漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0418

2020-12-21 19:40:40 | 古今和歌集

かりくらし たなばたつめに やどからむ あまのかはらに われはきにけり

狩り暮らし たなばたつめに 宿からむ 天の河原に われは来にけり

 

在原業平

 

 一日狩りをしてすごした今夜は、織姫に宿を借りよう。天の川に私はやってきたのだから。

 0175 にも出てきましたが、「たなばたつめ」は漢字では「棚機津女」で織姫のこと。詞書(この歌の詞書も長いです!)には、惟喬親王の狩りに随行したおり、親王の仰せで「狩りして天の河原に至るといふ心」を詠んだとの記載があります。なお、この歌とその返しである次の 0419 は、伊勢物語の第82段にも採録されています。

 旅を歌った巻第九「羇旅歌」、残り三首となりました。

 


古今和歌集 0417

2020-12-20 19:18:27 | 古今和歌集

ゆふづくよ おぼつかなきを たまくしげ ふたみのうらは あけてこそみめ

夕月夜 おぼつかなきを 玉匣 ふたみの浦は あけてこそ見め

 

藤原兼輔

 

 夕方の月であたりはぼんやりとしか見えないので、箱の蓋を開けて見るように、二見の浦の様子は夜が明けてからみよう。

 「玉匣」は「蓋」にかかる枕詞で、「ふた」が「蓋」と「ふた(みの浦)」、「あけて」が箱を「開けて」と夜が「明けて」の掛詞になっています。作者が実際に二見の浦を訪れた際、その地名から箱の蓋を連想して詠んだもので、非常に機智に富んだ作歌ですね。 ^^

 


古今和歌集 0416

2020-12-19 20:42:47 | 古今和歌集

よをさむみ おくはつしもを はらひつつ くさのまくらに あまたたびねぬ

夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまたたび寝ぬ

 

凡河内躬恒

 

 夜が寒いので降りる初霜を払いながら、草の枕に幾度も寝る旅であったことよ。

 詞書には「甲斐の国へまかりける時、道にてよめる」とあります。躬恒は甲斐権少目(かいのごんのしょうさかん)に任官したことがありますので、その赴任の際に詠んだものでしょうか。躬恒が初霜を詠んだ歌は他に 02770663 にも見えます。躬恒が好んだ語なのかもしれませんね。

 

こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな

心あてに 折らばや折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花

(0277)

 

ささのはに おくはつしもの よをさむみ しみはつくとも いろにいでめやは

笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色に出でめやは

(0663)


古今和歌集 0415

2020-12-18 19:40:10 | 古今和歌集

いとによる ものならなくに わかれぢの こころぼそくも おもほゆるかな

糸による ものならなくに 別れ路の 心細くも 思ほゆるかな

 

紀貫之

 

 糸に縒ることができるわけでもないのに、別れ路がまるで糸のように心細く思えることよ。

 別れの心細さを細い糸にたとえつつそれを否定(「糸でもないのに」)する手法。この歌について、吉田兼好は徒然草第十四段で

 貫之が、「絲による物ならなくに」といへるは、古今集の中の歌屑とかや言ひ傳へたれど、今の世の人の詠みぬべきことがらとは見えず。

と言っています。古来この歌が「古今集の歌屑」と酷評されたこと、そしてそれに対して兼好が反論していることがわかります。


古今和歌集 0414

2020-12-17 19:21:55 | 古今和歌集

きえはつる ときしなければ こしぢなる しらやまのなは ゆきにぞありける

消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける

 

凡河内躬恒

 

 越路の白山では雪がすっかり消えてしまうときはないから、その名は雪から来ているのだな。

 詞書には「越の国にまかりける時、白山を見てよめる」とあります。「白山」という名から雪は想像していたが、実際に雪がなくなることのない白山の様子を目の当たりにして改めて合点がいった、というところでしょうか。