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かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

3.仁徳天皇陵 その3

2008-04-27 20:41:35 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「いい加減にして! 貴方はただの化け物だわ! 彼の姿をしていることさえ許し難いのに、口調までまねて亨の振りをするなんて許せない!」
「怒るな怒るな。今は癇癪の一つもあるだろうが、俺が世界を手に入れたときには、また考えも変わるだろうよ。だがまずは、封印された我が力を取り戻すのが先決だ。その後あの夢守を迎えに行く。うれしいことにこの山向こうに来ているんだ。探す手間が省けて助かるよ」
 夢守、と言う言葉に、鬼童の耳がピン!と立った。
「ま、まさか麗夢さんと会ったのか、松尾!」
 すると松尾は、おどけたように笑顔を閃かせると鬼童に言った。
「ほおう、鬼童、お前も知っていたのか。あの娘、今でも麗夢と名乗っているとはな。麗しき夢、か。代々の夢守に受け継がれた名前だそうだが、原日本人の大王の后に相応しい佳き名であるな」
「原日本人……あの娘達と同じ仲間か」
「おいおい、お前まで同じ過ちをしてくれるな鬼童。あれは我らの下級の巫女にすぎん。ついでに言っておくが、「闇の皇帝」とかいう物も、後世の生き残りが勝手に名付けた代物だ。あれなど此処に瞑る力と比べれば、ただの小道具に過ぎん」
 そうだ、この地に瞑るという巨大な力! 
今はそれこそが肝要であろう。鬼童は息せき切って松尾に言った。
「僕はそれを検証しに来たんだ! やはりさっきの大蛇がその力か?!」
 すると松尾は見るからに不機嫌そうな表情に変わった。
「あれが偉大なる我が力だと? 鬼童、お前の目は節穴か! よかろう、かつての親友のよしみに免じて見せてやる。これが本当の俺の力、かつて裏切りし夢守達によって分割され、封印された我が力の片鱗だ」
「駄目よ!こんな町中でそれを開放したら!」
「いずれこの世は我が支配下に堕ちる。この世に残された力を全て取り戻した時、根の国に封じられた真なる我が力が開放されれば、こんなものでは済むまい!」
 加茂野の制止を無視して、松尾は大きく両手を広げ始めた。
「止めてぇっ!」
 加茂野の右手が、左脇に隠し持っていたホルスターから西部劇のヒーローさながらの早業で拳銃を抜き放ったと見えた瞬間、乾いた音色が鬼童の耳を打った。同時に松尾の胸の辺りから黒っぽい破片が飛び、その足元に落ちた。
「効かないよ、そんなおもちゃは」
 鬼童は、松尾の足元の黒っぽい破片が蠢いているのを見た。百足だ。胴体をうち砕かれ、頭の部分三センチほどになった大きな百足がのたうち回っている。続けざまに加茂野の銃が火を噴いた。三発、四発と松尾の身体に吸い込まれていく。だが、そのたびにぱちっと異音を発して、松尾の足元に引きちぎられた百足の身体が飛び散った。やがて、一発が松尾の額に命中した。今度こそ、と加茂野は銃を引いたが、額を打ち抜かれ、致命傷を負ったはずの松尾は、全く動じずラジオ体操でも始めるような調子で、大きく腕を振り上げた。 瞬間、辺りの静寂が深まった。日常の喧噪が削り取られ、全くの無音が世界を支配した。その直後である。突然くぐもった地鳴りが仁徳陵の方角からわき起こり、それが急速に大きくなって、やがて大地を揺るがす大音響となって地面を大きくうねらせた。あちこちに巨大な地割れが走り、タイヤを取られた車が次々と自由を失って、あるものは停止し、あるものは所構わず激突して火の手を上げた。巨大な仁徳陵を覆う木々が内堀に次々と雪崩落ちて飛沫を上げる。阪神大震災にも耐えた建物達が、あるいは傾き、あるいは拉げて、たちどころにがれきの山と化していった。およそ一分間に渡って続いた破壊の序曲は、松尾が手を下ろしたことでようやく終章を迎えた。
「どうだ、少しは理解できたか鬼童」
 鬼童は、地面に四つん這いになったまま松尾を見上げ、その額の穴から顔をのぞかせた百足の頭を見てしまった。赤い縁取りの穴から蠢く触覚と足を出し、再び中へと引っ込んでいく。その途端に、内側から肉が盛り上がり、額の傷が急速に修復されていった。
「君は一体……?」
「原日本人の真の大王の力、恐れ入っただろう? では俺はまだやらねばならないことがある。また会おう、鬼童海丸。加茂野美里」
 松尾の姿がうっすらとぼけ、やがて鬼童の目の前から消えた。鬼童と加茂野は、時ならぬ直下型地震に襲われた阿鼻叫喚の地に取り残され、無念のほぞをかむばかりであった。だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。鬼童は加茂野に振り返ると、改めて言った。
「今度こそ話してくれるだろうな」
「ええ。どうやら貴方もこの件からは逃れられない運命を持っているみだいだし……。でもその前に教えて。貴方と夢守の、その、麗夢さん、と言ったかしら。彼女とはどういう関係なの?」
「ど、どういう関係って、それは……」
 あからさまに問われて鬼童はうろたえた。さっきの松尾のようにはっきり言えれば苦労はないが、未だそこまで親密な関係が出来たわけではない。だが、加茂野は加茂野で、そんなことが聞きたいわけではなかった。
「言いたくないなら別にいいわ。それより連絡は取れる?」
「あ、ああ」
「じゃあ今すぐ法隆寺に行くように言ってちょうだい。出来るだけ早く、一刻の猶予もないわ」
「法隆寺だって?」
「そう。この戦いの帰趨は、それにかかっているわ」
 思い詰めたような加茂野の顔に、鬼童も真剣な眼差しで頷き、ポケットから携帯電話を取りだした。
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4.玉置神社 その1

2008-04-27 20:41:03 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 山の日は早く落ちる。特に東西を切り立つような高山に挟まれた谷筋では、平地よりも急速に闇が押し寄せてくる。円光は早めに抖藪を切り上げ、今夜の宿にと玉置神社の石段に足をかけた。南麻布女子学園での激闘を終えて早二週間。麗夢殿は立ち直っただろうか、と円光はまた考えていた。
 あの時、自分もまた失われた古代日本人の末裔と知った麗夢の衝撃は軽いものではなかった。一時は戦闘不能に陥ったほど、その事実は麗夢の心の奥深くに突き刺さった。闘いが終わった後、外観上は立ち直ったかに見えたが、はたしてあれほどの衝撃が後に残らずにすんだと信じるほど、円光は楽観的にはなれなかった。
(だが、それもまた修行の礎。強くなって下され、麗夢殿)
 円光はそう祈りつつ、後始末に残った麗夢と鬼童を残し、一人また修行の旅に出たのである。
 今回は特に意識したわけではなかったが、久しぶりに大峯山系を走りたくなり、熊野から那智の滝を経て、人跡が絶えて久しい大峯山脈に分け入った。いわゆる修験道ルートの一つ、熊野古道である。重畳と千m級の山々を連ねた山脈は、修験者を呑み込むばかりに懐深く、どこまでも深い緑の絨毯を広げる。ひとたび迷い込めばいずこの谷とも知れず抜け出ることが出来なくなる、遭難必至の難ルートだ。それを円光は穀断ちのまま一睡もせずにひたすら走り続け、ようやく熊野三山の奥の院とも呼ばれる、ここ玉置山玉置神社に到達したのである。
(久方ぶりだが、何も変わっていない……)
 円光は、感慨深げに樹齢三千年と伝えられる御神木の神代杉を拝んだ後、国の重要文化財に指定されている、立派な社務所の前に歩を進めた。紀元前三七年、時の崇神天皇の創建と伝えられ、修験道の本拠地の一つとして人々の尊崇を集めてきた神社だけに、ほんの数年などこの境内では時間の内に入らないのだろう。我が日の本の神社でも珍しい「悪魔退散」という御神徳を誇るだけあって、その聖域の高貴さは、言うには及ばない。熊野奥駈けの終着と言うこともあったが、わざわざ円光がまだ日のある内にここを宿と定めたのも、そんな完璧に浄められた場所で、自分もまた日頃の煩悩を昇華し、新たな気持ちに生まれ変わりたいと願ったからに他ならない。 円光はその昔、十津川村郵便局として使われていたという古い木造二階建ての建物に入った。今は茶店と名前を変え、修験者の為の宿泊施設になっている。
「ここも変わっていないな」
 あたかも時が止まったような風情に、円光は満ち足りたものを覚えた。静謐なる透明感に包まれる中で腰を下ろし、錫杖を肩に座禅を組む。程なく円光の気は山の清冽な気と混じり合い、拡散して、円光自身が玉置山その物と化したかのごとく、動きを止めた。円光の気は更に周囲へと広がっていく。踏破してきた熊野の山々の息吹が感じられる。入り口となった那智の滝一〇八mの大瀑布を落下する水の一粒一粒が伝わってくる。北に返せば、これから進む大峰山系の様子が窺える。更にその先、大阪と奈良の境をなし、役行者ゆかりの地として古くから尊崇を集める葛城山の様子が……?。
 円光の気が滞った。見えるはずの葛城山が感じられない。二上山から始まり、金剛山へと続く高さ千mの岩の屏風が、どう心を澄ましても見えてこない。だからといって心を乱したりする事はないが、不審な思いはどうしても拭えない。すると、今はひたすら拡散していた円光の気が、再び異様な臭気を捉えた。腐臭に近い不快な気配が微かに伝わってくる。円光は無意識に錫杖を手に取った。心はあくまで三千世界に傾けつつも、円光の研ぎ澄まされた防衛本能が、危険を察知したのである。円光の錫杖が軽く上がり、やがて、突然その先が床に突き立てられた。プチ、とした手応えが円光の心にわずかに届く。同時に異様な臭気が途絶え、不穏な気が霧散していった。円光は再び深い瞑想に入った。相変わらず葛城山が感知できないのが不思議だったが、円光の意識は、もうそんなことに煩う事はなかった。
 静かに時間だけが動いていく。悠久の流れの中では刹那にしか見えない時間が、ゆっくりと過ぎて夜が深まる。円光の鼻に、再び何かが香ってきた。たださっきと異なるのは、その香りが得も言われぬ好ましい華やぎを円光に覚えさせたことだ。仏陀が菩提樹の下で瞑想に耽っていたとき、これを誑かそうとする悪魔が様々な幻覚で仏陀を魅惑しようとしたという。これもその類だろうか。円光は無意識にそんなイメージを持って、再び錫杖に手を添えた。やがて、香りはより具体的なイメージを伴って、円光の意識にささやきかけた。
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4.玉置神社 その2

