小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「食物アレルギーとアナフィラキシー」(海老澤元宏先生:ネット配信セミナー)

2018年02月16日 07時00分59秒 | 食物アレルギー
 近年多くなってきたネット配信セミナー。
 昨夜(2018.2.15)は食物アレルギーではご意見番の海老澤先生の講演がありました。

 一時期アレルギー系学会を席巻した「急速経口免疫療法」は影を潜め、現在は「より安全に、より少量から症状が出ない程度でゆっくり進める経口負荷試験」が主流になりつつあります。
 まあ、現場でずっと続けてきたスタンスにまた戻った、というのが私の印象です。

 海老沢先生の講演は何回も聞いているので、あまり目新しいことはありませんでしたが、知識を整理・確認するにはとても役立つ内容でした。

 ただ、栄養指導では「管理栄養士」、アナフィラキシーでは「マンパワーを集める」など、1人院長の開業医では無理なことが平気で出てくるのは相変わらず。
 重症以外の患者さんを多数診療している「開業医が出来る食物アレルギー診療ガイドライン」を作って欲しいものです。


***********<備忘録>************

・「食物アレルギー診療ガイドライン2016」の主旨は「“食べさせない”のではなく“食べさせる”にはどうしたらよいか?」である。

・食物アレルギーのリスク因子;
1.家族歴
2.秋冬生まれ(短い日光照射)
3.皮膚バリア機能の低下
4.環境中の食物アレルゲン
5.離乳食開始を遅らせること

・湿疹乳児に対する介入(PETIT研究);湿疹を治療してなくすことを前提条件とした場合、加熱卵を早期(生後6ヶ月)から少量開始し与えた方が卵アレルギーを予防できることが示された。
 生卵+より低年齢(生後6ヶ月未満)では、逆に感作を誘発するリスクがあるので注意すべし。

・今のところ早期接種開始で食物アレルギー発症予防の可能性のデータがあるのはピーナッツと卵だけである。

・食物経口負荷試験は、以前は「多数回&短い時間間隔」で行われてきたが、最近は「より少数回&60分間隔」が主流になりつつある。

・食物経口負荷試験の目的は、オールオアナッシング(食物アレルギーの克服)ではなく、微量摂取できるかどうかに焦点を当て、栄養食事指導をしてQOLを上げるべきである。

・経口免疫療法は副作用必発であり、一般診療として推奨できるレベルではなく、倫理委員会を通して研究レベルで行うべきである。

・「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会、2014)では重症度分類をグレード1-3に分類したが、5段階分類も存在する。


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卵アレルギーの予防法

2017年12月17日 13時48分47秒 | 食物アレルギー
 湿疹・アトピー性皮膚炎のある赤ちゃんは、離乳食をどう進めていくべきかの指針の全体像が見えてきました。
 ポイントは、
・生後6カ月未満でアトピー性皮膚炎と診断された乳児は、医療機関においてスキンケアやステロイド外用薬を基本とした湿疹の治療を行う。
・湿疹のない状態(寛解)にした上で、医師の管理の下、生後6カ月からPETIT試験の方法を参考に微量の加熱鶏卵の摂取を開始する。
・1日1回の摂取で症状がないことを確認しながら、「授乳・離乳の支援ガイド」に準拠して摂取量を増やしていく
ーというもの。
 湿疹を放置していると、経皮感作が進んで食物アレルギーのリスクが高くなります。

■ 卵アレルギーは「微量のゆで卵」で防ぐ
 学会が提言、アトピー乳児は早期から卵摂取を
 湿疹のコントロールが成功の鍵
2017.12.14:日経メディカル
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経口免疫療法による重篤副作用例の続報

2017年11月23日 07時03分52秒 | 食物アレルギー
 経口免疫療法による重篤な副作用例発生の続報です。
 11/19に日本小児アレルギー学会での報告ですが、情報公開した施設が5.6%しかないので、疑問の残る、不十分な統計です。

