神代のはじめ二柱の神、珍貴尊(うつのみこと)をうみたてまつり祝いまして後。三柱の彦神をうみたてまつります。三生にあたり蛭児をうみたてまつります。無足無分の間に。天の樟舟にのせたてまつりて大海原に放ちすつ。和修吉竜王(注1)すくひ拾いとりて養育したてまつり。自地出生売買の幸い万民の愛敬の神にさずけたてまつる。名をたてまつりましては戎(えびす)とす(注、いまでも太龍寺の五社明神は戎様が中心)。そのとき天の樟舟は上久(かみさひ)に有為し、鎮座す。また鎮殿の造社は三間の形に、南殿には三柱の神います。天照太神宮鹿嶋のはじめの御殿は、春日の大明神、天照太神宮第一の稚子の神にておわします。中の殿には愛敬戎三郎の神にまします。北の殿には三柱の神います。白山弁在天、三輪大己貴尊にいます。湧出の閼伽水(注、これはいまも行者が深夜寅の刻に汲みにいきます)守護のために遷宮したてまつる。空海天長二年歳次乙已六月一日。本堂再興成就し治納す。もとより去五月十六日より本尊をつくる誓いを企てたてまつり、神武行幸の日湧き降りる五寸の虚空蔵を。三等・服身になしたてまつる。同六月一日寅の時。本尊安座の鎮静。真実恭敬勤行満足せしめおわんぬ。これひとえにかたじけなくも天照太神宮の正勅によるものなり。
(注1、八大竜王の一。八大竜王は、天竜八部衆に所属する竜族の八王。法華経(序品)に登場し、仏法を守護する。昔から雨乞いの神様として祀られ、日本各地に八大竜王に関しての神社や祠がある。1、難陀(なんだ 訳:歓喜 )2、跋難陀(ばつなんだ 訳:亜歓喜。難陀の弟。難陀竜王と共にマガダ国を保護して飢饉なからしめ、また釈迦如来の降生の時、雨を降らしてこれを灌ぎ、説法の会座に必ず参じ、釈迦仏入滅の後は永く仏法を守護した。)3、娑伽羅(しゃから 訳:大海。龍宮の王。法華経・提婆達多品に登場する八歳の龍女はこの竜王の娘である。また善女龍王(清瀧権現)も娑伽羅の娘(第三王女)である。 )4、和修吉(わしゅきつ 訳:多頭、九頭龍。多頭龍ともいう。九頭一身の竜王で、須弥山を守り細竜を取って食すという。 )5、徳叉迦(とくしゃか 訳:多舌、視毒。この龍が怒って凝視された時その人は息絶えるといわれる)6、阿那婆達多(あなばだった 訳:無熱悩。阿耨達(あのくだつ)竜王ともいい、阿耨達池に住し、四大河を出して閻浮提(えんぶだい)を潤す。菩薩の化身として尊崇せられた。)7、摩那斯(まなし 訳:大身、大力。阿修羅が海水をもって喜見城を侵したとき、身を踊らせて海水を押し戻したという。 )8、優鉢羅(うはつら 訳:青蓮華、黛色蓮華池。優鉢羅華を生ずる池に住すという。)
一度参詣値遇のやからは富貴にして子孫長く続き、寿命長遠息災の徳をこうむらむことうたがひなし。
天長二年歳次乙已六月二日空海福定洛しゃに住し。同七日結願満足しおわんぬ。五日已の時、帝釈天その青白の童子を引き具して。影向を垂れ空海に示して曰く。われはこれかたじけなくも天照太神宮に順じたてまつり影向をたるものなり。当山の再興成就円満の今に及んで生身の不動明王三界舎心擁護の明星石に安座したてまつれば。かたじけなくも天照太神宮毎日午の時に影向を垂れ。摩頂大弁財天女。十五童子。戎愛敬の神忽ちに守護を加え。草木萬情種子を絶えず。萬民に衣食を如意のごとくにあたへしむ。この山はこれ和修吉竜王。娑竭竜王座を示し守護せらる霊地なれば。竜神の直誓にのたまわく。尽未来際灯明をかかげ。毎夜生死長夜を照らすべし。
求聞持成就の力をもって一切衆生を悪道に堕すべからず。
