4月5日のブログで、
「私の使い方であれば、間違いなくマーレーの純正ピストンがベストでしょう」と書いたことに関して、その理由を尋ねるメールを頂きました。確かに、 “軽量” で “強度が高く” かつ “高精度” なはずのJEのピストンより、マーレーの純正の方が適しているなんて、不思議な話に聞こえますよね。そこで今日は、その理由についてご説明させていただきます。それではまず最初に、マーレー、JE両方のピストンを見比べてみましょう。
コレが純正のマーレーのピストン。Al-Si系のアルミニウム合金、4032材の鍛造。これは圧縮比9.5:1の北米、日本仕様で、重さは約455gでした。
対してコレが、JEのピストン。Al-Cu系のアルミニウム合金、2618材の鍛造。今回使用するのは圧縮比10.5:1という仕様。2618材は比重では4032材より重いものの、強度が高いためにより “肉抜き” できるため、結果的には約419gと純正より軽量に仕上がっています。計測してもらったところ、6個のピストンの重量差は最大で約1.6gという優秀な値でした。
皆さんもご存知の通り、シリンダーとピストンの間には適度なクリアランスがなくてはなりません。当然のことながらピストンやシリンダーは熱で膨張するため、そのクリアランスはエンジンが温まった状態で最適になるように設計されています(目視では分かりませんが、冷間時のピストンは楕円で台形です)。つまり、ピストンの製法や素材が変更されれば膨張率が異なってくるため、そのクリアランスも変わってくることになるわけです。一般論としては、鋳造よりも鍛造の方が強度が高く、耐摩耗性も優れているものの、鍛造の方が熱膨張係数が大きいため、鋳造より大き目のクリアランスをとることが必要です。
マーレーの純正ピストンに採用されている4032材は、耐摩耗性が高く、鍛造でも熱膨張係数が小さいという利点があり、5/100mm程度のクリアランスとなっています。
それに対し、JEのピストンに使用されている2618材は、より強度が高い反面、熱膨張係数も大きいので、冷間時には純正ピストンよりも大き目のクリアランスをとる必要があります。今回入手したのは純正のシリンダーに無加工の “素組み” で使用するためのリプレイスメント用ピストンですが、実際に清水さんが計測に出したところ、広い方で8.4/100mmという数値でした。確かにレース用では10/100mmを超えるクリアランスのピストンも使用されますが、ロードカー用としてはかなり広いですね。
と、いうことは、JEのピストンを使用することにより、 “エンジンを始動してから、適正な温度に達するまで” の間、以下のような弊害が発生することが考えられます。
①オイル消費が増加する。
②ブローバイが増加する。
③サイドノック(ピストン打音)が増大する。
逆に、JEのピストンを使用する利点は以下の通りです。
①軽量なので、より鋭いピックアップが期待できる。まぁこれに関しては現実には体感できるほどの差はないでしょう。
②圧縮比が高いので、パワー&トルクが(若干)増大する。我が家のクルマは北米/日本仕様のエンジンなので、恐らく体感できるほどの差が出るはず。
③強度が高いので、高負荷時におけるピストン破損のリスクを低減させることができる。
以上の弊害と利点を天秤にかければ、どちらが “カミさんの通勤用” という我が家のクルマに適しているのか?、答えは一目瞭然ですよね。JEのピストンを使用した場合、暖機無しでいきなり走り出したくはないですし、エンジンが温まるまでは結構白煙が出るかもしれません。純正のように、20万km以上ノンO/Hというわけにも行かないでしょう。
にもかかわらず、今回JEを使用することにしたのは、正直エフロードの連載のネタにしようと思ったからです(笑)。もしあまりに使い勝手が悪いようでしたら、また純正のマーレーに戻します。でも、もしそうなったとしても、次はヨーロッパ仕様のピストン(圧縮比10.3:1) にしたいなぁ。