 誤解されやすいのでちょっと予備知識を。

 経口免疫療法の対象になるのは小学生になっても治る気配のない重症食物アレルギー患者です。
 その食品が微量でも体に入ると、アナフィラキシーショックを起こすレベルであり、日常生活に支障が出ます。
 これらの患者さんに対して、短期間の間に集中的に微量からアレルゲン食物を摂取させて増量すると、一定量が食べられるようになることが発見され、それを治療に応用したのが経口免疫療法です。
 生活の質を上げるための選択肢です。

 アレルゲン食品を食べても皮膚症状だけしか出ない軽症例は対象になりませんので、誤解なきよう。

■ 日本小児アレルギー学会が「重篤な食物アレルギー症状」の緊急調査〜負荷試験や経口免疫療法に伴う重篤な事例は9例〜抗原別では牛乳アレルギーが最多
2017/11/21 :日経メディカル
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第54回日本小児アレルギー学会に参加してきました。

2017年11月20日 08時12分41秒 | 食物アレルギー
 2017.11.18-19の先週末、「第54回日本小児アレルギー学会」(宇都宮市)に参加し、知識のアップデートをしてきました。

 懇親会にも久しぶりに出席し、大学アレルギーグループの先輩・後輩とも旧交を温めてきました。
 なんと小学校の頃覚えた「日光和楽踊り」を踊りました。

 この学会、昔は「小児喘息を以下にコントロールするか」という内容の発表が多かったのですが、近年は演題数で食物アレルギーに追い抜かれたそうです。
 
 先日、食物アレルギーの負荷試験で重篤な副作用例が報道され、それに関連した報告もありました。
 開始時刻に会場にたどり着いたときにはもう人で溢れていて会場にはなかなか入れませんでした。

 食物アレルギーの診断に関して、アレルゲン・コンポーネントを利用して診断精度を上げるテクニックや、小児〜成人医療への移行期である思春期喘息の問題点、アトピー性皮膚炎の最新治療、食物アレルギーの経口免疫療法、アレルギーエデュケーターの現況など、聴講してきました。

 群馬県の小児アレルギーエデュケーター(PAE)はまだ当院スタッフの1名のみと寂しい状況ですが、今年もう1人増えそうだという情報も耳にしました(^^)。

**************<メモ>***************

■ アレルゲン・コンポーネント
・ももアレルギーでは、OAS(=PFAS)と即時型反応の2パターンが存在する。OASでは口腔内症状、即時型反応では全身症状が出現するが、この場合口腔内症状は伴わない。2パターンはその患者が反応するアレルゲン・コンポーネントで鑑別できる可能性あり(まだコマーシャルベースではできない)。

■ アレルギー疾患の移行期治療
・思春期喘息では本人の自覚症状が乏しく、コントロール不良かどうかは肺機能(フロー・ボリューム)、FeNOでしか判定できないことが大きな問題である。これらの患者をどう拾って成人喘息につなげないかが課題。

■ 食物アレルギーの経口免疫療法
・数年前まではこのセクションの会場は立ち見が出るほど混雑していたけど、「研究段階であり一般診療レベルでは行うべきではない」という学会声明が出されてからしぼんできて、聴講者はまばら。
・アナフィラキシーの危険のある急速経口免疫療法は影を潜め、症状を出さない程度で進める緩徐法関係の演題が増えてきた印象・・・これなら開業医でもできそうと手応えを感じる。

■ わが国におけるアナフィラキシー症例の実態(JSAレジストリー)
・食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIAn)の原因食物は、長らく(1位)小麦、(2位)甲殻類とされてきたが、近年は甲殻類に変わって果物が2位になっている。これは以前からの欧米の統計と一致する。
・アレルギー専門医教育施設を対象としたアンケートでも、アナフィラキシーに対してアドレナリン使用率が30%台にとどまり、第二選択薬のステロイド、抗ヒスタミン薬の70%より少ないことを演者の海老澤先生は嘆いていた。

