かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

16 名前 その2

2009-11-08 00:00:01 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 麗夢さんが油断無く剣を突きだし、その動きを牽制している。
「今更気づいてみてももう遅いわ。貴女を封印させてもらうから」
 麗夢さんの一言で、急に夢の雰囲気が変わった。
 画面を見ると、円光さんがいよいよ白く輝いて、その後ろに控えている、おじいちゃんがよく触っているのとそっくりな戦車も白く輝きだしていた。
 何かが始まろうとしている。
 すごく強い力が、この部屋全体を揺さぶりはじめているのだ。やがて、今目の前にいるのとほとんど同じ魔物が大勢、画面の中に現れ、円光さんに迫った。危ない! と叫んだ私の目は、突然動かなくなった魔物達の姿を捕らえていた。どういう理屈かこれも判らないけど、光り輝く円光さんは、この麗夢さんの剣が無敵なのと同じように、魔物の攻撃を手も触れずにはじき返すことが出来るみたい。
まるで円光さんと魔物達の間に、見えない壁があるようだった。
 佐緒里はその様子を見ながらも、全く動じない様子で麗夢さんに言った。
「なるほど、気づくのが少し遅かったようだ」
「やっと観念した?」
 麗夢さんは更に一歩前に出た。でも、佐緒里は首をはっきり横に振ると、麗夢さんに言った。
「評価の結果、今回は成功しないと判断された」
「何ですって?」
「佐緒里の身体を再起動する」
「ま、待ちなさい!」
 麗夢さんが大慌てで飛びかかろうとしたけれど、魔物達が壁になって、佐緒里のところまで届かない。部屋を揺るがす震動はどんどん大きくなっていく。それとあわせるかのように、佐緒里の身体がゆっくりと薄く消えていくようだ。アルファ、ベータも今まで以上に吠え猛って魔物達を蹴散らしたのに、魔物達も全くひるまないで襲ってくる。もう、佐緒里は半分透明になっていた。
「お前達はこの夢と共に封印されるがいい。そうなれば今度こそ邪魔者がいない中で、私は活動できる」
「シェリーちゃんがいなくなったら、貴女はどうやって完成するつもり?」
「完成に必要な因子はきっと他にもあるだろう。私はそれを探す。もうお前達は不要だ」
 駄目、間に合わない。
 私と麗夢さんは、きっと同じ思いを抱いたのだろう。麗夢さんは、手にした剣を持ち代えると、やり投げの要領で佐緒里目がけて投げつけた。しかし、その剣も、後少しと言うところで脇から飛び出してきた魔物の胸に当たり、その絶叫を響かせただけで終わった。
 万事休す。
 今度こそ私はその言葉を噛み締めたその時。
「諦めちゃ駄目って、言ったでしょ?」
 何時の間にか立ち上がっていたお姉さまが、信じられない速さで佐緒里の元に走り寄った。まるで瞬間移動したみたいだ。呆気にとられた私と麗夢さんの方へ軽くウインクしたお姉さまは、ぎょっとした表情で固まった佐緒里に言った。
「ねぇ、後始末もしないで勝手に消えないでよ」
「放せ! 放さぬか!」
 佐緒里は、初めてみせる慌てた様子で、お姉さまの手から逃れようと必死にもがいた。
「な、何をする積もりだ!」
「私が貴女を取り込むのよ。貴女を逃がさないためにね」
「何?! や、やめろ! そんなことをしていたら、私もお前も消滅してしまう。我々は失われてしまうのだぞ!」
 するとお姉さまは、ふっと笑顔を閃かせ、私の方に振り向いた。
「シェリーちゃん、さっき言おうとした私の名前ね」
「お姉さま!」
 消えてしまうと聞いた私は、狼狽して叫んだ。でも、お姉さまは聞き分けのない私に噛んで含めるように言った。
「いいから聞いて。私の名前はROM。私を作ってくれた人からもらった、大切な名前なの」
「名前などどうでもいい! 早く放せ!」
 化け物の必死な口調に、お姉さまは憤然と反論した。
「馬鹿ね! 私がここで消えても、私のことは私の名前と共にシェリーちゃんが覚えていてくれる。だから貴女はここで消えても、私は消えないのよ。ね、シェリーちゃん」
「お姉さま待って!」
「シェリーちゃん、ROMだってば。お願いだからちゃんと呼んで」
 こんな時に、と私は焦った。それなのに、お姉さまはこちらの焦りが馬鹿馬鹿しく見えるほどに、澄まし顔で耳に手まで当てている。私は観念して、名前を呼ぶことにした。
「ROM……ROMお姉さま!」
「うーんやっぱりいいわねぇ。じゃあ、忘れないでね私のこと」
「ROMお姉さま!」
「麗夢ちゃん後のことはよろしくぅ!」
 いつの間にか麗夢さんが私の手を取った。
「さあ、アルファとベータが抑えている内に早く!」
「駄目よ! お姉さまが、ROMお姉さまが!」
「ごめんシェリーちゃん!」
 麗夢さんが思い切り私の鳩尾に拳を入れた。私は意識が暗転する中、お姉さまの声が聞こえた気がした。
「ありがとう。さようなら」と。
 私はおじいちゃんが側にいる感じを覚えながら、自分の夢の中で気を失った。

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