小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

風疹&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月13日 07時49分17秒 | 感染症
 日本は現在、「2020年度までに風疹を排除」することを目標にしています。
 しかし2012-2013年に流行し、先天性風疹症候群(CRS)が45例発生したことは記憶に新しいところ。
 それ以降、妊娠可能年齢の女性を対象に風疹抗体価検査や風疹ワクチン費用補助などをしていますが、それで十分なのでしょうか。

 否!

 流行の母体となっているのは、日本のワクチン行政の谷間にはまった30-50歳代の男性達です。
 この世代のみ、抗体保有率が低く(78%)、集団免疫率に到達していません。
 しかし社会で一番活躍する年代でもあり、仕事を休んで抗体検査をしたり自費でワクチン接種するのはハードルが高いのが現実です。
 そのハードルを越えるためには、社内での集団接種および費用公費負担しかないと私は考えています。
 でも厚生労働省はそのような方策をとることなく、相変わらず「2020年までに風疹排除」と謳っているだけ。
 妊婦中心の対策にとどまっていては風疹排除は不可能であり、成人男性をも対象にする方針転換が今、必要なのです。

 さて、風疹ワクチンに関する2013年のCDCの記事を紹介します。
 生ワクチンの免疫持続期間が1回接種と2回接種で分けて記載してあるデータを初めて見ました。
 表の「免疫の持続期間-2回接種」の項目は、「2回目接種後の期間」という意味です。


■ 風疹ワクチンと免疫CDC Watch 2013年8月


■ 先天性風疹症候群(CRS)CDC Watch 2013年6月
・米国において1964-1965年にかけて風疹の流行があり、約1250万件の風疹が発生し、11250件の人工妊娠中絶または自然流産があり、2100件の新生児死亡と20000件のCRS合併児が発生した。
・2004年に全米ワクチンプログラムが実施されていこう、米国においては風疹の流行は駆逐された。しかし、輸入症例は後を絶たない。
・咽頭スワブから検出された風疹ウイルスの遺伝子配列を調べると、そのウイルスの由来が判明する(紹介されている3症例はすべてアフリカ出身の母親、ウイルスもアフリカ由来のものであった)。


<参考>
□ 「2020年度までの風しん排除のために、実効ある施策を要望します」(日本産婦人科学会ほか、2017)


 次に国立感染症研究所発行の病原微生物検出情報(Vol.37 No.4, 2016年4月)からの記事を抜粋。
 成人男性対象の風疹対策、具体的には30-50歳代男性のワクチン接種を東京都が企業と医師会と連携して具体的に取り組み始めた事業が紹介されており、今後他地域へ広がるモデルケースになる可能性を感じました。


■ <特集>麻疹・風疹/先天性風疹症候群 2016年3月現在
・成人男性を中心とした2012-2013年の風疹流行の患者報告数は、2012年2386例、2013年14344例、2014年319例、2015年163例であった。年齢群別に見ると2012/2013年には成人がそれぞれ83.4/87.8%を占めた。


 予防接種歴は接種歴不明が多く、接種歴2回の割合は少なかった。2015年を見ると、未接種22.1%、接種歴不明54.6%、1回接種18.4%、2回接種4.9%であった。

 CRSは2012年4例、2013年32例、2014年9例、2015年0例であった。

・2015年に17都道府県で風疹感受性調査が行われ、風疹抗体価測定は赤血球凝集抑制法(HI法)で評価した。2歳以上30代前半まで男女ともほとんどの年齢群で90%以上の抗体保有率(抗体価≧1:8)であったが、30代後半-50代前半の年齢層の抗体保有率は男性では78%と低かった(女性では97%)。

・CRS患者では風疹ウイルスが排除されにくく、時に1年以上ウイルスを保有することがある。

海外での風疹対策の現状
・2012年の世界保健大会では「2015年までにWHO6地域のうち少なくとも2地域で風疹の排除を達成し、さらに2020年までには少なくとも5地域において排除を達成すること」を目標に掲げた。結果としては、アメリカ地域のみ排除を達成したものの、他の地域では目標を達成できる見込みがほとんどない。
・風疹の排除の定義:よく機能したサーベイランス制度の下で、ある地域において12ヶ月以上にわたって土着の風疹ウイルスによる伝播が認められず、その伝播に伴ったCRSの発生が認められないこと。
・2016年1月時点で接種プログラムに風疹ワクチンが導入されているのは194カ国中147カ国(75.8%)。2014年の対象年齢群における風疹ワクチン接種率は全世界で46%(2005年24%、2010年41%)とまだ不十分である。WHO地域ごとの接種率は、アフリカ10%、東地中海42%、南東アジア12%、アメリカ92%、ヨーロッパ94%、西太平洋91%と地域格差がある。
・日本の所属するWHO西太平洋地域では、これまで風疹の“制御”を目標にしてきたが、2014年に“排除”へ切り替えられ、2020年を排除目標年とすることが推奨された。

職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト

・2015年10月に開始した東京都、東京商工会議所、東京都医師会が連携した企業の感染症対策を支援するプロジェクト。
A)コースⅠ 感染症理解のための従業者研修
 従業者1人1人が感染症の予防、まん延防止ができるよう、自習教材を活用して必要な知識を習得する。教材は択一式問題50題と解説書で構成し、風疹に関する設問は必須問題としている。
B)コースII 事業所単位での感染症BGP(業務継続計画)の作成
 職場での感染症予防、蔓延防止を目的に業務継続計画を作成することにより、企業のリスク管理と職場を感染症から守る取り組みを計画的に実施する。業務継続計画で想定する主な感染症は、身近な感染症である季節性インフルエンザ、ノロウイルス、働く世代における対応が課題となっている風疹。
C)コースⅢ 事業所単位での風疹予防対策の推進
 集団免疫の理解を図り、事業所単位での従業者の風疹抗体保有率の向上を促す。東京都医師会は地域ごとに「予防接種等協力医療機関」を確保した。
・達成基準(↓)。達成基準を満たした協力企業を「達成企業」とした。2016年3月時点で協力企業は142、達成企業は9。


2020年度の風疹排除に向けて
・2013年の感染症発生動向調査によると、20-60歳代の男性風疹患者のうち、感染経路判明例の68.5%が職場で感染、一方の女性の感染経路は35.2%が職場、33.5%が家族となっている。
・2014年3月に国立感染症研究所が「職場における風疹対策ガイドライン」をとりまとめた。その中で「就業時間中に予防接種を受けに行くというのは労働者にとってもハードルが高い」と記載されている。その状況への対応として、厚生労働省医政局長通知「医療機関外の場所で行う健康診断の取り扱いについて」が2015年3月31日付で改正され、医療機関外の場所で行う予防接種のうち、一定の要件を満たすものについては新たに診療所開設の手続きを要しないものとされた。
・経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会は2015年3月に東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」22業種22社を選定した。その調査の中で「健康診断時の麻疹・風疹などの感染症抗体検査の実施」が項目として記載されている。
<参考>「風しんに関する特定感染症予防指針」(厚生労働省、2014年3月)

感染経路からみた妊婦の風疹罹患予防
・2013年に報告された20-60歳女性風疹患者中感染経路判明例で最も多かったのが「」。妊婦の抗体価スクリーニングはされているが夫の抗体価は調べられていない。自治体によってはパートナーへも風疹ワクチン接種の補助を行っているところもあるが、抗体価が低い夫のみという自治体も多く、平日に抗体検査とワクチン接種をするに至っていないパートナーは少なくないと思われ、家族内感染を断つのは難しい
 次に多かったのが「同僚」。職場内での風疹感染に対する意識の低さも問題視されるべきであろう。



 次は同じく国立感染症研究所「病原微生物検出情報」(Vol.36 No.7, 2015年7月)より;


■ <特集>風疹・先天性風疹症候群 2015年6月現在




・出生時にはCRS症状がなくても、その後難聴、白内障が顕在化する場合があるので、風疹に罹患した或いはその疑いがある母親から生まれた児の注意深い観察が必要である。
・CRS児の10-20%は生後1年を経ても風疹ウイルス(rubella virus, RV)を排泄するという報告がある。

