HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関する賛否の議論が続いています。
一体どれが真実なのでしょう。
すべて?
日本における問題点は、その始め方が拙速だったという点。
何の準備もなく、その必要性を問う議論・世論がない状態で、有名女優の涙で政治が動かされた印象が私には拭えません。
本来はイギリスのように、接種を受ける子どもたちにHPV感染症と子宮頸がんについて啓蒙し、それを避ける方法としてワクチンがあることを教えるべきでした。
子どもたちが自分の問題として理解し、自分の意志で接種する「英スコットランドの接種率は9割」です。
日本では当事者そっちのけで「将来役に立つから」となだめすかしてワクチン接種を始めてしまいました。
多感な思春期女子が「よくわからないけど注射される」「ありがた迷惑」「痛いことはイヤ」と反応してもおかしくありません。
その辺が、問題の根源ような気がするのは私だけでしょうか。
※ 下線は私が引きました。
■ 子宮頸がん 接種めぐる議論なお
(2018年02月15日:朝日新聞デジタル)
子宮頸(けい)がんの原因ウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の接種について、厚生労働省が積極的な勧奨を中止してから、6月で5年になる。接種の有効性を示す報告がある一方で、接種後に長引く痛みなど様々な症状を訴える例が相次いだ。どちらを重くみるべきか、意見は今も分かれている。
◇ ウイルス感染減少 示す研究報告
日本産科婦人科学会(日産婦)が主催した公開講座が3日、東京都内で開かれた。産婦人科医や公衆衛生の研究者らが、HPVワクチンの有効性に関して相次いで発表した。
公開講座では、英スコットランドの接種率が9割に及び、20代女性ではHPVへの感染率は4・5%と、接種していない集団の感染率30%に比べて大幅に低下した、との研究が示された。接種率が高くなると、集団で感染の広がりを抑える効果もある、と指摘された。国内の複数の研究でも、やはり感染などを減らせていると報告された。
子宮頸がんは性交渉によってHPVに感染することで起きる。国内で年間約1万人がかかり、約2700人が死亡する。30代後半~40代で多く発症するが、最近は若い女性で増える傾向にある。検診で早期発見できれば切除できるが、その後の妊娠で早産のリスクが上がるとの指摘もある。
子宮頸がん患者の9割からHPVが検出されることから、ワクチンは感染を防いで患者を減らすねらいがある。国内で使われている二つのワクチンは、100種類以上あるHPVのうち、がんの原因の5~7割を占める二つのタイプ(16型、18型)のウイルス感染を防ぐ。
一方で、ウイルスは感染しても、多くは数年以内に自然に検出されなくなる。持続的に感染し、がんになる前段階の状態(前がん病変)になるのは数%ほどとされる。ワクチン接種が始まって間もないこともあり、がんそのものの発症を減らす効果は、まだ確かではない。だが、豪州などの研究ではワクチン接種で前がん病変を5割減らせた、との報告がある。
日本大の川名敬主任教授(産婦人科学)は「前がん病変を減らせるなら、その先のがん発症も減らせると考えられる。HPVは成人女性のほとんどが感染する。誰でも子宮頸がんのリスクがある」とワクチンの意義を強調する。
昨年12月、フィンランドの研究チームは14~19歳の約2万7千人を7年間追跡した速報結果を、専門誌で公表した。子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチンを接種しなかった集団は10万人あたり1年間で6・4人だったのに対し、接種した集団は0人だった。
日産婦は昨年12月、厚労省に対して改めて勧奨の再開を求めた。世界保健機関(WHO)もワクチン接種を推奨し、WHOの諮問委員会は日本の現状を「弱い証拠に基づいた政策決定」と批判している。
◇ 多様な副反応「明らかにリスク」
HPVワクチンは2013年4月、小学6年~高校1年の女子を対象に原則無料の定期接種となり、厚労省は接種を勧奨し始めた。だが、接種後に健康被害を訴える人が相次ぎ、2カ月後に定期接種にしたまま、勧奨を中止。希望者は無料で接種できるが、接種する人は激減した。
13年6月の厚労省部会で示された資料によると、HPVワクチンの副反応の頻度(発売後~13年3月末)は他のワクチンよりも高い。接種との因果関係の有無にかかわらず接種後に報告される重篤な副反応の発生数は、二つのHPVワクチンはそれぞれ100万回あたり43・4件と33・2件。これに対し、比較的近い時期に発売されたインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンは22・4件、小児用肺炎球菌ワクチン27・5件だった。
薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀医師は「HPVワクチンは異常に高い抗体価を長期間にわたり維持するように設計されており、このため複雑な自己免疫反応を引き起こしている可能性がある」と話す。痛みのほかにも、月経異常や記憶力、注意力の低下など多様な症状があるとし、「ほかのワクチンとは明らかに異なり、リスクが大きい。原因がはっきりしない以上、被害者の声に真剣に耳を傾け、勧奨の再開はすべきではない」と言う。
一方、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行小児神経診療部長は「いまのところ副反応とワクチンの因果関係は否定も、証明もされていない」と話す。これまで、接種後に症状を訴えた50人近くを診察。筋肉の組織の検査や、様々な治療を試したが、ワクチンとの関連ははっきりしなかったという。
厚労省研究班は16年12月、接種後に報告された副反応の症状は「ワクチン接種歴がない子どもにも一定数存在した」とする疫学調査結果を公表。一方で「接種と症状の因果関係には言及できない」と明確な結論は出せなかった。
佐々木さんは「どのワクチンにも有効性と副反応がある。定期接種のワクチンは『小さいけれどもリスクはある』ということを承知のうえでうけてもらう形になっているが、HPVワクチンは現時点ではそのような共通認識は得られていない」と話す。
◇ 「知見突き詰めても不確実性ある」
厚労省は今年1月、HPVワクチンのリーフレットを改訂した。その中で、HPVワクチンを10万人に接種すれば、595~859人の子宮頸がんの罹患(りかん)、144~209人の死亡の回避が期待できると推計した。一方、副反応の疑いがあったとの昨年8月末までの報告は、10万人あたり92・1人、重篤なケースは52・5人に上ったとした。
厚労省はこの間、接種後に症状を訴えた人に対する診療体制を全国に整備。「治療の受け皿ができた」として、勧奨の再開を求める声もある一方、「HPVワクチンは個人のがん予防の色合いが強く、集団防衛的なワクチンと異なる」などとして「(原則有料で個人の希望でうける)任意接種でいいのではないか」との声も出ている。
森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長は「どんなに科学的知見を突き詰めても、必ず不確実性が存在する。研究者や医療者はそれを丁寧に説明し、政策的な意思決定の際は、国民からより見えやすい場所で議論される必要がある。国会に調査委員会をつくって話し合う選択肢もあっていい」と話す。
先日、NHKで新潟水俣病のドキュメンタリーを視聴しました。
当初、日本政府は患者認定の3条件を提示して、複数の症状がないと認めないという方針を出しました。
この条件が厳しすぎるとの批判を受け、それから数十年後に、一つでも満たせば認めるという方針に変わりました。
この史実を知ると、HPVワクチンの副反応に煮え切らない態度を取る日本政府の考えがよくわかりません。
HPVワクチンの副反応とされている諸症状には、定型的なものが存在しないのです。
これとこれを満たせば可能性が高い、という性質が見いだせない。
副反応を声高に叫ぶ医師は、「HPVワクチン接種後何年経って発症しても副反応である」という基準を設けています。
効果のあるワクチンには、副反応も必ず存在します。
しかし、HPVワクチンで提唱されている副反応のような病態は、私の知る限り存在しません。
朝日新聞には識者4人の意見も掲載されていましたので引用させていただきます。
私は最後の川名氏の意見に強く同意します(以下に抜粋)。
・HPVワクチンによる重篤と判断された有害事象の報告数は「10万人にあたり52人」、一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」。
・「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。うちたくないという人は、うたなくていいと思います。
ポイントは「有効性と副反応の正しいデータを示し、接種するかどうかは国任せではなく各個人で考えて判断すべし」ということ。
予防接種を受ける人達は事が起こってから反論するのではなく、“当事者”として自ら考え、判断する思考回路を持つべきです。
■ 「HPV政策、国民に見える議論を」森臨太郎氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。
◇ 森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長