2008-04-27 20:40:58 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
『円光様、円光様』
 気が付くと、座禅を続ける円光の目の前に、一人の女性が白一色の衣をまとってかしずいていた。その面影が想い人に似ているせいもあって、円光の意識がわずかに変化する。途端により判然とその女性の姿が脳裏に映った。
『円光様、円光様』
 あと思う間もなく、女性の姿が重なり合って増えていった。二〇人程度までは意識されたが、更に増えていく女性に円光は無理にそれを意識から追い出そうとするのを諦めた。何事も流れの内にある。無理に無視を決め込むのもまた作為でしかない。円光は再び気を静めて、女性の姿を凝視した。
(ほう、皆麗夢殿か……)
 円光は軽く苦笑いして、一斉に顔を上げたその女性達を見た。皆、驚くほど麗夢に似ている。円光の夢想は、ただ麗夢の姿を追い求めていただけなのかも知れない。円光は瞑想を諦めると、目の前の麗夢に話しかけた。
「これは麗夢殿、拙僧に何か?」
『円光様、我ら麗夢の名を持つ歴代の夢守、円光様に見参してお願い致したき儀がござりまする』
 何? 歴代の夢守? 円光の意識がにわかに改まった。これは拙僧が妄想した麗夢殿ではない……。
『もう寸毫の間に、我らの祖先が苦心の末に封じ込め、護り続けた封印が解けます。これまで栄華を続け、太平の内に時を刻んできたこの国を亡ぼすために』
「それで?」
『我らはその滅びの時を防ぎ、再び混沌の時無き闇に封印を施し直すため、円光様にお願いしたいのです。我らの願い、お聞き届けいただけましょうや?』
「どのような事か申されよ。拙僧の力の及ぶ限り、ご助力差し上げよう」
 すると、その場の雰囲気が少し華やぎを増した。円光は麗夢そっくりの数十人に期待の視線を寄せられ、心ならず頬を染める。
『封印は、我らの末葉が仕りまする。円光様にはそれを護り、封印の成就にご助力願いたく存じます』
「末葉というと、麗夢殿か」
 一斉に『麗夢達』が頷いた。
「それはわざわざ言うまでもない。拙僧、命に替えても約を違えることはありますまい」
 すると『麗夢達』は円光に言った。
『この社には、封印に欠かせぬ神具がございます。是非それをお持ち下さい。そして、今すぐ此処を発ち、法隆寺に行かれませ』
「承知した。で、その神具とやらは?」
『十種の神宝。神倭磐余彦(かむやまといわれびこ)が祭り、大海人(おおあま)が奉じた宝物です』
 いつの間にか、円光の前に頭巾、剣、鏡、など、幾つかのものが並べられた。
「心得た」
 円光が力強く頷くと、『麗夢達』も安堵したのか、一人一人声を掛けながら、その姿を消していった。
『円光様、しかとお頼み申しましたぞ』
『ゆめゆめお疑いなきよう』
『疾く参らせ給え』
 最後の一人が立ち上がった。深々と礼をすると、円光に言った。
『娘をお頼み申します。円光様』
 そして、にっこり笑って宙に溶けた……。
 ふ、と円光は目を開けた。いつの間にか眠り込んでしまったらしい。円光は修行足らざる己の不徳を恥じ、今一度山に戻ろうか、と思案した。しかし、それはほんの僅かな間でしかなかった。円光の目に、「十種の神宝」がきれいに並んでいるのが見えたのである。
「さては夢ではなかったか」
 円光は神具を集めると、懐にしまい込んで立ち上がった。その足元に、数時間前、異臭と共に円光を狙った、体長15センチはあろうかという一匹の大百足が、見事頭を潰されて転がっている。そんなことは露にも気づかず、円光は錫杖を手に漆黒の闇へ躍り出た。やくたいもなき夢ではないとなれば、この約定を果たさなければならない。目指すははるか北の方、北葛城郡斑鳩町に鎮座まします法隆寺である。
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5.畝傍陵墓監区事務所 その1

2008-04-27 20:40:54 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 麗夢に連絡を取って間もなく、鬼童は、加茂野共々東から飛んできた一機のヘリに押し込められた。ヘリは、助けを求める多くの市民を無視して即座に飛び立った。
「許して。今行動しないと、日本が、いえ、世界中が貴方達より悲惨な状況になるの」
 市民を冷たく追い払ったヘリの乗員に憤懣を覚えた鬼童だったが、飛び立って間もなく、窓を見つめる加茂野の独り言に、頭を冷やした。窓外には、無惨にも崩れ落ちた仁徳陵を中心に、空から見てもはっきり判る巨大な地割れが四方にのびている。あちこちから黒や白の煙が立ち上り、赤い炎が車や家を飲み尽くそうとしているのが見える。それにしても、突如現れ、圧倒的な力を見せつけて消えたあの松尾は一体どうしたというのか。それに麗夢を后に迎えるとはどういう積もりなのか。様々な謎が重層的に膨らんで、さしもの鬼童にも何が何やらさっぱり判らない。恐らくその謎を解くカギは、この加茂野美里だけだろう。恐ろしい謎が秘められているとは思いながら、少なすぎる情報が鬼童を苛立たせた。
 再び窓外に目をやると、既に堺市の廃墟は遠く霞み、眼下は大阪と奈良の間にそびえ立つ葛城山脈の緑に変わりつつあった。うねるように激しくアップダウンしながら、千m級の山並みが、約二〇キロに渡って南北に横たわる。やや西南に流れながら複雑な谷を無数に左右へ刻み、ほぼ等間隔に三本、大阪と奈良を結ぶ幹線道路が両側に延びている。北から西名阪道、国道一六六号線竹ノ内街道、国道三〇九号水越街道の三本である。あの道を足にたとえるなら、葛城山脈は巨大なアメンボのような虫に見えないこともない。鬼童はふと浮かんだ埒のない想像を振り払い、能面のような硬い表情でじっと視線を外に固定したまま女に問いかけた。
「そろそろ教えてくれないか。君は一体何者なんだ。それに今起こっている不可解な出来事、なかでも生き返った松尾の事が聞きたい。それに君は松尾の婚約者だったそうだが、本当なのか」
「そんなことを聞いてどうするの。貴方には関係ないことでしょう」
「いや、あの松尾が僕に黙って君と付き合っていたなんて信じがたい。第一城西大時代の僕らには、女の子と付き合う暇なんて無かったはずだ」
「ふふ、研究馬鹿の貴方には、確かに信じがたいかも知れないわね。貴方には異性なんてその辺の石ころにすら見えなかったんでしょう? あるいは貴重な実験材料か。どちらにしてもまともに人として相手をしていた事はないわね」
「だ、だからどうした」
「亨は違うわ。彼は貴方みたいな研究馬鹿の人じゃなかった。人間味に溢れる素晴らしい人だったのに、貴方が大学に居残ったばかりに彼は南麻布に行かざるを得なかった。そのせいで彼は死んだのよ」
「な、何を言う……」
 鬼童は絶句した。加茂野の糾弾は鬼童の罪の意識を直撃したのだ。返す言葉を失った鬼童へ、更に加茂野は畳みかけた。
「しかも貴方は、亨が折角譲ったその地位を、ゴミ同然に捨てたのよ」
「松尾が僕に助手の席を譲った?」
「そうよ! 亨が私に話してくれたわ。教授には親友を推薦しようと思う、って。それなのに一体貴方は何様の積もりなのよ! 亨が許しても、私は絶対に貴方を許さないわ!」
 鬼童は、自分が智盛の事件の責任をとって城西大を辞職する時、松尾に話したときの事を思い起こした。その時松尾はしきりに残念がっていたが、自分はもう大学のつまらない縛りに付き合う必要が無くなったんだ、と得意げに話していたのだ。何て事だ。僕は、僕は何て事をしてしまったんだ……。鬼童は加茂野の見せる強烈な敵意に戸惑っていたが、今こそその根拠を理解した。彼女は、松尾に代わって鬼童の非道を弾劾したのである。
 こうして黙りこくった鬼童を見た加茂野は、一通り胸に抑え込んできたことをすっきり吐き出したためか、かえって淡々として、自分の事を語りだした。
「私は宮内庁に勤める陰陽師の末裔。仕事は、かつて夢守の民が封印した、この島を支配していた原日本人の悪夢を監視し、その復活を阻止すること。それが私の代になって、それも亨の身体を騙るあんな化け物に破られるなんて」
「あれは、松尾じゃないんだな」
「貴方の目は節穴なの?! 貴方、亨の親友でしょう?」
 鬼童が再び言葉に詰まってうつむくと、加茂野は、ふっと一息ついてまた話を続けた。
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5.畝傍陵墓監区事務所 その2