■ これからのPAEの新たな展開
・アレルギーキャンプを中心にPAEの活動報告。PAEには看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士もいるので、みんなが集まると大きなことができそう。
・獨協医科大学のアレルギーキャンプでは親が同伴しないことを知る。看護学生がマンツーマンで世話を見るようだ。
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「好酸球性消化器疾患」という病気

2017年10月20日 06時48分50秒 | 食物アレルギー
 乳児期発症の食物アレルギー予防に関しては「避けるより食べさせる」風潮がトレンドです。
 しかし食物アレルギーを「食べて治す」という「経口免疫療法」は一時期学会でブームと言えるほど勢いがあったのですが、数年前に「まだ研究レベルに留め、一般診療として推奨されない」と一歩後退して現在に至っています。
 その理由は2つ;
①治療中に症状が必発し、ときにアナフィラキシーショック
②好酸球性消化器疾患を発症するリスクがある
 です。

 ②のこ好酸球性消化器疾患を扱った記事が目にとまりましたので引用・抜粋します;

■ 原因特定難しい食物アレルギー、「6種抗原除去食療法」で改善
2017年10月18日 読売新聞・佐藤光展
 近畿地方の30歳代の男性会社員は、3年前からひどい腹痛や下痢が続き、「好酸球性消化管疾患」と診断された。食物が原因で消化管に炎症が起こるアレルギー性の病気で、男性はステロイドを飲むと回復するが、量を減らすと再発した。副作用が心配で昨年、島根大学病院(出雲市)に入院し、原因食品を見つけるプログラムを受けた。原因は卵と分かり、これを抜く食事で元気に仕事ができるようになった。
本来は寄生虫と戦う好酸球、持て余した力を発散し...
 食物アレルギーは、本来は体を守る免疫機能が、特定の食品成分を敵と誤認して攻撃し、その影響が消化管などに及ぶことで起こる。通常は食後1時間以内に腹痛などの症状が表れるので、原因を特定しやすい。特定の食品成分を含む試薬を皮膚に少量ずつつけて反応を見る検査や、血液中のIgEという免疫に関わる物質の量を見る検査もある。
 ところが食道や胃、小腸などに炎症が起こる好酸球性消化管疾患は、食後数日してから腹痛や吐き気、下痢、血便などの症状が表れることが多い。皮膚に試薬をつける検査にも反応せず、原因の特定は困難だった。
 この病気を引き起こす好酸球は白血球の一種で、本来は体に侵入した寄生虫などと戦うために存在する。ところが衛生環境が劇的に良くなり、寄生虫が体内からいなくなると、好酸球の仕事が激減してしまった。同病院第2内科教授の木下芳一さんは「好酸球性消化管疾患は、暇になった好酸球が、持て余した力を発散しようとして起こっているように思える」と語る。
 これまでは希少難病とされてきたが、近年、患者が次々と見つかっている。木下さんは「島根県内の検診センターで内視鏡検査を行うと、食道に軽度の炎症が起こるタイプは、約500人に1人の割合で見つかるようになった」と語る。
 この病気は血液検査では分からない。内視鏡検査で炎症を確認し、その部分から少量採取した細胞を顕微鏡で見て、好酸球の数を確認する検査を行う。
 食道に炎症がとどまるタイプは胃酸を減らす薬で良くなる場合がある。胃や腸に炎症が起こるタイプも、ステロイドを使うと症状は治まるが、全身に回るステロイドを長期使用すると、糖尿病や骨粗しょう症、うつ状態などを招きやすい。
6種類の食品から原因見つけ出す
 そこで同病院などの研究チームが始めたのが「6種抗原除去食療法」だ。症状を引き起こすと考えられる卵、乳、小麦、大豆、魚介類、ナッツの6種類の中から原因を見つけ出す。
 まず、6種類の食品を全部抜いた食事を4週間から6週間続けて、症状を改善させる。その後、6種類のうち1種類を加えて2、3週間様子を見る。変化がなければさらに1種類加える。症状が出たら内視鏡検査で炎症を確認し、最後に加えた1種類を抜く。症状が落ち着けば別の1種類を加えて再び様子を見る。
 同病院は入院治療で行い、原因を特定できた患者は、除去食メニューを生活に取り入れてステロイドをやめることができた。だが、6種類の食品を試すには半年近い入院が必要になる。
 同病院管理栄養士の平井順子さんは「将来は外来でも行えるように、家で楽に作れる除去食メニューを増やしたい」と話している。

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「卵を早期から摂取すると卵アレルギーにならない」を誤解していませんか?