どんな薬、ワクチンにも効果がある一方で、副作用や副反応もあります。有効性と安全性をめぐって意見が対立するとき、どのように合意形成し、政策を決定していけばいいのでしょうか。世界の臨床試験の結果を再検証し、科学的根拠に基づく医療の普及につなげる「コクラン」の日本代表を務める、森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長に聞きました。
〈もり・りんたろう〉 1970年生まれ。岡山大卒業。日英両国の小児科専門医資格を持つ。大阪府立母子保健総合医療センター、世界保健機関(WHO)、東京大などを経て、2012年から国立成育医療研究センターで現職。14年、コクランジャパンを立ち上げた。著書に「持続可能な医療を創る」(岩波書店)など
◇ 意思決定されない状況、大きな問題
ある薬品について、行政レベルで大きな問題があったとき、「まず止めましょう」というのは正しい判断だったと思います。ただし、その際、止めてどうするのか。止めたまま放っておくのではなく、では、どうやって意思決定をするのか。そのあたりの整理がちょっと弱かった、と感じています。
このワクチンをどう考えたらいいのか。市民の皆さんが判断できるように助言する必要がありますが、それについて、適切な意思決定がくだされない状況が、こんなに長く続いていることは、とても大きな問題だと考えます。科学的根拠に基づく有効性と、安全に対する不確実性。ワクチンにはその両方が存在し、意見も対立している。この場合、多少は玉虫色になるかもしれないけれど、両方の立場からバランスのいいところで政策を決めなければならない。でも、現時点での政府の意思決定はそこから少し逃げているように感じます。「定期接種のままだが、勧奨していない」というのは矛盾しているし、一般市民に方向性を示していないという意味では少し不親切です。
◇ 任意で、接種を勧奨する選択肢
ワクチンの有効性はあるだろう、と思っています。HPV感染を防ぎ、前がん病変(がんになる前の状態)を減らすのだから、その先のがんも減らすだろう。それが科学的根拠に対する素直なとらえ方だろうと思います。
一方、副反応についての評価は、正直わからないと思っています。指摘されている副反応は、起きる可能性がそんなに高いものではないと思いますが、人間の体は分からない部分があるので、科学的にはありうると思っています。
ただし、国全体として集団として考えたときには、がんを減らすメリットのほうが大きいだろうと考えます。そのうえで、社会全体の価値に基づく考え方と、個人の意思決定が異なることはありえるし、あっていいと思います。
個人的には、定期接種を外して任意接種にし、国として勧奨はしたらいいと思います。「個人の意思決定に基づいて予防するもの」と位置づけたうえで、「科学的根拠に基づけば接種のメリットが上回る」とのメッセージを発する、という考え方です。
感染症疫学というのは「集団を守るもの」です。たとえばある人口のなかの80%の人が抵抗力を持つようになれば、集団としてその感染症を防げるケースがあったとします。はしかなどはそうしたワクチンで、定期でやるべきものだと思います。
一方、HPVについては、ワクチンの接種率が上がることで集団として感染の広がりを抑える効果も指摘されていますが、当面はそこまでの接種率をめざすのは難しいと思います。現時点では、HPVワクチンは有効性と安全性に様々な情報があるなかで、個人と医師の話し合いのなかで接種するかしないかを決めていくべきものではないか、と思います。こうしたワクチンは任意、というのが、ワクチンを接種してきた小児科医の1人としての私のイメージです。
集団の意思決定か、個人の意思決定か。もし、HPVワクチンを「個人の意思決定」とするならば、公衆衛生というより、医療に位置づけるという選択肢もありえると思います。そうなると、税金の枠組みではなく、医療保険の枠組みでいく、という選択肢も、予防と治療が融合し、境界線があいまいな現在の医療では、ありえると思います。
◇ 勧奨再開の場合は、登録・追跡調査の仕組みを
有効性は高いとみられる。一方で、安全性によくわからない部分もある。このワクチンにはこの両面の性格があります。
今後、積極的な勧奨を再開する場合は、セーフティーネットをかけつつ、進めていく必要があると思います。ひとつには、かなり厳密に、接種された人を登録し、経過を追っていくような追跡調査の仕組みをつくる。
二つ目は、過失の有無にかかわらず被害者に補償する「無過失補償」の仕組みです。現状をみると、副反応と指摘されている症状が、ワクチンによる過失であるかどうかの証明はほとんど不可能に近いと思います。安全性に関しても、ある程度担保されたうえで進めていく必要があると思います。
◇ 不透明だった導入時の議論
HPVワクチンは2010年、政府が150億円の予算を確保し、導入を決めました。ただ、その意思決定の過程では、科学的な検証が十分にされたとは言いがたいところがありました。製薬企業のロビー活動をバックに政治主導で導入され、あまりに前のめりでした。
科学的根拠は未熟な部分があるけれど、その効果は非常に有望なワクチンや薬があったとき、どのように意思決定するのか。「非常に優れている可能性があるから」と前のめりになってしまったのが、今回の反省点でもあると思います。
そういう意味では、今後、新しいワクチンが登場したとき、あまりに保守的になってもいけないが、どういう政策オプションをつけて政策にできるのか、という知見にはなると思います。
有効性は非常に高いけど、安全面で不確実性もあるならば、モニターをし、研究も同時に走らせながら導入する。無過失補償もつける。こうした政策オプションがあれば、市民の側も、そのワクチンの有効性と安全性を評価する材料、接種するかどうかの判断材料にもなると思います。
◇ 国会に調査委員会を設け、政策決定
どんなに科学的知見を突きつめても、必ず不確実性が存在します。研究者や医療者は「いま、こういう現状の科学的根拠ですよ。それにはこれだけの不確実性が存在するし、一方で、この程度の確実性をもってこれぐらいのことが言えますよ」というのは情報として提供できるはずです。ただ、それだけで政策を決めるのは難しい。広く社会の状況をみたうえで、適切に判断される必要があります。国民一般の不安などが拾い上げられなければ、その意思決定は受け入れられないからです。
こうした意見が大きく対立する案件については、厚労省の部会や委員会ではなく、たとえば国会に特別の調査委員会、第三者委員会をつくって、話し合う選択肢があっていいと思います。
現在は厚労省の部会で議論されているわけですが、国民から見れば、自分たちの意思がそこに反映されるとは感じないのが現状だと思います。一般の人が部会を聴きに行くかといったら、行かないと思う。もっと国民の目から見える場所で議論してもいいのではないでしょうか。各地でタウンミーティングをしてもいいと思います。
国会の権限で有効性や安全性を調査したり、海外の状況について情報収集したりし、「こういう経緯で決まったんだな」とわかるような、透明性の高いところでやることに意味があると考えます。
また、こうした政策決定の枠組みは、もう少しグローバルに、各国政府が連携してもいいと思います。たとえば、有効性と安全性の調査は、グローバルレベルでしてもいい。そうすれば、数も集まります。製薬企業に必要な情報を求める際も、相手は外国に本拠地を置くグローバルな製薬企業なわけですから、日本だけでなく各国で連携したほうがいい。
意思決定するときも、もう少し情報共有する。もちろん、最終的には、各国それぞれに意思決定すればいいと思うのですが、少なくともその手前の(追跡調査や無過失補償などの)政策オプションとか、「この国ではこうしている、あの国ではこうだ」という情報は持ち寄ってもいい。グローバルな連携が、もう少し効果的なものとしてとらえられていいのかなと考えています。
■ 「有害事象の多さ、見過ごせない」別府宏圀氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
◇ 別府宏圀・薬害オンブズパースン会議副代表
HPVワクチンの接種後に、様々な症状に苦しむ人たちがいます。ワクチンの有効性を評価する声がある一方、安全性を懸念する声もあります。長年、医薬品情報誌の国際連絡組織の活動に携わるなど、医師の立場から薬の安全性について問題提起を続ける、神経内科医で薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀さんに、HPVワクチンの問題について聞きました。
〈べっぷ・ひろくに〉 1938年生まれ。神経内科医。東京都立府中病院、都立神経病院などを経て、現在は薬害オンブズパースン会議副代表。ネットを通して患者の体験や気持ちを動画などで伝える、NPO法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」理事長も務める。著書に「医者が薬を疑うとき」(亜紀書房)など
◇ ワクチンの安全性に懸念
このワクチンは2010年11月から、定期接種されるのに先だって、公費負担で接種が始まりました。その後、重篤な有害事象の報告数が急増しました。長く使われてきたワクチンに比べると、新たに導入されるワクチンは有害事象の報告が多くなる傾向がありますが、それを考慮に入れたとしても、今回の報告数は格段に多い。これは見過ごすことはできません。
さらに問題なのは、有害事象として報告されたその症状が多様で長期間にわたり、重層的にあらわれていることです。このワクチンの副反応として、まず注目されたのは全身の痛みや、失神でした。その後、不調を訴える少女たちの症状を詳しく診ていくと、運動障害(脱力、まひ、不随意運動、けいれんなど)、呼吸機能障害、消化器障害、月経異常などの内分泌障害、自律神経障害、睡眠障害、光過敏・音過敏、高次脳機能障害(記憶障害、判断力低下、集中力低下)など様々な症状があらわれることがわかりました。
