小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児の新型コロナ「罹患後症状」

2024年06月23日 09時28分27秒 | 予防接種
成人ほど話題にはなりませんが、
小児の新型コロナ罹患後症状も存在します。

小児科開業医である当院は、
に手を挙げました。

罹患後症状は明らかな急性期合併症を引きずるほか、
他の病気がたまたま罹患後のタイミングで発症したパターンもあります。
しかしそれらを除外した「真の罹患後症状」の病態・原因は未だに不明で、
当然、治療も確立されていません。

という状況の中で、一介の小児科開業医に何ができるのか?
・・・答えは“漢方薬”です。
漢方薬は検査機器が存在しない約2000年前に確立されました。

西洋医学では検査をして病因を突き止め、
それに対する治療を行います。

逆に言うと、検査で異常がないと診断名がつかず、
よって治療法が決まらないというジレンマを抱えます。

一方の漢方薬は検査異常の有無は関係ありません。
その人の体質・体調・健康状態のゆがみを評価し、
それをふつうの健康状態に戻す薬を使うだけです。

そしてその健康状態には「こころ」も含みます。

西洋医学は「体」と「こころ」を分けてしまったため、
体の症状があっても検査で異常がないと、
「気のせいでしょう」
とか
「精神科を紹介しましょうか?」
と言われるのがオチです。

しかし体とこころをまとめて健康状態を捉える「心身一如」という漢方の基本は、
西洋医学の限界を突破する力を持っています。

私がふだんから患者さんに用いる言葉に、
「“気のせい”と言われたら漢方の出番です!」
があります。
漢方では“気のせい”を細かく分類して、それを緩和する薬がたくさん用意されているのです。
たとえば・・・
(元“気”がない) → 気虚  ・・・補中益気湯(41)、六君子湯(43)
(“気”が滅入る) → 気うつ ・・・半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
(イライラ“気”分) → 気逆 ・・・黄連解毒湯(15)、
等々。

先ほど「新型コロナ罹患後症状相談医療機関」、
たくさんあるんだろうなと当地域の一覧サイトを覗いたところ・・・
当院だけでした。
内科の先生方、診療しないんですか?

ここでは診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント
を参考にポイントを列挙し、考察してみます。

一読してみて、
「このガイドライン、当たり前のことしか書いてなくて役に立たない」
と思いました。
・他の病気がかくれていないか丁寧に診療する
・異常が見つからなくても「気のせい」と言ってはいけない。
・要すれば高次医療施設や専門医と連携する
等々。
でも治療薬のことや「こうすればよくなります」とはひとことも書いてありません。

私が「おや?」と感じた点;
・未罹患者と罹患者の症状の比較を統計学的に比較すると差がない(HPVワクチン副反応問題と一緒!?)。
・未罹患者になく、罹患者のみ訴える症状は「嗅覚障害」のみである。
・有効な治療法はない。
・・・この辺に解決の糸口がありそうです。

それから診療フローチャートを眺めると、
「小児心療内科」「児童精神科」と連携すべし、
と記載されていますが、
そのような医師がいない地域ではどうすればいいんですか?
と問いたい。
実現不可能なフローチャートは“絵に描いた餅”です。


■ 小児における罹患後症状の国内外の知見
・頻度は2〜70%と研究によりばらつきが大きい。
・多くの調査において、遷延する症状は非感染者に比べて感染者が約1〜5%程度高かった。
・メタアナラシスでは、頻度が感染者>非感染者の症状として、
 嗅覚・味覚障害、不安、疲労感、などがあった。
・オミクロン流行期には、それ以前と比べて罹患後症状が少ない。

■ 日本国内の小児を対象とした調査:その1(大阪府八尾市)
・罹患後症状:6% ・・・第4〜5波では13.7%、第6波では5.8%。
・主な症状:咳嗽>疲労感・倦怠感>味覚障害・嗅覚障害>集中力低下
・年齢別では、
(5〜10歳)咳嗽、頭痛、咽頭痛、睡眠障害、腹痛
(11〜17歳)疲労・倦怠感、味覚障害・嗅覚障害、集中力低下、咳嗽
・罹患後症状は、年齢が高い児、アレルギー疾患や自律神経系疾患の既往がある児、感染前の新型コロナワクチン未接種児でより多く見られた。
・罹患後症状の頻度は時間とともに低下したが、感染から半年以上経過後も罹患後症状を有した児の半数以上に何らかの生活への支障が認められた。

■ 小児の罹患後症状(WHOの定義)
・症状はCOVID-19が確定診断、または強く疑われた3ヶ月以内に出現し、少なくとも2ヶ月以上続く。
・疲労、嗅覚・味覚異常、不安感が特徴的であるが、その他の症状も報告されている。
・日常生活に何らかのかたちで支障をきたす。
・症状は、COVID-19の急性期症状の後、一旦回復してから新たに生じる症状もあれば、急性期から持続する症状もある。
・症状は経過とともに変動したり再発したりしうる。
・諸検査により別の診断が明らかになるかもしれないが、それはコロナ罹患後症状の診断を除外するモノではない。
・・・以上は全年齢の小児に適用されるが、症状や日常生活への影響は年齢に応じて異なることを考慮に入れる。
〜ここまで。

(追加)
・小児では成人と比べてその頻度は低く、年長時よりも年少児ではさらに報告は少ない。
・小児ではもともと機能性身体症状を呈することが多く、それが心理社会的ストレスに伴い心身症となりやすい年齢群でもあり、COVID-19に罹患したストレスによって様々な症状が出現する可能性がある。
・未罹患でもコロナ禍の生活の変化や制限のために罹患後症状とよく似た心身の変調を訴える小児が増えているため、小児における罹患後症状を単一の疾患概念と捉えることは困難である。
・現時点での知見は乏しく、診療におけるコンセンサスはまだ得られていない。
・小児〜若年成人においてはCOVID-19罹患後2〜6週頃に、過剰な炎症反応が全身諸臓器に生じる重篤な病態である小児多系統炎症性症候群がある。

■ 小児の罹患後症状の科学的知見
・小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い。
・成人での報告と比べると少なく、さらに年少児は年長児と比べて少ない。
・症状の内訳は、嗅覚障害を除くと、対照群との間に大きな違いはない。
・対照群においてもメンタルヘルスに係わる症状を含め、多くの訴えが認められる。
・対照群を population-based seronegative control として研究では、症例群と対照群のと間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない。
・小児においても、まれに成人に見られるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性がある。
・・・以上より、小児の罹患後症状を単一項目選択の疾患概念として捉える根拠に乏しく、何か画一的な治療法がすべての患児に適しているとも考えにくい。