2017年10月13日 13時24分04秒 | 食物アレルギー
 数ヶ月前に「離乳食で卵を早期から摂取させると卵アレルギーを予防できる」という報告が医師向けに公表され、話題になりました。

■ 「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の発表について

 これは対象を限定した研究発表に基づくものであり、一般論として普及させるべきモノではありませんでした。
 しかし現実には、メディアが大きく報道した影響で「健康な子どもでも早めに卵を食べさせた方がよい」という誤解と伴って普及してしまいました。

 その状況に警鐘を鳴らす意味で、日本小児アレルギー学会から先の提言の説明が新たに公表されるに至りました。

 その内容のポイントを挙げますと、

1.対象は乳児アトピー性皮膚炎に限定され、
2.かつ、治療により湿疹がなくなった状態に限定され、
3.1と2を満たす患者に卵を医師の管理下で生後6ヶ月時点で微量摂取からはじめて増量していくプログラムを行ったら卵アレルギー発症率が低くなった。


 ということです。
 つまり、この研究結果からは、
① 健常児
② 治療により湿疹がよくならない乳児アトピー性皮膚炎患者
 は対象にならない
と云うことです。

 さらに云うと、卵を開始する時期、量によっては卵アレルギー発症を防ぐ効果がないという報告もあるので、健常者が「何となく卵を早く食べ始めるといいらしい」というレベルの話では断じてない、ということです。
 誤解なきよう。

「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の解説:小児科の先生方へ
「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の解説:患者・一般の皆様へ


 脱線しますが、英国の卵摂取事情に関する記事を見かけたので紹介します。
 イギリスでは赤ちゃんに卵を食べさせなかった、しかし理由はアレルギーではなくサルモネラ感染症が恐いから。
 安全宣言が出されたので、解禁になったらしいです。

■ 英国でも生卵が全面解禁 赤ちゃんも妊婦も食べてOK
2017年10月12日:BBC
 英国ではこれまで生卵の安全性について、乳幼児や高齢者、妊婦は食べてはいけないと言われてきた。しかし英食品基準庁は11日、生産方法や衛生状態が改善したため、品質保証の赤い「ブリティッシュ・ライオンマーク」がついた卵は、誰でも生で食べて大丈夫だと基準を変更した。
 英国では1988年12月、当時のエドウィナ・カリー保健相が「英国の卵はすべてサルモネラ菌に感染している」と発言し、卵の消費量が激減する騒ぎがあった。英国では前年、卵によるサルモネラ菌感染が20件以上起きていた。
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米国小児科学会から食物アレルギー診療医へのコメント

2017年08月04日 18時00分34秒 | 食物アレルギー
 米国小児科学会(AAP)が食物アレルギーに関して小児科医が果たすべき役割を発表したという記事を紹介します。

 ざっと目を通してみると、あまり目新しい内容はありませんでした。
 「血液検査や皮膚テストだけでは食物アレルゲンを確定できない」「食物経口負荷試験(OFC)がゴールデンスタンダード」であることを強調しています。