(東京都の取り組み)
・東京都健康安全研究センターが2013-2015年に都内で発生したCRS児12例(東京都で発生した総数は、2013年13例、2014年3例の合計16例)の調査を行った結果、RV排泄状況は以下の通りであった:
 生後3ヶ月時点:91.7%(12例中11例)、生後6ヶ月:33.3%(4/12例)、生後9ヶ月:16.7%(2/12例)、生後12ヶ月:8.3%(1/12例)。最長は13ヶ月。

(大阪での取り組み)
CRS発症予防では妊婦対策が中心であったが、風疹排除を目的とするならば妊婦以外にも目を向ける必要がある
・とにかく成人男性が問題:風疹感染は一般的に症状が軽いため見落とされやすく、20-40代の男性では両要求かを取得せずに仕事を続ける場合も多く、結果的に職場内で感染が拡大する傾向がある。男性の未婚率は30代で40%、40代で25%であり、現在行っている風疹抗体検査およびワクチン助成の対象者とならない男性の割合が高い。

産婦人科医から見た2012-2013年の風疹流行の課題
・過去の風疹予防接種施策の問題:定期接種の機会がなかった、あるいは移行措置で施策がなされたにもかかわらず結果的に低接種率に帰した年代と、風疹患者数の多い年齢とが見事に一致している(↓)

・接種率向上を図るポイント:
1.接種無償化(定期接種)
2.個別通知
3.接種確認と未接種者への繰り返し通知
4.休日や職場での接種機会の提供
5.接種率の低い都道府県の公表
・CRS45例の公開情報「先天性風しん症候群(CRS)の報告(2014年10月8日現在)
 ワクチン接種歴あり:9例、妊娠中風疹罹患なし:4例、双方の相当:2例が存在する。
(例1)妊娠中に発疹と発熱を認め医療機関を受診したが、風疹の診断に至らず、出生した児がCRSだった。
(例2)第1指分娩後に風疹ワクチンを受けたが今回HI8倍、妊娠中風疹症状なし、出生した児がCRSだった。
 結局、妊娠早期にはっきり風疹と診断された例以外にCRSは予測できない。風疹の排除こそが唯一の解決方法である

先天性風疹症候群(CRS)の子にみられる難聴
・CRSのほとんどの臨床症状は妊娠8週までに罹患した場合に出現する症状であり、それ以降での罹患では出現率は低下する。しかし、難聴は8週以降の感染でも発症する頻度が高く、CRSの80-90%に認められる。
・CRS児の50%は出生直後に何も臨床症状がない。
・補聴器使用開始は生後半年以内が理想的であるが、CRS児の開始年齢は遅くなる傾向がある。ウイルス排泄による二次感染が懸念されるため、地域の母湯院や訪問看護の受け入れが悪いことも一因である。
・CRS難聴の特徴:
 ウイルスの血管障害による基底膜、血管条と球形嚢の変性、その他あぶみ骨の固着などが報告されており、伝音難聴/感音難聴のどちらも生じる。
 聴力レベルも軽度から重度まで、左右聴力レベルも非対称で一側性難聴のこともある。
 出生直後の聴力が正常であったとしても、2-3歳までに遅発性難聴を生じるため、たとえ新生児聴覚スクリーニングで正常判定でも、3歳までは3-6ヶ月ごとの聴力評価が必要である。
・療育の問題点:
 ウイルス排泄がとまるまで集団の中に入れることができないため、地域の聾学校や療育施設での指導・介入ができず、医療機関でさえも受診抑制せざるを得ない。
・潜在的CRSの可能性:
 重度難聴児の眼底検査を行ったところ、CRSに特徴的な眼底所見を有する児が既報告以上に認められ、さらに風疹流行時期・地域に一致していた(Tamayo ML, et al., Int J Pediatr Otorhinolaryngol 77: 1536-1540, 2013)。出生時期に何も症状がなければCRSであることがわからず、原因不明の難聴児として対応されている可能性がある。

職場における風疹対策
・2012年度の感染症流行予測調査によると、風疹に対する免疫を持たない20-49歳の成人は475万人で、そのうち男性が397万人と8割以上を占めている。
風疹感染の最大の懸念はCRSの発生であり、従業員直接の危険ではないため、感染リスクの高い20-50代男性で当事者意識を持つものは限られる
・予防接種歴の調査は難しく、母子手帳の記載を確認できるのは20-40代の成人のうち36%にとどまる(Hori A, et al., PLOS ONE 10: 0129900, 2015)。
・風疹罹患者のウイルス排出期間、つまり他人へ感染させ得る期間は、発疹などの症状出現の前後1週間とされる。症状が出たら自宅待機という対策では不十分である。感染に気づかない男性が、職場や家庭、地域で妊娠出産年齢の女性へ感染させるケースが最も危惧される。
・企業の安全配慮義務に対して、従業員には自分の健康を自己管理する事故保険義務がある。
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ノロウイルスの免疫持続期間は4〜8年(CDC Watch)

2017年03月13日 07時31分24秒 | 感染症
 子どもが感染性胃腸炎になった際、子どもだけで終わるとロタウイルス、感染が拡大して家族全滅するとノロウイルスが怪しい、と私は説明しています。
 つまり、ロタウイルスは子どもの頃に罹ると免疫が獲得されるけど、ノロウイルスでは一生涯有効な免疫を獲得しにくいと云うこと。

 ではノロウイルスに一度罹ると、どれくらい免疫が続くのか?

 という素朴な疑問が発生します。
 その答えはこちら;

■ ノロウイルスの免疫持続期間CDC Watch 2014年 3月号
・従来、ノロウイルスの免疫は6ヶ月〜2年程度続くと信じられてきた。しかし過去の実験で用いられた細菌数はとても多く、実情を反映していないのではないかという反論があった。
・Kirstenらは数学的モデルによって刺虫感染ノロウイルスへの免疫期間を推定し、4-8年程度であろうとの結論を得た。
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米国における水痘ワクチンの効果報告(2017年3月)

2017年03月13日 06時52分42秒 | 感染症
 CDC Watch(メディコン)の記事から。

■ 水痘ワクチンの2回接種の効果CDC Watch 2016/12

米国の水痘対策の経緯
・水痘ワクチン導入以前は、年間400万人の患者、11000-13500人の水痘関連入院、100-150人の水痘関連死亡が発生していた。
・1996年:水痘ワクチンプログラム(1回接種)が導入され、それ以降の10年で水痘発生率を90%減少させた。
 しかし、その後もアウトブレイクは続いた。
・2006年:2回接種(生後12-15ヶ月および4-6歳)を実施するに至る。

水痘ワクチン2回接種後のデータ
・1回接種の最後の年(2005年)から2回接種開始の早期の年(2006-2010年)までに、水痘発生が全米で72%減少した。
・「症例に基づく水痘サーベイランス」が40州(2014年)から報告され、年間水痘発生率は人口10万人あたり25.4件(2005-2006年)から3.9件(2013-2014年)へと有意に減少した(マイナス84.6%)。
・水痘ワクチンプログラムが開始される前からCDCに毎年水痘症例を報告している州(イリノイ、ミシガン、テキサス、ウエストバージニア)においては、水痘発生率は1993-1995年から2013-2014年までで、平均97.4%の減少が見られた。
・2013-2014年のデータによると、患者の水痘ワクチン接種状況が約60%で入手可能であり、それらのうち約55%は少なくとも1回接種、そのうち56%は2回接種していた。

まとめ
・水痘の発生率は、水痘ワクチン導入前と比較すると、1回接種導入後(2005-2006年)90%減少、2回接種導入後(2013-2014年)97%減少した。
・2013-2014年の全水痘症例の55%が水痘ワクチンを接種した人で発生していた。


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「ワクチン免疫の基礎と臨床」本川賢司氏(2009年)

2017年03月12日 13時18分48秒 | 予防接種
ワクチン免疫の基礎と臨床ーワクチン効果を上げるものと下げるものー
本川賢司(北里研究所 生物製剤研究所)
日本家畜臨床感染症研究会誌、2009

これは獣医さんの学会誌ですね。
ワクチンと免疫一般の説明は要約程度ですが、生ワクチンと不活化ワクチンの比較、どのような病原体・感染病態にどのようなワクチンが合うのか、という視点からの解説が新鮮でした。
細菌とウイルスという分け方ではなく、その病原体が体内でどのような分布・増殖状態をとるのかが鍵というわけです。 

人のワクチンの勉強が一段落したら、動物のワクチンについて調べてみるのもいいかもしれないな(^^)。

患者さんの両親で獣医さんがいるのですが、以前動物の予防接種について質問したことがあります;
「動物でも混合ワクチンってあるんですか?」
「イヌでは11種混合ワクチンがありますよ」
 !?
「して、その副反応は?」
「ごく希に顔がパンパンに腫れます」
 !?