これらの特徴は、これまでのほかのワクチンとは明らかに異なります。ワクチンとの因果関係を疑問視する声もありますが、海外でHPVワクチン接種後の被害を訴えている少女たちの症状とも共通している点を考えれば、安易に「心因性」と片付けるべきではないでしょう。
◇ 新タイプのワクチン、不十分な検証
HPVは女性なら誰でも生涯に一度は以上は感染するような、ごくありふれたウイルスです。皮膚や粘膜のわずかな傷から侵入し、扁平上皮基底部(子宮頸部の粘膜の一番深い部分)の細胞に感染しますが、通常は70%が1年以内に、90%が2年以内に消失します。しかし、がんを誘発しやすいタイプのウイルスに持続感染すると、その一部が、がんの前段階の状態(前がん病変)、さらには浸潤がんに発展します。
ウイルスは通常、子宮頸部の粘膜にとどまり、自然に感染しただけでは、体内に十分な免疫はできません。これに対抗するために、HPVワクチンは、高い抗体価を長期間にわたって持続させるように設計されています。ワクチン接種後、通常の自然感染では達することのない、非常に高い抗体価を実現させるのです。
このように、従来とは異なった設計思想でつくられた、新しいタイプのワクチンを導入するのであれば、その安全性についても、より入念な検証が必要であったはずです。
また、このワクチンは、ウイルス遺伝子(DNA)を持たない「ウイルス様粒子」(VLP)を抗原(目印となるたんぱく質)とし、抗体ができるようにつくられています。ウイルス遺伝子を含まないからと、安全性を過信したことも問題でした。実際には、VLPの外側にある「殻」のほうに、人の細胞と共通し、生理機能にも深くかかわる成分(ペプチド)が含まれています。これが免疫学的に様々な交差反応を引き起こす可能性は十分にあり、それだけ多様な副反応が生じる恐れがあります。
◇ もっと患者の声に耳を傾けるべきだ
それなのに、厚生労働省の部会は2014年、こうした症状を「心身の反応」とする意見をまとめました。この結論に科学的根拠があるとは思えません。実際に、私は症状を訴える少女たちの話も聞きましたが、みんな接種前は元気で健康な、明るい子たちばかりでした。
いまの医学は科学的根拠を重視し、科学的に説明できないという理由ですぐに患者を切り捨てる傾向があると危惧しています。「何かが起きているのではないか」と様々な可能性を考え、もっと患者ひとりひとりの声に謙虚に耳を傾けるべきだと思います。
私は薬害スモン裁判にもかかわり、医薬品の情報収集を30年間続けてきました。こうした活動を通し、私は製薬企業の情報がいかに偏っているか、を痛感してきました。有効性は強調されても、安全性は軽んじられる傾向があります。
もちろん、私は医師なので、薬がないと困るし、薬の力もわかっています。しかし、常に視線はエンドユーザーである患者に向けられなければいけません。ワクチンの接種後に、説明のつかない症状が起きている人がこんなにたくさんいる事実は非常に重い。そして、その症状は誰に起きるかわからない。ワクチンは健康な人に接種するものであり、それによって得られる利益と危険性を見比べながら、慎重に判断される必要があります。
◇ がんの予防効果、不確実
接種をすすめたい人たちは、子宮頸(けい)がんの重大性を強調します。でも、子宮頸がんの原因となるウイルス(HPV)は、感染してもほとんどは自然に排除され、子宮頸がんを発症するのは発がん性のあるHPV感染者の0.15%程度と考えられています。万一がんを発症しても、定期的な検診を受けていれば適切な治療を受けることで、多くの人は救命可能です。そもそも、がんを予防する効果も証明されていません。
こうしたことを考えれば、安全性が不確実なHPVワクチンを定期接種にするよりも、その費用と労力をがん検診に向けるほうがはるかに大きな意味があるのではないでしょうか。検診受診率は諸外国に比べて低いと指摘されていますが、検診する医療者を女性にするなどして、検診を受ける女性の心理的なストレスを減らすなど、できることはまだあるはずです。
そもそも、HPVワクチンは、がんを予防する「個人防衛」の性格をもったワクチンであり、接種するかどうかは個人が決めるべきであり、任意接種に分類されるべきだと考えます。
HPVの勧奨再開に反対すると、すぐに「反ワクチン」と非難する声があがりますが、非常に一面的な考え方だと思います。私はすべてのワクチンに反対しているわけでなく、はしかなど、公衆衛生の観点から定期接種にすべきワクチンはあると考えています。
ただ、最近は、ワクチンの種類が急激に増えました。なかには、製薬企業のロビー活動を背景に、有効性と安全性が十分に議論されないまま拙速に導入されたものが含まれている。HPVワクチンはその最たるものだと思います。私はもう一度、すべてのワクチンについて、定期接種にすべきものと、任意接種にすべきものについて再考すべきではないかと思います。そしてその議論の過程には、市民が参加できる仕組みをつくるべきだと思います。
科学は本来、患者や公衆の衛生を守るためにあったはずですが、最近は製薬産業の利益を守るために使われ、薬と有害事象の因果関係を否定するために使われている、と感じます。医師と製薬企業の利益相反の問題も深刻です。医師はもっと謙虚で誠実であるべきです。HPVワクチンの問題でいえば、接種後に症状を訴える患者の診察もきちんとしないまま、心因反応と簡単に退けることは、非常に無責任なことだと思います。
■ 「因果関係、否定も証明もされず」佐々木征行氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。
◇ 佐々木征行・国立精神・神経医療研究センター病院小児神経診療部長
HPVワクチンをめぐっては、持続する痛みや、手足の動かしにくさ、記憶力や注意力の低下など、接種後に多様な症状が報告されたことが、一つの特徴です。ワクチンとの関連をどう考えたらいいのでしょうか。接種後に症状を訴える患者を診療した経験をもつ、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行・小児神経診療部長に聞きました。
〈ささき・まさゆき〉 1957年生まれ。日本小児神経学会専門医。新潟大卒業。新潟大学病院小児科などで研修後、2002年から現職
◇ 副反応との関連、証明も否定もされていない
これまで50人近く、HPVワクチンの接種後に症状を訴える患者さんを診察しました。接種後、激しい痛みが起き、腕が上にあがらないほどになる人や、頭痛や倦怠(けんたい)感などを伴う人もいました。痛みが注射した部位だけでなく全身に広がるケースや、震え、記憶力や集中力が低下するケースもありました。こうした多様な症状が、様々な組み合わせで、長い期間継続している人もいて、症状の経過の長さ、症状が移り変わることも、従来のワクチンではあまり見られなかったものだと思います。
私たちは数人の患者さんに入院していただき、頭部MRIや筋肉の検査(MRIや筋生検)をしました。筋肉注射をした部位や体内に過剰な免疫反応が現れていないかを確認するためです。また、鎮痛剤による治療のほかに、過剰な免疫反応が起きている可能性を想定し、それを抑えるために、免疫グロブリンを静脈注射する「免疫グロブリン静注療法」、あるいは、大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」も試しました。
しかし、筋生検などの検査では特別な異常を見いだせず、薬物療法でもはっきりした効果はありませんでした。ほかの病院から特別な検査所見が確認されたとか、目覚ましい治療があったとかの話も聞いていません。
ワクチンを接種されたときに感じた強い痛みが、その後の体調不良を引き起こしている可能性はあると思います。全身に痛みが広がる「線維筋痛症」や、頭痛や疲労感が前面に出る「慢性疲労症候群」などと病態が似ているケースもあります。二つとも原因不明の病気ですが、何らかのウイルスに感染した後に発症が多いことも知られていて、共通するメカニズムが発症に関わっている可能性も否定はできません。
しかし、いまのところ、こうした多様な症状を説明できる客観的な検査上の所見は乏しいのが実態だと思います。ワクチンの接種で強い免疫反応が起き、こうした症状につながっているのではないか、という説もありますが、いまのところ、免疫学的な異常を示す明確な証拠はないと思います。
こうした実情を踏まえると、報告されている副反応とワクチンとの因果関係については、いまの時点では「証明されてもいないし、否定されてもいない」としか言いようがありません。
◇ 認知行動療法でよくなる場合も
ただ、こうした症状を訴えて受診してくる人は、このワクチンが導入される前からいました。また、ワクチンの積極的勧奨が差し控えられ、ほとんど接種されなくなった後でも、います。やはり明確な原因がわからないケースがほとんどです。
こうした患者さんに対しては、じっくりと話を聴いたうえで、原因を追及することをいったん脇に置き、「改善するためにはどうしたらいいか」を一緒に話し合います。原因がはっきりしないので、薬を使ってもなかなか治りづらい。最近は、考え方のくせや偏りに着目し、医師らとの面談を通して改善をめざす「認知行動療法」につなげることが多いです。この治療を通じ、改善していくケースは珍しくありません。
結局、ワクチンが原因でもそうでなくても、こうした症状に苦しむ患者さんは常に存在する。原因にこだわるよりも、本人や家族を支えるような治療が何よりも大切だと、私は思います。