■ 診療フローチャート

■ フォローアップ
・どんな症状であれ日常生活に支障をきたす場合は、直ちにかかりつけ医等を受診すべきである。
・その目的は以下の通り;
① 他の疾患の除外診断
② 機能性症状であっても対応の遅れから長期に及ぶ不登校状態や引きこもりをきたす可能性があるため

■ 開業医での診療(プライマリ・ケアにおけるマネジメント
・一般診療と同じように診療する。
起立性調節障害(OD)を代表とする自律神経機能不全の好発年齢でもあり、疑われる場合は新起立試験を実施する。また、ODが心身症となることが少なくないため「心身症としてのODチェックリスト」も確認する。


・OD以外でも心身相関が強い小児では心身症としてさまざまな身体的異常を呈することがあることに留意する。
・明らかな異常が見つからない場合でも、安易に「心因性」という言葉で片付けないようにする。当事者にとって「心因性」という説明は、しばしば「自分の訴えを全否定している」と受け取られる恐れがある。

■ 専門医・拠点病院への紹介
・一般の病気の鑑別診断が必要な場合は高次医療施設に精密検査を依頼する。
・心理社会的ストレスの影響が大きい場合は、児童精神科や小児心療内科に紹介する。

■ 専門医・拠点病院でのマネジメント
・必要に応じて多診療科・他職種による連携を図る。

■ 医療機関-学校等の関係者間連携
・COVID-19流行期には、罹患後に体調不良が悪化したり長引いたりする子どもが増加したり、長期欠席による生活の乱れや罹患に伴う不安感がそれに拍車をかける可能性がある。
・体調不良が長引くと子どもは、
「また具合が悪くなりそうで不安だ」
「頑張ろうとしても頑張れない」
「こんな自分はダメな人間だ」
という気持ちが強くなり、それが体調不良をさらに悪化させる。
・子どもは自身の状況をうまく周囲に伝えることができない。
〜以上の悪循環を防ぐために医療機関-学校等の連携が必要である。
 実際に連携をする場合は、事前に保護者と本人に説明をして承認を得ることが必要、
 その上で連絡状や意見書の作成、電話説明などを検討する。

■ 医療機関が恰好などの関係者に説明する際の留意事項(例)
・成長期の子どもはさまざまな要因により体調不良を呈することが多く、
 それらは感染症罹患によって悪化することもある。
・子どもの体調不良を「気分的なもの」や「気のせい」だと決めつけず、
 子どものつらさを理解しようとする姿勢を持つ。
・安静にしていれば改善するものではない場合もあり、
 個々の状態に配慮しながら学校生活を継続させることが大切である。
 具体的には、医師・保護者・学校関係者で相談の上、必要に応じて次のような配慮を検討する;
✓ 朝の起床が難しい場合には、遅刻して登校する。
✓ 通学の負荷を軽減するために、自家用車などにより送迎する。
✓ 授業への参加が難しい場合には保健室や別室でICT等を活用した学習などを行ったり、
 体育などの運動は見学としたりするなど、子どもの状況に応じた配慮を行う。
✓ 教室で給食を食べることが気分不良などにつながる場合には、
 別室での食事や弁当持参、給食前の早退を検討する。
・配慮の対応を取りやめる時期は、症状が再増悪しないよう、子どもや保護者と相談しながら、焦らず十分に時間をかけて検討する。
・目標を一方的に決める(1週間で強制的にステップアップするなど)のは、
 子どもへの心理的負担が大きいため注意する。
・感染後の体調不良の多くは3ヶ月程度で改善していくが、個人差も大きく回復に長時間を要する場合がある。

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新型コロナの「罹患後症状」〜その1.概要

2024年06月23日 09時06分42秒 | 予防接種
「罹患後症状」と言われてもピンときませんが、
これは従来「新型コロナ後遺症」と呼ばれていたモノです。

呼名が変わった理由は、
新型コロナウイルス感染(COVID-19)後の症状がすべて「後遺症」ではないからです。

COVID-19罹患後に体調が悪いと「後遺症ではないか?」と疑いがち。
しかしたまたまそのタイミングで発症した別の病気が見つかることも現実には多数。

ちょうど、ワクチン接種後の体調不良をすべて
「ワクチンの副反応」
と考えがちなパターンと似ています。

さて、新型コロナ罹患後症状に関しては、
という診療ガイドラインが公表されています。

この項目では、私がポイントと感じた内容を抜粋してみます。

WHOの定義「post COVID-19 condition」
・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)罹患者に見られる。
・少なくとも2ヶ月以上持続する。
・他の疾患による症状として説明がつかないものである。
・症状には、疲労感・倦怠感、息切れ、思考力や記憶への影響などがある。
・症状は日常生活に影響することもある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・小児には別の定義が当てはまる。

■ 罹患後症状の診療ポイントの一つは、
他の病気が紛れ込んでいないかどうかの「除外診断」である。

■ 罹患後症状の病因・病態は現時点では不明
・・・重篤な急性疾患治療後に見られることがある衰弱・不活動(廃用)(post intensive care syndrome, PICSなど)、COVID-19罹患前からの基礎疾患、さらにパンデミックによる生活の変化による心身への影響などが、罹患後症状の臨床像をより複雑にしている。

■ 罹患後症状の頻度
・・・たくさん報告があり、症状の種類と頻度はバラバラ。

■ 罹患後症状患者の知りたいこと
・治療法はあるのか。
・症状がいつまで続くのか。
・何をすれば改善するのか。
・自分はこの先どうなるのか。

■ 罹患後症状患者への説明
・罹患後症状の経過は個々で異なる。
・罹患後症状に関しては不明な点が多く、標準的な治療法は確立していない。
・時間の経過とともにその大半は改善する。数カ月から半年程度の期間で改善を認めることが多い。
(・再増悪したりなど不安定な経過を辿ることもある)
(・経過中に抑うつなどの二次的な症状が出現する可能性がある)
・運動療法やリハビリテーションが有効である。
・症状が強い場合は安静・休息が重要で、段階的に日常生活に戻していく。

■ 罹患後症状患者への検査
・めまい、ふらつき → Schellong test、簡易Tilt試験、等
・呼吸器症状、倦怠感 → 労作時呼吸回数とSpO2の変化
・罹患歴が明らかな場合、PCRや抗原検査は不要
・過去の感染を診断する目的での抗体検査は推奨されない。
・血液検査(CDC、NHSの提案)⇩


