和俗童子訓(貝原益軒)巻之五 女子に教ゆる法・・4
婦人には、三従の道あり。凡そ婦人は、柔和にして、人に従ふを道とす。わが心にまかせて行なふぺからず。故に三従の道と云事あり。是亦、女子に教ゆべし。父の家にありては父に従ひ、夫の家にゆきては夫に従ひ、夫死しては子に従ふを三従といふ。三の従ふ也。幼きより、身をおはるまで、わがままに事を行なふべからず。必ず人に従ひてなすべし。父の家にありても、夫の家にゆきても、つねに閨門の内に居て、外にいでず。
嫁して後は、父の家にゆく事もまれなるぺし。いはんや、他の家には、やむ事を得ざるにあらずんば、かるがるしくゆくべからず。只、使をつかはして、音聞(いんぶん)をかよはし、したしみをなすべし。其つとむる所は、舅、夫につかへ、衣服をこしらへ、飲食をととのへ、内をおさめて、家をよくたもつを以って、わざとす。
わが身にほこり、かしこ(賢)だてにて、外事にあづかる事、ゆめゆめあるぺからず。夫をしのぎて物をいひ、事をほしいままにふるまふべからず。是皆、女の戒むべき事なり。詩経の詩に、「彼(かしこ)にあっても悪(にく)まるる事なく、ここにあつてもいと(厭)はるる事なし。」といへり。婦人の身をたもつは、つねに慎みて、かくの如くなるぺし。
婦人に七去とて、悪しき事七あり。一にてもあれば、夫より逐(おい)去らるる理たり。故に是を七去と云。是古の法なり。女子に教えきかすぺし。一には父母にしたがはざるは去。二に子なければさる。三に淫なればさる。四に嫉めばさる。五に悪疾(悪しきやまい)あればさる。六に多言なればさる。七に窃盗(ぬすみ)すればさる。此七の内、子なきは生れ付たり。悪疾はやまひなり。
是二は天命にて、ちからに及ばざる事なれば、婦(ふ)のとがにあらず。其余の五は、皆わが心よりいづるとがなれば、慎みて其悪をやめ、善にうつりて、夫に去(さら)れざるやうに用心すべし。凡そ人のかたちは、生まれ付たれば、あらためがたかるべけれ。心は変ずる理(ことわり)あれば、わが心だに用ひなは、などか、おろかなるより、賢きにも、移さば移らざらん。しかれば、わが悪しき生まれ付を知りて、ちからを用ひ、悪しきをあらためて、善きに移るべし。
此五の内、父母に順がはざると、夫の家にありて、舅、姑にしたがはざるは、婦人第一の悪なり。しかれば夫の去は、ことはりなり。次に妻をめとるは、子孫相続のためなれぱ、子なけれぱさるもむべ也。されど其婦の心和(やわら)かに、行ひ正しくて、嫉妬の心なく、婦の道にそむかずして、夫・舅の心にかなひなば、夫の家族・同姓の子を養ひ、家をつがしめて、婦を出すに及ばず。或(は)又、妾に子あらば、妻に子なくとも去に及ぶべからず。
次に淫乱なるは、わが夫にそむき、他の男に心をかよはす也。婦女は万の事いみじくとも、穢行(えこう)だにあらば、何事の善きも見るにたらず。是女の、かたく心に戒め、慎むべき事なり。妬めば夫をうらみ、妾をいかり、家の内みだれてをさまらず。又、高家には婢妾多くして、よつぎ(世嗣)をひろむる道もあれぱ、ねためぱ子孫繁昌の妨となりて、家の大なる害なれば、これをさるもむべ也。
多言は、口がましきなり。言葉多く、物いひさがなければ、父子、兄弟、親戚の間も云さまたげ、不和になりて、家みだるるもの也。古き文にも、「婦に長舌あるは、是乱の階(はし)なり。」といへり。女の口のき(利)きたるは、国家のみだるる基となる。といふ意なり。又、尚書に、「牝鶏の晨(あした)するは、家の索(さびしくなる)也。」と云へり。鶏のめどり(牝鶏)の、時うたふは、家のおとろふるわざはいとなるがごとく、女の、男子の如く物いふ事を用るは、家のみだれとなる。
凡そ家の乱(みだれ)は、多くは婦人よりをこる。婦人の禍は、必ず口よりいづ。戒むべし。窃盗とは、物ぬすみする也。夫の財をぬすみてみづから用ひ、或(は)わが父母、兄弟、他人にあた(与)ふる也。もし用ゆべく、あたふべき事あらば、舅・夫にとひ、命をうけて用ゆべし。しかるに夫の財をひめて、わが身に私し、人にあたへば、其家の賊なれば、これをさるもむべなり。
女は此七去の内、五つをおそれ慎みて、其家を出ざらんこそ、女の道もたち、身のさいはひともなるべけれ。一たび嫁して、其家を出され、たとひ他の富貴なる夫に嫁すとも、女の道にたがひぬれぱ、本意にあらず。幸とは云がたし。もし夫不徳にして、家、貧賎なりとも、夫の幸なきは、婦の幸なきなれば、天命のさだまれるにこそと思ひて、憂ふべからず。(終り)
