画面の映像は、時折稲光のように白い光が瞬間的に明滅を繰り返している。一体何を、と麗夢は改めて問いかけようとしたその時、暗い画面に、突然鮮やかな色彩が浮き上がった。
「し、シェリーちゃん!」
麗夢も、まさかここでシェリーの姿を見せられるとは思わなかった。
仰天して食い入るように見る映像の中で、シェリーの輝くばかりな笑顔がアップになる。まるで今自分に笑いかけてきているようだ。
「ど、どうしてシェリーちゃんが出てくるの?」
麗夢は正面を向き直って佐緒里に言った。すると佐緒里は、感情が欠落した目でまっすぐ麗夢を見つめながら、小さく口を開いた。
「私は発見した」
「な、何を?」
恐る恐る問う麗夢に、佐緒里は答えた。
「私を完成させる因子。解けなかった全てを手に入れる鍵」
そうして再び映像に目を向ける。麗夢もつられてシェリーの笑顔をもう一度見た。今度は少し映像が引いて、シェリーの上半身が映っている。どうやら映像の中のシェリーは、浴衣を纏っている様だった。どこで手にしたのか、ピンクがかった大きな綿菓子を右手に持っている。左手の指には、輪ゴムで口を縛った、色鮮やかなリンゴほどの大きさのゴム風船がぶら下がっているようだ。それはまるで、どこかのお祭りか縁日をそぞろ歩いているかのような光景だった。
と、すっと映像の右端が肌色にぼけた。ぼけはシェリーに近づくに連れ焦点が合い、可愛らしい手であることが判った。その手がシェリーの頬に到達し、何かをつまみ上げて再び戻る。触れた瞬間、シェリーがいかにも「え?」と思わず声を出したかのように驚いた表情を見せ、すぐにまた少し頬を染めて明るい笑顔に戻った。
……一体これはなんの映像なのだろうか?
麗夢はふと思いついた考えに悪寒めいたものを感じつつ、目の前の佐緒里に問いただした。
「あなた達、『繋がって』いるの?」
すると佐緒里は、また麗夢に視線を戻して、幽かに頷いて見せた。
「あのデバイスの主目的は、私が完成するための因子を探し求めること。そしてそれは発見された。マスターの求めた究極の存在になるために解かねばならぬ謎の答えが、あそこにある」
「シェリーちゃんをどうするつもり?」
「私の完成因子として私に加える」
「つまりどういうことよ」
「有機体としての活動は停止するだろう。だが、その存在は私の中に移される。無くなりはしない」
麗夢は思わずぎりっと奥歯を噛み締めた。やはり、ROMはROMでしかなかった。真野昇造は失敗したのだ。バグは修正されることの無いまま、得物を求めるための肉体を得てしまった。
麗夢はわき上がる怒りを視線に込めて、無表情の佐緒里を睨み付けた。
「シェリーちゃんに指一本触れてご覧なさい! 絶対に許さないわよ!」
佐緒里=ROMはただ黙して麗夢を見返すばかりである。麗夢は銃をゆっくりと構えると、銃口をまっすぐ佐緒里に向けた。
「今すぐ馬鹿な真似は止めなさい。いくらあなたが望んでも、あなたには手に入らない。命の大切さを理解できていないあなたに、屋代修一が夢見た完成の時は絶対に訪れないわ!」
「お前に止めることは出来ない」
冷たい目に妖しい光が宿った瞬間、麗夢は躊躇いなく引き金を引いた。
夢世界を震撼させる、重厚な炸裂音が迸った。同時に佐緒里=ROMの夢を、先端に十字の切れ込みを入れた聖なる銀弾が超高速で貫いていく。だが、魔を退ける力の象徴も、佐緒里=ROMにはなんの意味も持たないようだった。続けざまに撃ち込んだ三発の弾丸は、そのまま佐緒里=ROMの肉体に吸い込まれ、エネルギー保存則がねじ曲げられたように、佐緒里=ROMの足元にぱらりと堕ちて散らばった。
「お前を私の計画の障碍として認証する」