◇ 希望する人が接種、「任意」でも
このワクチンは、子宮頸がんの原因となる特定のウイルスへの感染を防ぐとされています。がんになる前の状態(前がん病変)が減ったという報告が複数あるということなので、有効性はきっとあるのだろう、と考えています。理論的には、その先にあるがんの発症も減ると期待されると考えます。一方、接種後に報告されている多様な症状との因果関係は、証明もされていないけど、否定もされていない。
この場合、ワクチンを接種すべきかどうかは、なかなか言いづらいと思います。接種したほうがいい、とも、しないほうがいい、とも私自身は言えません。
どのワクチンにも有効性とともに、副反応はあります。それでも、いま定期接種されているほかのワクチンは、非常に高い効果が期待できる一方、「小さいけれどもリスクはある」ということを承知のうえで、受けてもらっている形になっています。これに対し、HPVワクチンはいまの時点では、それが承知された状況にはなっているとは言えません。
そういう意味では、基本的に希望する人が接種するワクチン、つまり、「任意接種」の扱いでもいいのでは、とも思います。とはいえ、任意接種になれば、原則無料の定期接種と異なり、自己負担になってしまう、という問題も残るのが難しいところです。
◇ 誰にでも起きうる 治療体制の整備を
HPVワクチンの接種後の症状で苦しんでいる人がいる以上、きちんと向きあっていくべきだと思います。米国や英国では、こうした訴えをする患者さんに対する治療体制など、医療的な配慮が行き届いていると言われています。日本でも、これまで以上に、こうした患者さんにどんな医療が提供できるのか、を考えていかないといけないでしょう。個々の医師の活動だけでは治療は難しく、専門的な治療チームで、体制の充実を図っていく必要があります。
接種後に症状を訴え、私のところを受診した患者さんは、ワクチンの接種前は学校をほとんど休むこともなく、部活動にも積極的に参加し、元気な子が多かったと聞いています。頻度が非常に低いとはいえ、誰にでも起きうるものだと思います。
治療体制の充実に加え、今後、新たに同様の症状に苦しむ人をなるべく出ないようにするためには、ワクチンを受けない選択が尊重されることも必要だと思います。接種後の痛みが軽減されるようなワクチンの改良にも期待しています。また、子宮頸がんの予防には、検診も重要です。若い女性の検診受診率を上げるためには、検診をする側の医療者を、可能ならば女性にする。それだけでも、少しは変わるのではないかと思います。
■ 「予防はワクチンと検診の両輪で」川名敬氏に聞く
(2018年02月15日: 朝日新聞)
◇ 川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)
日本産科婦人科学会は、HPVワクチンの有効性を高く評価し、厚生労働省に対して積極的勧奨を再開するよう求めています。子宮頸(けい)がんの患者を日常的に診察する立場から、この問題をどうとらえているのか。ウイルス学にも詳しい、川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)に聞きました。
〈かわな・けい〉 1967年生まれ。東北大卒業。産婦人科専門医、性感染症認定医。米ハーバード大産婦人科リサーチフェロー、東京大産婦人科学講座准教授などを経て、2016年9月より現職
◇ 立ち止まる。大事なステップだった
このワクチンの安全性に問題があるかもしれない、との指摘が2013年に出てきたとき、それに対して国としていったん立ち止まって検証するという作業は、結果的に必要だったと考えています。その作業がなされなければ、国民は納得しないでしょう。
ワクチンは2007年に初めて人に接種され、日本ではそこから2年ほどで承認されました。従来のワクチンに比べ、非常に早かった。つまり、長く広く使われるという歴史を経たワクチンではありませんでした。ですから「安全性をもう一度チェックしよう」となったことは、大事なステップだったと思います。
問題は、そのまま積極的勧奨が止まり続けていることです。厚生労働省研究班で調査もし、接種後に問題とされた症状が、接種しない人にも起きる、という結果も出ました。もうさすがに、ワクチンの必要性を認めてほしいというのが、産婦人科医としての率直な意見です。
◇ 安全性評価には、データが不完全
接種後に起きている有害事象の報告は、確かにほかのワクチンよりも多いです。ただ、そのなかには因果関係のはっきりしない、「紛れ込み」も含まれています。また、その記録をみると、接種日が「不明」とされているものが数多く含まれています。正確に安全性を評価するには、あまりにも不完全なデータです。可能なら、厚労省はこの「不明」を調べて、明らかにしてほしい。そのうえで、議論されるべきだと思います。
接種後の長引く痛みなど、厚労省が「機能性身体症状」(何らかの身体症状があり、その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず、原因が特定できない状態)と呼んでいる症状は、HPVワクチンに限らず、ワクチンには一般的に起きるものと、考えられています。そして、それは思春期には顕在化しやすい。
「ワクチンを接種して何も起きないか?」と尋ねられれば、ほかのどのワクチンも同様ですが、「絶対に安全」と断言することはできません。しかし、「副反応の疑い」として報告された人たちのその後を追跡調査した結果では、9割の人は回復したことが判明しています。でも、その事実はきちんと伝わっていないのではないかと思います。この5年近くで、接種後の症状の診療にかかわる医療機関も全国に設置されました。
◇ 積み重ねられているワクチンの有効性
一方、ワクチンの有効性は国際的にも科学的根拠(エビデンス)が積み重ねられています。
HPVは100種類以上あり、性交渉を通じて感染します。このうち、子宮頸がんも含む複数のがんの原因となる「ハイリスクHPV」と呼ばれるものは13種類。HPVワクチンは、このなかの「16型」「18型」の2種類の感染を予防するものです。海外の研究では、ワクチンによってこの2種類の感染を約9割防ぐことが明らかになっています。
「ワクチンが、がんそのものを防ぐ効果は確認されていない」と指摘されます。しかし、オーストラリアなどの研究では、ワクチン接種した人では、していない人に比べ、がんの前段階の状態(前がん病変)を5割減らす効果が確認されています。まだ導入されて間もないワクチンでもあり、がんそのものへの予防効果は、もう少し時間をかけてみないとわかりませんが、そもそもがんに進行するようならば治療されてしまうため、がんの予防効果を立証することは難しいのが実情です。でも、前がん病変を減らすのですから、その先のがんになることもない、と考えられます。そして、ごく最近、海外の専門誌「International Journal of Cancer」に掲載された速報として、フィンランドからがんそのものが減少した、との報告も出ました。14~19歳の女性(計約2万7千人)を7年間追跡した結果、子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチン非接種群は10万人あたり年間6・4人であったのに対し、ワクチン接種群では同0人でした。
成人女性の大部分がHPVに感染します。女性の誰もが子宮頸がんになるリスクがありますが、ワクチンでこのリスクを減らせるのです。
◇ ワクチンと検診、子宮頸がん予防の両輪
「がん検診を受け、進行するようならば手術すれば治る。だからワクチンは必要ない」という人もいますが、私はそうは思いません。検診はもちろん重要です。でも、手術は子宮にメスを入れることを意味します。しかも発症年齢のピークは30代です。ちょうど、妊娠・出産の時期にあたります。子宮の一部がなくなり、その結果、早産のリスクが2・6倍高まることがわかっています。
子宮頸がん予防は、ワクチンと検診の両輪が必要で、どちらか一方でいい、ということはないのです。
1月に、東京都内の女子高の3年生(約200人)に対し、子宮頸がんについて授業をしました。厚労省の資料によれば、「10万人にあたり52人」が重篤と判断された有害事象の報告数です。これをこの高校にあてはめると、「2千人に1人ほど」。1学年200人なので、10学年に1人ぐらいにしか健康被害は出ません。
一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」とされています。1学年200人の女子がいれば、うち3人ぐらいが生涯のうちに子宮頸がんになる計算です。「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。私はそう問いかけました。最終的にはそれぞれの判断ですが、おのずと答えは出るのではないかと、思います。
もちろん、怖いし、うちたくないという人は、うたなくていいと思います。定期接種は接種する「努力義務」はありますが、強制ではありません。
今後、積極的勧奨を再開すると判断することがあれば、厚労省に対して注文があります。この間、接種を見送り、定期接種の対象を過ぎてしまった人への接種は、無料でできるようにサポートする必要があります。このワクチンは3回接種で5万円ほどかかります。それが出せない家庭はいくらでもある。希望したのにお金がなかったからうてなかった、ということはないようにしてほしい。ぜひ、国の責任で不平等が生じないようにしてほしいと考えています。
一体どれが真実なのでしょう。
すべて?