2008-04-27 20:40:48 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「とにかく、今となっては奴の復活を阻止する術はないわ。後は言い伝えにある最後の切り札を残すのみ。そのためにも、夢守には早く法隆寺に行ってもらい、その上で我々と合流する必要があるのよ」
 すると鬼童が、顔を上げて加茂野を見た。
「君も、麗夢さんの力を利用したいという口か?」
「何よ。何が言いたいわけ?」
 急に雰囲気を改めた鬼童の様子に、加茂野も改めてその目をにらんだ。すると鬼童は、打って変わった強い視線で加茂野をにらみ返した。
 鬼童は言った。
「僕は、松尾の死の原因を知りたいあまり、麗夢さんを「闇の皇帝」復活の生け贄にされる危険を冒してしまった。もうあんな事は二度とごめんだ。君がもし麗夢さんの夢守の力だけを欲するのなら、僕はそれを許さない」
 加茂野は、肩をすくめてあからさまに溜息をつくと、鬼童に言った。
「許さないも何も、もう夢守はあの化け物に目を付けられているのよ」
「夢守じゃない。名前は綾小路麗夢。ドリームハンターとして日夜夢魔達の攻撃から安寧な夜の夢を守る役目を果たす、一人の女の子だ」
「そう、それで貴方、その麗夢さんを実験材料にしたいわけね」
 加茂野の皮肉な笑いに、鬼童は珍しく怒りを露わにした。
「確かに僕は本当の意味で人と心から通じ合うことが出来ない。他人は実験材料か無関係かでしか認識できない人だ。だが、麗夢さんだけとはそうなりたくない。お互いに信頼し会うパートナーとして、自分の全てを捧げることが出来る相手なんだ。けして実験材料にしたいとは思ったことはない!」
「ふ、ふん! 口では何とでも言えるわよ……」
 初めて見せた鬼童の真情に、加茂野もすっかり勢いを失った。やがてヘリが降下を始め、鬼童は、小さな山の端に佇む広々とした田畑の真ん中に降りていくのを見た。

 加茂野と鬼童は、その場から既に用意されていた車に乗り換え、その小さな山、すなわち大和三山の一つ、畝傍山の麓を巡って東側の一角に滑り込んだ。入り口左の門柱に、畝傍陵墓監区事務所という看板が大きく掲げられている。車は玉砂利を踏み越えてその門の奥に入り、小さな平屋の建物の前に止まった。
「加茂野特監、お待ちしておりました!」
 停止した車に一人の男が駆け寄り、後部座席のドアを引き明けた。
「御苦労。陵墓に変化はないか?」
「今のところまだです。ただ、玉置神社から連絡があり、昨夜から怪しげな僧侶が立ち寄ったとの報告が上がってきています」
「その僧侶はどこへ行ったの?」
「残念ながら今朝未明姿を消しまして……。ただ北に向けて一直線に走り去ったとのことです」
「北に?」
 ただの僧侶なら問題はないが、加茂野が布いた警戒ラインに引っかかったと言うことは、いずれ並みの人物ではない。まさかひょっとして、あの松尾を騙る原日本人の怪物の手先だろうか。これは面倒なことになるかも知れないと不安を覚えた加茂野が、警戒ラインの再設定を指示しようとしたその時だった。加茂野に続いて降り立った鬼童が言った。
「その僧侶、年の若い整った顔立ちで、額に梵字を刻んでいなかったか?」
「心当たりがあるの?」
 振り返った不審げな加茂野に、鬼童は頷いた。
「ああ、で、どうなんだ?」
「報告では、身長一八〇センチ以上、相当に整った顔立ちで、確かに額に梵字が……。あ、写真が届きました」
 これがその男です、と手渡された手札サイズの写真を一目見た加茂野は、写真を鬼童に手渡した。
「間違いない。円光さんだ」
「知り合い?」
「ああ。きっと麗夢さんの危機を察知して、助けに来たに違いない」
 鬼童の言葉に、加茂野はまた少し考え込んだ。助勢なら確かにありがたい。夢守に割く護衛を少しでもその僧侶に託せるのなら、今は出来るだけ人手が惜しい。
「信用できる? その人」
「恐らく今の麗夢さんにとって、一番頼りになる男だ」
 少し悔しげな鬼童の顔が気にはなったが、その言葉はまさに自信満々と言えた。
「判ったわ。その円光さんには、発見次第こちらの情報をお知らせするよう手配しましょう。さあ、貴方はこっちへ」
 鬼童は木々に囲まれ外からはほとんど目立たない事務所の建物に招じ入れられた。薄暗い廊下を経て、奥まった会議室まで誘導される。二〇人ほどは入れそうな会議室には、中央にコの字型に並べられた机が並んでいた。「さて、さっきの質問に答えるわ。まずこれを見てもらいましょう」
 加茂野は部下に合図して、平べったいちょうどピザボックスくらいの大きさの桐の箱を持ってこさせた。おもむろにその箱の蓋を取り、中から紫の紗に包まれた丸いお盆のようなものを取り出す。
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5.畝傍陵墓監区事務所 その3

2008-04-27 20:40:43 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「藤原京の発掘現場から掘り出された鏡よ。見て」
 加茂野が紗を取り除くと、中から青い錆の浮いた一枚の皿のようなものが現れた。直径三〇センチくらいだろうか。周囲に複雑な文様を刻みつけた、教科書などでもおなじみの青銅鏡である。
「この鏡が何か?」
「中央の磨かれたところを見て」
「中央?」
 鬼童は言われるままにそこだけはなめらかに磨き込まれた鏡面部分に目をやった。自分の顔が薄ぼんやりと映っているのが見えるばかりだ。
「これがどうかしたのか?……!」
 と言いかけた鬼童は、静謐な泉から湧き出る清水のように浮かんできたその姿に、明らかに虚を突かれた。
「こ、これは……、麗夢さん!」
 鬼童の見るところ、確かに綾小路麗夢の顔がその鏡の中に浮かんでいる。
「松尾博士が死んだ直後、この娘が浮かんできて文化庁が一時大騒ぎになったわ。それを宮内庁が差し押さえ、何事も無かった事にして今に至っているの」
 確かに日本最初の本格的都城、藤原京の発掘現場から出土した紛れもない千数百年前の鏡に、写真のごとく人の姿が浮かんできたら、これは大騒ぎになるに違いない。だが、マスコミは全く沈黙を保っていた。もちろん鬼童も初耳である。
「宮内庁というのは、恐ろしい組織だな」
 ぼそり、と鬼童は一人ごちた。南麻布女子学園での態度もそうであったが、この女の影には、神聖不可侵とでも言うべき絶対権力がちらついて見える。
「そんなことより耳を澄ませて。貴方なら聞こえるかも知れない」
 鬼童は驚愕に見開かれた目を一端加茂野に移し、その頷くのを見て再び鏡に目を戻した。
微笑未満の少しもの悲しげな様子が、鬼童の胸を息苦しくさせる。息を詰めてじっと見つめていた鬼童は、ふと、鏡の中の可憐な唇が幽かに動いているのに気づいた。錯覚か、と思わず目をこすった鬼童の耳に、小さいが明瞭な響きを持った、美しい声が聞こえてきた。
「……危急の時、必ず当代の夢守、麗夢を夢殿へ参らせ、未来記を見せ給え……」
 当代の麗夢? 確か仁徳陵で松尾もそんなことを言った。代々の夢守に受け継がれた名前。麗しき夢、麗夢。その当代と言えば、いま法隆寺に向けて移動中の綾小路麗夢その人ではないか。
「麗夢さんは、夢殿に向かったんだな」
 鏡から目を上げた鬼童は、加茂野の頷くのを見た。
「ちゃんと聞こえたようね。そう。夢殿と言えば、聖徳太子を偲んで立てられた法隆寺八角堂しかないわ。聖徳太子予言の書と伝えられる未来記も、そこに安置されているはず」
「はずって、確認していないのか?」
「もちろん我々もこの鏡に気づいてから、全力で法隆寺を捜索したわ。特にあの化け物の復活が確認されてからは念入りにね。でも、少なくとも未来記と思しき書物はただの一巻きも発見できなかった。どうやら未来記は、夢守にしか見えないらしいの」
「そんな事が、あり得るのか?」
「あり得るも何も、そう考えるしかない。この鏡にしたところで、一体どういう技術、あるいは呪術を施されているのか、我々にはさっぱり判らないの。まさに、神秘の産物だわ」
 鬼童はもう一度鏡に目をやり、そこに佇む麗夢生き写しの女性を見た。
(円光さん、君だけが頼りだ。どうか麗夢さんを守ってくれ)
 その時、突然会議室の扉が乱暴に開かれ、血相を変えた職員が一人飛び込んできた。
「加茂野特監! 安寧陵に侵入者です!」
「そう、遂に来たわね。書陵部特別陵墓監督課職員に非常召集! 神武陵に集結するよう連絡を!」
「了解!」
 職員は入ってきたときと同様、慌ただしく会議室を出ていった。
「どうしたんだ!」
「あの化け物が遂に最後のかけらを取りに来たわ。我々はそれを全力で迎え撃ち、夢守、じゃなかったわね、その、麗夢さんが戻るまで時間を稼ぎます」
 鬼童は、松尾が仁徳陵で見せたあの凄まじい力を思い出し、不安を覚えずにはいられなかった。
「大丈夫なのか?」
「正直今の奴に対抗するのは難しいわ。でもここで踏ん張らないと」
 なおも不安な面もちを隠せない鬼童に、加茂野は言った。
「心配無用よ。この事態に備えて充分にこちらも準備してきたわ。勝てないまでも、あの化け物に一泡も二泡も吹かせた上で、必要な時間はちゃんと稼ぎ出すから」
 加茂野はかつかつと律動的なヒールの足音を奏でながら事務所を出て、西の方に目をやった。夕闇迫る奈良盆地に、ひときわ目立つ高さ千メートルの山の連なりが見える。あの封印を解いてはいけない。加茂野は決意も新たに、今度は北の方に目を転じた。
(お願いよ、間に合って頂戴。後は、貴女だけが頼りなのよ。夢守、綾小路麗夢……)
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6.法隆寺夢殿 その1