■ 罹患後症状の治療
・標準的な治療法は確立されておらず、対症療法が中心となる。
(例)疼痛 → 鎮痛剤、咳嗽 → 鎮咳薬、喀痰 → 去痰薬
・抗ウイルス薬の罹患後症状への有効性については、現時点では知見は確立していない。
漢方薬の有効性が証明された薬物は定まっていない。
(例)補中益気湯(41)、十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)、当帰芍薬散(23)、苓桂朮甘湯(39)など
・ワクチンが罹患後症状発症の予防となるかについては、現時点では明確な知見は得られていない。
運動療法リハビリテーションは有効であるが、一方で、症状が強い場合には、労作により症状が悪化することも報告されている(Post-exertional symptom exacerbation, PESE)。

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新規薬剤目白押しのRSV感染症対策2024

2024年06月18日 15時35分19秒 | 予防接種
小児科医にとってRSV感染症は、
最後に残ったやっかいなウイルスです。

生後3ヶ月までの赤ちゃんが感染すると、
1/3はゼーゼーしてきて気管支炎となり、
呼吸困難で入院することがあります。

医学的対応は、
予防薬としてのシナジス®が以前からありましたが、
これはハイリスク乳児のみ使用できるもので、
一般の健康な赤ちゃんには使用できませんでした。

ワクチンもなく、
特効薬もなく、
重症化して入院した赤ちゃんも、
対症療法で本人の体力勝負・・・。

そこに近年、次々と新薬が登場してきました。

まずはワクチン。
高齢者向けのワクチン(アレックスビー®)と、
高齢者と妊婦向けのワクチン(アブリスボ®)が登場。

なぜ高齢者かって?
赤ちゃんが重症化することで有名だったRSVですが、
近年、高齢者も重症化することが判明したからです。
今まで検査しなかったからわからなかっただけ。

妊婦向けワクチン?
これは妊婦さんが重症化するわけではなく、
妊婦さんにワクチン接種して免疫を獲得させ、
胎盤〜臍帯を通して赤ちゃん(胎児)に免疫をつけ、
出生後の感染予防効果を期待するという、画期的手法です。

次に予防薬。
シナジス®と同じ仲間のモノクローナル抗体(ベイフォータス®)が開発され、
認可・発売されました。
そしてこの薬は一般の健康な赤ちゃんにも使用可能です。

ただし、モノクローナル抗体製剤は高価であり、
自治体の補助がなければ接種は普及しないと思われます。

さらいn残念ながら、
インフルエンザに対するタミフルのような、
直接ウイルスをやっつける治療薬はまだ登場していません。

これらのことを整理した記事を見つけましたので、紹介します。
報告によるとインフルエンザ、新型コロナ、RSVの中で、一番重症化しやすいのはRSVである、とのこと。


成人に多いRSV感染症、予防面で進展相次ぐ
予防薬のラインアップが充実しつつあるRSV感染症診療を交通整理する
(東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/渡辺 彰)
 RSウイルス(RSV)感染症は、小児の感染症として捉えられがちであるが、実際には成人や高齢者の罹患(再感染を含む)が多く、重症化・死亡に至る例も少なくない。文献レビューとメタ解析に基づく研究によると、日本では60歳以上のRSV感染症は年間約70万例発生し、このうち入院が約6万3,000例、入院例中の死亡は約4,500例と推定されている。
 それに対し、小児の受診例は2021年には約22万7,000例と報告されており、日本でもRSV感染症は小児より成人・高齢者に多いことが認識されつつある。
 このような背景から、近年は感染予防を目的とした抗体薬やワクチンを中心に開発が進み、診療ツールがそろい始めてきた(関連記事:朗報!60歳以上対象にRSVワクチンが本日承認)。本稿では、RSV感染症の最新知見を踏まえ、診療技術の進歩をキャッチアップするとともに残された問題点を見直し、RSV感染症診療の将来を展望したい。

▶ インフルエンザとCOVID-19に比べ重症化しやすい
 RSV感染症の重症度に関し、髙橋らは自験例の解析を行い、成人のRSV関連肺炎例では同一期間中のインフルエンザ関連肺炎に比べ入院数が多く(43例 vs. 25例)、平均年齢や呼吸器症状の重症度は高く、平均入院期間も長かった(30.0日 vs. 15.2日)と報告している。この期間中、全肺炎例に占めるRSV関連肺炎例の割合は5.3%であったが、冬季の流行期は14.6%に増加したという。細菌との重複感染例は60%以上に上り、特に肺炎球菌との合併が多く、流行のピーク時には肺炎球菌肺炎例の20%がRSVとの重複感染であった。また、RSV関連肺炎例のうち21%は初診や紹介受診の時点で誤嚥性肺炎と診断されていたことから、同氏は「RSV感染症は見逃されている可能性が高い」と指摘しており、これは感度が低いといった検査・診断の抱える問題点に起因すると思われる(関連記事:健康寿命延伸に寄与、RSVワクチンへの期待)。
 RSV関連肺炎の死亡率は、急性期においては10%以下でインフルエンザ関連肺炎と同等だったが、高齢者では気管切開や胃瘻造設が行われたり、寝たきりになるなど日常生活動作(ADL)の低下を招きやすい。そのため、罹患後1年間の死亡率は急性期の4~5倍に及ぶ。
 それでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と比べてはどうだろうか? Surieらは2022年2月~23年5月に、米国20州の急性期病院25施設に入院した60歳以上のRSV感染症患者304例、COVID-19患者4,734例、インフルエンザ患者746例を対象に、治療の対応を比較する前向き疫学調査を行った。
 その結果、通常の酸素投与(30L/分未満)を必要としたのはRSV感染症で79.7%、COVID-19で58.2%、インフルエンザで65.8%(P<0.001)、同様に高流量酸素投与(30L/分以上)または非侵襲的陽圧換気はそれぞれ23.0%、11.7%、13.7%(P<0.001)、集中治療室(ICU)入室は24.3%、17.3%、16.8%(P=0.05)で、いずれも他の2疾患と比べRSV感染症で有意に頻度が高かった。また、挿管による人工呼吸管理または死亡は13.5%、10.2%、7.0%(P=0.07)と3疾患間に有意差はなかったものの、RSV感染症はインフルエンザと比べ有意に頻度が高かった(調整オッズ比2.08、P=0.001)。
 以上を踏まえると、3疾患の中ではRSV感染症が最も重症化しやすいといえよう。

