地蔵菩薩三国霊験記 9/14巻の1/13
地蔵菩薩三国霊験記巻九目録
一、源満仲郎等活事
二、地蔵三昧に通力を得たる事
三、甲斐の國稲積地蔵の事
四、白髪黒髪に轉ずる事
五、建長寺地蔵蝦夷嶋遊化の事
六、病苦に易給ふ事
七、讃岐國善度寺の地蔵の事
八、印佛功力害を免る事
九、半作地蔵靈験の事
十、正直に依りて神通を得る事
十一、女人活る事
十二、生身地蔵を拝する事
十三、雪佛利益の事
地蔵菩薩三国霊験記巻九 良観
一、源満仲郎等活事
圓融院の御代(10世紀後半)源朝臣多田の満仲の家子紀義冬とて武勇の士あり。平生殺生を業となして曽って一佛施僧の思なし。或時鹿を狩り追うとて馬に乗りながら寺の庭を横さまに馳せ過ぎけるに堂中を見遣りければ本尊地蔵菩薩の像端厳にして立給へり。一念恭敬の思ひをなし、弓と矢を左の手に取り右の手にて傘を脱ぎ敬礼の志を励みてこそ通りぬ。其の後久しからずして数日病悩して死しけり。閻魔の廳にいたりてかたはらを見れば数千の罪人其の罪に随て呵責を受るを我が身一生の造悪を思ひくらべて身の毛よだちて先立ちて血の涙を流しけり。胸を抱き身を振りて庭上にひざまずく爰に僧一人来たり給ひて冥官に向て曰、彼の男の罪を我に容し與へよとて、杻械をとき免じて早く旧里に皈て常になす罪を懺悔すべしとて御手を伸ばし南方に指を示し給ひぬ。義冬うれしさ限りなく、さて御僧はいかなる方ぞと問ければ、汝知らずや我は是狩りせし時一念敬礼せし所の地蔵菩薩なり。一念信仰の功力に酬ひて汝を済度す。蘇生の後敢えて殺生することなかれ、との玉ひて推出し玉ふと思へば蘇生しぬ。其れより志を励し一心に地蔵信仰の行人となり其の由来事を人に値ふごとに語りけるとなん。誠なりけるかな諸の賢聖の所にして百劫の中に至心に帰依して称名念誦し礼拝し供養し所願を求んよりは、如(しか)じ人有りて一食の頃なりとも至心に帰依して称名念誦礼拝供養して地蔵菩薩にをいてせば諸の求願満足せんと、十輪経の所説信ずべく証すべし。(大乘大集地藏十輪經序品第一「於百劫中至心歸依稱名念誦禮拜供養求諸所願。不如有人於一食頃至心歸依稱名念誦禮拜供養地藏菩薩求諸所願速得滿足。所以者何。地藏菩薩利益安樂一切有情。令諸有情所願滿足。如如意寶亦如伏藏。如是大士。爲欲成熟諸有情故。久修堅固大願大悲勇猛精進過諸菩薩。是故汝等應當供養。)