佐緒里=ROMの宣言は、そのままセキュリティーシステムの起動キーワードとなった。これまで、所在なげにその銃身を得手勝手な方向に向け、あるいは垂れ、あるいは跳ね上げしていたバルカン砲群が、突然全砲口を麗夢に向けるや、いきなり真っ赤な火を盛大に吐き出し始めたのである。麗夢の拳銃に数倍する轟音が夢世界を乱打し、薬莢の散乱する悲鳴じみた金属音が、和音を無視した耳障りな合唱をわめき立てる。鼻をつく硝煙臭がもうもうたる煙と共に辺りに満ち、秒間数十発の発射速度を誇る弾丸が、麗夢の柔らかな肉体をまさにすりつぶしたと思われたその時。
「はあああぁっ!」
気合いのこもった雄叫びが、砲声を圧して響き渡った。たちこめる硝煙を吹き飛ばす膨大なエネルギーの奔流が、真っ白な光を伴って夢世界を席巻した。佐緒里=ROMもさすがに目を細めて光の焦点を凝視したが、やがてその中心に現れた戦士の姿に、わずかな感情を揺り動かされたかに見えた。肩と膝のみ硬質のプロテクターで守る、防御よりも攻撃に徹したかのようなビキニスタイル。翻る碧の黒髪越しにかいま見えるティアラの中心に填め込まれた青い宝石。そこから発する光が、あらゆる魔を滅する清浄な輝きをきらめかせている。手にするは自らも光を迸らせる夢世界最強の破邪の剣。人の夢を守る光の戦士、ドリームガーディアンがここに降臨したのである。
「でやぁっ!」
一声鋭く発すると同時に、振り上げた剣が宙を瞬断する。一瞬遅れて刃先から生じた衝撃波が、間断無くそそがれる砲弾を蹴散らかし、背後のバルカン砲群に襲いかかった。
正面でまともに浴びた砲身が、異音を発して砕け散った。
左右の砲もあるいはひしゃげ、あるいはねじ曲げられて、瞬く間にスクラップへと変じていく。
かつてあれほど麗夢達を手こずらせたセキュリティーシステムも、夢の中では所詮ドリームガーディアンに敵う力ではなかったのである。ただ、佐緒里=ROMだけは、豊かな黒髪とワンピースをはためかせつつも、麗夢の放った衝撃波の奔流に耐えていた。麗夢は、静けさを取り戻した夢の中で、佐緒里=ROMに剣を向けた。
「もうあなたを守るものは何もないわ。観念してもらおうかしら?」
しかし、佐緒里=ROMは相変わらず無表情のまま、ぼそりと呟いた。
「障碍は排除する」
「し、シェリーちゃん!」
麗夢も、まさかここでシェリーの姿を見せられるとは思わなかった。
仰天して食い入るように見る映像の中で、シェリーの輝くばかりな笑顔がアップになる。まるで今自分に笑いかけてきているようだ。
「ど、どうしてシェリーちゃんが出てくるの?」
麗夢は正面を向き直って佐緒里に言った。すると佐緒里は、感情が欠落した目でまっすぐ麗夢を見つめながら、小さく口を開いた。
「私は発見した」
「な、何を?」
恐る恐る問う麗夢に、佐緒里は答えた。
「私を完成させる因子。解けなかった全てを手に入れる鍵」
そうして再び映像に目を向ける。麗夢もつられてシェリーの笑顔をもう一度見た。今度は少し映像が引いて、シェリーの上半身が映っている。どうやら映像の中のシェリーは、浴衣を纏っている様だった。どこで手にしたのか、ピンクがかった大きな綿菓子を右手に持っている。左手の指には、輪ゴムで口を縛った、色鮮やかなリンゴほどの大きさのゴム風船がぶら下がっているようだ。それはまるで、どこかのお祭りか縁日をそぞろ歩いているかのような光景だった。
と、すっと映像の右端が肌色にぼけた。ぼけはシェリーに近づくに連れ焦点が合い、可愛らしい手であることが判った。その手がシェリーの頬に到達し、何かをつまみ上げて再び戻る。触れた瞬間、シェリーがいかにも「え?」と思わず声を出したかのように驚いた表情を見せ、すぐにまた少し頬を染めて明るい笑顔に戻った。
……一体これはなんの映像なのだろうか?