▶ 診断の課題は検出キットの性能向上と保険適用の拡大
 RSV感染症の診断としては、迅速抗原検出キットを用いた診断法があるものの、RSV感染症がもっぱら小児、特に乳児の感染症と考えられてきた経緯もあって、保険適用は1歳未満の乳児や入院中の患児、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の小児への使用に限られている。また、成人・高齢者では排出ウイルス量が乳幼児の約1,000分の1と少なく、排出期間も短いため陽性となりにくいことから、同キットでの陽性検出率は2割程度にとどまる。診断精度の向上には、複数回の検査やペア血清による抗体価測定との組み合わせの他、COVID-19の流行を契機に普及したPCR検査機器の活用なども考えられるが、感度・特異度を高めた安価な迅速抗原検出キットの実用化とともに、成人・高齢者に対する保険適用の拡大が喫緊の課題である。
 なお、その他の診断法として、新型コロナウイルス・季節性インフルエンザウイルス・RSVの同時検査法(PCR検査、抗原検査)は、COVID-19疑い例に対する鑑別診断として保険適用が認められている。また、Multiplex-Nested PCR法を利用した病原体核酸検出キットの「Film Array呼吸器パネル2.1」は、「COVID-19疑い」以外の条件でもRSVなどが検査できるが、多岐にわたる制約がある点に加え、保険点数が高いことに注意が必要となる。

▶ 抗RSウイルス薬は発展途上、抗体薬は前進中も価格が課題
 発症予防を適応とする抗体薬を除けば、実用化されたRSV治療薬はまだない。開発中の治療薬では、感染の成立に不可欠なRSVのF蛋白質を標的とする薬剤〔ファイザー社のsisunatovir(PF-07923568)など〕が多いが、塩野義製薬とUBE(旧宇部興産)が共同で開発中のS-337395はウイルスの増殖に必要なL蛋白質を阻害するRNAポリメラーゼ阻害薬である。前者のうちsisunatovirは高齢者と小児を対象とした臨床試験が始まっているが、これまでにも開発を中断した薬剤があり、治療薬の実用化にはまだ時間を要するというのが現状である。
 一方、抗体薬については開発が進み、発症予防としての使用に限られるが現時点で2つの抗RSVヒトモノクローナル抗体製剤がある。アストラゼネカ社のパリビズマブ(商品名シナジス)は、12カ月齢以下の早産児、24カ月齢以下の先天性心疾患や免疫不全およびダウン症候群児などの乳幼児を対象に保険適用が認められており、RSV感染流行期に月1回投与をする。今年(2024年)3月に承認、5月22日に発売されたアストラゼネカ社/サノフィ社のニルセビマブ(商品名ベイフォータス)は、前記の重症化リスクの高い乳幼児(保険適用)だけでなく、それ以外の全乳幼児(保険適用外)が対象になり、1回投与で流行期の1シーズンをカバーできる長期間作用性を特徴とする。
・・・
 パリビズマブはさらなる前進があり、医師主導の臨床試験によって効果が確認されたことから、今年3月に肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患などのある乳幼児が保険適用の対象に加えられた。今後、臨床における2剤の位置付けを考えるべきであるが、抗体薬はいずれも薬価が高い点に懸念が残る。

▶ 相次ぐワクチンの実用化、mRNAワクチンも登場
 検査・診断と治療薬に問題が残る一方、ワクチンに関しては実用化と発売が相次ぐ。RSVワクチンの開発は、1957年に初めてウイルスが分離され間もなく始まったが、当初の成績は芳しくなかった。21世紀に入って、RSVのF蛋白質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造が変わるという機序が明らかになってから、融合前F(prefusion F)蛋白質を標的としたワクチン開発が国内外で進展し始めた。
 日本では、昨年9月にアジュバントを添加したグラクソ・スミスクライン(GSK)社のRSVワクチン(商品名アレックスビー筋注用)が60歳以上の成人に対する初のワクチンとして承認、今年1月に発売されたのに続き、同じく今年1月にファイザー社のRSVワクチン(商品名アブリスボ筋注)が母子免疫ワクチンとして妊婦への投与が承認、3月には60歳以上の成人が適応に追加され、5月31日に発売となった。さらに、5月30日にモデルナ社がmRNAベースのRSVワクチン(mRNA-1345)の製造販売承認を厚生労働省に申請。実用化ラッシュ期を迎えた今、注目されるのが各ワクチンの有効性である。以下、臨床試験の成績を中心に紹介しよう。

アレックスビー:初回時は高い効果も再接種による追加効果は認められず
アブリスボ:母子感染予防だけでなく高齢者でも最大85.7%の効果
mRNA-1345:効果は80%を上回り、安全性の懸念なし

▶ 先んずるべきはワクチンによる予防、その鍵は公的補助の拡充
 世界では日本に先行して3剤のRSVワクチンが実用化され、妊婦への投与を含めて高齢者を中心に接種が広がっており、検査・診断と治療薬の開発の面でまだ問題が残る現状では、ワクチンによる感染予防を先んじて実施すべきと考える。そのためにも各ワクチンの低価格化の実現が望ましく、加えて社会に与える疾病負担の大きさに鑑みれば、RSVワクチンの接種費用に対する公的補助や定期接種化を検討すべきである。自治体対応の先駆けとしては、今年4月に北海道の小平町と神恵内村がRSVワクチン接種への公費助成を開始している。特に神恵内村では自己負担を1割に抑えており、同村のB類疾病用定期接種ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌感染症、COVID-19など)への9割補助と同等の手厚い施策を講じている15, 16)。こうした方向性が全国に広まることを期待したい。

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学校健診問題:このままでは学校医の撤退が始まります

2024年06月18日 07時22分13秒 | 予防接種
「着衣診察で側弯症を見逃すと医師が敗訴する」
という事実があります。

(2008-03-28:個人ブログ)
(2019年7月2日:朝日新聞)

学校医は今、
「脱衣診察すると“セクハラ”と言われる」
「着衣診察で病気を見逃すと“犯罪者”にされる」
というリスクに挟まれて身動きできなくなっています。

さて、学校健診では「チェック項目」が決められていることをご存知でしょうか。

児童生徒等の健康診断マニュアル(平成27年改訂版)
この中の19ページにチェック項目一覧表があります。
学校医はそれをシンプルに実行しているだけです。
着衣では心臓や肺、皮膚や胸郭の診断精度が下がり、
医師としてはそれは避けなければならないこと。

「健診ごときで上半身裸になるのはやり過ぎでは?」
という意見の背景には、
「健診で何をチェックしているのか?」
に関して“理解不足”があります。

TVやメディアで取りあげられる際も、感情論が先走り、
健診の意義がなおざりにされていることを感じます。

生徒家族側が理解して初めて信頼関係に基づく「健診」が成り立ちます。
理解なき健診は、上記のような誤解の元です。

健康診断は医師にとって、
「自覚症状がまだ出ない段階で、病気を早期発見する繊細な医療行為」
なのです。

生徒家族の方々、健診の内容を知ってください。


そして健康チェックを受けたい方だけ、診察を受けてください。
健康チェックを受けたくない方は、拒否してください。

今まで理解不足、啓蒙不足を放置してきたのは、
文部科学省系機関である教育委員会の責任です。
私も色々提案してきましたが、結局何も変わりませんでした。

これ以上学校医を追い詰めると、
ボランティア精神で担当してきた医師達はみんな現場から立ち去り、
学校健診が自然消滅していくことでしょう。

・・・私は「その方がいい」と思っている一人ですが。

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プロアクティブ療法 2.0

2024年06月14日 07時36分54秒 | 予防接種
・・・と書かれても「?」という方が多いと思われます。

これは「アトピー性皮膚炎治療のニュースタンダード」を指します。
昨晩、堀向健太Dr.の講演で聴きました。

その内容は・・・
・寛解導入はステロイド外用薬を使用
・維持期はステロイド以外の外用薬(タクロリムス(※1)、デルゴシチニブ(※2)、ジファミラスト(※3))で行う。
※ 1)プロトピック®軟膏
※ 2)コレクチム®軟膏
※ 3)モイゼルト®軟膏