婦人には、三従の道あり。凡そ婦人は、柔和にして、人に従ふを道とす。わが心にまかせて行なふぺからず。故に三従の道と云事あり。是亦、女子に教ゆべし。父の家にありては父に従ひ、夫の家にゆきては夫に従ひ、夫死しては子に従ふを三従といふ。三の従ふ也。幼きより、身をおはるまで、わがままに事を行なふべからず。必ず人に従ひてなすべし。父の家にありても、夫の家にゆきても、つねに閨門の内に居て、外にいでず。
嫁して後は、父の家にゆく事もまれなるぺし。いはんや、他の家には、やむ事を得ざるにあらずんば、かるがるしくゆくべからず。只、使をつかはして、音聞(いんぶん)をかよはし、したしみをなすべし。其つとむる所は、舅、夫につかへ、衣服をこしらへ、飲食をととのへ、内をおさめて、家をよくたもつを以って、わざとす。
わが身にほこり、かしこ(賢)だてにて、外事にあづかる事、ゆめゆめあるぺからず。夫をしのぎて物をいひ、事をほしいままにふるまふべからず。是皆、女の戒むべき事なり。詩経の詩に、「彼(かしこ)にあっても悪(にく)まるる事なく、ここにあつてもいと(厭)はるる事なし。」といへり。婦人の身をたもつは、つねに慎みて、かくの如くなるぺし。
婦人に七去とて、悪しき事七あり。一にてもあれば、夫より逐(おい)去らるる理たり。故に是を七去と云。是古の法なり。女子に教えきかすぺし。一には父母にしたがはざるは去。二に子なければさる。三に淫なればさる。四に嫉めばさる。五に悪疾(悪しきやまい)あればさる。六に多言なればさる。七に窃盗(ぬすみ)すればさる。此七の内、子なきは生れ付たり。悪疾はやまひなり。
是二は天命にて、ちからに及ばざる事なれば、婦(ふ)のとがにあらず。其余の五は、皆わが心よりいづるとがなれば、慎みて其悪をやめ、善にうつりて、夫に去(さら)れざるやうに用心すべし。凡そ人のかたちは、生まれ付たれば、あらためがたかるべけれ。心は変ずる理(ことわり)あれば、わが心だに用ひなは、などか、おろかなるより、賢きにも、移さば移らざらん。しかれば、わが悪しき生まれ付を知りて、ちからを用ひ、悪しきをあらためて、善きに移るべし。
此五の内、父母に順がはざると、夫の家にありて、舅、姑にしたがはざるは、婦人第一の悪なり。しかれば夫の去は、ことはりなり。次に妻をめとるは、子孫相続のためなれぱ、子なけれぱさるもむべ也。されど其婦の心和(やわら)かに、行ひ正しくて、嫉妬の心なく、婦の道にそむかずして、夫・舅の心にかなひなば、夫の家族・同姓の子を養ひ、家をつがしめて、婦を出すに及ばず。或(は)又、妾に子あらば、妻に子なくとも去に及ぶべからず。
次に淫乱なるは、わが夫にそむき、他の男に心をかよはす也。婦女は万の事いみじくとも、穢行(えこう)だにあらば、何事の善きも見るにたらず。是女の、かたく心に戒め、慎むべき事なり。妬めば夫をうらみ、妾をいかり、家の内みだれてをさまらず。又、高家には婢妾多くして、よつぎ(世嗣)をひろむる道もあれぱ、ねためぱ子孫繁昌の妨となりて、家の大なる害なれば、これをさるもむべ也。
多言は、口がましきなり。言葉多く、物いひさがなければ、父子、兄弟、親戚の間も云さまたげ、不和になりて、家みだるるもの也。古き文にも、「婦に長舌あるは、是乱の階(はし)なり。」といへり。女の口のき(利)きたるは、国家のみだるる基となる。といふ意なり。又、尚書に、「牝鶏の晨(あした)するは、家の索(さびしくなる)也。」と云へり。鶏のめどり(牝鶏)の、時うたふは、家のおとろふるわざはいとなるがごとく、女の、男子の如く物いふ事を用るは、家のみだれとなる。
凡そ家の乱(みだれ)は、多くは婦人よりをこる。婦人の禍は、必ず口よりいづ。戒むべし。窃盗とは、物ぬすみする也。夫の財をぬすみてみづから用ひ、或(は)わが父母、兄弟、他人にあた(与)ふる也。もし用ゆべく、あたふべき事あらば、舅・夫にとひ、命をうけて用ゆべし。しかるに夫の財をひめて、わが身に私し、人にあたへば、其家の賊なれば、これをさるもむべなり。
女は此七去の内、五つをおそれ慎みて、其家を出ざらんこそ、女の道もたち、身のさいはひともなるべけれ。一たび嫁して、其家を出され、たとひ他の富貴なる夫に嫁すとも、女の道にたがひぬれぱ、本意にあらず。幸とは云がたし。もし夫不徳にして、家、貧賎なりとも、夫の幸なきは、婦の幸なきなれば、天命のさだまれるにこそと思ひて、憂ふべからず。(終り)