日本における問題点は、その始め方が拙速だったという点。
何の準備もなく、その必要性を問う議論・世論がない状態で、有名女優の涙で政治が動かされた印象が私には拭えません。
本来はイギリスのように、接種を受ける子どもたちにHPV感染症と子宮頸がんについて啓蒙し、それを避ける方法としてワクチンがあることを教えるべきでした。
子どもたちが自分の問題として理解し、自分の意志で接種する「英スコットランドの接種率は9割」です。
日本では当事者そっちのけで「将来役に立つから」となだめすかしてワクチン接種を始めてしまいました。
多感な思春期女子が「よくわからないけど注射される」「ありがた迷惑」「痛いことはイヤ」と反応してもおかしくありません。
その辺が、問題の根源ような気がするのは私だけでしょうか。
※ 下線は私が引きました。
■ 子宮頸がん 接種めぐる議論なお
(2018年02月15日:朝日新聞デジタル)
子宮頸(けい)がんの原因ウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の接種について、厚生労働省が積極的な勧奨を中止してから、6月で5年になる。接種の有効性を示す報告がある一方で、接種後に長引く痛みなど様々な症状を訴える例が相次いだ。どちらを重くみるべきか、意見は今も分かれている。
◇ ウイルス感染減少 示す研究報告
日本産科婦人科学会(日産婦)が主催した公開講座が3日、東京都内で開かれた。産婦人科医や公衆衛生の研究者らが、HPVワクチンの有効性に関して相次いで発表した。
公開講座では、英スコットランドの接種率が9割に及び、20代女性ではHPVへの感染率は4・5%と、接種していない集団の感染率30%に比べて大幅に低下した、との研究が示された。接種率が高くなると、集団で感染の広がりを抑える効果もある、と指摘された。国内の複数の研究でも、やはり感染などを減らせていると報告された。
子宮頸がんは性交渉によってHPVに感染することで起きる。国内で年間約1万人がかかり、約2700人が死亡する。30代後半~40代で多く発症するが、最近は若い女性で増える傾向にある。検診で早期発見できれば切除できるが、その後の妊娠で早産のリスクが上がるとの指摘もある。
子宮頸がん患者の9割からHPVが検出されることから、ワクチンは感染を防いで患者を減らすねらいがある。国内で使われている二つのワクチンは、100種類以上あるHPVのうち、がんの原因の5~7割を占める二つのタイプ(16型、18型)のウイルス感染を防ぐ。
一方で、ウイルスは感染しても、多くは数年以内に自然に検出されなくなる。持続的に感染し、がんになる前段階の状態(前がん病変)になるのは数%ほどとされる。ワクチン接種が始まって間もないこともあり、がんそのものの発症を減らす効果は、まだ確かではない。だが、豪州などの研究ではワクチン接種で前がん病変を5割減らせた、との報告がある。
日本大の川名敬主任教授(産婦人科学)は「前がん病変を減らせるなら、その先のがん発症も減らせると考えられる。HPVは成人女性のほとんどが感染する。誰でも子宮頸がんのリスクがある」とワクチンの意義を強調する。
昨年12月、フィンランドの研究チームは14~19歳の約2万7千人を7年間追跡した速報結果を、専門誌で公表した。子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチンを接種しなかった集団は10万人あたり1年間で6・4人だったのに対し、接種した集団は0人だった。
日産婦は昨年12月、厚労省に対して改めて勧奨の再開を求めた。世界保健機関(WHO)もワクチン接種を推奨し、WHOの諮問委員会は日本の現状を「弱い証拠に基づいた政策決定」と批判している。
◇ 多様な副反応「明らかにリスク」
HPVワクチンは2013年4月、小学6年~高校1年の女子を対象に原則無料の定期接種となり、厚労省は接種を勧奨し始めた。だが、接種後に健康被害を訴える人が相次ぎ、2カ月後に定期接種にしたまま、勧奨を中止。希望者は無料で接種できるが、接種する人は激減した。
13年6月の厚労省部会で示された資料によると、HPVワクチンの副反応の頻度(発売後~13年3月末)は他のワクチンよりも高い。接種との因果関係の有無にかかわらず接種後に報告される重篤な副反応の発生数は、二つのHPVワクチンはそれぞれ100万回あたり43・4件と33・2件。これに対し、比較的近い時期に発売されたインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンは22・4件、小児用肺炎球菌ワクチン27・5件だった。
薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀医師は「HPVワクチンは異常に高い抗体価を長期間にわたり維持するように設計されており、このため複雑な自己免疫反応を引き起こしている可能性がある」と話す。痛みのほかにも、月経異常や記憶力、注意力の低下など多様な症状があるとし、「ほかのワクチンとは明らかに異なり、リスクが大きい。原因がはっきりしない以上、被害者の声に真剣に耳を傾け、勧奨の再開はすべきではない」と言う。
一方、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行小児神経診療部長は「いまのところ副反応とワクチンの因果関係は否定も、証明もされていない」と話す。これまで、接種後に症状を訴えた50人近くを診察。筋肉の組織の検査や、様々な治療を試したが、ワクチンとの関連ははっきりしなかったという。
厚労省研究班は16年12月、接種後に報告された副反応の症状は「ワクチン接種歴がない子どもにも一定数存在した」とする疫学調査結果を公表。一方で「接種と症状の因果関係には言及できない」と明確な結論は出せなかった。
佐々木さんは「どのワクチンにも有効性と副反応がある。定期接種のワクチンは『小さいけれどもリスクはある』ということを承知のうえでうけてもらう形になっているが、HPVワクチンは現時点ではそのような共通認識は得られていない」と話す。
◇ 「知見突き詰めても不確実性ある」
厚労省は今年1月、HPVワクチンのリーフレットを改訂した。その中で、HPVワクチンを10万人に接種すれば、595~859人の子宮頸がんの罹患(りかん)、144~209人の死亡の回避が期待できると推計した。一方、副反応の疑いがあったとの昨年8月末までの報告は、10万人あたり92・1人、重篤なケースは52・5人に上ったとした。
厚労省はこの間、接種後に症状を訴えた人に対する診療体制を全国に整備。「治療の受け皿ができた」として、勧奨の再開を求める声もある一方、「HPVワクチンは個人のがん予防の色合いが強く、集団防衛的なワクチンと異なる」などとして「(原則有料で個人の希望でうける)任意接種でいいのではないか」との声も出ている。
森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長は「どんなに科学的知見を突き詰めても、必ず不確実性が存在する。研究者や医療者はそれを丁寧に説明し、政策的な意思決定の際は、国民からより見えやすい場所で議論される必要がある。国会に調査委員会をつくって話し合う選択肢もあっていい」と話す。
先日、NHKで新潟水俣病のドキュメンタリーを視聴しました。
当初、日本政府は患者認定の3条件を提示して、複数の症状がないと認めないという方針を出しました。
この条件が厳しすぎるとの批判を受け、それから数十年後に、一つでも満たせば認めるという方針に変わりました。
この史実を知ると、HPVワクチンの副反応に煮え切らない態度を取る日本政府の考えがよくわかりません。
HPVワクチンの副反応とされている諸症状には、定型的なものが存在しないのです。
これとこれを満たせば可能性が高い、という性質が見いだせない。
副反応を声高に叫ぶ医師は、「HPVワクチン接種後何年経って発症しても副反応である」という基準を設けています。
効果のあるワクチンには、副反応も必ず存在します。
しかし、HPVワクチンで提唱されている副反応のような病態は、私の知る限り存在しません。
朝日新聞には識者4人の意見も掲載されていましたので引用させていただきます。
私は最後の川名氏の意見に強く同意します(以下に抜粋)。
・HPVワクチンによる重篤と判断された有害事象の報告数は「10万人にあたり52人」、一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」。
・「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。うちたくないという人は、うたなくていいと思います。
ポイントは「有効性と副反応の正しいデータを示し、接種するかどうかは国任せではなく各個人で考えて判断すべし」ということ。
予防接種を受ける人達は事が起こってから反論するのではなく、“当事者”として自ら考え、判断する思考回路を持つべきです。
■ 「HPV政策、国民に見える議論を」森臨太郎氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。
◇ 森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長