というシンプルな構成。

あれ、これどこかで聞いたことがある・・・
そう、2024年5月に紹介した「開業医によるアトピー性皮膚炎診療」そのものです。
当院でも昨年から診療に取り入れている方法ですが、
今回の講演を聴いて、自分が行っている診療が正しいこと、かつ最先端であることが確認できました。

今回の講演はデルゴシチニブの製薬会社がスポンサーなので、
演者はその軟膏を中心にお話しされましたが、
私はジファミラストを使用しています。

ジファミラストは生後3ヶ月から使用可能で、
使用量制限がありません。

一方のデルゴシチニブは生後6ヶ月から使用可能、
使用量制限(1回5gまで、あるいは体表面積の1/3まで)。

さらに、副作用が少ない点からもジファミラストが有利です。

湿疹でお悩みの赤ちゃんのご家族の方、
でもステロイド外用薬の副作用が心配な方、
ぜひ当院にご相談ください。

ステロイド外用薬の副作用を心配しながら使う時代は終わりました。

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舌小帯短縮症は、どこから病気?

2024年05月18日 15時10分36秒 | 予防接種
私が小児科医になって30年以上経ちました。
舌小帯短縮症の扱いは時代により変遷してきたことを実感します。

研修医の頃は、新生児期に膜状の薄い舌小帯はハサミで切っていました。
たまにそこに血管が通っている赤ちゃんがいて、
切ると出血することもありました。

数年後、画期的な論文が出ました。
3000例の赤ちゃんの舌小帯を観察し、
舌の先が伸びるので切る必要がない、という内容です。

それを根拠に、新生児期のランダムな舌小帯切り行われなくなりました。

生活に支障が出るほど舌小帯が短い場合、
つまり哺乳や発音に問題が発生する例には、
乳児期以降に切除することになりました。
この時期は全身麻酔が必要です。

ですから、舌小帯のリスクと全身麻酔のリスクを天秤にかけて、
手術が必要かどうか検討することになり、
耳鼻科医の中でも手術に対する温度差があります。

さて、近年の考え方はどうなっているのでしょう?
参考になる記事が目に留まりました。

学会レベルでも私が例示した論文以降、2000年代前半までは、
「切らない方がよい」
とされ、しかし2000年代後半以降は、
「支障があれば切るべきだ」
と流れが変わってきたものの揺れ動いていて、
現在もまだ“解決した”とは言えない状況のようです。


舌小帯短縮症、正しい知識で早期治療
~哺乳に支障、切開手術で改善~

◇舌先がハート形に
 舌の裏側の中央にある舌小帯という水かきのような膜が口の底に固定され、舌の動きが制限される先天性の異常を言う。舌先を持ち上げられない、舌を唇より前に出せない、舌を出すと膜が引きつれて舌の先端部分がハート形になる、などの症状がある。
 赤ちゃんの時期だと母乳を上手に吸えないため、授乳が頻回になり、特に夜間は母親にとってつらい。赤ちゃんは舌を乳頭に絡ませることが難しく、十分な量が飲めないため、栄養不足になる恐れもある。イライラした赤ちゃんが歯茎で乳頭をかむと周辺に傷ができ、授乳のたびに痛むため、母親は精神的にも追い詰められるケースが多い。乳腺炎にもなりがちで、障害は多岐にわたる。
 そうした子どもは離乳食期以降、かみ砕いたり、飲み込んだりする動作がうまくできない。食べ物が喉に詰まりやすく、飲み込めずに吐き出してしまうことがある。3歳を過ぎると発音がはっきりしない「構音障害」と診断されることも。「異常が出る前に舌を自由に動かせるようにしてあげたいと考えています」と話すのは、手術による治療を推奨している新百合ヶ丘総合病院の小児外科医、伊藤泰雄氏だ。
 みんなができるのに自分だけできないと感じるのは非常につらい。例えばソフトクリームやペロペロキャンディーがなめられない、うどんやラーメンなど麺類をうまくすすれない、トランペットやクラリネット、リコーダーなど音を出す楽器を上手に吹けない、舌足らずなしゃべり方になる、などだ。
・・・
 幼児期にこうした思いをせずに済むよう、伊藤医師はできるだけ乳児期に処置しているという。米国アラバマ州で同疾病を専門的に診療している小児歯科医師による2018年の著書「舌小帯短縮症」では、新生児の4~10%に出現するとしており、「決して珍しくはないのですが、舌の裏側なので親が気付きにくい上、小児科医もしっかり診ていません」と伊藤医師。
 見つけ方で最も分かりやすいのは、舌先がハート型にくびれているかどうか。泣いて大きな口を開けても舌先が上がらないなどがポイントだ。先に触れたが、母乳がうまく吸えない、体重が増えない、乳頭痛があるなど、哺乳に関する心配事や問題がある場合は舌をチェックしてほしい。
◇どうしたら治るのか
 効果がある治療の一つとして、伊藤医師は手術で舌小帯を切開し、舌を自由に動かせるようにする方法を提案する。舌は筋肉でできた運動器であるため、使わなければ成長・発達せず、逆に退化する。動く範囲が制限されていると機能を十分に発揮できないのは明らかで、伊藤医師は「成長とともに自然に治るわけではない。舌小帯切開で改善が見込まれます」と強調する。
 とはいえ、手術に伴うリスクはゼロではない。出血、痛み、術後の感染症や再癒着などが挙げられる。「まれに見られる痛みや傷による感染には鎮痛剤や抗生剤で対応します。帰宅後、万が一出血した場合を想定し、ご家族に圧迫止血法を指導しています」(伊藤医師)。幼児は全身麻酔で手術するため数日の入院が必要だが、乳児の場合は圧迫止血で縫合もせず日帰りできる。術後30分で授乳も可能だ。処置する時期が早ければ早いほど、リスクは少なく済む疾病と言える。
・・・
 年間200件ほど手術している新百合ヶ丘総合病院の集計によると、再癒着率は全体の7~8%に見られるというが、「再癒着防止のため、指で舌を持ち上げる切開創のストレッチを保護者に行ってもらっています。術後1週間と1カ月の外来受診で癒着があるときは、指による剝離で治すことが可能です」と伊藤医師。しっかり対応してもらえるようだ。
◇患者が相談できない
 2001年、日本小児科学会が「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」を発表し、その中で「舌小帯短縮症と哺乳の関連は習慣的考え方で、学問的根拠はない」と記した。これ以降、母乳は飲めなくてもミルクが飲めて体重が増加していれば、舌小帯を診察したり、切開手術を検討する小児科が減少した。しかし05年以降、米英など諸外国は方針を転換。世界保健機関(WHO)は09年米小児科学会は17年哺乳障害がある赤ちゃんに舌小帯短縮が見られる場合、切開手術で改善すると発表し、見直しが進んでいる。一方、日本国内は特段の議論なく現在に至っている。
・・・
 「生後すぐ哺乳不良を自覚し、産院退院後に小児科を受診しても、搾乳での授乳や調乳への移行を勧められたり、体重増加が順調なら様子見と言われてしまったり。母乳育児に取り組もうとしている母親にとって、納得できる形の対応でないのが実情と聞いています」と伊藤医師は表情を曇らす。この流れを変えるため、さまざまな論文を発表するなど手を打ってきたが、まだ手応えはないという。
 ただ、少し動きもある。18年に日本歯科学会が「口腔(こうくう)機能発達評価マニュアル」を発表し、哺乳・摂食・構音障害がある舌小帯短縮症は手術対象という姿勢を明らかにしている。手術の実施を表明している小児外科医や、伊藤医師ら数少ない専門医への紹介状を書いて相談を促す小児科医が出てきたという。
 現在国内で舌小帯切開手術をしている医療機関は関東地方に集中していて、全体の数は少ないとみられる。特に、乳児の手術を受け入れている施設は首都圏に限られる。伊藤医師は「地域によって医療に格差が生じていると言えます。現状、全国どこでも治療が受けられるわけではない上に、国内に二つの異なった治療指針が存在している状態なのです」と憂慮する。
・・・
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新型コロナが五類に移行して1年、現在の状況は?