2008-04-27 20:40:19 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 「暗いな」
 助手席の榊がぽつりと言った。大阪側から再びUターンした時すでに日は西に落ちつつあったから、榊の言葉も当然と言える。だが、大阪から奈良に来ると、榊の言葉は実感として理解されるのだ。このトンネルを挟んだ東西で、光の量がけた外れに変わるために。不夜城のごとく輝く大阪と、原始の闇に帰る様な奈良。かつては日本で初めて都が置かれ、シルクロードを経由した様々な産物が集積した世界都市の面影は、この日が落ちた途端に広がる暗い闇の世界には窺えない。だが麗夢は、そのせいばかりとは言えない不安を胸に抱きつつあった。あの松尾の底知れぬ力。麗夢もまた現代に生きるドリームガーディアンとして、夢の中では尋常ならざる力を発揮するが、松尾の隠していた力は根源的なところで何か違うような気がしてならない。現実世界に強力に干渉するもっと次元の違う能力。平智盛もそうであったが、そんな力を前にして、果たして自分は対抗できるのか。麗夢はこれまで、フランケンシュタイン公国で鬼童達に教えられた、最後の審判とも言うべき最終決戦について、まだ具体的なイメージが描けずにいる。それが自分とどのように関わるのだろう。闘うとしたら一体どのような相手になるのだろう。死神死夢羅ことルシフェルとは既に何度か手合わせしたが、あれ位の敵ならば、苦戦はしてもそう簡単に負けることはない。だが、あの松尾に対しては……。ステアリングを握る掌が、じっとりと湿ってくるのが判る。対抗しようのない圧倒的な力。その無言の圧力が、次第に濃度を増す闇に言いしれぬ暗いパワーを与えているような気がしてならないのだ。
「クーン」
 後部座席のアルファとベータが不安な面もちで自分を見上げている。よほど険しい顔をしていたのであろう。麗夢は慌てて笑顔を見せると、二匹の頼もしいお供に言った。
「大丈夫よアルファ、ベータ。確かに判らないことだらけだけど、きっと何とかなるわよ」
「ニャーゴゥ」
 テレパシーで、私達が付いている、と暖かい気持ちが流れてくる。麗夢はうん、と頷くと、改めて前を見据えた。
 水越トンネルを出て更に二〇キロあまりを東に進むと、鬼童が行けと指定した法隆寺に出る。麗夢は近くの駐車場に車を入れ、榊、アルファ、ベータを伴って、夕闇に沈む伽藍に向けて歩き出した。程なく、左右に大きく翼を広げたような均整の取れた雄大な門が麗夢達の前に立ちふさがった。国宝三八件、重要文化財一五一件を有する世界遺産法隆寺の入り口として、一四三八年に再建された国宝南大門である。拝観時間をとうに過ぎた今は、重厚な門戸がしっかりと閉ざされている。だが、麗夢が来ることをあらかじめ知らされていたのであろう。グレーのスーツをまとった男が、門脇の潜り戸を開けて麗夢を出迎えた。
「綾小路麗夢様ですね。どうぞこちらへ」
「え、ええ」
 麗夢は、少し戸惑いながらも、後に続いて中に入った。両側が土塀に区切られた二〇mを超える幅広い通路の真ん中に、幅七mほどのきれいに整えられた石畳がまっすぐ続く。その先に、黒々と並ぶ五重塔と金堂を背景とした、飛鳥時代創建の中門が見える。スーツの男は百m余りをまっすぐ進むと、十字に横切る同じ幅の道で方角を右に変えた。
「麗夢さん、気づきましたか? 得体の知れない連中が辺りにいるのを」
 榊が声を潜めて麗夢に言った。麗夢も僅かに頷いた。
「ええ。アルファ、ベータ、何人くらいか判る?」
「ふにゃあ」
「ぐるるるぅ」
 麗夢と榊の脳裏に、二匹の捉えたおよそ一〇人ばかりの男達の姿が映った。皆、機動隊並みに筋骨隆とした男達である。榊は、万一の場合は自分を楯にして麗夢達を逃がすつもりでいたが、警視庁きっての荒武者と言えども、一度にこれだけの連中にかかってこられては多少手こずるかも知れない。
「はたして敵か味方か、様子が窺えないのが不気味ですな」
「とにかく油断しないようにね、警部」
「判った」 
 二人と二匹が四方に警戒の視線を走らせる中、先導役の男は、突き当たりの一見ユーモラスな鬼瓦を頂く東大門を越え、更に進んでこれまでのものより数段小振りの門の前に出た。上宮王院夢殿の表札をかける、四脚門である。ここから先は法隆寺東院と呼ばれ、かつて聖徳太子の住まいがあったとされる、法隆寺でも特別な聖なる区画であった。男はそのまま門をくぐると、正面の回廊をぐるりと回って、その中の建物に麗夢を誘った。
「これって確か、夢殿?」
 優美な八角形の建物が、麗夢の目の前に鎮座している。聖徳太子の死後その冥福を祈り、威徳を偲ぶ為、天平年間に建立されたという建物である。中に太子の姿を象ったと言われる救世観音という秘仏を安置してあり、年に二回、春と秋にだけ特別に拝観が許される。
「どうぞ中へお入り下さい」
 男は麗夢を八段ある石段の前まで誘導すると、そのまま脇に下がって麗夢に上がるように勧めた。
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6.法隆寺夢殿 その2