麗夢はふと思いついた考えに悪寒めいたものを感じつつ、目の前の佐緒里に問いただした。
「あなた達、『繋がって』いるの?」
すると佐緒里は、また麗夢に視線を戻して、幽かに頷いて見せた。
「あのデバイスの主目的は、私が完成するための因子を探し求めること。そしてそれは発見された。マスターの求めた究極の存在になるために解かねばならぬ謎の答えが、あそこにある」
「シェリーちゃんをどうするつもり?」
「私の完成因子として私に加える」
「つまりどういうことよ」
「有機体としての活動は停止するだろう。だが、その存在は私の中に移される。無くなりはしない」
麗夢は思わずぎりっと奥歯を噛み締めた。やはり、ROMはROMでしかなかった。真野昇造は失敗したのだ。バグは修正されることの無いまま、得物を求めるための肉体を得てしまった。
麗夢はわき上がる怒りを視線に込めて、無表情の佐緒里を睨み付けた。
「シェリーちゃんに指一本触れてご覧なさい! 絶対に許さないわよ!」
佐緒里=ROMはただ黙して麗夢を見返すばかりである。麗夢は銃をゆっくりと構えると、銃口をまっすぐ佐緒里に向けた。
「今すぐ馬鹿な真似は止めなさい。いくらあなたが望んでも、あなたには手に入らない。命の大切さを理解できていないあなたに、屋代修一が夢見た完成の時は絶対に訪れないわ!」
「お前に止めることは出来ない」
冷たい目に妖しい光が宿った瞬間、麗夢は躊躇いなく引き金を引いた。
夢世界を震撼させる、重厚な炸裂音が迸った。同時に佐緒里=ROMの夢を、先端に十字の切れ込みを入れた聖なる銀弾が超高速で貫いていく。だが、魔を退ける力の象徴も、佐緒里=ROMにはなんの意味も持たないようだった。続けざまに撃ち込んだ三発の弾丸は、そのまま佐緒里=ROMの肉体に吸い込まれ、エネルギー保存則がねじ曲げられたように、佐緒里=ROMの足元にぱらりと堕ちて散らばった。
「お前を私の計画の障碍として認証する」
佐緒里=ROMの宣言は、そのままセキュリティーシステムの起動キーワードとなった。これまで、所在なげにその銃身を得手勝手な方向に向け、あるいは垂れ、あるいは跳ね上げしていたバルカン砲群が、突然全砲口を麗夢に向けるや、いきなり真っ赤な火を盛大に吐き出し始めたのである。麗夢の拳銃に数倍する轟音が夢世界を乱打し、薬莢の散乱する悲鳴じみた金属音が、和音を無視した耳障りな合唱をわめき立てる。鼻をつく硝煙臭がもうもうたる煙と共に辺りに満ち、秒間数十発の発射速度を誇る弾丸が、麗夢の柔らかな肉体をまさにすりつぶしたと思われたその時。
「はあああぁっ!」
気合いのこもった雄叫びが、砲声を圧して響き渡った。たちこめる硝煙を吹き飛ばす膨大なエネルギーの奔流が、真っ白な光を伴って夢世界を席巻した。佐緒里=ROMもさすがに目を細めて光の焦点を凝視したが、やがてその中心に現れた戦士の姿に、わずかな感情を揺り動かされたかに見えた。肩と膝のみ硬質のプロテクターで守る、防御よりも攻撃に徹したかのようなビキニスタイル。翻る碧の黒髪越しにかいま見えるティアラの中心に填め込まれた青い宝石。そこから発する光が、あらゆる魔を滅する清浄な輝きをきらめかせている。手にするは自らも光を迸らせる夢世界最強の破邪の剣。人の夢を守る光の戦士、ドリームガーディアンがここに降臨したのである。
「でやぁっ!」
一声鋭く発すると同時に、振り上げた剣が宙を瞬断する。一瞬遅れて刃先から生じた衝撃波が、間断無くそそがれる砲弾を蹴散らかし、背後のバルカン砲群に襲いかかった。
正面でまともに浴びた砲身が、異音を発して砕け散った。
左右の砲もあるいはひしゃげ、あるいはねじ曲げられて、瞬く間にスクラップへと変じていく。
かつてあれほど麗夢達を手こずらせたセキュリティーシステムも、夢の中では所詮ドリームガーディアンに敵う力ではなかったのである。ただ、佐緒里=ROMだけは、豊かな黒髪とワンピースをはためかせつつも、麗夢の放った衝撃波の奔流に耐えていた。麗夢は、静けさを取り戻した夢の中で、佐緒里=ROMに剣を向けた。
「もうあなたを守るものは何もないわ。観念してもらおうかしら?」
しかし、佐緒里=ROMは相変わらず無表情のまま、ぼそりと呟いた。
「障碍は排除する」