2024年05月18日 06時55分13秒 | 予防接種
2023年5月に新型コロナが五類相当に格下げされ、
感染対策が緩和されました。

その後、感染対策で抑制されていた他の感染症が、
「やっと出番が来た!」
とばかりにリバウンド流行しました。

それから約1年、現在の状況はどうなっているでしょう?
我々はコロナとどうつき合っていけばよいのでしょうか。

以下の記事を参考に確認してみました。

私がポイントと感じた箇所;

・感染対策が緩和されてもコロナ流行に大きな変化なし。逆に考えると、夏にまた流行がある可能性あり。

・若年者は軽症で済むが、高齢者は重症化のリスクがあることも変わりない。
 → 厚労省は65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定

・インフルエンザは9月から流行が始まり4月まで続いた。これは感染対策緩和の反動と考えられる。今後は元の流行パターンに戻るだろう。

・影を潜めていた咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎などが季節を問わず流行した。これも感染対策緩和の反動と思われ、今後は従来の流行パターンに戻るだろう。

・ただし、マイコプラズマ感染症だけはリバウンド流行が観察されていない、今後の動向に要注意。

・マスク着用を継続するのは非現実的だが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはず。

概ね頷けますが、最後の「せめて手洗いだけは続けよう」はちょっとさみしい表現ですね。
私は60歳で、持病持ちなのでハイリスク者です。コロナに感染したら重症化する可能性があり、人混みではマスクを外せません。
高齢者施設では、五類相当になってからもきびしい感染対策が続けられています。


■ コロナ5類移行で感染症全体に異変
2024/5/17:JIJI.com)より一部抜粋;

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行して1年が経過しました。移行後に予防対策が緩和されても、新型コロナの流行状況に大きな変化は起きていませんが、インフルエンザなど、それ以外の呼吸器感染症の流行に影響が見られています。・・・
◇コロナに変化なし
・・・
 2023年5月8日、新型コロナが感染症法の2類相当から5類に移行されました。これに伴い、政府が国民に感染対策を一律に求めることはなくなり、個人や事業者の判断で実施するようになりました。すなわち、新型コロナの予防対策が大きく緩和されたのです。患者数の把握も、全数ではなく定点医療機関からの報告に基づく対応になりました。 
 こうした予防対策の緩和で新型コロナの拡大も懸念されましたが、この1年間は大きな変化なく経過しています。「変化がない」というのは、夏と冬の流行を5類移行前と同程度の規模で繰り返しているという意味です。 
 新型コロナの流行が始まってから、国民の多くは感染やワクチン接種により、新型コロナウイルスに一定の免疫を持つにようになりました。このように免疫を獲得した人が多い状況下であれば、予防対策をある程度緩和しても流行が大きく拡大することはないのです。さらに、この1年間はウイルスが大きな変異を起こしていないことも拡大しなかった要因と言えます。
◇高齢者はまだ重症化する
 5類移行後の1年間はウイルスの病原性も変化することはなく、若い人は感染してもほとんどが軽症で回復するようになりました。その一方で、高齢者の場合は重症化するケースも少なくありません。 
 厚生労働省が発表する人口動態統計によれば、5類移行後の23年5月から11月までの新型コロナによる死亡者数は約1万6000人で、その大多数は高齢者でした。移行前の22年5月から11月は、死亡者数が約2万4000人だったので減少していますが、相変わらず死亡者数の多いことが分かります。 
 つまり、高齢者にとって、新型コロナは今も5類移行前と同様に重症化する可能性があり、流行が拡大する冬の季節などには、十分な予防対策が必要になるのです。厚労省も今秋には、65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定にしています。
◇インフルエンザの変則流行
 このように、5類移行後も新型コロナの流行に大きな変化は見られていませんが、それ以外の呼吸器感染症には異変が起きています。 
 顕著な例がインフルエンザです。日本では21年、22年とインフルエンザの流行が全く見られませんでした。要因は幾つかありますが、新型コロナ対策で国際交通を止めたことが大きいと思います。 
 23年は国際交通がある程度回復し、1~2月には3シーズンぶりにインフルエンザの流行が起こりました。ただ、この時期は新型コロナが2類相当で、国民の皆さんは予防対策を強化していたため、小規模で終わりました。そして、5類に移行した5月以降、インフルエンザの患者が少数ながら発生し、9月に入ってから大きな流行になったのです。これは24年4月まで続きました。 
 このように、23年秋から24年春まで長期にわたり流行が続いたのは、過去2シーズンにわたりインフルエンザの流行が無かったためです。それまで、私たちは毎年冬の季節、インフルエンザウイルスの暴露を受けて一定の免疫を得ていました。しかし、コロナ対策によってその機会が無くなり、免疫が低下していたのです。そんな状況下、コロナ対策を緩和したことで、インフルエンザが拡大したと考えられます。 
 23年からの流行では多くの国民が免疫を再獲得しており、次のシーズンには例年並みに戻ると思います。
◇小児の呼吸器感染症も増加
 咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎など、小児を中心にまん延する呼吸器感染症も、新型コロナが発生してからしばらくは流行が見られませんでした。こうした感染症は飛沫(ひまつ)や接触で感染するため、新型コロナ対策でマスク着用や手洗いを強化したことにより広がらなくなったのです。そして5類移行後、予防対策が緩和されてから流行が再燃しました。 
 これらの感染症への免疫も、流行がしばらく無かった間に低下しており、患者数がコロナ前より増えているとともに、変則的な流行も見られています。例えば咽頭結膜熱は、本来は夏に拡大しますが、23年は秋から冬にかけて患者数が増加しました。このような患者数増加や変則流行も、次第に本来の状況に戻っていくと思います。 
 一つ気がかりなのがマイコプラズマ肺炎です。この呼吸器感染症は小児だけでなく大人もかかりやすい病気ですが、新型コロナが発生してから患者発生はほとんどなく、5類移行後も再燃していません。そろそろ大きな流行が起きることを想定しておく必要があるでしょう。
◇手洗いだけは続けよう
 新型コロナが発生する前まで、インフルエンザなどの呼吸器感染症は国民の間で毎年のようにまん延し、医療にも大きな負荷をかけてきました。しかし、新型コロナ禍を受け、マスク着用や手洗いなどの感染対策を強化したことにより、呼吸器感染症そのものが一時的に減りました。「この影響で免疫が低下した」とも言えますが、もし、私たちがこうした感染対策を続けることができれば、呼吸器感染症による医療への負荷を今後も軽減できるかもしれません。  マスク着用を継続するのは非現実的ですが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはずです。これは、今回の新型コロナ禍を経験して私たちが学んだ貴重な知恵だと思います。


