かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

17 お姉さまは私 その2

2009-11-15 01:00:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 あの最後の瞬間の後、どこがどうなってそうなったのか、結局私には判らないままだった。ただ、私が目覚めたとき、私はどこかのホテルのベットに寝かされ、その回りにおじいちゃん、麗夢さんやアルファベータ、ヴィクター博士や円光さん、鬼童さん、榊警部。それにおじいちゃんの部下の人達みんなの心配げな顔に囲まれていた。おじいちゃんの部下のハイネマンさんは、両目がウサギさんのように真っ赤になっていたし、モーリッツさんなんか、さっきまで戦っていた魔物達と変わんないような怖いお顔をくしゃくしゃにしているしで、多かれ少なかれ、私は本当にみんなに心配をかけてしまったんだ、と言うことを、今更ながらに思い知らされた目覚めだった。
「……おじいちゃん、ごめんなさい」
「大丈夫だシェリー。何の心配もない。終わったんだ。終わったんだよ」
 半身を起こした私の身体を、おじいちゃんは私の傍らから身を乗り出し、涙ぐんで抱きしめてくれた。私もとうとう感極まってボロボロ涙を流すと、おじいちゃんにすがりついて思い切り泣いた。ただひたすらごめんなさいを続けながら。
 ヨハンさんやシュナイダーさん、麗夢さんも涙ぐんで、湿っぽい空気が部屋の中に満ちた。
 でも少なくともそこには、不安も恐怖もなかった。今は泣いていても許される。私はその安心に浸って、おじいちゃんにしがみついていた。
 やがて泣き疲れて気分も落ち着いた頃、麗夢さんが私の枕元に来て、夢の中で私の鳩尾を殴打したことを詫びた。
「ごめんなさいシェリーちゃん。ああするしかなかったとはいえ、貴女に痛い思いをさせて」
「ううん。でもお姉さまは……」
 私は麗夢さんの事を非難するつもりは全然なかった。そう。あれは仕方なかったのだ。あのままでは私もきっと無事ではすまなかったんだろう。だから麗夢さんの処置は正しい。でも、結局お姉さまは……お姉さまは……。
 私はまた目頭が熱くなって、うつむいてしまった、その時。
 おぎゃあ! と威勢のいい泣き声が、私の耳を走り抜けた。その泣き声は続けて元気いっぱいに、部屋中に響き渡った。
「シェリーに触る。別室に移してくれんか」
 おじいちゃんがそう言って、麗夢さんを促した。麗夢さんも頷いて離れようとしたが、その袖を掴んで、私は待ったをかけた。
「麗夢さん、何を抱えているの?」
「えっ?」
「お願い。見せて!」
 さっきまでは自分のことに精一杯で、麗夢さんが何かを抱えているなんて気がつかなった。麗夢さんはおじいちゃんに目配せすると、頷いて腰をかがめてくれた。
 するとそこには……。
 玉のように可愛い赤ちゃんが、手足をばたつかせて思い切り泣いていたのだった。
「可愛い! お願い、私にも抱かせて!」
「え? ええ」
 麗夢さんが更に腰をかがめて私にそれを手渡してくれた。すると、私が抱いた途端、赤ちゃんがぴたりと泣くのを止めて、にっこりと微笑んでみせた。
「おお、泣きやんだぞ!」
 榊警部が、びっくりしたように感嘆の声を上げた。私は当惑顔の麗夢さんに聞いてみた。
「この赤ちゃんどうしたの? 麗夢さんの子供?」
「何!」×2
 途端に円光さんと鬼童さんがずいと身を乗り出してきた。赤ちゃんが怯えてまた泣き出し、榊警部が二人の耳を両手でもって強引に退場させる。麗夢さんも苦笑しながら円光さんと鬼童さんを見送った。

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