■ 食物アレルギー患者の安全を確保するには 〜AAPが小児科医が果たすべき役割を発表
2017年08月03日:メディカル・トリビューン
 米・Icahn School of Medicine at Mount Sinai教授で米国小児科学会(AAP)のScott H. Sicherer氏らは米国科学工学医学アカデミー(NASEM)が2016年に発表した食物アレルギーに関するコンセンサスレポート"Finding a Path to Safety in Food Allergy: Assessment of the Global Burden, Causes, Prevention, Management, and Public Policy"(以下、NASEMレポート)の中から小児科医およびAAPが果たすべき役割を要約してPediatrics(2017; 140: e20170194)で発表した。「医療提供者は食物アレルギーの高リスク群や重度患者(喘息併発症例など)に対するカウンセリングを積極的に行い、アナフィラキシーへの救急時対応ではエピネフリンの筋肉内注射を第一選択とすべき」と強調した。

<関連記事>
・「エピペン自主回収の対象を追加
・「花粉−食物アレルギー症候群の診療ポイント
・「ピーナツアレルギー予防に指針、NIH

◇ 単一の検査結果では診断が確定できず
 米国では食物アレルギーの有病率が正確に把握されておらず、報告ごとに数字は大きく異なっている。その要因の1つとして、食物アレルギーはしばしば自己報告(または親による報告)に基づいて評価され、有病率が過大評価されていることが挙げられる。加えて、食物アレルギーに対する基本的な理解が一般に十分に浸透しておらず、乳糖不耐症をはじめ代謝要因や薬理学的要因、毒性反応などがアレルギーと混同されているのが現状である。そのため、食物アレルギーは免疫反応であり、その大半がアナフィラキシーの原因ともなる免疫グロブリン(Ig)E介在型の反応であることを周知させる必要がある。全国健康栄養調査( NHANES)などに食物経口負荷試験(OFC)の結果を加えて、より正確な有病率を把握することを推奨している。
 また食物アレルギーの診断は、単一の検査法では診断が確定できないことを十分に理解しておく必要がある。特異的IgE検査あるいは皮膚プリックテスト(SPT)で陽性所見が得られても、それだけでは特異的IgE抗体の存在を示しているにすぎず、食物アレルギーであることの証明とはならない。小児44例を対象に特異的IgE検査で陽性所見が得られた食品を用いてOFCを行ったところ、93%は食物アレルギーではなかったとの報告もある。
 プライマリケア医407人を対象とした調査では、38%が確定診断は特異的IgE検査またはSPTで十分と回答しており、このような誤解を解消することも急務である。
 一方で、十分な検査が行われずに、真のアレルゲンを見逃してしまう恐れもある。そのため、既往症(アトピー性皮膚炎など)やIgE非介在型の食物アレルギーなどにも配慮しつつ、適正かつ必要な検査を正しく施行することが重要である。

◇ エピネフリン筋注が第一選択
 NASEMレポートでは、食物アレルギーの予防に関する多くの研究を紹介している。例えば、ピーナッツアレルギーのリスクが高い生後4カ月以降の乳児にピーナッツ蛋白を投与することで、同アレルギーを予防できるとする研究などを紹介し、他の食品についても研究の余地があるとしている。
 食物アレルギーの管理については、まず、アナフィラキシーを生じた場合の救急時対応としてエピネフリンの筋肉内注射を速やかに実施するよう呼びかけている。同レポートによると、エピネフリンは安全性が高いにもかかわらず使用されないケースも多く、特にティーンエージャーや喘息併発症例などの高リスク群に対して、エピネフリン自己注射器の使用法を周知させる必要があるとしている。
 加えて、現在、米国では乳幼児に最適化された用量のエピネフリン自己注射器が上市されていないことから、その対応を急ぐ必要があると言及している。
 日々の管理では、家庭・学校・旅行先などさまざまな場面でアレルゲンをどのように回避すべきかを小児科医が家族に教育することが求められる。例えば、家庭では調理の際にアレルゲンとそれ以外の食品を一緒に扱わない、食品購入時には食品包装のアレルギー表示をきちんとチェックするなどの遵守が必要。加えて、アレルゲンを回避するだけでなく、食物アレルギーが学校でのいじめの原因となる恐れがあることから、心理社会的観点からの管理も求められるとしている。
 アレルギーを原因とするいじめをなくすには、食物アレルギーに関する教育や公衆衛生当局による啓発キャンペーンの実施などが必要であり、安全な食品の提供という観点からは食品メーカーや米食品医薬品局(FDA)による現状改善の努力も欠かせない。食物アレルギー患者の安全を確保するには、利害関係者を中心に社会全体が真剣に取り組む必要があるとしている。