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新型コロナウイルスは「空気感染」するとWHOが定義しました(2024年)

2024年05月16日 15時52分30秒 | 予防接種
病原体の感染経路は従来3つに分類されていました;

1.接触感染
2.飛沫感染
3.空気感染

新型コロナウイルスが登場したときからずっと、
この病原体の感染経路が議論されてきました。
リアルワールドでのデータは、

2.飛沫感染では説明しきれない感染拡大
3.空気感染するほど感染率は高くない

というもので、はてどう理解したらよいのか、
専門家の間でも一致した考えはなかなか出ませんでした。

そこで苦肉の策としてひねり出したのが「エアロゾル感染」というワード。
イメージとしては飛沫感染と空気感染の間に位置し、
一応、粒子の大きさで分類されるようですが、
未だに正式な医学用語として認められていません。

そこに今回の情報が入ってきました。
WHOが「新型コロナウイルスは空気感染する」と定義したのです。
そして「粒子の大きさにかかわらず空気中に飛散した物体を介して感染する経路を“空気感染”と再定義したのでした。
つまり、粒子の大きさをもとに分類してきた
「飛沫感染」「エアロゾル感染」「空気感染」
の3つをグイッと一つにまとめてしまったのです。
これは画期的!

解説記事を引用させていただきます;

■ 「合意された『空気感染』の定義─コロナ禍の轍をふまない対策を」
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)
2024-05-13:日本医事新報社)より一部抜粋;
 コロナ禍が始まった当初から、コロナが空気感染であるか否かと合わせて議論されてきた「空気感染」の定義について、WHOと各分野の専門家が合意したことが発表された1)。これにより、大きさを問わず空気中へ飛散した物体を介して感染する経路を、総じて「空気感染」とすることが確認され、コロナもこれに含まれることが明示された。
 そもそも空気中に放出された病原体を含む粒子が、飛沫としてすぐに落下してしまうか、エアロゾルとして空気中にとどまり飛沫が及ぶ距離や時間を越えて広がるかどうかは、粒子の大きさだけでは決まらず、空気の流れや湿度など様々な要因に左右される。にもかかわらず、医学においては長らく「5μm」までの粒子を飛沫、それより小さい粒子をエアロゾルと定められ、前者による感染は1〜2m以上離れていれば広まらないとされてきた。
 しかし、その大きさは最初の記載では肺の奥まで到達しやすい粒子の大きさとして言及されたものが、空気中にとどまるエアロゾルの大きさの基準と混同されただけであったことも既に示されていた2)。・・・
 また、ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大は、コロナが空気感染である可能性を最も早く理解する機会であり、海外からもそのような指摘があったがその後多くの命を救うことに結びつけられなかったことも残念でならない3)。
・・・
 コロナ禍が始まった当初、空気感染はしない、人から人への感染はない、だから広範な検査は必要ないとされたことは、その後多くの命を奪うことにつながった。この轍をふまず、早急に対策を進める必要があるとの指摘に強く同意する4)。

【文献】
1)WHO公式サイト:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air.(2024年4月18日)
https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air
2)Randall K, et al:Interface Focus. 2021;11(6):20210049.
3)Almiraji O:Aerosol Air Qual Res. 2020;21(4):200495.
4)The New York Times公式サイト:OPINION. This May Be Our Last Chance to Halt Bird Flu in Humans and We Are Blowing It.(2024年4月24日)
https://www.nytimes.com/2024/04/24/opinion/bird-flu-cow-outbreak.html

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RSウイルスワクチン「アブリスボ」登場!(2024年1月)

2024年01月19日 07時37分36秒 | 予防接種
私が小児科医になってから30年以上経過しますが、
新規予防接種の開発・導入により、
感染症流行の構図が変化してくるのを観察できました。

その中でも肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは大きなインパクトがありました。
乳児早期の細菌性髄膜炎患者が激減したのです。
最近の研修医は診療経験がないと聞いています。

20年以上前、市中病院小児科の病棟では冬になると、
ロタウイルス胃腸炎の大部屋と、
RSウイルス気管支炎の大部屋が、
自然発生的にできるのが通例でした。

RSウイルスは乳児が感染すると、
こじれて気管支炎になりやすく、
ゼーゼー苦しそうになります。
とくに生後3ヶ月未満の赤ちゃんは重症化して顔色が悪くなり、
おっぱい、ミルクも飲めなくなり入院することも稀ではありません。