2008-04-27 20:40:13 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「ここに入るの?」
「ええ。この中に籠もり、厩戸豊聡耳皇子(うまやどのとよさとみみのみこ)が表した未来記をご覧下さい。そこに、貴女がお知りになりたいこと、また、これからなすべき事が全て記されております」
「未来記ですって?」
 麗夢もその話は聞きかじったことくらいはある。厩戸豊聡耳皇子、即ち聖徳太子が著された予言書とされ、国家の未来の命運を書き記してあるという。親鸞や日蓮など名だたる日本の宗教者に影響を与え、また、楠正成がその力を利用したと太平記にも語られる。著者の聖徳太子は、日本書紀の中でも既に「聖の知恵を持ち、未然に事を知る能力を持っていた」と記されるほど、早くから大変な超常の力を持つ聖人として数多の伝説を残してきた。それだけに、その名を騙る偽書の類が余りに多い。未来記というのもそう言った太子の令名にあやかった要するに胡散臭い代物と言うのが世の通説である。麗夢もそう認識していたのだが、大まじめにその書物があると言われて戸惑いを更に大きくした。
(わざわざこんな所に連れてこられて、そんな話を聞かされるなんて、ひょっとして馬鹿にされているのかしら?)
 と麗夢が感じたのも無理はない。だが、ここまで来て何も得ずに帰るわけにも行かない。ここは最後まで従ってみようと思い直し、石段に足をかけた。すると、男が言った。
「お連れの方は外でお控え下さい」
「どう言うことだ、君」
 榊が色をなして男に迫った。麗夢も不安げなアルファ、ベータを振り見て、男に言った。
「榊警部もこの子達も、お仕事を邪魔するような事は無いわ」
「この夢殿に籠もることが許されるのは、選ばれた方のみなのです。どうぞお控え下さい」
 慇懃に、だがきっぱりと男は返した。榊、アルファ、ベータは、不満げな顔で麗夢を見た。
「しょうがない。警部、しばらくこの子達を見てやって下さいね」
「しかし麗夢さん、何があるか判ったものではありませんぞ」
「大丈夫よ。警部やこの子達だって外で控えているんだし、聖徳太子の夢殿って、一度入ってみたかったの」
 麗夢は笑顔を見せると、一人石段を上がっていった。
 扉を開け、中をのぞく。外観から想像していたよりは、広い空間が感じられる。だが、照明一つあるわけでも無し、僅かに入り口から漏れる月明かりや暗い外灯だけでは、その奥まで見通すことは出来ない。こんな状態で書物を見ることなどかなわないだろう。麗夢は、振り返って言った。
「明かりが何もないわ。どうしたらいいの?」
 すると男は言った。
「扉を閉め、中程まで進んでお座り下さい。横になって下さっても結構です」
「だってそれじゃあ本なんて読めないじゃない」
「ご覧になれば判ります。どうぞ言われたとおりに行って下さい」
 しょうがないな、と麗夢は溜息をついて中に進んだ。扉を閉めると一段と暗さが増した感じだ。三歩進んでその板敷きに腰を下ろそうとすると、外から男の声が聞こえてきた。
「もう少し奥へ」
 振り返ってみたが、男の姿は見えない。なんで判ったのかしら? と不思議に思いつつも、麗夢は更に三歩おずおずと進んだ。こう暗くては、ただまっすぐ歩くだけでも一苦労だ。するとまた男がもう少し、と声をかけてきた。もう! どこまで行けばいいのよ!
とかんしゃくを起こしかけて、麗夢は前方から投げかけられる視線にはっと気が付いた。だが、暗闇の中には一点の光もない。麗夢はどうせ見えないのなら、と目を瞑ることにした。じっと耳を澄ませ、空気を肌で感じ取ろうとする。静かだ。そよ風すら感じられない。麗夢は、その状態とよく似た環境を日頃経験していることに気が付いた。自分が見る夜の夢。いや、正確には見ているとは言えないかも知れないが、とにかく毎夜繰り広げられる暗黒の夢。あらゆる感覚が閉ざされた闇の中で、ただ一人うずくまり、闇の浸食に耐える恐怖の時間。その時とわずかに異なるのは、この闇が夢の闇と違い、何かで満たされていること。静かに目をつむっていた麗夢は、自分を取り巻く闇が、夢の虚ろさとはまるで無縁な世界であることを意識した。ここは確かに満たされている。愛情、と言うほど熱くもないが、憐憫、と言うほど冷たくもない。欲望や執着の押しつけがましさもない。老成された落ち着きと品を感じさせる暖かさだ。そう、一言で言えば……慈しみ。老いた先人が若い弟子に向けるようなまなざし。そんな一点の曇りもない透徹した知恵の塊が、ただじっと見守っていると言う感じがする。この慈愛溢れる心地よさに惹かれるように、麗夢の足が自然と前に出た。一歩、二歩、先ほどまでの遠慮がちな足の出し方ではない。町中を闊歩するときほど元気良くもないが、それがかえって更なる落ち着きを麗夢に醸し出す。やがて麗夢は足を止めると、そのまますっとその場に正座した。ようこそ、と声が聞こえるような気がする。待っていたぞ、と言われたようだ。もちろん、自分の心臓の鼓動さえ聞こえてきそうな程、絶えて他の音はない。それでも麗夢は確信した。自分は来るべくしてここに来たのだ、と。やがて、ただ暗黒に閉ざされていた麗夢の目に、真白き光が満ち始めた。全身がその光に包まれたように感じた時、麗夢の意識が、その肉体から消滅した。
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7.襲撃 その1

2008-04-27 20:40:07 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 麗夢が一人夢殿に籠もった時、アルファ、ベータは、不満ながらも一応は引き下がった。少なくとも中に危険は感じられず、辺りに不穏な空気は認めなかったからだ。だが、扉が閉じられてまもなく、突然麗夢の存在が消えた。アルファ、ベータは、たとえどんなに離れていても、麗夢の存在を近くする、強い絆を持っている。その皮膚感覚とでも言うべきごく自然な知覚が、突然に途絶えた。こんな事は過去一度しかない。夢サーカスの事件で麗夢がおとり捜査を成功させるために鬼童に頼んで自分の意識を封印した時のこと。あの時二匹は、失われた麗夢の痕跡を求めてあてど無く土砂降りの雨の中を彷徨い歩いたのだ。あの筆舌に尽くしがたい喪失感は、未だに二匹の心に強い恐怖を呼び覚ます。二匹はぶるっと頭を振ってその恐怖を振り払うと、勢い良く石段を駆け上がった。駄目ですよ、と制止する男の声が耳に届くが、当然そんなものは無視する二匹である。
「ニャーン!」
「ワン! ワンワンワンッ!」
 中を、夜目に優れるアルファがのぞき込む。ベータも狭い隙間に強引に鼻を射し込み、中の様子をつかもうと必死だ。やがてアルファの目とベータの鼻が、ちょうど中央で一人静かに正座する麗夢の姿を捉えた。一瞬安堵する二匹。だが、姿はあるのに、相変わらずその存在を感じ取ることは出来ない。耳を澄ますと、静かでゆっくりだが、麗夢の呼吸も息も聞こえてくる。寝ているのだろうか?
麗夢が寝ているからと言ってあの優しい波動が感知できないはずはないが、それでも二匹は睡眠に賭けた。そのままその場でうずくまって、自分達も眠りに入る。もし麗夢が夢の世界にいるのなら、これで麗夢との絆を取り戻すことが出来るはずである。
「ニャッ!」
「キャン!」
 しかし二匹は、一瞬麗夢の波動を感じた、と思った瞬間、電撃を喰らったように跳ね上がり、たちまち夢の世界から叩き出されてしまった。強烈な結界が張られている! 二匹は自分達の想像に怖気を振るった。途轍もなく強力な夢魔に拘束され、その攻撃に大ピンチに陥っている主の姿。「助けてっ!」と悲痛に叫ぶ声が聞こえたような気がして、二匹は再び夢殿の扉にかじりつこうとした。
「どうした、アルファ、ベータ、そんなに慌てて!」
 二匹はそのひげ面に振り向いて、麗夢の意識が消えたことを必死になって訴えた。早く出して上げて! という悲痛なイメージにせき立てられた榊は、困りますよ、と顔をしかめる案内役の男に詰め寄った。
「中で麗夢さんが意識を失って倒れている。すぐに助けないと危険だ」
 すると男は落ち着き払った声で言った。
「大丈夫です。今、あの方は深い眠りの中、時を超越した世界に赴いておいでになる。聖徳太子の御徳があの方をお守り申し上げております」
「しかし……」
「とにかく自然にお目覚めになるまでお待ち下さい」
 この男一人を投げ飛ばして、強引に夢殿をこじ開けるのは、榊にとってはほとんど朝飯前の簡単な仕事だ。だが、男の凛とした態度に榊は気圧されるものを感じた。本能的に、今は邪魔をしてはいけない、と悟ったのだ。榊はアルファ、ベータに振り返り、しゃがみ込んで二匹に言った。
「大丈夫だ、心配ない。私と一緒にとにかく待とう」
 二匹はなおも心配げな様子で榊と夢殿の奥とを繰り返し見ていたが、突然、びりっと感電したように毛を逆立てると、その場で姿勢を低くしてうなり声を上げた。
「ど、どうした、アルファ、ベータ」
「どうやら外の結界が破られました。我らが全力でくい止めます。万一の時は、よろしく」
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7.襲撃 その2