(Finding a Path to Safety in Food Allergy: Assessment of the Global Burden, Causes, Prevention, Management, and Public Policy)
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「おいしく治す食物アレルギー攻略法」(伊藤浩明監修)

2017年07月04日 06時53分27秒 | 食物アレルギー
おいしく治す食物アレルギー攻略法
監修:伊藤浩明
作成:あいち小児保健医療総合センターアレルギー科
発行:認定NPO法人アレルギー支援ネットワーク

<内容紹介>
本書は、伊藤浩明先生監修の下、あいち小児保健医療総合センター アレルギー科で実際に使用している資料をまとめた資料編と解説編に分かれています。
「資料編」は、保護者へ指導する際にコピーして使用できるパネルがまとめられ、「解説編」は、資料編のそれぞれの内容について、指導者が理解しておきたい内容が記述されています。「資料編」と「解説編」相互に、対応するページが示され、指導がスムーズにできるよう構成されています。
食物アレルギーの食事指導を行う管理栄養士の皆さまにご利用いただきたい一冊です。

この「攻略本」は、原則として各医療機関の医師の診断と指示の下に管理栄養士が食事指導を行うことを想定して作られています。食物アレルギーの基礎的な内容を網羅した解説ではありませんので、一般的な知識は成書や研修会などで学習した上でご利用ください。また、一般の方は必ず主治医の指導の下ご利用ください。




当院はアレルギー科を標榜しているので、よく食物アレルギー患者さんが相談に受診されます。
そこで避けられないのが除去解除の際の経口負荷試験とそれに伴う栄養指導です。

しかし、アナフィラキシーの既往のある重症患者さんを抱えるのは危険だし無責任とも考えられます。
アレルギー関連学会で議論になるのは決まって重症患者さんで、軽症患者さんに対するガイドラインもマニュアルも従来は存在しません。

そんな中、私は「開業医でどこまでできるか?」をずっと探り続けてきました。
近年になり、ようやく軽症者への対応も扱われるようになった感があります。

この本は、先日聴講した伊藤浩明先生のお話の中でも紹介され、私が探してきた「軽症者の診療」を扱った内容です。

・『攻略法』は、従来から「少しずつ食べてみる」指導をしてきたすべての軽症者が対象です。
・私たちは『攻略法』による食事指導と経口免疫療法の本質的な違いは、対象となる患者さんの違いと考えています。


ただ、やはりハードルがありました。
医師の他に「栄養士」ありき、なのです。
しかし現状は、総合病院でなければ栄養士はいません。

・『攻略法』は医師と栄養士がチームを組んで食事指導を行うことを想定しています。

当院の事情として、地域の基幹病院の小児科が閉鎖したことが大きく影を落としています。
いざというときの受け入れ先がないのです。
入院施設のある近隣の総合病院へ救急車で搬送しても30分以上かかってしまいます。

すると、はじめから十分な救急体制の取れる総合病院に患者さんを誘導した方がよい、とも考えられます。
やはり開業医では十分な診療は無理なのでしょうか・・・。

ちなみに、経口負荷試験を保険診療で行うには、以下の施設基準を満たし申請して許可される必要があります;

1.小児科を標榜している保険医療機関。
2.小児食物アレルギーの診断および治療の経験を10年以上有する小児科を担当する常勤の医師が1名以上配置されている。
3.急変時などの緊急事態に対応するための体制その他当該検査を行うための体制が整備されている。

当院に当てはめると、1と2は満たしますが3は不十分と言わざるを得ません。アナフィラキシー・ショックを起こした場合は医師も複数を集めて人海戦術で診療にあたるのがふつうですが、私1人しかいませんので。
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(医学雑誌拾い読み)「小麦アレルゲン」