しかし従来、RSウイルスに特効薬はなく、
小児科医は対症療法で本人が自力で危機を脱するのを見守るしかありませんでした。

★ 小児のRSウイルス感染症について知りたい方はこちらをご覧ください。

近年、ロタウイルスワクチンが登場してから、
ロタウイルス胃腸炎による入院数は激減したと耳にします。

正式には「組み換え2価融合前F蛋白質抗原含有RSV(RSVpreF)ワクチン」だそうです。
このワクチンの特徴は、
乳児自身に接種するのではなく、
妊娠しているお母さんに接種(※)して抗体を作り、
それが胎盤を通して胎児にもたらされ、
出生後に乳児に効果を発揮するという画期的システムです。

※ 妊娠24〜36週の妊婦に1回接種(筋肉注射)

本人以外にワクチンを接種して予防効果を期待する方法は「コクーン戦略」と呼ばれ、
アメリカでは既に百日咳ワクチンなどで(2011年から)実施されてきました。

アブリスボ®の有効率(重症化予防率)は、
生後3ヶ月未満では約80%
生後6ヶ月未満では約70%
と良好です。


新生児用のRSウイルスワクチンを承認へ 妊婦に接種、肺炎を予防
(2023年11月28日 朝日新聞)より抜粋
 新生児や乳児の重い肺炎を防ぐための、妊婦向けのRSウイルス(RSV)ワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は27日、国内での製造販売承認を了承した。高齢者向けワクチンは9月に承認されていたが、新生児や乳児用はなかった。
 了承されたのは、米ファイザー社のワクチン(販売名・アブリスボ筋注用)。・・・米国では8月に承認されている。・・・
 RSVワクチンは、国の予防接種基本計画の中で「開発優先度の高いワクチン」に位置づけられていたが、子ども用ワクチンがなかった。重症化リスクの高い子には予防的に抗体を投与するしかなく、ワクチン開発が待たれていた。
 今回了承されたワクチンは、妊娠24週~36週の妊婦に1回接種する。ワクチンによりできた抗体が、母体から胎児に移行することで、新生児や乳児のRSV感染症による肺炎などを予防する。
 このワクチンの国際共同臨床試験(治験)の結果では、接種した妊婦から生まれた赤ちゃんでは、重症化を予防する効果は生後3カ月以内で81・8%、同半年以内で69・4%だった。

<参考>
・アブリスボ®筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]製造販売承認を取得
・RSウイルス感染症 妊婦向けのワクチン承認へ 厚労省専門家部会

さて、上記記事にあるように、高齢者に対するRSVワクチンも少し前に認可されています。
その名は「アレックスビー」。
こちらは60歳以上が対象で、一回接種(筋肉注射)です。

RSウイルス感染症のワクチン 日本国内初承認へ 対象は60歳以上
2023年8月28日:NHK)より一部抜粋; 
・・・RSウイルス感染症のワクチンについて、厚生労働省の専門家部会は28日夜、60歳以上を対象に使用を認めることを了承しました。・・・了承されたのは、イギリスの製薬会社、グラクソ・スミスクラインが開発した、RSウイルス感染症のワクチン「アレックスビー®」です。
・・・
ワクチンの接種の対象は60歳以上です。
今後、厚生労働省の正式な承認を経て、RSウイルス感染症のワクチンの製造・販売が国内で初めてできるようになります。
製薬会社の臨床試験によりますと、ワクチンは17か国のおよそ2万5000人の60歳以上が接種を受けて、有効性が確認できたということです。
・・・
今回、ワクチンの承認申請をしている大手製薬会社、グラクソ・スミスクラインなどの研究グループの推計によりますと日本国内でRSウイルスに感染して入院する60歳以上の人は、1年間におよそ6万3000人、入院して亡くなる人はおよそ4000人とみられるということです。

<参考>
・60歳以上へのRSウイルスワクチン発売


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子どもの側弯症

2023年11月23日 10時45分44秒 | 予防接種
WEBセミナーで側弯症のおなはしを聞きました。

私は中学校の学校医を担当していますが、
思春期に問題となる「特発性側弯症」に関して、勉強になりました。

・痩せている女子に多いこと(バレエや新体操はハイリスク)、
・装具治療は進行を抑えるだけで改善は期待できないこと、
・1日のうちで装具装着時間が長いほど効果が期待できること、
…等々。

ポイントと感じたことをメモしておきます。

 側弯症の年齢による分類
1.8歳以前:early onset scoliosis
2.学童期:late onset scoliosis
 ① 特発性側弯症
 ② 先天性側弯症
3.大人:成人脊柱変形

◆ 特発性側弯症の疫学
・有病率:約2%
・側弯症の8割
・女性が8~9割
・原因不明
・遺伝因子
 ✓側弯症を持つ母親の娘が側弯症である確率は27%
 ✓双子の場合、一卵性で73%、二卵性で36%
・ほかに異常がない
・身長の伸びる時期が最も悪化する
・Cobb角40/50°以上は成人後も進行する
・成人後の発症や進行もある

◆ 特発性側弯症の“かつての”治療方針
・50°以上の側弯症は手術適応
・成長終了時の50°に満たない患者は治療終了

◆ 特発性側彎症のスクリーニング「前屈テスト」
・もっとも簡便
・特異性:78%

◆ 側弯症のリスクのあるスポーツ
・バレエや新体操
 ✓痩せている(低BMI)
 ✓生理が来ないか不順
 ✓体が柔らかい
・クラシックバレエ:調整オッズ比 1.38

◆ 側弯症で起きうる症状・所見
・変形 → 心理的ストレス
・肺活量の低下・・・90°以上にならないと起こらない
・痛み → 成人後(50歳以降?)に悪化

◆ 側弯症の治療
・保存治療:装具
 ✓進行を抑える効果(ブレーキ)
 ✓改善させることはできない
→ 本当に効果があるのか?という議論が長年続いてきたが、
2013年に1日の装着時間と治療成功率が相関することが報告された(Weinstein 2013 N Engl J Med)
 ・・・6時間未満で40%、6‐12時間で70%、13時間以上で90%
・手術治療

特発性側弯症は思春期女子に多く、成長のスパートが起きている間に急速に進行する病気です。
昨年大丈夫だったから今年も大丈夫とは限りません。
それを発見すべく、学校医は神経を使っているのですが、
近年「脱衣診察はダメ!」という感情論が席巻し、
十分な診察ができず、進行してから学校健診以外で発見されて治療にたどり着く例を耳にします。
ここ数年、私の周りでも3名の中学生女子が学校健診以外で側弯症と診断されました。

もはや学校健診は形骸化しており、参加している私自身も疲弊するだけで意義を感じられません。
運動器検診・側弯症検診は学校健診と切り離して整形外科専門医が担当すべきだと思います。

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