「化学企業大手で三井グループの中核たる東レが、業者との資金の貸し借りを巡ってトラブルになった事件について、捜査二課が『貸金業法違反』だけでなく『弁護士法違反』の容疑でも捜査を開始した」
警視庁のさる捜査幹部はそう明かす。なぜこの事件で国会議員が立件対象となるのか。核心に触れる前に、これまでの経緯を説明しておこう。
事件の発端は、2016年7月に遡る。東レがバングラディシュで受注した水処理装置の販売が、同国内で発生したテロ事件による治安悪化などの影響で頓挫。だが、すでに装置は製造段階に入っていた。
処理に窮した東レは、その装置の引き受け先を探した。白羽の矢が立てられたのは、中国や東南アジア向け事業のコンサルを行うO社。東レ水処理事業部の営業部長であったF氏は、「資金調達ではうちが連帯保証するし、転売にも全面的に協力する。売れ残ったものは、高値で引き取る」と好条件でかき口説いた。
応諾したO社だったが、問題がすぐに発生した。関係者が語る。
「慌てて資金調達に走ったO社は足元を見られたんでしょう。昨年4月に飛び込み営業をかけてきたL社から2億4000万円の融資を受けたのですが、このL社、本業は広告や経営コンサルで貸金業者ではないのです。
融資は2ヵ月という短期で、金利は月利8%にもおよぶ法外なものでした。返済に苦慮したO社は借入期間を延長。8月に完済するまでに7000万円もの金利を払わされてしまった」そして、この最中、なぜか内閣府副大臣兼環境副大臣を務める秋元司衆議院議員が登場する。前出の捜査幹部が語る。
「のちの捜査で判明したことだが、L社の実質的なオーナーが知人を介して、秋元議員に融資金の残額1億2000万円の返済を催促してくれるよう依頼したという。議員は8月の完済日直前に東レの日覺(昭廣)社長に電話を入れた」
副大臣を務める国会議員から突然の連絡を受けた東レは、慌てて事態収拾に動いたという。営業部長のF氏に事情説明を求めると同時に、法務・コンプライアンス部が調査に着手。また、L社に1億2000万円を返済したのちには、O社のほかの借入先との交渉の場も設けるなどした。
だが、L社への高額な金利の影響で各社の融資金は契約通りに返済されず、事態は紛糾。そうしたなか、F部長はこっそりと退職届を出して姿を消し、東レ側の呼び出しにも応じなくなってしまった。
窮したのはO社だった。東レと借入先との間に挟まれ身動きが取れず、代わりに一連の経緯資料を各社に開示、状況説明に努めた。非弁活動
そして、年が明けて今年2月。にわかに事が動き出した。
「あの名門企業の東レが架空売り上げを計上して粉飾決算をしている!」――そんな話がメディアを駆け回った。裏付けとなる資料も流布されたのである。
直後、東レが火消しに動いた。警視庁幹部が続ける。
「2月12日、東レは警視庁中央署に、『Fの独断による不正取引が行われた』として告訴状を提出したが、それによって断片的にしか聞こえてきていなかった事件の構図が明らかになった。
これを機に内偵を開始すると、資金を融資した業者の悪質な貸付実態や関係者の過去の犯罪などが判明すると同時に、弁護士資格のない者が借金取り立てを行う『非弁活動』、すなわち弁護士法に抵触する行為の数々の証拠まで出てきた」
貸金業登録もせず、法外な金利で貸し付けをしているその業者については、下記のような実態が確認されたという。
・悪質として知られる業者が実際の資金提供者で、その代表者は過去に摘発されたこともある人物であった
・グループの一員と見られる会社がさらに東レを揺さぶろうとした動きがあった
・暴力団関係者との交流があった
一方、秋元議員の「非弁活動」疑惑についても、以下のような証拠が押さえられたとされる。
・秋元議員への依頼状・取り立てを迫る通話記録・秋元議員への回答書 などなどだ。
ところが、警視庁がこうした捜査の進展を伏せ、今後の方向性を検討している最中、「週刊文春」が事件について報じたのだった。
そして、秋元議員は同誌の取材に対し、東レに電話を入れたことも、L社のことについても「知らない」と繰り返した。完全否定である。また、事務所を通じて「そうした(借金を取り立てた)事実は全くない」とのコメントも出した。
もっともその際、「知らない」との前言を撤回するような説明も自身のFacebook上で行っている。「知人から相談があり、東レに債務の連帯保証をしているか確認するため電話したところ、社長から『そのような事実はない』と回答があった」というのだ。しかし、「借金の支払いを求めたという記事は、事実に反する」と記し、あくまでも取り立てについては否定していた。
警視庁は、こうした経緯も踏まえ、秋元議員の立件を視野に入れているというのだが、東京地検ではなく警視庁が国会議員をターゲットにするのは珍しい。友部達夫議員(故人)以来のことだ。
かねて政権への忖度が指摘されている警視庁とその指揮官庁たる警察庁に、本当に立件までする覚悟があるのだろうか。
「もう安倍首相も二階(俊博)幹事長も了承している。参院選後の8月には内閣改造もある。だから、秋元氏の事情聴取は8月以降の予定だ」
官邸筋は、あっさりと言うものの、こう付け加えるのも忘れなかった。
「もっとも衆議院が解散されて衆参同日選挙になれば、話は違ってくるだろう」
やはり政権による有形無形の圧力は避けられなさそうだ。警視庁は捜査機関として毅然たる姿勢が示せるのか。事件の行方が気になるところだ。