最後の男が、腰くだけにがくんと落ちた。
榊の先制攻撃から始まった1対10の乱闘劇は、ものの2分もかからぬ内に、圧倒的不利なはずの側の圧勝によって幕を閉じた。
真野昇造は、まだ信じられないという目を思い切り開いて、この光景を眺めている。
だが、榊を知るものならこの状態は寧ろ当然と言えた。警視庁きっての荒武者の異名をとり、単なる肉弾戦なら円光すら凌ぐかも知れない猛者なのである。多少武術を納め、筋肉を鍛えたくらいの男達では、何人束になろうが榊に敵うはずがなかった。
「さあ、貴方も早く避難した方がいい。魔物どもが直にやってくるぞ」
榊は脱ぎ捨てたコートを拾い上げると、呆然としたままの老人に言った。
正直、この2分程の間に夢魔達が襲ってこなかったのは、本当に僥倖だった。
榊はプジョーに歩み寄り、急いでここを離れようと考えた。この気絶した連中のことを考えても、自分達がここに長居するのは得策とは言えない。
しかし、榊の希望はまたも叶えられなかった。
プジョーのドアに手をかけようとした榊の背中が、凄まじい殺気に総毛立ったのである。
振り向いた榊は、自分を睨み付ける老人の姿を凝視した。
これまでついぞ覚えなかった威圧感をその視線に感じ、榊はドアから手を離すと、真野昇造にまっすぐ向き合った。
「佐緒里は、佐緒里は儂の孫なんじゃ!」
突然、真野昇造の身体が2倍に膨れ上がった。
腕も足も胸も、急激な膨張に衣服がついていけず、あちこちで裂け、引きちぎれていく。
顔も好々爺然とした皺だらけな肌が急激に張りを取り戻し、そのまま色までどす黒く変色していった。
手の爪が鋭く鉤状に伸び曲がり、耳元まで裂けた口に、鋭い牙が生え並ぶ。
それは、ここまで対峙してきた夢魔どもの姿に他ならなかった。
「真野さん、貴方夢魔に取り憑かれていたのか……」
血走った目が榊を見据え、大きく開いた真っ赤な口が、獰猛な唸りを奏でて榊を威圧した。
孫かわいさの余り、孫に憑いた夢魔に、自らも侵されてしまったのだろう。
もうそこには、孫を溺愛する老経営者の姿はどこにも残っていない。
榊はもの悲しげにすっかり変貌してしまったかつての老人に、ゆっくりと麗夢の拳銃を向けた。
「グギャァオゥッ!」
奇怪な咆哮を上げて、変わり果てた真野がまっすぐ突っ込んできた。
榊は充分近づいたところで、引き金を引いた。
榊の先制攻撃から始まった1対10の乱闘劇は、ものの2分もかからぬ内に、圧倒的不利なはずの側の圧勝によって幕を閉じた。
真野昇造は、まだ信じられないという目を思い切り開いて、この光景を眺めている。
だが、榊を知るものならこの状態は寧ろ当然と言えた。警視庁きっての荒武者の異名をとり、単なる肉弾戦なら円光すら凌ぐかも知れない猛者なのである。多少武術を納め、筋肉を鍛えたくらいの男達では、何人束になろうが榊に敵うはずがなかった。
「さあ、貴方も早く避難した方がいい。魔物どもが直にやってくるぞ」
榊は脱ぎ捨てたコートを拾い上げると、呆然としたままの老人に言った。
正直、この2分程の間に夢魔達が襲ってこなかったのは、本当に僥倖だった。
榊はプジョーに歩み寄り、急いでここを離れようと考えた。この気絶した連中のことを考えても、自分達がここに長居するのは得策とは言えない。
しかし、榊の希望はまたも叶えられなかった。
プジョーのドアに手をかけようとした榊の背中が、凄まじい殺気に総毛立ったのである。
振り向いた榊は、自分を睨み付ける老人の姿を凝視した。
これまでついぞ覚えなかった威圧感をその視線に感じ、榊はドアから手を離すと、真野昇造にまっすぐ向き合った。
「佐緒里は、佐緒里は儂の孫なんじゃ!」
突然、真野昇造の身体が2倍に膨れ上がった。
腕も足も胸も、急激な膨張に衣服がついていけず、あちこちで裂け、引きちぎれていく。
顔も好々爺然とした皺だらけな肌が急激に張りを取り戻し、そのまま色までどす黒く変色していった。
手の爪が鋭く鉤状に伸び曲がり、耳元まで裂けた口に、鋭い牙が生え並ぶ。
それは、ここまで対峙してきた夢魔どもの姿に他ならなかった。
「真野さん、貴方夢魔に取り憑かれていたのか……」
血走った目が榊を見据え、大きく開いた真っ赤な口が、獰猛な唸りを奏でて榊を威圧した。
孫かわいさの余り、孫に憑いた夢魔に、自らも侵されてしまったのだろう。
もうそこには、孫を溺愛する老経営者の姿はどこにも残っていない。
榊はもの悲しげにすっかり変貌してしまったかつての老人に、ゆっくりと麗夢の拳銃を向けた。
「グギャァオゥッ!」
奇怪な咆哮を上げて、変わり果てた真野がまっすぐ突っ込んできた。
榊は充分近づいたところで、引き金を引いた。
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