どんな薬、ワクチンにも効果がある一方で、副作用や副反応もあります。有効性と安全性をめぐって意見が対立するとき、どのように合意形成し、政策を決定していけばいいのでしょうか。世界の臨床試験の結果を再検証し、科学的根拠に基づく医療の普及につなげる「コクラン」の日本代表を務める、森臨太郎・国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部長に聞きました。
〈もり・りんたろう〉 1970年生まれ。岡山大卒業。日英両国の小児科専門医資格を持つ。大阪府立母子保健総合医療センター、世界保健機関(WHO)、東京大などを経て、2012年から国立成育医療研究センターで現職。14年、コクランジャパンを立ち上げた。著書に「持続可能な医療を創る」(岩波書店)など
◇ 意思決定されない状況、大きな問題
ある薬品について、行政レベルで大きな問題があったとき、「まず止めましょう」というのは正しい判断だったと思います。ただし、その際、止めてどうするのか。止めたまま放っておくのではなく、では、どうやって意思決定をするのか。そのあたりの整理がちょっと弱かった、と感じています。
このワクチンをどう考えたらいいのか。市民の皆さんが判断できるように助言する必要がありますが、それについて、適切な意思決定がくだされない状況が、こんなに長く続いていることは、とても大きな問題だと考えます。科学的根拠に基づく有効性と、安全に対する不確実性。ワクチンにはその両方が存在し、意見も対立している。この場合、多少は玉虫色になるかもしれないけれど、両方の立場からバランスのいいところで政策を決めなければならない。でも、現時点での政府の意思決定はそこから少し逃げているように感じます。「定期接種のままだが、勧奨していない」というのは矛盾しているし、一般市民に方向性を示していないという意味では少し不親切です。
◇ 任意で、接種を勧奨する選択肢
ワクチンの有効性はあるだろう、と思っています。HPV感染を防ぎ、前がん病変(がんになる前の状態)を減らすのだから、その先のがんも減らすだろう。それが科学的根拠に対する素直なとらえ方だろうと思います。
一方、副反応についての評価は、正直わからないと思っています。指摘されている副反応は、起きる可能性がそんなに高いものではないと思いますが、人間の体は分からない部分があるので、科学的にはありうると思っています。
ただし、国全体として集団として考えたときには、がんを減らすメリットのほうが大きいだろうと考えます。そのうえで、社会全体の価値に基づく考え方と、個人の意思決定が異なることはありえるし、あっていいと思います。
個人的には、定期接種を外して任意接種にし、国として勧奨はしたらいいと思います。「個人の意思決定に基づいて予防するもの」と位置づけたうえで、「科学的根拠に基づけば接種のメリットが上回る」とのメッセージを発する、という考え方です。
感染症疫学というのは「集団を守るもの」です。たとえばある人口のなかの80%の人が抵抗力を持つようになれば、集団としてその感染症を防げるケースがあったとします。はしかなどはそうしたワクチンで、定期でやるべきものだと思います。
一方、HPVについては、ワクチンの接種率が上がることで集団として感染の広がりを抑える効果も指摘されていますが、当面はそこまでの接種率をめざすのは難しいと思います。現時点では、HPVワクチンは有効性と安全性に様々な情報があるなかで、個人と医師の話し合いのなかで接種するかしないかを決めていくべきものではないか、と思います。こうしたワクチンは任意、というのが、ワクチンを接種してきた小児科医の1人としての私のイメージです。
集団の意思決定か、個人の意思決定か。もし、HPVワクチンを「個人の意思決定」とするならば、公衆衛生というより、医療に位置づけるという選択肢もありえると思います。そうなると、税金の枠組みではなく、医療保険の枠組みでいく、という選択肢も、予防と治療が融合し、境界線があいまいな現在の医療では、ありえると思います。
◇ 勧奨再開の場合は、登録・追跡調査の仕組みを
有効性は高いとみられる。一方で、安全性によくわからない部分もある。このワクチンにはこの両面の性格があります。
今後、積極的な勧奨を再開する場合は、セーフティーネットをかけつつ、進めていく必要があると思います。ひとつには、かなり厳密に、接種された人を登録し、経過を追っていくような追跡調査の仕組みをつくる。
二つ目は、過失の有無にかかわらず被害者に補償する「無過失補償」の仕組みです。現状をみると、副反応と指摘されている症状が、ワクチンによる過失であるかどうかの証明はほとんど不可能に近いと思います。安全性に関しても、ある程度担保されたうえで進めていく必要があると思います。
◇ 不透明だった導入時の議論
HPVワクチンは2010年、政府が150億円の予算を確保し、導入を決めました。ただ、その意思決定の過程では、科学的な検証が十分にされたとは言いがたいところがありました。製薬企業のロビー活動をバックに政治主導で導入され、あまりに前のめりでした。
科学的根拠は未熟な部分があるけれど、その効果は非常に有望なワクチンや薬があったとき、どのように意思決定するのか。「非常に優れている可能性があるから」と前のめりになってしまったのが、今回の反省点でもあると思います。
そういう意味では、今後、新しいワクチンが登場したとき、あまりに保守的になってもいけないが、どういう政策オプションをつけて政策にできるのか、という知見にはなると思います。
有効性は非常に高いけど、安全面で不確実性もあるならば、モニターをし、研究も同時に走らせながら導入する。無過失補償もつける。こうした政策オプションがあれば、市民の側も、そのワクチンの有効性と安全性を評価する材料、接種するかどうかの判断材料にもなると思います。
◇ 国会に調査委員会を設け、政策決定
どんなに科学的知見を突きつめても、必ず不確実性が存在します。研究者や医療者は「いま、こういう現状の科学的根拠ですよ。それにはこれだけの不確実性が存在するし、一方で、この程度の確実性をもってこれぐらいのことが言えますよ」というのは情報として提供できるはずです。ただ、それだけで政策を決めるのは難しい。広く社会の状況をみたうえで、適切に判断される必要があります。国民一般の不安などが拾い上げられなければ、その意思決定は受け入れられないからです。
こうした意見が大きく対立する案件については、厚労省の部会や委員会ではなく、たとえば国会に特別の調査委員会、第三者委員会をつくって、話し合う選択肢があっていいと思います。
現在は厚労省の部会で議論されているわけですが、国民から見れば、自分たちの意思がそこに反映されるとは感じないのが現状だと思います。一般の人が部会を聴きに行くかといったら、行かないと思う。もっと国民の目から見える場所で議論してもいいのではないでしょうか。各地でタウンミーティングをしてもいいと思います。
国会の権限で有効性や安全性を調査したり、海外の状況について情報収集したりし、「こういう経緯で決まったんだな」とわかるような、透明性の高いところでやることに意味があると考えます。
また、こうした政策決定の枠組みは、もう少しグローバルに、各国政府が連携してもいいと思います。たとえば、有効性と安全性の調査は、グローバルレベルでしてもいい。そうすれば、数も集まります。製薬企業に必要な情報を求める際も、相手は外国に本拠地を置くグローバルな製薬企業なわけですから、日本だけでなく各国で連携したほうがいい。
意思決定するときも、もう少し情報共有する。もちろん、最終的には、各国それぞれに意思決定すればいいと思うのですが、少なくともその手前の(追跡調査や無過失補償などの)政策オプションとか、「この国ではこうしている、あの国ではこうだ」という情報は持ち寄ってもいい。グローバルな連携が、もう少し効果的なものとしてとらえられていいのかなと考えています。
■ 「有害事象の多さ、見過ごせない」別府宏圀氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
◇ 別府宏圀・薬害オンブズパースン会議副代表
HPVワクチンの接種後に、様々な症状に苦しむ人たちがいます。ワクチンの有効性を評価する声がある一方、安全性を懸念する声もあります。長年、医薬品情報誌の国際連絡組織の活動に携わるなど、医師の立場から薬の安全性について問題提起を続ける、神経内科医で薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀さんに、HPVワクチンの問題について聞きました。
〈べっぷ・ひろくに〉 1938年生まれ。神経内科医。東京都立府中病院、都立神経病院などを経て、現在は薬害オンブズパースン会議副代表。ネットを通して患者の体験や気持ちを動画などで伝える、NPO法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」理事長も務める。著書に「医者が薬を疑うとき」(亜紀書房)など
◇ ワクチンの安全性に懸念
このワクチンは2010年11月から、定期接種されるのに先だって、公費負担で接種が始まりました。その後、重篤な有害事象の報告数が急増しました。長く使われてきたワクチンに比べると、新たに導入されるワクチンは有害事象の報告が多くなる傾向がありますが、それを考慮に入れたとしても、今回の報告数は格段に多い。これは見過ごすことはできません。
さらに問題なのは、有害事象として報告されたその症状が多様で長期間にわたり、重層的にあらわれていることです。このワクチンの副反応として、まず注目されたのは全身の痛みや、失神でした。その後、不調を訴える少女たちの症状を詳しく診ていくと、運動障害(脱力、まひ、不随意運動、けいれんなど)、呼吸機能障害、消化器障害、月経異常などの内分泌障害、自律神経障害、睡眠障害、光過敏・音過敏、高次脳機能障害(記憶障害、判断力低下、集中力低下)など様々な症状があらわれることがわかりました。