【備忘録】

・細胞性免疫/体液性免疫のバランスによる有効性の違い
 増殖の過程でウイルス血証(菌血症)を起こす病原体に対しては、液性免疫が効果的に働くことが多い。
 逆に、抗体は細胞内の病原体を中和することができないので、ヘルペスウイルスなど細胞親和性が高いウイルスに対しては液性免疫の効果は十分ではなく、細胞性免疫も重要となる。
 細菌でも、結核菌などの細胞内寄生菌に対しては、やはり細胞性免疫が重要な働きをする。
 逆に、破傷風菌のように、細菌が産生する毒素により症状が引き起こされる疾病では液性免疫が重要である。

・ワクチン接種ルートによる有効性の違い
 粘膜感染を防御するには粘膜免疫を活性化しておかなければならない。とくに粘膜細胞に感染し、粘膜を傷害することにより病気を引き起こす病原体に対しては、全身免疫は効果が弱く、粘膜免疫が有用な働きを示す。
 一方、初期の感染部位が粘膜だとしても、発症するまでに全身感染が必要な病原体では、全身免疫で発症を食い止めることができるので、皮下/筋肉内注射のワクチンでも十分な効果が得られやすい。

※ 粘膜免疫が重要だといっても、皮下・筋肉内注射用のワクチンを経口・経鼻接種してはいけない。
不活化ワクチンの場合、粘膜面腋癰のアジュバントが必要であり、なんら効果が得られない可能性が高い。
生ワクチンの場合、安全性に問題が生じる可能性がある。
(例)ネコカリシウイルスの生ワクチン株は、注射では安全だが、漏れたワクチンを舐めたりして口に入ると発症する。
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「ワクチンと免疫」庵原俊昭Dr.ほか、小児保健研究、2010、より

2017年03月12日 12時52分58秒 | 予防接種
「ワクチンと免疫」
庵原俊昭, 岡田賢司, 宇加江進, 古賀伸子, 住友眞佐美, 菅原美絵, 多屋馨子, 馬場宏一, 三田村敬子
日本小児保健協会予防接種・感染症委員会
小児保健研究69(6):830-832 2010

これも拾い読みした資料の一つ。
フムフムと頷ける箇所がいくつもあり、忘れないようにメモメモ。
とくに、いろんな状況を加味したウイルス抗体価の読み方と、Low Responder の考え方が参考になりました。


【備忘録】

・麻疹と風疹では、発症予防レベルやブースターが罹らないレベル(感染予防レベル)は示されているが、水痘やムンプスでは発症予防レベルや感染予防レベルは未確定である。


・インフルエンザ2009(H1N1)pdmウイルス・ワクチンの臨床研究結果からm不活化ワクチンでは一度ブースターが誘導されると、3週間後に追加接種しても抗体のさらなる上昇は認められない。これは免疫寛容が働くためと考えられている。

・ワクチン予防可能疾患の抗体価の読み方のポイント;
 下表の抗体価は多くの人の発症を予防する抗体価であり、曝露されたウイルス量が多いときは、発症予防には高い抗体価が必要である。
 また、全身感染症では、感染を受けると同時に免疫の二次免疫応答も始まるため、相対的に低い抗体価で発症を予防できるが、局所感染症では、感染による二次免疫応答が始まるまでに症状が出現するため、発症予防のためには比較的高い抗体価が必要である。
 発症者と密接に接触する機会が多い医療従事者は、曝露されるウイルス量が多い危険性があり、発症予防のために表1で示す抗体価よりも高い抗体価が必要である。



・Low Responder
 ワクチンを接種しても発症予防レベルの抗体価が誘導できない人を低反応者(Low Responder)と呼び、遺伝的因子が関係している。低い抗体価でも他の免疫機能が働き、接種されたウイルスが体内で増殖しなかったためと考えられ、理論上抗体価が発症予防レベル以下でも発症しない人である。

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喜田宏Dr.による講演「インフルエンザウイルスの生態」(2014年)

2017年03月12日 11時15分14秒 | 感染症
第三回神戸アニマルケア国際会議基調講演「インフルエンザウイルスの生態〜鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ対策のために〜」(2014.7.19)
演者:喜田宏(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター)

 たまたま目にとまった講演内容がとても興味深く勉強になったのでメモメモ。
 喜田先生は常々「新型インフルエンザ対策よりも季節性インフルエンザ対策を」と唱えているオピニオンリーダーです。反語的に「季節性インフルエンザ流行をコントロールできない国が、新型インフルエンザを征圧できるはずがない」とも読み取れます。
 一読してみて、やはり正確な知識は大切だな、思い込みは危険、とあらためて感じた次第です。
 とくに「高病原性鳥インフルエンザ対策に鶏に対するワクチンは逆効果であり、“見えない感染”を広げてしまう」という指摘には目からウロコが落ちました。


【備忘録】

・伝播性と病原性は別問題、混同せぬよう
 新型インフルエンザが日本で流行したら64万人の死者が出るなんてあり得ない。病原性と伝播性の混同が混乱を招いている。パンデミックインフルエンザは新しいHA亜型のウイルスが起こす大流行であり、人には新しいHA亜型の免疫がないので世界中に広がる。
 2009年のH1N1パンデミックウイルスは、3ヶ月後には世界中に広まった。だけど、15ヶ月後に世界中で亡くなった人は2万人に満たない事実。これは季節性インフルエンザの被害の1/100である。

・インフルエンザウイルスは人を敵だと思っていない
 インフルエンザウイルスは人間を責めるためにこの世にいるわけではなく、ただ、自然界に存続してきた、最小の微生物に過ぎない。
 インフルエンザウイルスの起源は、自然界でカモが持っている病原性のないウイルス。
 毎年異なる株のインフルエンザウイルスが流行するが、これはウイルスが自発的に変異を起こすのではなく、人々の間で毎年流行が起こるから、流行ウイルスに対する抗体が産生され、その抗体により抗原変異ウイルスが選択されると考えるべきである。

・タミフル耐性は抗インフルエンザ薬で造られた、というのは勘違い
 ウイルスが変異してタミフル耐性ウイルスが新たに出てきたのではなく、インフルエンザウイルス集団の中の1万個に1個は既にタミフル耐性である。だからタミフルを与えると、タミフル存在下でも増殖できる変わり者が優性になる、それが耐性ウイルス。
 耐性ウイルスが話題になっても、臨床では「タミフルが効いていて問題ない」との声を聞く。
 なぜかというと、タミフル存在下で選択されたウイルスは、タミフル存在下で増えることができるが、タミフル服用をやめるとタミフルという圧力がなくなるので野生株が優勢になる、すなわちタミフル感受性の野生ウイルスに戻ると考えられる。

・痘瘡は根絶されたが、インフルエンザウイルスは無理
 痘瘡は人から人にしか感染・伝播でず、感染したら必ず症状が出るから撲滅できた。インフルエンザは人畜共通感染症なので根絶は無理。

・2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時の「水際作戦」「発熱外来」はナンセンス
 発熱者のみを患者として扱うこれらの対策は、不顕性感染者(自分は症状がないけど人にはうつす)が考慮されておらずすり抜けてしまうので、意味がない。

・香港風邪(1968年)のインフルエンザウイルスの由来
 夏の間、シベリアに巣を営んで、秋になると南中国まで飛んできたカモのウイルスがアヒルを介してブタに感染し、ブタには当時人の間で流行していたアジア風邪のウイルスも同時感染してできた遺伝子再集合ウイルスのうちの一つが香港風邪のウイルスになった。