2008-04-27 20:40:00 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 グレースーツの男が言い終わった途端、周りから九人の同じ様な男達がわらわらと現れた。さっき二匹の超感覚に引っかかった、妖しげな男達である。咄嗟に榊は身構えたが、男達は一斉に榊に背中を向けると、四脚門の方へ振り向いた。何事だ、と驚いた榊の耳に、かさかさと草や木の葉を揺らす音が聞こえてきた。それも一つ二つと言った数ではない。小さなざわめきが互いに重なり合い、それはやがて巨大な暗黒の波濤と化して、この夢殿を包囲していった。やがて、回廊の屋根や門の間、地面の上に、妖しい小さな光が次々と瞬いた。まるで天の川だな、と榊は剛胆にも他愛ない想像を弄んだが、その小さな明かりから放たれる強烈な悪意は、榊にもはっきりと感じられた。その光の元で、無数の何かがぞわぞわと蠢いている。アルファとベータは更に頭を低くして周囲の点光源を睨み付けた。やがて、その一部が門を乗り越え、夢殿目がけて押し寄せてきた。
「シャーッ!」
 突然、一〇人の男達の姿が煙のごとく消え失せ、代わりに一〇匹の白い蛇が躍り出た。長さは五mにもなろうという巨大なウワバミである。大きく口を開けた蛇が鎌首を上げてまっすぐ光の集団に突っ込んだかと思うと、その光が最も密に折り重なっている辺りへ、勢い良くおのが身を叩き付けた。アルファとベータの小さな身体が、一瞬床から数センチも飛び上がるほど、重々しい衝撃が走り抜ける。その後も蛇達は全身を無茶苦茶にひねり回し、また何度も地面に叩き付けて暴れ回った。その蛇の身体に、次々と青黒い、あるいは赤黒い紐のようなものが取りついていく。榊は、その正体を悟って怖気を振るった。百足だ。無数の百足が辺りに満ちあふれ、白いウワバミ達に襲いかかっているのだ。蛇はそれを振りほどこうと必死にのたうち回るが、次々とよじ登り、鋭い牙で鱗を食い破る数知れぬ悪魔の軍団に、十匹足らずの蛇では所詮耐え切れるものではない。暴れ回る勢いは次第に落ち、やがて蛇は一匹、また一匹と、力尽きて地面に伏せっていった。最後の一匹はなおも憤然と百足の波濤に立ち向かったが、全身を覆い尽くすほどに百足がたかった途端、ほとんど横倒しに地面へ堕ちた。その上から、一種異様なメカニカルな動きで数十本の足を蠢かせつつ、大小さまざまな百足が完全に覆い尽くしていく。やがてその白い肌が全く見えなくなり、うねるような大きな動きが止むと、再び小さな無数の目の光が、榊、アルファ、ベータに向けられた。
「こいつ等の狙いは麗夢さんだ! 何とかしないと!」
 榊は大急ぎで夢殿に躍り上がり、扉を開けようと手をかけた。だが、華奢な木戸にしか見えないその扉が、まるで重厚なコンクリート壁でもあるかのように頑として動かない。
「麗夢さん、大変だ起きてくれ! 麗夢さん!」
 榊は必死に扉を叩き、なおもこじ開けようと必死になった。一方アルファ、ベータは、低い威嚇のうなり声を上げながら、扉の前で足を踏ん張った。けしてあの醜悪な虫共を主の元に行かせてはならない。たとえ自分達がさっきの蛇と同じ運命を辿るとしても、負けるわけには行かないのだ。二匹の必死さをあざ笑うように、前にも増した点光源のざわめきが、遼原の火のごとく押し寄せてきた。その一部が石段にぞろぞろとはい上がる。二匹は限界まで気を高ぶらせ、その両目から燭光を放った。一瞬聖なる光に晒された百足の集団が、石段からはねつけられるようにして落下する。だが、石段が元の素肌を取り戻したのは一瞬でしかなかった。すぐに後陣の百足が前にも増した勢いで石段をよじ登り、二匹の足元に迫ってきた。振り返ると百足は石段からだけでなく、足元の柱からもよじ登ってきている。瞬く間に空間が、百足の身体で埋め尽くされていった。じりじりと押されて下がる内に、二匹の尻尾が夢殿の扉に押し付けられた。
「くっそー! 何とかならんか! 麗夢さんお願いだ! 目を覚ましてくれ!」
アルファ、ベータは榊の足元で互いに顔を見合わせた。もはや出来ることはこれしかない。二匹は悲壮な決意の元、最後の突撃を敢行しようと後ろ足に力を込めた。その時である。
 シャン!
 場違いなほど澄み切った輪管の打ち合う音が、百足のざわめきを打ち消した。絶体絶命を覚悟した二匹の目が、その姿を捉えて瞬く間に生気を甦らせる。
「麗夢殿はこちらか?」
 修羅場に踏み込んだものとは思えない、落ち着いた通りの良い声だ。榊、アルファ、ベータは思い思いに、その頼もしい味方の到来を歓迎した。
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7.襲撃 その3

2008-04-27 20:39:52 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
「円光さん!」
「ニャーン!」
「ワンワン、ワン!」
「おお、榊殿にアルファ、ベータ、息災であったか?」
 すり切れた墨染め衣から口の端をほころばせた円光は、無造作に百足の群の中に足を踏み入れた。百足達は新たな強敵の襲来を悟ったか、一旦夢殿から離れて、一斉に円光目がけて押し寄せた。
「危ない!逃げるんだ円光さん!」
 榊の叫びが円光の耳を打つ。だが、円光はそのままただ黙って立っていた。やがて一匹の百足が円光のワラジを越えてその足にはい上がった。それを皮切りに前からと言わず、後ろからと言わず、数知れぬ百足が円光の身体をはい上がる。遠目に見ると、地面を覆う黒い布が、円光の身体を足元から覆い尽くしていくように見えるだろう。その布が膝を越え、腰に達し、さらに胸まで上がっても、円光は全く動こうとしなかった。思わずアルファ、ベータは駆け寄ろうとしたが、その異様な織物が首まで上がってきたとき、円光がもう一度にこりと微笑みを見せた。
(案ずるな。大過ない)
 力強い円光の言葉が、二匹の頭に直接届く。やがてその微笑みもまた覆い尽くされ、円光の身体がすっかり百足の大群に埋め尽くされた。もはや地面に残る百足はなく、その全てが重なり、もみ合いしながら円光の身体にまとわりついている様子である。五mを越す大蛇を埋め尽くしたときでさえ百足は大半が地面に蠢いていたというのに、これは一体どう言うことか。固唾を呑んで見守る榊と二匹の前で、その異変は突然起こった。全身百足の彫像と化し、全く身動き取れないはずの円光が、シャン! と力強くその錫杖を打ち鳴らしたのである。と同時に、一筋の細い光線が錫杖の辺りから天に吹き出した。その光に蹴散らされるように、錫杖のてっぺん辺りに陣取っていた数匹の百足が地面に堕ちる。更に光が一筋、また一筋と次々に吹き出し、錫杖の先を中心に、漆黒に蠢く百足達の壁に光のひび割れが四方に走った。ひび割れからも次々と光が周囲に走り、やがて、爆発的な燭光が、全ての百足を吹き飛ばし、辺りの闇を白く染め上げた。
「大事ござらぬか、榊殿、アルファ、ベータ」
 ようやく光が薄れた頃、榊、アルファ、ベータは、そこに日頃見慣れた一人の男が、すり切れて裾がぼろぼろになった墨染め衣で立っているのを見た。ただ、いつにもまして神々しいまぶしさを増しているように見える。二匹ともまだまぶしいものを見るように目を細めた。確かに目にはいつもの円光が映っているが、目に見えない部分が、円光とは違う何かのような気がするのだ。
「どうした、拙僧の顔に何か付いているのか?」
 いつものように喜び勇んで寄りついてこない二匹に、円光も怪訝な顔をした。が、すぐに二匹の気持ちを察して、円光は秘密を打ち明けた。
「ああ、あの力は拙僧ではない。麗夢殿に届けるようたくさんの麗夢殿から頼まれた神の宝の力なのだ」
「何だって、たくさんの麗夢さん?」
 言っている意味が分からないという榊に、円光は微笑んだ。
「まあその話は後でゆっくり致しましょう。それより麗夢殿はご無事か?」
「それだ! 円光さん、麗夢さんが気を失ったまま、ぴくりとも動かないんだ」
「なーご」
「くぅん……」
 二匹も尻尾と耳を垂れ、目を伏せた。一瞬、麗夢殿に何かあったのか! と目を剥いた円光だったが、夢殿をうかがった円光は、ほっと安堵の溜息をついた。
「安堵なさい、榊殿。アルファ、ベータ。あの百足達をのぞいて、この浄域に不穏な影はない。確かに拙僧にも、今、麗夢殿の気配はつかめないが、必ず大丈夫だ。さあ、もうしばらく麗夢殿が戻って参られるのを待ちましょう」
 円光は榊等に頷くと、石段まで歩み寄り、腰を下ろした。
 アルファ、ベータは互いに顔を見合わせると、円光の元に走った。豪徳寺家でも、死夢羅の件でも、聖美神女学園でも、夢隠村でも、ロムの時でも、そして南麻布女子学園でも、結局一番頼りになったのはこの円光だった。その円光が力強く保証したのだ。二匹は少し不安を和らげ、麗夢の次に安心できる場所、円光の側に、寄り添うようにうずくまった。榊もまた、やれやれ、と頭をかいて円光の隣に腰を下ろした。とんでもない夜になってしまったが、今はどうやら待つしかないようだ。結局、塑像のごとく夢殿の前に鎮座した初老の男と僧侶、それに子猫と子犬の奇妙な取り合わせは、二時間後、麗夢がようやく夢殿から出てくるまでじっとその場を動かなかった。
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8.天皇陵の秘密 その1

