王室専用に用意された飛行機の中は、行きと違ってほとんど飛行機の中、という感じがしない、広々としたゆとりと快適さに満ちた空間だった。
ミラノから関西国際空港までもビジネスクラスだったから、まだ小さい私には充分すぎる広さの座席だったけど、こうして新しい荷物、いえ、荷物なんて言ったら失礼よね。新たな友人と言い換えましょう。その友人と共に坐るには、ビジネスクラスの座席では少々手狭だったろう。でも、この飛行機なら、悠々余裕を持ってお互い快適な場所を確保できる。
私は嬉々として、出発までの短い時間、長旅を少しでも心地よく過ごすために、毛布や枕の準備に余念がなかった。
「フロイライン・ケンプ、御加減はいかがかな?」
荷物を納め、座席の微調整をしていた私は、背後からかけられた声に思わず畏まった。
「こ、これは皇太子殿下! ご機嫌麗しゅう……」
するとカール殿下は、おじいちゃんと同様きれいに整えられた口ひげの下の口を柔和な笑みで満たしつつ、腰をかがめて私を見た。
「ははは、カールでいいよ。この狭い飛行機の中ではいやでも膝付き合わしていなければならない身の上だ。無礼講とまでは申さぬが、同じ飛行機に乗り合わせた仲間として振る舞ってくれたまえ」
「は、はい」
そうはいっても相手はヴィクター博士よりも年上の男性、その上皇太子殿下なのだ。私は何となく居心地が悪くて、黙りこくってしまった。殿下は、そんな私に微笑みながら、更に言葉を継いできた。
「フロイライン・ケンプ、いや、私をカールと呼べと言ったんだ、君のこともシェリーと呼ばせてもらうよ。いいね、シェリー」
「はい」
「実はシェリーにお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな?」
「な、何でしょう、殿下」
「カール」
「あ、か、カール……様」
返事もやっとの私だったが、名前で呼びあうことで、少しだけ気持ちがほぐれてきた。カール殿下も目を細めて、更に私に話しかけた。
「お願いというのは他でもない。この日本で体験した君の冒険を、是非とも聞かせてもらえないだろうか。かの国にいる間は、私も色々と公式行事や今回のアクシデントで忙しく、なかなか時間がとれなかった。だが、この機内なら何の気兼ねもないし、時間もたっぷりある」
すると、さっきまでぐっすり眠り込んでいた「友人」が、ぱっちりと目を覚ました。
「おや? お姫様はお目覚めのようだね」
カール殿下が、私が整えつつあったスーパーシートを覗き込んだ。すると「お姫様」と過分な言葉を頂いた「友人」は、急に顔を曇らせると、思い切りよく泣き出してしまった。
「あらあらあら」
私は殿下が側にいるのも忘れて、慌てて「友人」を抱き上げた。そんな私をほほえましくご覧になられた皇太子殿下は、邪魔をして申し訳ないと謝りつつ、奥のご自分の座席に向けて、優雅に歩いて行かれた。
「また後で、シェリーの冒険を聞かせてくれ。楽しみにしているよ」
「はい、カール様」
私は今度はしっかりと名前で返事しながら、少々手に余る「友人」とともに、ぺこりと頭を下げた。そして、ついこの間のめくるめく冒険の数々を思い出して、少しだけ感傷的な気分に浸っていた。
ミラノから関西国際空港までもビジネスクラスだったから、まだ小さい私には充分すぎる広さの座席だったけど、こうして新しい荷物、いえ、荷物なんて言ったら失礼よね。新たな友人と言い換えましょう。その友人と共に坐るには、ビジネスクラスの座席では少々手狭だったろう。でも、この飛行機なら、悠々余裕を持ってお互い快適な場所を確保できる。
私は嬉々として、出発までの短い時間、長旅を少しでも心地よく過ごすために、毛布や枕の準備に余念がなかった。
「フロイライン・ケンプ、御加減はいかがかな?」
荷物を納め、座席の微調整をしていた私は、背後からかけられた声に思わず畏まった。
「こ、これは皇太子殿下! ご機嫌麗しゅう……」
するとカール殿下は、おじいちゃんと同様きれいに整えられた口ひげの下の口を柔和な笑みで満たしつつ、腰をかがめて私を見た。
「ははは、カールでいいよ。この狭い飛行機の中ではいやでも膝付き合わしていなければならない身の上だ。無礼講とまでは申さぬが、同じ飛行機に乗り合わせた仲間として振る舞ってくれたまえ」
「は、はい」
そうはいっても相手はヴィクター博士よりも年上の男性、その上皇太子殿下なのだ。私は何となく居心地が悪くて、黙りこくってしまった。殿下は、そんな私に微笑みながら、更に言葉を継いできた。
「フロイライン・ケンプ、いや、私をカールと呼べと言ったんだ、君のこともシェリーと呼ばせてもらうよ。いいね、シェリー」
「はい」
「実はシェリーにお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな?」
「な、何でしょう、殿下」
「カール」
「あ、か、カール……様」
返事もやっとの私だったが、名前で呼びあうことで、少しだけ気持ちがほぐれてきた。カール殿下も目を細めて、更に私に話しかけた。
「お願いというのは他でもない。この日本で体験した君の冒険を、是非とも聞かせてもらえないだろうか。かの国にいる間は、私も色々と公式行事や今回のアクシデントで忙しく、なかなか時間がとれなかった。だが、この機内なら何の気兼ねもないし、時間もたっぷりある」
すると、さっきまでぐっすり眠り込んでいた「友人」が、ぱっちりと目を覚ました。
「おや? お姫様はお目覚めのようだね」
カール殿下が、私が整えつつあったスーパーシートを覗き込んだ。すると「お姫様」と過分な言葉を頂いた「友人」は、急に顔を曇らせると、思い切りよく泣き出してしまった。
「あらあらあら」
私は殿下が側にいるのも忘れて、慌てて「友人」を抱き上げた。そんな私をほほえましくご覧になられた皇太子殿下は、邪魔をして申し訳ないと謝りつつ、奥のご自分の座席に向けて、優雅に歩いて行かれた。
「また後で、シェリーの冒険を聞かせてくれ。楽しみにしているよ」
「はい、カール様」
私は今度はしっかりと名前で返事しながら、少々手に余る「友人」とともに、ぺこりと頭を下げた。そして、ついこの間のめくるめく冒険の数々を思い出して、少しだけ感傷的な気分に浸っていた。
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