・急性感染しか起こさないインフルエンザウイルスがなぜ地球上で存続できたのか?
 インフルエンザウイルスはヒトの体に1週間程度しかおらず、急性感染しか起こさない。慢性感染・潜伏感染はしない。
 しかし、毎年シベリアからカモが運んでくる。どこに潜んでいるのか?
 答えは「凍結保存」。
 カモとインフルエンザウイルスは、人類が地球上に現れる前から共生関係を築いて、カモに危害を及ぼさないで存続してきた。カモは夏に営巣するシベリア、アラスカの湖の水にウイルスを排泄して、その湖の水は冬の間凍るので、ウイルスは凍結保存される。
 カモの体内ではインフルエンザウイルスは腸管で増える。呼吸器にはいない。

・ブタにカモのウイルスがどうやって伝播するのか?
 アヒルやガチョウが中間宿主。
 カモーアヒルーブターヒト。
 シベリアからカモが中国南部の農家の池に持ち込んだウイルスが、そこでアヒルに感染・増殖して池の水を汚染し、ブタがその水を飲んで、人からも同時にアジア風邪のウイルスに感染してできた遺伝子再集合ウイルスの一つが香港風邪ウイルス。

・カモから分離されたインフルエンザウイルスを実験で鶏に感染させようとしても感染しない
 自然界のカモから分離されたウイルスを鶏に感染させるべく、目から入れたり鼻から入れたり口から入れたりお尻から入れても感染しない。
 ところが、ウズラなどの陸鳥とアヒルなどの水鳥が一緒に飼われているところでウイルスが感染・伝播すると、それがときに鶏にも感染することも起こり、その鶏が農場に持ち込まれて鶏から鶏へ少なくとも半年以上受け継がれると、あるとき100%の鶏が死ぬことで気づく。
 陸鳥と水鳥を一緒に飼っているところは、生鳥市場。

・高病原性鳥インフルエンザウイルス「H5」と「H7」
 このH5とH7に限って、鶏から鶏に継代されているうちに、一つずつ塩基性のアミノ酸がHAに挿入変異を起こす。その中で全身感染するものが出現し、鶏集団のなかで全身感染して激しく増えるウイルスが選ばれ、優勢になっていく。
 今、このH5N1高病原性鳥インフルエンザが逆コースをたどって野鳥に行ってしまい、野鳥が死ぬ事態が発生した。
 これは一大事である。
 この逆感染により62カ国にウイルスが広がってしまった(トップ4は中国、ベトナム、インド、エジプト)。
 H5N1に感染した水鳥が着たに飛んでいって、ウイルスが北の営巣湖沼に持ち込まれたら、そこで他の野鳥に広がって、秋になるまでそれが野鳥の間で受け継がれたら、秋に高病原性鳥インフルエンザをカモが持ってくることになる。
 2010年10月にシベリアから元気に飛んできたカモからH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離された。このウイルスは、その前の年の春先にモンゴルで分離されたウイルスと同じ。だから、北の営巣湖沼に行ってカモからカモに受け継がれ、それが秋に日本にも持ち込まれたということになる。

・鶏へのワクチン接種は高病原性鳥インフルエンザ対策にならない
 ワクチンは元々感染を防ぐためではなく、重症化だとか死亡だとか発症を抑える免疫を誘導するのが目的であり、感染を防ぐ免疫は誘導しない。
 ワクチンを接種された鶏は、感染しても症状を出さないために感染源になる。
 ワクチンを使った結果、見えない流行が広がる。
 正しい対策はワクチンを使わず、移動制限と消毒を徹底することである(摘発淘汰)。
 鳥インフルエンザ対策の基本は、鳥インフルエンザを家禽だけにとどめ、野鳥に逆感染させないことである。

・パンデミックが始まったら、早めに罹ってしまった方がよい?
 こうコメントしたら「不謹慎発言」だとお叱りを受けた(心の中で「だって本当だもん」と答えた)。
 その主旨は、人々にH7HAに対する免疫がないので、伝播性は高いが、初期は個々のヒトに対する病原性は低い。これがヒトからヒトに感染を繰り返すうちに、ヒトの体内で増殖力が高いウイルス(=病原性が強い)が優勢になる。すなわち、このウイルスが季節性インフルエンザを起こすまでにワクチンを用意すればよいことになる。



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「自然炎症」の基礎

2017年03月11日 15時15分00秒 | 感染症
 引き続き「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、講談社ブルーバックス、2014年発行)より。

 「自然炎症」
 ・・・微妙なネーミングです。
 よいものか、わるいものか、どっちなの?
 でもこの言葉、まさに「旬」なのです。

 免疫システムは外来の病原体を異物と認識してそれを排除しようとする波状攻撃。
 しかし、認識する対象は病原体だけではなく、例外的に自己成分も認識することがあり、これが元になって「自然炎症」という病態を形成するらしいの。
 この考え方により、今まで不明だった病気のメカニズムが次々と判明し、さらに治療に結びつく可能性があると考えられ、現在盛んに研究されています。

【備忘録】

・「自然炎症」の登場
 TLRが病原体に共通する特定の成分を認識していることがわかり、自然免疫に対する見方が180度変わったのは21世紀直前のことだった。
 しかし、さらにその先があった。
 TLRなどのPRRs(パターン認識受容体)が認識する成分は、病原体由来のモノだけではなく、私たちの体の自己成分の一部(内在性リガンド)を認識することがわかってきた。内在性リガンドの登場により、免疫研究の様相は一変したと言っても過言ではない。
 そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内在性リガンドを認識して活性化し、炎症を起こすことになる。病原体が引き起こす炎症に対して、病原体が関わらないこの炎症を「自然炎症」という。

・アポトーシスとネクローシス
 体の中で細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。
1.アポトーシス:
 細胞膜に包まれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。
2.ネクローシス:
 細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。

 アポトーシスで細胞が死んだのであれば、DNAやRNAなどはすぐに分解されてしまうので、食細胞のPRRsが感知することはない。しかし、ネクローシスで細胞が死んだ場合、それも大量に死んだ場合は、分解されない大量のDNA、RNAなどが食細胞のPRRsまでたどり着いてしまう。こうして食細胞は活性化して炎症が起こる。
 自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりとわかっていないが、組織の修復に関わっているという考えが有力だ。
 今、自然炎症に注目が集まっているのは、自然炎症がさまざまな疾患(痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、糖尿病など)の原因になっている可能性が出てきたからだ。
 
・痛風はマクロファージが起こす自然炎症だった
 原因となる尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶化して関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こる。
 細胞内PRRsのひとつにNLRP3がある。NLR(ノッド様受容体)の仲間で、NLRP3が病原体の感染によるストレスを感知すると、インターロイキン1β(IL1β)という強い炎症を起こす作用のあるサイトカインが放出される。
 食細胞の細胞質にはNLRP3があり、食細胞が尿酸結晶を取り込むと、細胞が刺激されてIL1βが放出される。痛風の炎症はこうして放出されるIL1βが起こしていたのである。

 食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する
  ↓
 SIRT2という酵素の働きが低下する
  ↓
 細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子が付く
  ↓
 損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する
  ↓
 小胞体のNLRP3とミトコンドリアが持つ部品ASCが揃い、さらにカスパーゼという部品も加わって複合体(インフラマソーム)が組み上がる
  ↓
 インフラマソームはIL1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する
  ↓
 強い炎症が起こり激痛が走る

 痛風の特効薬としてしられるコルヒチンは、微小管を壊すことでミトコンドリアを移動させず、IL1βの放出を阻止することがわかった(しかし細胞内輸送を担う微小管を壊してしまうことによる副作用もある)。