2008-04-27 20:39:29 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 「しくじったか……。どうやら十種の神宝(とくさのかんだから)を発動させた奴がいるらしいな」
  葛城山の一角、東に突き出た巨岩の上で、北寄りの方角を見つめながら松尾亨は一人ごちた。またやっかいなものが現れたものだ。かつて、我が偉大なる先祖はその霊力に抗しきれず、遂に皆殺しの憂き目にあった。今度もまた、我が野望の邪魔をするのか……。松尾は苦々しげに吐き捨てると、眼下の光輝く夜景を見下ろした。明るさは西側の大阪より遙かに劣るものの、これでも一望三〇万人に達する人間がひしめいている。かつて都だった頃より賑やかさという点では間違いなく上回っているだろう。だが、日本全国で百万人も居なかった時代と違い、今はこの狭い国土に一億人以上が住む時代だ。それを考えれば、今はただの田舎町に過ぎない小さな土地としか言いようがない。それでも、ここは何といっても自分達原日本人のふるさとである。いかに小さな取るに足らない土地であれ、手に入れずに済ませるわけには行かない場所だ。こしゃくにも侵略者の子孫はこの土地を「たたなずく八重垣やまとしうるわし」と詩に詠んだが、確かに我らにとっても麗しき土地なのである。故にこそ、新しき神聖国家を築くためのスタート地点として、これほど相応しい土地もない。それを実現するためにも、一国も早くこの葛城山系に封じられた我らが先祖の力を解き放ち、自分のものにする必要があった。既にいにしえの闘いの末封印された眷属達は、その多くを解き放ち、我が力の糧としてある。あと残るのは、あの小山の周辺に残る小さな古墳群だけだ。それさえ解き放てば、この山に施された最後の封印を解くことがかなうであろう。
「あの娘は最後の段階で我が手にあればそれで良い。まずは封印の解除だ」
 十種の神宝の存在はやっかいだが、それは今、あの娘と共に遠く法隆寺にある。いかに素早く動いても、あそこからあの小山まで来るには一時間を下ることはない。対してこちらには、それだけの時間があれば、余裕でここまで戻ることがかなうだろう。そして、ここの封印さえ解けば、もはや十種の神宝と言えども敵ではない……。松尾の頭がもぞもぞと動いた。赤や青黒い身体をてからせて、左右に並ぶ二三対の足を複雑且つ精妙に蠢かせている。もうすぐお前達の仲間を全て取り戻してやるからな。松尾は髪の毛の間をはい回る「仲間達」に呼びかけると、すっくと岩の上に立ち上がった。
「いざ参ろう! 我らが御代のために!」
 松尾は、大和三山の一つ、畝傍山として知られる標高一九八・八mの小山を見つめ、思い切りよくその岩を飛び降りた。

 そして、一時間が経過した。
 鬼童は、今し方まで繰り広げられた戦闘、と言うよりは一方的な虐殺に、まだ頭の芯がしびれたような状態から脱し切れていなかった。一時間ほど前、畝傍陵墓監区事務所前に設けられた臨時指揮所の天幕の下で、大きく広げられた周辺地図を前に、加茂野美里が号令をかけていたのが嘘のように思えてくる。その時は一五〇人からの屈強な男達が、この狭い場所にひしめいていたのだ。だが今は、その全員が、まだ焦げ臭くくすぶり続ける事務所の残骸や、なぎ倒された巨木の狭間で、本来の姿になって躯を晒している。今、命を保って此処に立つのは、自分と加茂野美里のただ二名だけだった。
 けして加茂野の指揮がまずかったわけではない。一時間前、この場で練った加茂野の作戦は、少なくとも現状ではベストの戦略だったと言えるだろう。
 加茂野は、此処畝傍山周辺に点在する四つの古墳のうち、事務所に最も近い神武天皇陵の守りに全てを集中した。そのために、西側の安寧天皇陵と懿徳天皇陵、北側の綏靖天皇陵を無血で明け渡したのだ。日頃から数々の結界を重層的に構えた神武陵は、可能な限り高めた反撃密度とともに、まさに鉄壁の防御態勢が構築されていたはずであった。これなら数時間単位で支えきることが出来るに違いなく、あるいは何人かは生き残ることさえ可能かも知れないとさえ、加茂野は期待していたのだ。だが、それらはもう命を失った有機物の塊として、そこここに長い躯を並べている。白、黒、黄金、体色こそ様々であるが、皆、卵の時から大切に育んできた子供達である。
 蛇を使役する加茂野家の人間として、本物の人間よりもこの者達とのつきあいの方が長かった加茂野には、この光景は余りにも信じがたく、痛々しいものであった。人間の気持ちは分からないことも多いが、この者達の気持ちなら手に取るように判った。ただ一人をのぞいて……。加茂野は頭に浮かんだ今は亡き愛しい男の面影を振り払い、その姿を模した化け物に対する憎悪の炎に薪をくべた。
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8.天皇陵の秘密 その2

2008-04-27 20:39:20 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 つい一時間前、凄まじい数の百足を伴って現れた松尾は、一なでで苦心の結晶した多重結界を無力化し、襲いかかってきたのである。そして、加茂野の目の前で、本性を現し、絶望的な闘いに身を投じていった使い魔達を、見せつけるように一匹、また一匹と無数の百足で押し包んで殺害していった。僅か一〇分足らずで支えきれなくなり、神武陵を明け渡した加茂野等を、松尾は執拗に追い詰めた。蠢く絨毯のごとく辺りを埋め尽くした百足の大群がこの事務所まで押し寄せて、残りの蛇達を一掃したのであった。最後の瞬間、加茂野の目の前で唯一残った大蛇が、残る力を振り絞り、傷だらけの尻尾を振り上げて地面に叩き付けた。数匹の百足が砕け散ったが、その隙にはい上った百足達がその鋼の如き鱗を食い破り、苦しみのたうち回る大蛇にとどめを刺した。雄々しく上げ続けていた鎌首がどうと地面に横たわったとき、ここに、加茂野美里が慈しみ、鍛え上げた八百万の神の軍団が滅びたのだった。
それだけの光景を見せつけた上で、松尾は加茂野に言い放った。
「これで全ての悪夢は解き放った。後は最後の封を解いて、我が力を完全に目覚めさせるのみ。美里、お前と鬼童は最後まで生かしておいてやる。全世界の王となった俺の姿を見せるためにな。あと数時間、楽しみに待っていろ! ふぁーっはっはっはっは!」
 こうして松尾は高笑いを残して、まさに潮の引くようにして、配下の百足達と西に去って行った。
 完敗だった。
「あった! よかった、無事だわ!」
 全身すすだらけになった加茂野が、焼け落ちた事務所の残骸をひっくり返し、探していたのは、ついさっき鬼童にも見せた一枚の鏡であった。
「藤原京出土の大事な鏡。残っていて良かった……」
 加茂野は、汚れるのも構わずその場にしゃがみ込み、スーツの袖で鏡を丹念に磨き始めた。
「おい、今はそんなことをしている場合じゃないだろう?」
 鬼童は加茂野の腕を取って立ち上がらせた。すると加茂野は、いやいやと首を振って、鬼童の腕を振り払おうとした。
「放して! もう何もかもおしまいよ! あの化け物が最後の封印を手にした以上、もう何をしても勝ち目はないわ!」
 なおも逃れようとする加茂野の肩を両手で挟み込み、鬼童はその身体を激しく揺さぶった。
「しっかりしろ! 勝ち目があるかないか、まだやってみなくちゃ判らないだろう?」
「何も知らないくせに気休めでものを言わないで! 私が、手塩に育ててきたこの子達がこんなにあっさりやられちゃったのよ! これ以上一体どうすれば対抗できるって言うのよ」
「松尾がそんな弱音を吐いたか!」
 鬼童の大喝が、見るも無惨な大敗に心までくじけた加茂野に叩き付けられた。
「いいか、僕たち科学者は絶対に諦めたりはしない。たとえ対象がどう足掻いても手の届かない究極の真理だったとしても、手を変え品を変え、けして諦めずにそこに至る道を探る。そして、砂漠の砂粒を一つ一つ動かすような無限の努力の果て、それまでの業績を飛び越えるブレイクスルーを生み出して、世界を革新してきたんだ。少なくとも僕も松尾もそうやって悪あがきだけは誰にも負けずに続けてきた。だからこれからも僕は続ける。松尾の分も、ここで諦めるわけには行かないんだ。だから教えてくれ。仁徳天皇陵やこの神武天皇陵に施されてあった封印と封じられていたもののこと、それにあの松尾もどきがこれから解くという封印、それにただの陰陽師ではない君たちのことを。それらのデータを集めて検討すれば、必ず突破口は見つかる。いや、見つけなくてはならないんだ!」
 鬼童の科学者としての心得を、加茂野がどこまで理解したかは判らない。だが、少なくとも松尾もあきらめを知らなかった、と聞かされて、絶望と言う漆黒の影に覆われていた加茂野の目に、理性の光が再び灯った。
「判ったから放して。痛いわ」
 あ、すまない、と鬼童が手を離すと、加茂野は鏡ごと両肩を自分の手で抱きしめた。
「私は、天皇陵とされている各地の古墳に瞑る、原日本人の悪夢を監視する役目の者よ」
「原日本人の悪夢?」
「各地の天皇陵は、考古学者達が言うように、一つとして実際の天皇を祀ったものはないわ。世界最大の面積を誇る仁徳陵も、体積でその仁徳陵を上回る応神陵も、どちらにも遺体すら納められていない。いえ、飛鳥時代以前の多くの天皇陵がほぼ同じ。なのにどうして宮内庁が頑として彼らの要求を拒み、立入禁止の姿勢を貫いているか。それは貴方が見た通り、あそこには天皇の遺体の代わりに、古代の日本の帰趨を賭けた闘いで敗れた原日本人達の悪夢と呪いを封印していたから。でも、それが判ったのは明治五年だった……」
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8.天皇陵の秘密 その3