これらの特徴は、これまでのほかのワクチンとは明らかに異なります。ワクチンとの因果関係を疑問視する声もありますが、海外でHPVワクチン接種後の被害を訴えている少女たちの症状とも共通している点を考えれば、安易に「心因性」と片付けるべきではないでしょう。
◇ 新タイプのワクチン、不十分な検証
HPVは女性なら誰でも生涯に一度は以上は感染するような、ごくありふれたウイルスです。皮膚や粘膜のわずかな傷から侵入し、扁平上皮基底部(子宮頸部の粘膜の一番深い部分)の細胞に感染しますが、通常は70%が1年以内に、90%が2年以内に消失します。しかし、がんを誘発しやすいタイプのウイルスに持続感染すると、その一部が、がんの前段階の状態(前がん病変)、さらには浸潤がんに発展します。
ウイルスは通常、子宮頸部の粘膜にとどまり、自然に感染しただけでは、体内に十分な免疫はできません。これに対抗するために、HPVワクチンは、高い抗体価を長期間にわたって持続させるように設計されています。ワクチン接種後、通常の自然感染では達することのない、非常に高い抗体価を実現させるのです。
このように、従来とは異なった設計思想でつくられた、新しいタイプのワクチンを導入するのであれば、その安全性についても、より入念な検証が必要であったはずです。
また、このワクチンは、ウイルス遺伝子(DNA)を持たない「ウイルス様粒子」(VLP)を抗原(目印となるたんぱく質)とし、抗体ができるようにつくられています。ウイルス遺伝子を含まないからと、安全性を過信したことも問題でした。実際には、VLPの外側にある「殻」のほうに、人の細胞と共通し、生理機能にも深くかかわる成分(ペプチド)が含まれています。これが免疫学的に様々な交差反応を引き起こす可能性は十分にあり、それだけ多様な副反応が生じる恐れがあります。
◇ もっと患者の声に耳を傾けるべきだ
それなのに、厚生労働省の部会は2014年、こうした症状を「心身の反応」とする意見をまとめました。この結論に科学的根拠があるとは思えません。実際に、私は症状を訴える少女たちの話も聞きましたが、みんな接種前は元気で健康な、明るい子たちばかりでした。
いまの医学は科学的根拠を重視し、科学的に説明できないという理由ですぐに患者を切り捨てる傾向があると危惧しています。「何かが起きているのではないか」と様々な可能性を考え、もっと患者ひとりひとりの声に謙虚に耳を傾けるべきだと思います。
私は薬害スモン裁判にもかかわり、医薬品の情報収集を30年間続けてきました。こうした活動を通し、私は製薬企業の情報がいかに偏っているか、を痛感してきました。有効性は強調されても、安全性は軽んじられる傾向があります。
もちろん、私は医師なので、薬がないと困るし、薬の力もわかっています。しかし、常に視線はエンドユーザーである患者に向けられなければいけません。ワクチンの接種後に、説明のつかない症状が起きている人がこんなにたくさんいる事実は非常に重い。そして、その症状は誰に起きるかわからない。ワクチンは健康な人に接種するものであり、それによって得られる利益と危険性を見比べながら、慎重に判断される必要があります。
◇ がんの予防効果、不確実
接種をすすめたい人たちは、子宮頸(けい)がんの重大性を強調します。でも、子宮頸がんの原因となるウイルス(HPV)は、感染してもほとんどは自然に排除され、子宮頸がんを発症するのは発がん性のあるHPV感染者の0.15%程度と考えられています。万一がんを発症しても、定期的な検診を受けていれば適切な治療を受けることで、多くの人は救命可能です。そもそも、がんを予防する効果も証明されていません。
こうしたことを考えれば、安全性が不確実なHPVワクチンを定期接種にするよりも、その費用と労力をがん検診に向けるほうがはるかに大きな意味があるのではないでしょうか。検診受診率は諸外国に比べて低いと指摘されていますが、検診する医療者を女性にするなどして、検診を受ける女性の心理的なストレスを減らすなど、できることはまだあるはずです。
そもそも、HPVワクチンは、がんを予防する「個人防衛」の性格をもったワクチンであり、接種するかどうかは個人が決めるべきであり、任意接種に分類されるべきだと考えます。
HPVの勧奨再開に反対すると、すぐに「反ワクチン」と非難する声があがりますが、非常に一面的な考え方だと思います。私はすべてのワクチンに反対しているわけでなく、はしかなど、公衆衛生の観点から定期接種にすべきワクチンはあると考えています。
ただ、最近は、ワクチンの種類が急激に増えました。なかには、製薬企業のロビー活動を背景に、有効性と安全性が十分に議論されないまま拙速に導入されたものが含まれている。HPVワクチンはその最たるものだと思います。私はもう一度、すべてのワクチンについて、定期接種にすべきものと、任意接種にすべきものについて再考すべきではないかと思います。そしてその議論の過程には、市民が参加できる仕組みをつくるべきだと思います。
科学は本来、患者や公衆の衛生を守るためにあったはずですが、最近は製薬産業の利益を守るために使われ、薬と有害事象の因果関係を否定するために使われている、と感じます。医師と製薬企業の利益相反の問題も深刻です。医師はもっと謙虚で誠実であるべきです。HPVワクチンの問題でいえば、接種後に症状を訴える患者の診察もきちんとしないまま、心因反応と簡単に退けることは、非常に無責任なことだと思います。
■ 「因果関係、否定も証明もされず」佐々木征行氏に聞く
(2018年02月15日:朝日新聞)
子宮頸(けい)がんの原因となるウイルスの感染を防ぐ「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の有効性と安全性をめぐる評価や、接種の積極的勧奨を再開すべきかどうかは、専門家の間でも様々な意見があります。4人の専門家に聞きました。
◇ 佐々木征行・国立精神・神経医療研究センター病院小児神経診療部長
HPVワクチンをめぐっては、持続する痛みや、手足の動かしにくさ、記憶力や注意力の低下など、接種後に多様な症状が報告されたことが、一つの特徴です。ワクチンとの関連をどう考えたらいいのでしょうか。接種後に症状を訴える患者を診療した経験をもつ、国立精神・神経医療研究センター病院の佐々木征行・小児神経診療部長に聞きました。
〈ささき・まさゆき〉 1957年生まれ。日本小児神経学会専門医。新潟大卒業。新潟大学病院小児科などで研修後、2002年から現職
◇ 副反応との関連、証明も否定もされていない
これまで50人近く、HPVワクチンの接種後に症状を訴える患者さんを診察しました。接種後、激しい痛みが起き、腕が上にあがらないほどになる人や、頭痛や倦怠(けんたい)感などを伴う人もいました。痛みが注射した部位だけでなく全身に広がるケースや、震え、記憶力や集中力が低下するケースもありました。こうした多様な症状が、様々な組み合わせで、長い期間継続している人もいて、症状の経過の長さ、症状が移り変わることも、従来のワクチンではあまり見られなかったものだと思います。
私たちは数人の患者さんに入院していただき、頭部MRIや筋肉の検査(MRIや筋生検)をしました。筋肉注射をした部位や体内に過剰な免疫反応が現れていないかを確認するためです。また、鎮痛剤による治療のほかに、過剰な免疫反応が起きている可能性を想定し、それを抑えるために、免疫グロブリンを静脈注射する「免疫グロブリン静注療法」、あるいは、大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」も試しました。
しかし、筋生検などの検査では特別な異常を見いだせず、薬物療法でもはっきりした効果はありませんでした。ほかの病院から特別な検査所見が確認されたとか、目覚ましい治療があったとかの話も聞いていません。
ワクチンを接種されたときに感じた強い痛みが、その後の体調不良を引き起こしている可能性はあると思います。全身に痛みが広がる「線維筋痛症」や、頭痛や疲労感が前面に出る「慢性疲労症候群」などと病態が似ているケースもあります。二つとも原因不明の病気ですが、何らかのウイルスに感染した後に発症が多いことも知られていて、共通するメカニズムが発症に関わっている可能性も否定はできません。
しかし、いまのところ、こうした多様な症状を説明できる客観的な検査上の所見は乏しいのが実態だと思います。ワクチンの接種で強い免疫反応が起き、こうした症状につながっているのではないか、という説もありますが、いまのところ、免疫学的な異常を示す明確な証拠はないと思います。
こうした実情を踏まえると、報告されている副反応とワクチンとの因果関係については、いまの時点では「証明されてもいないし、否定されてもいない」としか言いようがありません。
◇ 認知行動療法でよくなる場合も
ただ、こうした症状を訴えて受診してくる人は、このワクチンが導入される前からいました。また、ワクチンの積極的勧奨が差し控えられ、ほとんど接種されなくなった後でも、います。やはり明確な原因がわからないケースがほとんどです。
こうした患者さんに対しては、じっくりと話を聴いたうえで、原因を追及することをいったん脇に置き、「改善するためにはどうしたらいいか」を一緒に話し合います。原因がはっきりしないので、薬を使ってもなかなか治りづらい。最近は、考え方のくせや偏りに着目し、医師らとの面談を通して改善をめざす「認知行動療法」につなげることが多いです。この治療を通じ、改善していくケースは珍しくありません。