・NLRP3
 痛風で注目されたNLRP3は尿酸だけでなく、結晶のような構造をとる物質を食細胞が取り込んだときに活性化し、炎症を起こすことがわかってきた。
(例)アスベスト(石綿)→ 塵肺、シリカ→ 珪肺
 脳に沈着したβアミロイド繊維も炎症を起こしてアルツハイマー病を引き起こすと考えられている。脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫の働きをしており、βアミロイド繊維を食べたミクログリアからは同じようにIL1βが放出され、炎症が起これば脳神経細胞が失われる。
 コレステロールも結晶化するので、血中の食細胞が食べて同じようにIL1βが放出され、こうしておこる炎症が動脈硬化の原因ではないかと考えられている。
 一般的に、どのような物質であれ、体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残ってしまう。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され、どんどん炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化させてしまうのである。



“Microtubule-driven spatial mitochondria arrangement promotes NLRP3-inflammasome activation”
邦文タイトル:「微小管を介したミトコンドリアの空間配置調節は NLRP3 インフラマソームの活性化を促進する」雑誌:Nature Immunology
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「腸管免疫」の基礎

2017年03月11日 08時08分48秒 | 感染症
 ふたたび、前出「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、2014年、講談社ブルーバックス)より抜粋です。
 スルーしようとしましたが、ワクチンには「粘膜免疫」の知識が欠かせないことがわかりましたのですから(^^;)。

 腸管免疫のポイントは、

・「経口免疫寛容」といって、入ってきた異物をすべで排除するのではなく、異物なのに人畜無害と判断するとスルー(見て見ぬ振り)するという高度な仕分け作業ができること。
・産生される抗体がIgAであり、全身の粘膜にばらまかれて病原体の侵入を防ぐこと


 でしょうか。
 その特殊性、複雑さを知るたびに、人間の免疫システムの奥深さを実感させられます。

【備忘録】
※ わかりやすいイラストはこちらから拝借:「粘膜バリア〜病原体と戦うシステム」手塚 裕之、東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野

・腸管には、体全体の免疫細胞の50%以上が存在する。

・全身免疫と腸管免疫の決定的な違い
<全身免疫> 異物を有害なものとして排除することが基本
<腸管免疫> 有害な異物は排除するが、無害な異物は見て見ぬふりをする

・・・この「見て見ぬふりをする」という表現がたまりませんねえ(^^;)。





・M細胞とパイエル板
 小腸粘膜にはM細胞が分布する台地状の部位が点在し、その台地の下にパイエル板というリンパ組織が存在、パイエル板には樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいる。
 M細胞は特殊な受容体を腸管内に出していて、食物と一緒に流れてきた細菌やウイルスをくっつけてポケットに取り込み、ポケットでは樹状細胞が待ち構えていて、取り込まれた細菌やウイルスを受け渡され、免疫応答が始まる。樹状細胞はパイエル板のナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行い、活性化したヘルパーT細胞が誕生、このときパイエル板のナイーブB細胞も独自にB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて少し活性化していて、活性化ヘルパーT細胞との相互作用により完全に活性化し、クラススイッチ、親和性成熟を経て、プラズマ細胞の前駆細胞へと分化する。





・プラズマ細胞の旅と帰還(ホーミング)
 プラズマ細胞の前駆細胞は、パイエル板からリンパ管経由で出ていって血流に乗り、再び腸に戻ってきてプラズマ細胞と成、IgAを腸内に向けて放出するようになる。
 どうせ腸管に戻ってくるなら、なぜ全身を巡る必要があるのかと思われるかもしれないが、これには意味がある。
 パイエル板を出たプラズマ細胞の前駆細胞は、腸管の他に鼻や喉、肺の気管支、生殖器など、体中の粘膜に辿り着いてプラズマ細胞となる。腸管でキャッチした病原体は体中の粘膜から侵入する可能性があるので、まんべんなく配置して水際で阻止すると云うことであり、腸管免疫が粘膜免疫とも呼ばれる所以である。



・IgGではなくIgA
 腸管免疫が全身免疫と異なるのは、最終的な抗体のクラスがIgAであること。活性化B細胞の抗体のクラスが、IgMから、IgGでもIgEでもなく、IgAにクラススイッチすることがパイエル板での免疫応答に特徴的である。その仕組みはまだよくわかっていない。
 腸の表面には厚い粘液層があって、その粘液層にIgAが溶け込んでいる。IgAは抗原特異的に細菌やウイルスなどの病原体にくっつき、中和作用により機能を停止させ、病原体ともども体外に排出される。
 IgAにはオプソニン化作用がないので、食細胞の食欲をむやみに増すことがない。もしオプソニン化作用があったら、食細胞がどんどん寄ってきてすぐに炎症騒ぎになってしまう。間断なくIgAが放出されている腸管において、無用の炎症を起こさないことは重要である。

・経口免疫寛容
 口から入ってくるたんぱく質に対しては、免疫反応が抑えられる現象。
 食物に含まれるたんぱく質は、私たちにとって異物であり抗原性があるが、経口免疫寛容のおかげで生きている(経口免疫寛容のしくみはよくわかっていない)。
 経口免疫寛容が成立しているたんぱく質に対しては、口からの摂取でなくても免疫反応が起きない。ウルシ職人が手のかぶれを避けるために、少量のウルシを食べるという話は有名である。

・腸内細菌が免疫に関与
 無菌マウスでは経口免疫寛容が成立しない。
 腸管の粘膜固有層には、17型の活性化ヘルパーT細胞が圧倒的に多い。活性化17型ヘルパーT細胞への分化を強く促しているのが特定の腸内細菌であることが突きとめられた(セグメント細菌)。セグメント細菌がなんらかの関わりを持つことで、ナイーブヘルパーT細胞から誘導される抗原特異的な活性化ヘルパーT細胞のタイプが、1型や2型ではなく17型になっている。
 活性化17型ヘルパーT細胞は、好中球を集積したり、抗菌ペプチドの分泌を促進したりすることを特徴とする、細胞外細菌向けの活性化ヘルパーT細胞である。
 さらに、ナイーブヘルパーT細胞ぁら制御性T細胞への分化に、特定の腸内細菌が関わっていることも突きとめられた(クロストリジア属の第46株)。この細菌は主に大腸に存在し、大腸における制御性T細胞への分化に重要な役割を果たしている。
 活性化17型ヘルパーT細胞は腸管免疫のアクセル、制御性T細胞は腸管免疫のブレーキとも言える。アクセル・ブレーキとも、腸内細菌の影響下にあることが明らかになった。
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インフルエンザワクチンが乳幼児に効かない理由がわかりました。

2017年03月10日 07時11分40秒 | 予防接種
 予防接種のことを調べていたら、テーマのことを発見!
 もっと早く教えてよう、と云いたい。

 キーワードは「アジュバント」。
 この有無で、ワクチンの効果が左右されるというのです。
 そして現行のインフルエンザワクチン(HAワクチン、スプリットワクチン)はアジュバントがないので、初期免疫が得られず、つまりまだインフルエンザに罹ったことのない乳幼児には理論的に無効ということ(T_T)。
 すでに何回かインフルエンザに罹った年長児以降では、追加免疫効果(ブースター効果)を期待できますので、毎年接種してください。


(「次世代ワクチンの方向性」青枝 大貴,石井 健)


 上図は自然感染とワクチン接種により発生する獲得免疫の違いを示したものです。
 図中の「PAMPs, DAMPs」って何?