2008-04-27 20:39:13 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 明治五年(一八七二年)、時の堺県令税所篤は、仁徳天皇陵の清掃を中央政府に申し立てた。時に岩倉具視使節団が欧米訪問の最中であり、中央政府では西郷隆盛等の征韓論と大久保利通等の内政優先論との論争、長州派維新志士らによる大がかりな汚職事件の発覚などの混乱で、その申し立てを怪しむ余裕もなく、届けは、全くの二つ返事で内諾された。しかし、税所の目的は清掃などという殊勝なものではなかった。この混乱に乗じて、仁徳陵を発掘を試みたのである。その時、宮内省も太陰暦から太陽暦への切り替え、廃仏毀釈の推進などで手一杯であったこと、古くから朝廷に伝わっていた天皇陵の真相について真剣に検討することもなく維新を迎えたこともあって、その行為に対する認識自体も甘かった。結果、仁徳陵の結界がほんの僅かばかり傷ついた。所詮単なる考古趣味に踊った一好事家のショベルで付けられた傷など、全体からすれば些細なものだったと言える。しかし、その時噴出した太古の悪夢がもたらしたもの。歴史が記録する変異の数々は、西郷の下野、西南戦争、大久保暗殺、と続くうち重なる政変劇、そして皇居まで全焼する事態に発展した、度重なる大火に見舞われた新政府東京という災害として、当時の人々を翻弄し続けた。ここで事態を重視した政府は極秘裏に宮内省へ調査を命じ、その結果、永らく極秘として正倉院に伝えられていた古文書と鏡が発見された。その解読の結果、政府は古文書の内容を元に危険な古墳を天皇陵に指定、誰も近づけないよう実質的な封印を行い、宮内省にその管理を義務づけたというのである。
「数ある天皇の中でも、初代神武天皇はじめ、十数代は実在さえ疑われている伝説の大王だけど、その時の調査で畝傍山周辺の四つの古墳が、規模に比して余りにも危険な状態だったことが判った。そこでその四つを初代から四代つまり神武・綏靖・安寧・威徳の天皇陵に指定し、祭り上げたの。その際、天武天皇より代々この仕事を任されてきた我が加茂野家が、当時の宮内省に入り、特別陵墓監督官として新たな仕事に就いたのよ」
「しかし、いつまでも封印を続けるわけには行かないだろう。いっそ公開して広く解決を検討する方法もあったはずだ」
 鬼童の問いに、加茂野は首を振った。
「もちろん我々もそれは考えたわ。でもそれを裏付けるデータが何もない。そこで、亨に依頼したの。現在の封印されている悪夢のエネルギー量とその半減期を調査し、危険性を判断したいって。その結果、解放しても差し支えない、と判断された陵墓も出てきたわ。例えば宮崎県の西都原古墳群にある陵墓参考地、男狭穂塚古墳と女狭穂塚古墳には、今年から地中レーダーによる探査の許可を出している。いかに強力なエネルギーでも、いつかは失われるときが来る。その時までは封印を守ることが、私達に科せられた使命だった。でも、明治時代の加茂野家にも見落としがあった。南麻布の地下にあんなものが眠っていたなんて、それをよりにもよって亨が発見することになるなんて……」
「松尾がそんな仕事を……」
 鬼童は、加茂野から聞いた天皇陵の真相に、驚きを隠せなかった。宮内庁が何故頑なに天皇陵やその陵墓参考地の発掘を許そうとしないのか。加茂野の話を信じるならば、単にメンツや前例踏襲のお役所仕事のためではなく、発掘されては困る事情があったからだったのだ。そしてその話は、今目の前に展開する事件の数々、そして、あの南麻布女子学園古代史研究部の部室で垣間見た松尾データが証明して見せた。やはりあのデータは、智盛や闇の皇帝同様、日本各地に瞑る巨大な精神エネルギーの数値だったわけである。
「で、松尾もどきが解くという最後の封印は何だ?」
「わからない。言い伝えでは、役行者が葛城山に封じた一言主の力とか、神武天皇が滅ぼした土蜘蛛一族の呪いだとか言うけれど、それが一体何なのか……」
「それは私が説明するわ」
 はっとなって振り返った鬼童は、それまでの翳りも濃い真剣な表情を、期待と安堵でほころばせた。
「麗夢さん!」
 その後ろから、円光、榊の精悍な姿も現れた。全てがどん底に叩き込まれた中に差し込んできた期待の光。加茂野はまぶしげにその自信溢れる頼もしい姿に目を細めた。
「貴女が加茂野さんね? 少し遅かったけど、まだ大丈夫よ。最後の切り札を動かしに行きましょう」
 麗夢は榊、円光にも合図して、先に立って歩き出した。慌ててそのあとに追いすがりながら、鬼童は言った。
「麗夢さん、どこへ行くんです?」
「藤原京よ」
「藤原京?」
 今度は加茂野がオウム返しに疑問符を投げる。その二人に、麗夢は表情を改めて答えた。
「詳しい話は着いてからにしましょう。時間が余りないの」
 計ったように顔を見合わせた鬼童と加茂野は、一縷の期待とわだかまる不安を抱えつつ、碧の黒髪に覆い隠された、その小さな背中を追いかけた。8
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9.藤原宮址 その1

2008-04-27 20:38:37 | 麗夢小説『夢封じ 大和葛城古代迷宮』
 麗夢の愛車と奇跡的に残った畝傍事務所の車二台に分乗した一行は、五分ばかりを走ってとある広場に足を降ろした。
「此処は?」
 榊が見たところ、立て込んだ住宅街の一角にある、100m四方程の野原だ。道路を挟んで北側には広い池があり、静かな水面に折からの満月が姿を映している。だが、とてもかつての都が置かれていたとは思えない、住宅の建て込んだ狭い土地である。
「此処は藤原京の中心、宮殿があった場所よ。天皇の住まいや政務を行った宮だけで一キロ四方、藤原京全体では、東西五・三キロ、南北四・八キロに及ぶ、平城京、平安京よりも大きな都だったと言われているわ」
 加茂野はすっと手を伸ばし、周囲に黒くわだかまって見える三つの山を次々に指さした。
「北のきれいな円錐形に見えるのが耳成山、西南に見えるのが畝傍山、反対側の引く井岡みたいな山が天香具山、万葉集にも歌われる大和三山があれよ。藤原京は、あの山々も都の内にすっぽり納めていたと言うことになるわね」
「あの山を都の中に?」
 榊はさすがに目を見張って、周囲の山を見た。どれも山としては大した大きさのものではない。一番背の高い畝傍山で高さ198.8m、天香具山152m、耳成山139.6m。山と言うよりは、平地に巨人の子供が砂山遊びをしたような、こじんまりとした塊である。一番近い天香具山の山頂がここから直線距離で1.1キロ、耳成山1.3キロ、一番遠い畝傍山でも2.3キロしか離れていない。それだけに、小さい山と言ってもそれなりの存在感がある。
「で、此処で何をするの」
 一通り周辺の説明をした加茂野は、麗夢に言った。
「まず松尾さんもどきの目的ですが、かつて、我々の先祖が葛城山脈に封印した最強の太古の悪霊を復活させ、使役することにあります。そのための鍵が、周辺の天皇陵に封じられていた、と言うわけ」
「何なんです、葛城山脈の悪霊とは一体?」
 榊の質問に、麗夢は言った。
「恐らく出てくるのは、あの葛城山脈と同じ大きさの怪物よ、榊警部」
「あの山脈って、あれですか?」
 榊は思わず声を上げて、遠く十数キロ西に聳える山並みを指さした。自身麗夢と一緒にその一角を潜り抜けてきてもいる。いくら怪物が大きいと言って、そんな大きな怪物など聞いたことがない。
「伝説では、初代天皇である神倭磐余彦尊(かみやまといわれひこのみこと)が、葛城に盤踞する土蜘蛛と呼ばれたまつろわぬ者共を葛の網で一網打尽に討ち取り、その身を三つに割って葛城山脈に葬ったとあります。役小角の伝承にも、その神通力でこの山の神を封じたと言うわ。もちろんその話全てが本当のこととは言えないけれど、何らかの過去の記憶がこの話に反映していると思って間違いない。松尾博士の調査でも、それを裏付けられるデータが上がっているし、それを考えれば、あながちあり得ない話ではないわ」
 加茂野の補足説明で、榊の頭に、あの微動だにするはずがない山々が突然動き出し、天を突く巨人となって暴れ出す光景が描かれた。およそ現実離れなマンガじみたものとしか思えない。
「一体いつそれが出て来るんです、麗夢さん」
「松尾さんもどきはその鍵を全部手に入れたから、さっそく復活の儀式に取りかかっているはず。恐らく深夜二時頃、闇の力が最もその力を発揮する丑三つ時にあわせて復活させる積もりでしょう。後……二時間ね」」
「それなら、いっそ先制攻撃して、その、松尾もどきを押さえたらどうなんだ?」
 一旦時計に目をやった加茂野は、再び顔を上げて榊に言った。
「もう遅いわ。今の我々では、あの化け物を押さえる事なんて出来ない」
 加茂野の厳しく引き締まった顔が、榊には僅かにゆがんで見えた。その松尾を押さえようとして散っていった部下達の事を思い出したのかも知れない。
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