平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

女囮捜査官 山田正紀

2007年05月30日 | 小説
 品川・大崎の山手線の女性トイレで起きる連続殺人事件。
 朝の通勤ラッシュ時の犯行ということで容疑者は「砂漠で砂を拾う」様にいる。
 その犯人を追う囮捜査官・志穂。
 囮捜査ということで時には犯人に首を絞められ、時には痴漢行為に遭わなくてはならない。
 そこにあるのはエロス・殺人・謎・サイコ。
 志穂はもちろん美女で、男性向けエンタテインメントの要素が凝縮されている。

 さてこの作品で面白いのは小説の構成だ。
 容疑者が次々と変わる。
 警察が最初に目をつけた阿部→ホームレスの黒木→品川駅で女子高生を追いかけまわしていた古田→女性を怖れ憎悪している美容院の相沢→雑誌の配送をしている夕張、そして……。
 この構成を作家の法月綸太郎氏は解説の中で「連鎖式」と述べている。
 すなわち「複数のアイデアから生まれる挿話を、数珠のようにつないで一本の長編に仕立てていく、足し算型の構成」。一話ずつ完結した短編が同じ主人公・設定で連作され、一編の長編になる形式とも似ている。
 この「連鎖式」で書かれた「女囮捜査官」は容疑者とされた古木、相沢など一編の短編にしていい、起承転結のドラマを持っている。
 なお話は逸れるが、同じく法月氏に拠ればこれを応用、改変した形式として「モジュラー型」という形式があるらしい。
 すなわち「いくつもの事件が、時間差攻撃のようにほぼ同時に発生し、それを刑事が追いかけていく」構成、「各エピソードをパーツごとに分解し、シャッフルして並び換えた」構成のことで、伊坂幸太郎の「ラッシュライフ」などはこの形式に当てはまるのではないかと思う。
 いずれにしてもミステリージャンルにおいて形式・構成というのは重要な要素だ。それがサスペンスを生み、謎を生む。事件を複雑にする。

 なお、この作品、警察捜査についても詳細な描写がなされている。
 例えば捜査本部の会議シーンはドラマ・映画などでも描かれるが、それとは別に幹部だけが行う本庁幹部会議というものがあるらしい。出席者は「本庁捜査一課六係の係長、主任、管理官、課長、所轄署防犯課の係長、そして検事」。捜査会議のシーンで前の机に座っている人たちはこんな役職の人たちだったのだ。
 緊急配備が発動されると次の様なことが行われる。
「通信指令センターでは、事件発生から配備官僚までの時間がコンピュータの端末に打ち込まれ、犯人の逃走可能範囲が地図の上に描き出される」「この逃走可能範囲にある、すべての警察施設、検問、張り込み予定場所、駅、高速道路ランプなどに、緊急配備システムが敷かれている」「機動捜査隊の覆面パトカーがひっきりなしに現場に到着しては走り去る」
 刑事についてはこんな描写がある。
「刑事というのは因果な仕事だ。人をその第一印象から判断しない。どんな人間にも裏がある。その裏を嗅ぎわけるのが刑事という仕事なのだ」
 所轄刑事の愚痴もこう。
「本庁の捜査一課はなんといっても花形だ。プライドもそれなりに強いしな。あの連中を怒らせたらどんなに始末におえないか思い知らされている」
 この作品、警察小説としても読みでがある。


コメント (2)
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