 う〜ん、わかったようなわからないような・・・。

 さて、下図は“インフルエンザワクチンが効かない理由”を解説したシェーマです。いろんな細胞や物質名がちりばめられていますね(T_T)。
 「インフルエンザ自然感染」「不活化全粒子ワクチン」「スプリットHAワクチン」が引き起こす免疫反応の流れを示し、現在日本で使用中のスプリットHAワクチンは初期免疫を誘導できないことを説明しています。
 「ワクチンで局所が腫れたり、熱が出たりするのは自然免疫にスイッチが入った証拠である」という文章を目にしたことがあります。
 インフルエンザワクチンはその昔全粒子ワクチンであった時代は、現在より局所の腫れや発熱が多かったと聞いています。それを少なくかつ軽くするために開発されたのがスプリットHAワクチンなのでした。
 結果的に、副反応の少なさを求める余り、効果が犠牲になってしまったのですね。
 
 でも、2009年の新型インフルエンザ(H1N1pdm2009)流行時には外国からアジュバント入りのインフルエンザワクチンが輸入された経緯があります。
 当然、副反応は日本で使用されているスプリットHAワクチンより強い(効果も強いのですが)。
 新型インフルエンザが予想より重症化しないことが判明したので、日本人は輸入ワクチンを使用せずに破棄しました。
 つまり、日本人は効かないワクチンを選んだのです。


(「インフルエンザワクチンの作用メカニズムを解明」大阪大学免疫学フロンティア研究センターより)


 ちなみに、ワクチンの種類と免疫持続期間をまとめた表を見つけましたので引用;



 これを理解するには免疫学の知識が必要です。
 というわけで、前項の免疫学入門書を読む羽目になったのでした。
 ほかにもわかりやすかった免疫学の基礎(NHK高校講座:生物基礎);
自然免疫」「適応免疫-1」「適応免疫-2

・・・高校生でもこれだけ知っているんだ、と焦ってしまう内容でした(^^;)。
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「新しい免疫入門〜自然免疫から自然炎症まで」(審良静男/黒崎知博著)

2017年03月08日 15時14分19秒 | 感染症
2014年発行、講談社ブルーバックス

予防接種/ワクチンのことを調べていたら、「アジュバント」というキーワードができてました。
その有無がワクチンの効果に大きく影響すると。
しかし、フローチャートを見ても、知らない物質の羅列で理解不能状態。
・・・TLR、PAMPs、DAMPs、リガンド、etc。

どうやら、私が学生時代に勉強した「免疫学」はもう古いらしい。
知識のアップデートに適当な入門書はないか探しているときに見つけたのが本書です。

著者の審良静男(あきらしずお)Dr.はトル様受容体(TLR)発見の功績でノーベル賞候補にもなった大阪大学の教授。
「自然免疫応答」で検索すると、彼の名前がたくさんヒットします。

さて、一読してみると、私の知りたいことが網羅された内容で、どストライクな本でした。
著者の云いたいことは「20世紀までは獲得免疫が免疫学の中心であり、21世紀に入ると獲得免疫に加えて自然免疫も重要視されるようになった。そして今、免疫と炎症が大きな学問分野を形成しようとしている。」

と同時に、著者の免疫学に対する“愛”を感じました(^^)。
免疫細胞を擬人化したり・・・文章もわかりやすく好感の持てる本。
ただ、専門用語がたくさん出てくるので、一般の方が読破するには集中力と少しの執念が必要かな。
一気に読み進めないと頭の中でいろんな細胞が絡み合って収拾が付かなくなります(^^;)。

自然免疫〜獲得免疫システムがp87に要約されてますので一部抜粋:

侵入した病原体に、まず食細胞が対応する。
食細胞は病原体を認識して活性化する。
食細胞だけで手に負えないようなら、仲間の樹状細胞が抗原提示のためリンパ節に向かい、抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
平行してナイーブB細胞がB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて、先に誕生した活性化ヘルパーT細胞に抗原提示する。
活性化したヘルパーT細胞は抗原特異的にB細胞を活性化し、活性化B細胞はプラズマ細胞となって抗体を作り放出する。
抗体による中和作用が働き、病原体が排除されていく。
末梢に出ていった活性化ヘルパーT細胞は食細胞を活性化し食細胞は最強になっているところでオプソニン化(抗原に抗体がくっついて食細胞の食欲をそそること)が生じる。

・・・以上のように、免疫システムは最初に自然免疫が対応した後に獲得免疫が始動するという単純なものではなく、自然免疫と獲得免疫は相互にかつ複雑に助け合って病原体を排除している。そして最後を締めくくるのは自然免疫である。



【備忘録】
※ イラスト/シェーマは本から引用できないので、類似の物を他から拝借しました(^^;)。

・自然免疫とは
生体防御の最前線で病原体を食べてやっつける食細胞の働きは「自然免疫」と呼ばれている。自然免疫は、下等動物から高等動物まで共通に持つ基本的な免疫の仕組みで、主として食細胞が担当している。
 食細胞(マクロファージ/好中球/樹状細胞)は「相手かまわず何でも食べるだけの原始的な細胞」ではなく、その一部は「免疫の司令塔」の役割を担う大切な細胞である。

・食細胞の活性化とサイトカイン放出
 食細胞が病原体を食べると活性化(消化能力/殺菌能力アップ)し、警報物質(サイトカイン)を放出する。サイトカインには、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、TNF、ケモカインなどのグループがある。
 ケモカインは仲間の免疫細胞を呼び寄せ、呼ばれた食細胞は現場に駆けつける。
 ケモカイン以外のサイトカインは、主として周囲の食細胞の活性化を促す(気合いを入れる)。
 サイトカインの作用により、病原体が侵入した現場には、食細胞が続々と応援に駆けつけて活性化する(炎症)。
 最初に立ちはだかるのはマクロファージで、真っ先に応援に駆けつけるのが好中球、応援のマクロファージは少し遅れて駆けつける。
 好中球は数が多く、強い殺菌作用を持っており、働き出すとマクロファージより強力だが、寿命は2-3日と短い。

・トル様受容体(TLR,Toll-like receptor)とは
 食細胞は病原体を感知するセンサーを持っていて、食べた相手が病原体かそうでないかを認識している(この発見で2011年のノーベル生理学・医学賞受賞)。そのセンサーはトル様受容体(TLR)といい、これに特定の物質(リガンド)が結合することにより細胞内でシグナルが伝わり反応が起きる。
 TLR9は病原体のDNAのCpG配列を認識するが、自己のDNAと病原体のDNAを区別できる。これは、人のCpG配列は「メチル化」されているが、病原体のCpG配列はメチル化されていないからである。





・TLR以外の受容体
RLR(RIG-I like receptor):リグアイ(RiG-I)様受容体。細胞質中に存在し、ウイルスのRNAを認識する。
CLR(C-type Lectin receptor):Cタイプレクチン受容体。細胞膜に存在し、真菌の細胞壁を構成する糖鎖を認識する。
NLR(NOD like receptor):ノッド(NOD)様受容体。細胞質中に存在し、細菌やウイルスの成分を認識する。
cGAS:受容体ではなく酵素。細胞質中に存在し、細菌やDNAウイルスのDNAを認識する。
TLR、RLR、CLR、NLRなどを総称してパターン認識受容体と呼ぶ。食細胞はパターン認識受容体を使って、食べた相手が所属するチームのユニフォームを認識していると考えるとわかりやすい。相手の個人名まではわからないが、チーム名ならわかるというレベル。


( 「自然免疫とウイルス感染」北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野 髙岡晃教Dr. より)


・樹状細胞は食細胞でもあり「免疫の司令塔」でもある
樹状細胞は食細胞ではあるが戦いの前線にはあまりいない。少し引っ込んだところにいて、戦いが局地戦で終わってしまいそうなときは出番がない。自然免疫だけで病原体を退治できそうにないときが、樹状細胞の出番である。樹状細胞は獲得免疫を始動する役割を担っている。
 樹状細胞のもともとの姿はマクロファージとそれほど変わらない。基本的には食細胞としてマクロファージや好中球と同様の働きをしており、パターン認識受容体で病原体を大づかみに認識できる。そのうえ「抗原提示」能力が著しく高いので「免疫の司令塔」としてがぜん注目を浴びる存在となった。

・自然免疫と獲得免疫
 自然免疫は、食細胞が相手構わず何でも食べて、その結果進入した病原体も食べてしまうシステム。しかし全ての病原体の撃退は難しく、人体は次のステップとして病原体をピンポイントで強力に叩く「獲得免疫」を備えるようになった。
 生まれた後、抗原(獲得免疫のターゲット:細菌、ウイルス、真菌、細菌が出す毒素、細菌が死んで出す毒素など)の刺激を受けて初めて獲得される免疫という意味である。
 獲得免疫は「抗原特異的」(抗原に対して個別にピンポイントで対応)である。

