学問空間

「『増鏡』を読む会」、第10回は3月1日(土)、テーマは「二条天皇とは何者か」です。

資料:古澤直人氏「第四章 平治の乱の構図理解をめぐって」

2024-12-26 | 鈴木小太郎チャンネル2024
『中世初期の〈謀叛〉と平治の乱』(吉川弘文館、2019)
https://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b383077.html

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第四章 平治の乱の構図理解をめぐって―清盛黒幕説と後白河上皇黒幕説について─

一 課題
二 平治の乱の構図理解(1)─清盛黒幕説について─
 1 多賀宗隼による新説
 2 清盛と信西の関係
 3 清盛の帰京について
 4 親政派と清盛(経宗・惟方の行動)
三 平治の乱の構図理解(2)─後白河黒幕説について─
 1 平治の乱に関する歴史叙述について
 2 貴族社会の状況とくに親政派と院政派の対立開始時期(乱の要因)
 3 後白河上皇の「動機」について(乱の要因2)
結び
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p170以下
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 1 平治の乱に関する歴史叙述について

 河内祥輔氏は二〇〇二年に発表された『保元の乱・平治の乱』において平治の乱の全体像を叙述された。河内氏は平治の乱を議論する際にいくつかの前提をおいている。つまり、保元の乱については、『兵範記』という一級史料があるために、『保元物語』の誤謬を見極めるのは容易だが、平治の乱は依拠すべき日記を欠くので、『平治物語』に対する見方に甘さが生じ、ともすれば、事件の経緯が『平治物語』に全面的に依存して説かれる危険がある。軍記物語である『平治物語』の筋立てをすべて白紙にもどして見つめ直すべきである。以上の基本態度をとられたことである。こうした基本態度に立って、平治の乱については、
  ①『百錬抄』、②『愚管抄』、③『平治物語』
という史料の優先順位をつけ、─とくに②の『愚管抄』を主軸にすえ─事件の経緯そのものを調べ直す基礎的作業を行なわれた。河内氏の『保元の乱・平治の乱』における平治の乱に関する記述は、典拠表示を有する学問的著作としては近年唯一のものである。さらに、近代歴史学の長いスパンをとってみても、ほとんど唯一といってもよい学問的達成ではないかと思われる。保立道久氏はこの河内氏の新説について、「河内氏が『保元の乱・平治の乱』で展開した新説は、この二つの乱の詳細を描き出して間然するところがない」と評されている。しかし、その挑戦ゆえにいくつかの問題点を有し、その所論の有効性や射程の範囲、限界性、問題点を我々は慎重に検討し、吟味する必要がある。
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p173以下
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 3 後白河上皇の「動機」について(乱の要因2)

 後白河上皇の動機こそが河内氏の独自の見解でありまた氏の最大の主張である。それは「皇位継承問題」である。後白河は二条(子孫)を直系とした父鳥羽の遺志に反抗し、二条即位で空いた皇太子にひそかに次男(後の守覚法親王)を擁立しようとした。この次男は平治の乱の二ヶ月後に出家し皇位継承資格を失っており、平治の乱は次男の出家を止めるタイムリミットに起きた。この(守覚)擁立案を進めようとする場合、最大の反対者と予想されるのは信西であり、後白河にとって、信西は「邪魔な存在」であり、そこに信頼は信西のライバルとしてにわかに登場するとされる。後白河の鬱屈した衝動、すなわち鳥羽法皇の遺志の遵守という合意に対する反感がそこにみえると指摘された。
 実は筆者は以上の主張については是非の判断ができない。というのは、河内氏自身「文献上にその徴証を見出すことができるわけではない」が、「あえて想像を廻らして」、<皇位継承問題>が、後白河が信西排除に動いた動機と記されているからである。
 「後白河のような人物こそ、父に対して反抗する姿が似合っている」という記述も、<そうかもしれないがそうでないかもしれない>としかお答えしようがない。「皇位継承問題こそが一貫して政治の最重要課題であり、政治の主たる動因であったとみなければならない」という観点は、河内氏の一九八六年の『古代政治史における天皇制の論理』以来の一貫した観点であり仮説であるので、その観点から平治の乱についても解釈されたということは氏の研究の文脈に立てば十分理解できるのだが、筆者はその前提的理解を共有することできないので、本書の核心的な仮説であるこの「後白河上皇の動機」についても、残された具体的な痕跡から検討せざるをえないことになる。その結果として、具体的痕跡(おおよそが文献史料)にもとづく経験科学としての歴史学の問題としては、この命題はいまだ実証された問題ではなく、そしておそらく今後も実証不能な問題と考えざるをえない。河内氏ではこの記述に関して「想像」と断っているので、その点で問題は少ないのだが、筆者は以上の立場をとるゆえに、この河内氏の見通しについては受け入れることはできない。
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