結局、ワクチンが原因でもそうでなくても、こうした症状に苦しむ患者さんは常に存在する。原因にこだわるよりも、本人や家族を支えるような治療が何よりも大切だと、私は思います。
◇ 希望する人が接種、「任意」でも
このワクチンは、子宮頸がんの原因となる特定のウイルスへの感染を防ぐとされています。がんになる前の状態(前がん病変)が減ったという報告が複数あるということなので、有効性はきっとあるのだろう、と考えています。理論的には、その先にあるがんの発症も減ると期待されると考えます。一方、接種後に報告されている多様な症状との因果関係は、証明もされていないけど、否定もされていない。
この場合、ワクチンを接種すべきかどうかは、なかなか言いづらいと思います。接種したほうがいい、とも、しないほうがいい、とも私自身は言えません。
どのワクチンにも有効性とともに、副反応はあります。それでも、いま定期接種されているほかのワクチンは、非常に高い効果が期待できる一方、「小さいけれどもリスクはある」ということを承知のうえで、受けてもらっている形になっています。これに対し、HPVワクチンはいまの時点では、それが承知された状況にはなっているとは言えません。
そういう意味では、基本的に希望する人が接種するワクチン、つまり、「任意接種」の扱いでもいいのでは、とも思います。とはいえ、任意接種になれば、原則無料の定期接種と異なり、自己負担になってしまう、という問題も残るのが難しいところです。
◇ 誰にでも起きうる 治療体制の整備を
HPVワクチンの接種後の症状で苦しんでいる人がいる以上、きちんと向きあっていくべきだと思います。米国や英国では、こうした訴えをする患者さんに対する治療体制など、医療的な配慮が行き届いていると言われています。日本でも、これまで以上に、こうした患者さんにどんな医療が提供できるのか、を考えていかないといけないでしょう。個々の医師の活動だけでは治療は難しく、専門的な治療チームで、体制の充実を図っていく必要があります。
接種後に症状を訴え、私のところを受診した患者さんは、ワクチンの接種前は学校をほとんど休むこともなく、部活動にも積極的に参加し、元気な子が多かったと聞いています。頻度が非常に低いとはいえ、誰にでも起きうるものだと思います。
治療体制の充実に加え、今後、新たに同様の症状に苦しむ人をなるべく出ないようにするためには、ワクチンを受けない選択が尊重されることも必要だと思います。接種後の痛みが軽減されるようなワクチンの改良にも期待しています。また、子宮頸がんの予防には、検診も重要です。若い女性の検診受診率を上げるためには、検診をする側の医療者を、可能ならば女性にする。それだけでも、少しは変わるのではないかと思います。
■ 「予防はワクチンと検診の両輪で」川名敬氏に聞く
(2018年02月15日: 朝日新聞)
◇ 川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)
日本産科婦人科学会は、HPVワクチンの有効性を高く評価し、厚生労働省に対して積極的勧奨を再開するよう求めています。子宮頸(けい)がんの患者を日常的に診察する立場から、この問題をどうとらえているのか。ウイルス学にも詳しい、川名敬・日本大主任教授(産婦人科学)に聞きました。
〈かわな・けい〉 1967年生まれ。東北大卒業。産婦人科専門医、性感染症認定医。米ハーバード大産婦人科リサーチフェロー、東京大産婦人科学講座准教授などを経て、2016年9月より現職
◇ 立ち止まる。大事なステップだった
このワクチンの安全性に問題があるかもしれない、との指摘が2013年に出てきたとき、それに対して国としていったん立ち止まって検証するという作業は、結果的に必要だったと考えています。その作業がなされなければ、国民は納得しないでしょう。
ワクチンは2007年に初めて人に接種され、日本ではそこから2年ほどで承認されました。従来のワクチンに比べ、非常に早かった。つまり、長く広く使われるという歴史を経たワクチンではありませんでした。ですから「安全性をもう一度チェックしよう」となったことは、大事なステップだったと思います。
問題は、そのまま積極的勧奨が止まり続けていることです。厚生労働省研究班で調査もし、接種後に問題とされた症状が、接種しない人にも起きる、という結果も出ました。もうさすがに、ワクチンの必要性を認めてほしいというのが、産婦人科医としての率直な意見です。
◇ 安全性評価には、データが不完全
接種後に起きている有害事象の報告は、確かにほかのワクチンよりも多いです。ただ、そのなかには因果関係のはっきりしない、「紛れ込み」も含まれています。また、その記録をみると、接種日が「不明」とされているものが数多く含まれています。正確に安全性を評価するには、あまりにも不完全なデータです。可能なら、厚労省はこの「不明」を調べて、明らかにしてほしい。そのうえで、議論されるべきだと思います。
接種後の長引く痛みなど、厚労省が「機能性身体症状」(何らかの身体症状があり、その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず、原因が特定できない状態)と呼んでいる症状は、HPVワクチンに限らず、ワクチンには一般的に起きるものと、考えられています。そして、それは思春期には顕在化しやすい。
「ワクチンを接種して何も起きないか?」と尋ねられれば、ほかのどのワクチンも同様ですが、「絶対に安全」と断言することはできません。しかし、「副反応の疑い」として報告された人たちのその後を追跡調査した結果では、9割の人は回復したことが判明しています。でも、その事実はきちんと伝わっていないのではないかと思います。この5年近くで、接種後の症状の診療にかかわる医療機関も全国に設置されました。
◇ 積み重ねられているワクチンの有効性
一方、ワクチンの有効性は国際的にも科学的根拠(エビデンス)が積み重ねられています。
HPVは100種類以上あり、性交渉を通じて感染します。このうち、子宮頸がんも含む複数のがんの原因となる「ハイリスクHPV」と呼ばれるものは13種類。HPVワクチンは、このなかの「16型」「18型」の2種類の感染を予防するものです。海外の研究では、ワクチンによってこの2種類の感染を約9割防ぐことが明らかになっています。
「ワクチンが、がんそのものを防ぐ効果は確認されていない」と指摘されます。しかし、オーストラリアなどの研究では、ワクチン接種した人では、していない人に比べ、がんの前段階の状態(前がん病変)を5割減らす効果が確認されています。まだ導入されて間もないワクチンでもあり、がんそのものへの予防効果は、もう少し時間をかけてみないとわかりませんが、そもそもがんに進行するようならば治療されてしまうため、がんの予防効果を立証することは難しいのが実情です。でも、前がん病変を減らすのですから、その先のがんになることもない、と考えられます。そして、ごく最近、海外の専門誌「International Journal of Cancer」に掲載された速報として、フィンランドからがんそのものが減少した、との報告も出ました。14~19歳の女性(計約2万7千人)を7年間追跡した結果、子宮頸がんを発症する頻度は、ワクチン非接種群は10万人あたり年間6・4人であったのに対し、ワクチン接種群では同0人でした。
成人女性の大部分がHPVに感染します。女性の誰もが子宮頸がんになるリスクがありますが、ワクチンでこのリスクを減らせるのです。
◇ ワクチンと検診、子宮頸がん予防の両輪
「がん検診を受け、進行するようならば手術すれば治る。だからワクチンは必要ない」という人もいますが、私はそうは思いません。検診はもちろん重要です。でも、手術は子宮にメスを入れることを意味します。しかも発症年齢のピークは30代です。ちょうど、妊娠・出産の時期にあたります。子宮の一部がなくなり、その結果、早産のリスクが2・6倍高まることがわかっています。
子宮頸がん予防は、ワクチンと検診の両輪が必要で、どちらか一方でいい、ということはないのです。
1月に、東京都内の女子高の3年生(約200人)に対し、子宮頸がんについて授業をしました。厚労省の資料によれば、「10万人にあたり52人」が重篤と判断された有害事象の報告数です。これをこの高校にあてはめると、「2千人に1人ほど」。1学年200人なので、10学年に1人ぐらいにしか健康被害は出ません。
一方、生涯で子宮頸がんになるリスクは「76人に1人」とされています。1学年200人の女子がいれば、うち3人ぐらいが生涯のうちに子宮頸がんになる計算です。「この数字を比較したとき、どちらを選択しますか? あとはみなさんが決めてください」。私はそう問いかけました。最終的にはそれぞれの判断ですが、おのずと答えは出るのではないかと、思います。
もちろん、怖いし、うちたくないという人は、うたなくていいと思います。定期接種は接種する「努力義務」はありますが、強制ではありません。
今後、積極的勧奨を再開すると判断することがあれば、厚労省に対して注文があります。この間、接種を見送り、定期接種の対象を過ぎてしまった人への接種は、無料でできるようにサポートする必要があります。このワクチンは3回接種で5万円ほどかかります。それが出せない家庭はいくらでもある。希望したのにお金がなかったからうてなかった、ということはないようにしてほしい。ぜひ、国の責任で不平等が生じないようにしてほしいと考えています。