・樹状細胞の働き
 抗原となる病原体を取り込んだ樹状細胞は活性化し、細胞内の酵素の力で、病原体の体を構成するたんぱく質をペプチドとよばれる断片にまで分解する。一つのたんぱく質分子は会い量のアミノ酸が何千個、何万個とつながったもので、それが分解されてアミノ酸が2個以上の断片になった物をペプチドと呼ぶ。
 一部のペプチドはMHC(Major histocompatibility complex)クラスIIという分子と結合して細胞の表面に提示される。病原体をまるごと提示するのではなく、病原体のたんぱく質を断片化したペプチドを提示するのがポイントである。
 病原体を食べて活性化した樹状細胞はもよりのリンパ節へ移動する。活性化した樹状細胞は数日しか生きられない。なにかを食べることも一切やめ、確実に訪れる士の足音を聞きながら、抗原提示のためにリンパ節へと急ぐ。
 抗原提示の相手は「ナイーブT細胞」である。

※ T細胞は大きく二つに分けられる;
ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)
キラーT細胞(CD8陽性T細胞)
・・・まだ抗原に出会ったことがないものをナイーブT細胞と呼ぶ。
 MHCクラスII分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブヘルパーT細胞
 MHCクラスⅠ分子を介した抗原提示の相手は、ナイーブキラーT細胞


・ナイーブヘルパーT細胞
 その表面にT細胞抗原認識受容体を持っており、これが樹状細胞の表面に提示された「MHCクラスII+抗原ペプチド」と結合する。
 T細胞抗原認識受容体は、ほとんどのナイーブヘルパーT細胞で異なる形状をしていて、その種類は全部で1000億以上もある。一方、同じ形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は数えるほどしかおらず、全身で100個程度。なお、一つのナイーブヘルパーT細胞の表面には1種類のT細胞抗原認識受容体しか発現しておらず、たくさんあっても皆同じ形状である。
 ポイント二つ;
1.T細胞抗原認識受容体の形状は1000億種類以上もあるので、樹状細胞がどのような病原体を食べたとしても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞が必ずいる可能性が高い。
2.樹状細胞が自己細胞の死骸を食べても、それにピタッとくっつくT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞はほとんどいない。

・補助刺激分子、CD80/86、CD28
 ナイーブヘルパーT細胞の活性化には「MHCクラスII+抗原ペプチド」とそれに合うT細胞抗原認識受容体だけでは足りない。補助刺激分子と呼ばれる、樹状細胞のCD80/86とナイーブヘルパーT細胞のCD28の結合、さらには活性化した樹状細胞から放出されるサイトカインが必要である。
<まとめ>
 ナイーブヘルパーT細胞が正常に活性化されるために必要なことは次の3点:
1.T細胞抗原認識受容体が樹状細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(樹状細胞:ナイーブヘルパーT細胞=CD80/86:CD28)
3.サイトカイン
・・・1は獲得免疫の反応であるが、自然免疫のチェックの結果である2と3の条件が揃わないと、ナイーブヘルパーT細胞は活性化しない。活性化したヘルパーT細胞の誕生には、自然免疫と獲得免疫のダブルチェックが必要なのである。

・活性化したヘルパーT細胞の行方
 活性化したヘルパーT細胞は増殖をはじめる。ある形状のT細胞抗原認識受容体をもつナイーブヘルパーT細胞は全身で100個ほどしかないが、合致する樹状細胞と出会うと1000〜10000倍に増える(一方で免疫の過剰反応を避けるために余命が設定される)。
 増殖した活性化したヘルパーT細胞の一部はリンパ節に残り、多くはリンパ節を出て末梢組織に向かう。
 末梢組織(感染の現場)では、病原体を食べて活性化し、MHCクラスII+抗原ペプチドを提示したマクロファージがたくさんいる(マクロファージも抗原提示能力があるが、樹状細胞に比べて低く、感染部からリンパ節への移動もほとんどできない。なお、好中球に抗原提示能力はない)。

・末梢組織での活性化したヘルパーT細胞と活性化したマクロファージの出会い;
 感染の現場にいた活性化マクロファージの表面に提示されたMHCクラスII+抗原ペプチドに、リンパ節からやってきた活性化したヘルパーT細胞が抗原特異的に結合する。さらにマクロファージ上の補助刺激分子CD80/86が活性化したヘルパーT細胞のCD28に結合して刺激を入れ、すると今度は活性化したヘルパーT細胞のCD40LがマクロファージのCD40に結合して刺激を入れる。
 その結果、活性化していたマクロファージはさらに活性化し、相当強力な消化能力と殺菌能力を手にする。
<まとめ> 
 マクロファージが活性化したヘルパーT細胞によりパワーアップされる3つの条件:
1.T細胞抗原認識受容体がマクロファージの「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく。
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン

・サッカーに例えれば、自然免疫でユニフォームを、獲得免疫で個人の顔を認識する
 食細胞はユニフォームを見て敵(病原体)か味方(自己)かを認識している。それに対してT細胞は、敵(病原体)とみなすべき無数の相手の「顔型」を備えて、相手の顔を認識している。そして、ユニフォームを見ても敵、顔を見ても敵である場合に限り、獲得免疫システムが始動する。

・B細胞は「抗原そのもの」を食べる
 B細胞はT細胞と異なり、ヘルパーとかキラーの種類はない。
 リンパ節にあるナイーブB細胞は、表面のB細胞抗原認識受容体にピタッとくっついた抗原を食べる。
 B細胞抗原認識受容体の形状は1000億個以上もあるので、どのような抗原が流れ着いたとしても、それにピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞が必ずいる可能性が高い。
 自己細胞の死骸がリンパ節に流れ着いた場合はピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつナイーブB細胞はほとんどいない。これはT細胞抗原認識受容体と同じであるが、大きな違いは、T細胞抗原認識受容体は「MHCクラスII+抗原ペプチド」とくっつくが、B細胞抗原認識受容体は「抗原そのもの」にくっつく点である。
 抗原を食べた後にB細胞がすることは樹状細胞と似ている。抗原を構成するたんぱく質を酵素の力でペプチドにまで分解し、MHCクラスII分子に乗せて細胞の表面に提示する。
 B細胞が抗原提示する相手は誰か? ・・・答えは(リンパ節に残っている)活性化ヘルパーT細胞である。
 抗原を食べた時点でB細胞抗原認識受容体から刺激が入り、B細胞は少しだけ活性化している。さらに完全に活性化するために活性化ヘルパーT細胞に出会いたいのだ。

・B細胞抗原認識受容体は抗体が細胞膜に発現したものである
 B細胞の役割は、B細胞抗原認識受容体にピタッとくっつく抗原の侵入を感知後、その抗原に対する抗体を大量生産して体中にばらまくこと。
 樹状細胞は自分が活性化して抗原提示を士、ナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
 一方、B細胞は少しだけ活性化した状態で抗原提示を士、活性化ヘルパーT細胞に完全に活性化してもらう。
 活性化ヘルパーT細胞によりB細胞が活性化されるための条件3つ:
1.T細胞抗原認識受容体がB細胞の「MHCクラスII+抗原ペプチド」にピタッとくっつく
2.補助刺激分子の結合(マクロファージ:活性化ヘルパーT細胞=「CD80/86:CD28」と「CD40:CD40L」)
3.サイトカイン
・・・これは樹状細胞がナイーブヘルパーT細胞を活性化したときと同じ構図である!