2017年07月03日 13時22分49秒 | 食物アレルギー
日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会誌 13-1、37-41、2015
松尾裕彰(広島大学医歯薬保健学)

■ 小麦アレルギーの病型は多彩で、病型ごとに主要アレルゲンが異なる
1.即時型小麦アレルギー:経口摂取
2.パン職人喘息:吸入
3.小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA):経口摂取、経消化管感作
★ 加水分解小麦タンパク質が原因のWDEIA:経口摂取、経皮感作、眼瞼浮腫が特徴
4.小麦接触じんま疹:接触

■ 小麦アレルギーの有病率は、成人1000人あたり2.1人

■ 小麦タンパク質の分類
小麦タンパク質
→ (15%)塩可溶性タンパク質:アルブミン/グロブリン
→ (85%)塩不溶性タンパク質 → (60%)グリアジン(α/β、γ、ω1,2、ω5)
                → (25%)グルテニン(高分子量HMW、低分子量LMW) 
小麦粉に水を加えて捏ねるとグリアジンとグルテニンが重合しグルテンが形成される

■ 小麦アレルギー病型別主要アレルゲン
1.即時型小麦アレルギー:塩可溶性および塩不溶性タンパク質
2.パン職人喘息:塩可溶性小麦アレルゲンのα-アミラーゼインヒビター、アグルチニン、ペルオキシダーゼ、脂質輸送タンパク質(LTP)
3.WDEIA:ω5-グリアジン、γ-グリアジン、高分子量グルテニン

吸入や経皮的にアレルゲンが侵入すると、水様性のタンパク質に感作されやすく、経口では水様性・不溶性両方のタンパク質に感作されると推測される。
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(医学雑誌拾い読み)「魚類アレルゲンの性状と低アレルゲン化」

2017年07月02日 13時46分34秒 | 食物アレルギー
日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会誌 13-1,2015
板垣康治(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科)

■ 赤身魚と白身魚の違い
魚肉中に含まれる色素であるミオグロビンの含有量により赤身魚と白身魚に大別される。ちなみにサケ肉の色素はエサの甲殻類に含まれるアスタキサンチンに由来するものであり、実際にサケをアスタキサンチンを含まない配合飼料で完全養殖すると魚肉は白くなるので、サケは白身魚に分類される。

■ 魚類の主要アレルゲンはパルブアルブミンという水様性タンパク質である。
パルブアルブミンは耐熱性が高く、基本的に生の魚でも加熱調理したものでもアレルゲン性は変わらない。
魚種ごとにパルブアルブミンを指標としてアレルゲン性を調べると、軟骨魚類に属するヨシキリザメ、マスカベ(ヱイの一種)は極めてアレルゲン性が低いことが明らかになった。

■ パルブアルブミンの低アレルゲン化
伝統的な水産発酵食品である「へしこ」や「しょっつる」などは、微生物が産生するタンパク質分解酵素の作用により魚肉中のタンパク質が低分子化され、このときパルブアルブミンも同時に分解されてアレルゲン性が低下する。
缶詰やレトルト食品などのように魚肉を高圧下で高温処理することにより、通常の加熱では変化しないパルブアルブミンであっても、アレルゲン性が低下する。
★ 「へしこ」・・・糠(ぬか)漬け。サバなどが原料として使用される。福井県の名産品。
★ 「しょっつる」・・・魚醬油。ハタハタなどを減量とする。秋田県の名産品。

■ 「かまぼこ」と「かつお節」は魚アレルギー患者の90%が摂取可能
かまぼこは、魚のすり身を原料として製造される。すり身の製造工程の中で、血液や皮などを除去する目的で「水さらし」という操作が行われる。水さらしによって、水様性タンパク質であるパルブアルブミンも、その大部分が溶出する(実験では5回水さらしをするとほとんど検出されなくなった)。

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