込みが大きかった。他に接種率が低かったのは青森62.9%、山梨66.7%、熊本66.7%、奈良68%など。国産の不活化ワクチンの導入を待つ保護者らが増えたためとみられる。


 今、海外から空路・海路で野生ポリオが日本に持ち込まれたら乳幼児中心に流行する可能性が大、ということを認識する必要があると思います。
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