・B細胞とヘルパーT細胞は抗原の違うところを見ている
 B細胞抗原認識受容体は抗原そのもののどこか特定の構造を見ている。
 T細胞抗原認識受容体は抗原を構成するたんぱく質が分解されたペプチドとMHCクラスII分子のセットを見ているのであり、抗原そのものを直接見ているのではない。
 両者はまったく違うものを見ていながら、同じ抗原を認識している。

・活性化したB細胞はプラズマ細胞になる
 活性化したB細胞は増殖して数を増やし、「プラズマ細胞」と呼ばれる抗体産生細胞になる。一部はプラズマ細胞にならず「記憶B細胞」になる。
 活性化B細胞が、最終的にプラズマ細胞になって抗体を大量に放出するまでには、「親和性成熟」と「クラススイッチ」が必要である。

・B細胞の親和性成熟は突然変異による
 B細胞抗原認識受容体と抗原の結合力は弱〜強までさまざまである。親和性を増すためにワンステップが必要であり、それがB細胞抗原認識受容体の突然変異である。
 活性化B細胞は増殖して数を増やすときに、B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こす。
 結合力を判定するため、リンパ節には抗原(流れ着いた病原体の破片)のショーウインドウがある(濾胞樹状細胞:FDC, follicular dendritic cells)。
 B細胞抗原認識受容体の抗原結合部位に突然変異を起こしながら増えた活性化B細胞は、抗原のショーウインドウに行って判定を受ける。このとき、抗原にピタッとくっつくB細胞抗原認識受容体をもつ活性化B細胞だけが、プラズマ細胞(抗体産生細胞)になることを許される。

・B細胞のクラススイッチ
 抗体(免疫グロブリン:Ig, Immunoglobulin)のクラスが変わることをクラススイッチと呼ぶ。
 B細胞の細胞膜に発現している抗体はIgMであり、プラズマ細胞になったとき産生する抗体はIgGに変わっていることが多い。抗原に対する効果は圧倒的にIgG>IgMである。しかし最初はIgMでないと、B細胞がどうも上手く成長できないらしい。
 親和性成熟とクラススイッチを経て、活性化B細胞はプラズマ細胞(抗体産生細胞)になる。一部のプラズマ細胞は骨髄に移動し、大量の抗体(IgG)をつくって、体中に放出しはじめる。このとき、病原体の侵入からは1週間以上経っている。

・抗体(IgG)の働きは「中和」と「オプソニン化」
1.中和
[毒素の中和]・・・抗体が細菌毒素に結合すると毒素の形や性質が変わり、毒性がなくなる(受容体に結合したり、細胞に取り込まれたりしなくなる)。最終的には、抗体が毒素に結合したものを食細胞が食べて処理する。
[ウイルスの中和]・・・抗体がウイルスに結合すれば、ウイルスは細胞表面に上手く吸着できなくなり、もぐり込むこともできない。最終的には抗体がウイルスに結合したものを食細胞が食べて処理する。
2.オプソニン化
 IgGのY字形の根元のFc領域に、食細胞が表面に持っているFc受容体が結合する。すると、抗体を介して食細胞と抗原が結合する形になるので、食細胞は激しく抗原を食べるようになる。抗原にたくさん抗体が結合すれば、食細胞はたくさんの箇所で抗原と結合でき、食欲が増す。この作用を抗体によるオプソニン化という。

・細胞に感染したウイルス、細胞に寄生する細菌(クラミジアやリケッチア)の担当はキラーT細胞
 これらの病原体に対して、抗体は無力である。
 ヒトの体は感染した細胞をまるごと破壊する戦略をとった。担当するのはキラーT細胞である。
 樹状細胞が食べたものをMHCクラスⅠ分子のお皿に乗せてナイーブキラーT細胞に抗原提示する。
 抗原提示からナイーブキラーT細胞が活性化するまでの話は、ナイーブヘルパーT細胞が活性化するまでの話とほとんど同じであるが、2点だけ異なる。
1.ナイーブヘルパーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位が「MHCクラスII+抗原ペプチド」であるのに対し、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原認識受容体の結合部位は「MHCクラスⅠ+抗原ペプチド」である。
2.その活性化のために活性化ヘルパーT細胞がサイトカインを浴びせる。

・活性化キラーT細胞の活躍
 活性化したキラーT細胞は増殖して数を増やし、感染を起こしている組織に向かう。
 活性化キラーT細胞は2つの方法で感染細胞を破壊する;
1.特殊なたんぱく質を放出して感染細胞に穴を開ける。次にその穴から酵素を投入し、感染細胞にアポトーシス(細胞の自殺)を誘導する。
2.相手細胞が出しているアポトーシスのスイッチを直接押してアポトーシスを誘導する。
 以上のように感染細胞を木っ端微塵に破壊するのではなく、アポトーシスを起こさせることがポイントであり、アポトーシスを起こした細胞はまるごと食細胞が処理してくれる。

※ MHCクラスとそのお皿に載るペプチドの大きさの違い;
MHCクラスⅠ分子にのるペプチドはアミノ酸が8-11個くらい。
MHCクラスII分子に載るペプチドは10-30個くらい。


・NK(ナチュラルキラー)細胞
 キラーT細胞の働きを補完する自然免疫細胞。
 NK細胞は次の2つの条件が揃ったときに相手の細胞を破壊する;
1.病原体の感染をTLRなどが完治したり、あるいは病原体のタンパク質合成のために細胞にストレスがかかったりして、細胞の表面にCD80/86やNKG2Dリガンドなどが出ている。
2.病原体が邪魔をして、MHCクラスI分子が細胞の表面に出ていない。
 NK細胞が感染細胞を破壊する方法は2つあり、これらはキラーT細胞と同じである(どちらも感染細胞にアポトーシスを誘導する)。

・ヘルパーT細胞は3種類(1型/2型/17型)ある
1型:ウイルスと細胞内寄生細菌の排除
2型:寄生虫の排除
17型:細胞外細菌と真菌の排除
に働く。

[1型]
3つのことを行う:
1.末梢組織に行って、抗原特異的にマクロファージをさらに活性化する。
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。
3.ナイーブキラーT細胞が活性化するのを助ける。
・・・活性化1型ヘルパーT細胞を起点とする免疫反応は、最終的に食細胞や活性化キラーT細胞、NK細胞が中心となりッ病原体の排除にあたる。そのため「細胞性免疫」と呼ばれる。

[2型]
3つのことを行う:
1.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgGを放出させる。 → 「中和」「オプソニン化」
2.抗原特異的にB細胞を活性化し、IgEを放出させる。 → マスト細胞(肥満細胞)の表面に結合する。寄生虫の排除の役割があるが、その誤作動がアレルギー疾患である。
3.好酸球を活性化する。 → これも寄生虫の排除の役割。
・・・活性化2型ヘルパーT細胞を起点とした免疫応答は、ほとんどの場面で抗体が関わっており、抗体が体液中に溶け込んでいることから「液性免疫」あるいは「体液性免疫」と呼ばれる。

[17型](21世紀に入ってから見つかった)
末梢組織に行ってサイトカインを放出し、ケモカインの発言を誘導して好中球を集積させる。
活性化17型ヘルパーT細胞のサイトカインは、腸管の上皮細胞に働いて、細菌に対する防御物質である抗菌ぺくちどを腸管内に向けて放出させる。

・3種類のヘルパーT細胞の働きはオーバーラップする
 ウイルス感染の場合、感染細胞を排除する活性化したキラーT細胞が出動するには1型を起点とする免疫反応が必要、しかし細胞から飛び出したウイルスを中和する抗体を放出するには2型を起点とする免疫応答も必要である。
 17型がまだ発見されていなかった頃は、1型と2型のバランスで全てが説明されていた。1型に偏りすぎると自己免疫疾患が発症し、2型に偏りすぎるとアレルギーを発症すると言われていた。17型の発見により、バランス理論で説明されていた疾患の多くが17型の亢進で説明可能となり、バランス理論は衰退しつつある。

・制御性T細胞
 坂口志文らにより発見された。
 自己反応性のナイーブT細胞と競合的に働いて反応を抑制する細胞。
 制御性T細胞はCD4陽性のT細胞であり、競合する相手はCD4陽性のナイーブヘルパーT細胞とCD8陽性のナイーブキラーT細胞である。制御性T細胞はCD4陽性T細胞全体のおよそ10%を占める。
 制御性T細胞は自己抗原(「MHCクラスII+自己ペプチド」)に対する結合力が強い。
 制御性T細胞は自己抗原に結合するだけでなく、免疫応答を抑制的にコントロールする働きを持っている。制御性T細胞表面のCTLA4という分子は、活性化した樹状細胞が出している補助刺激分子CD80/86に非常に強く結合し、樹状細胞に対して抑制性のシグナルを送る。すると樹状細胞の表面での補助刺激分子の発言が減るので、自己反応性でないナイーブT細胞の活性化も抑えられる。さらに制御性T細胞はIL2と強く結合する受容体を発現しており、活性化T細胞の誘導に必須のIL2を競合的に奪い取ってしまう場合もある。
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