誓約堅固の信言葉をもって。天照太神宮に額子を請ひたてまつる。かたじけなくも天照太神宮の返勅宣に。竜神守護の霊地なり。吾また守護を加える所なれば。太龍寺となずけたてまつる。かたじけなくも勅託していわく帝釈天にその額形を献上し奉れと勅あり。時に四天王のなかに毘沙門天。この額形を帝釈天に献上す。そのとき廣目天あらわれ筆をささげいます。帝釈天舎心山と三字をすえて空海に賜ふ。餘の微妙歓喜覚えず知らず三字を書したてまつる。太龍寺の額これなり。
自今以降。当山において本求聞持奉らざれば滅亡と知りぬべし。
帝釈天帰幸の後。厚恩に報ひたてまつらんがために。北方五十町を隔てて毎夜丑の刻の参詣をはじめたてまつる。天長地久一切衆生所求円満。無病延命佛法人境常住繁昌。治定也。
天長二年歳次乙已六月十三日 金剛遍照撰之敬白」
(注1、八大竜王の一。八大竜王は、天竜八部衆に所属する竜族の八王。法華経(序品)に登場し、仏法を守護する。昔から雨乞いの神様として祀られ、日本各地に八大竜王に関しての神社や祠がある。1、難陀(なんだ 訳:歓喜 )2、跋難陀(ばつなんだ 訳:亜歓喜。難陀の弟。難陀竜王と共にマガダ国を保護して飢饉なからしめ、また釈迦如来の降生の時、雨を降らしてこれを灌ぎ、説法の会座に必ず参じ、釈迦仏入滅の後は永く仏法を守護した。)3、娑伽羅(しゃから 訳:大海。龍宮の王。法華経・提婆達多品に登場する八歳の龍女はこの竜王の娘である。また善女龍王(清瀧権現)も娑伽羅の娘(第三王女)である。 )4、和修吉(わしゅきつ 訳:多頭、九頭龍。多頭龍ともいう。九頭一身の竜王で、須弥山を守り細竜を取って食すという。 )5、徳叉迦(とくしゃか 訳:多舌、視毒。この龍が怒って凝視された時その人は息絶えるといわれる)6、阿那婆達多(あなばだった 訳:無熱悩。阿耨達(あのくだつ)竜王ともいい、阿耨達池に住し、四大河を出して閻浮提(えんぶだい)を潤す。菩薩の化身として尊崇せられた。)7、摩那斯(まなし 訳:大身、大力。阿修羅が海水をもって喜見城を侵したとき、身を踊らせて海水を押し戻したという。 )8、優鉢羅(うはつら 訳:青蓮華、黛色蓮華池。優鉢羅華を生ずる池に住すという。)
一度参詣値遇のやからは富貴にして子孫長く続き、寿命長遠息災の徳をこうむらむことうたがひなし。
天長二年歳次乙已六月二日空海福定洛しゃに住し。同七日結願満足しおわんぬ。五日已の時、帝釈天その青白の童子を引き具して。影向を垂れ空海に示して曰く。われはこれかたじけなくも天照太神宮に順じたてまつり影向をたるものなり。当山の再興成就円満の今に及んで生身の不動明王三界舎心擁護の明星石に安座したてまつれば。かたじけなくも天照太神宮毎日午の時に影向を垂れ。摩頂大弁財天女。十五童子。戎愛敬の神忽ちに守護を加え。草木萬情種子を絶えず。萬民に衣食を如意のごとくにあたへしむ。この山はこれ和修吉竜王。娑竭竜王座を示し守護せらる霊地なれば。竜神の直誓にのたまわく。尽未来際灯明をかかげ。毎夜生死長夜を照らすべし。
求聞持成就の力をもって一切衆生を悪道に堕すべからず。
誓約堅固の信言葉をもって。天照太神宮に額子を請ひたてまつる。かたじけなくも天照太神宮の返勅宣に。竜神守護の霊地なり。吾また守護を加える所なれば。太龍寺となずけたてまつる。かたじけなくも勅託していわく帝釈天にその額形を献上し奉れと勅あり。時に四天王のなかに毘沙門天。この額形を帝釈天に献上す。そのとき廣目天あらわれ筆をささげいます。帝釈天舎心山と三字をすえて空海に賜ふ。餘の微妙歓喜覚えず知らず三字を書したてまつる。太龍寺の額これなり。
自今以降。当山において本求聞持奉らざれば滅亡と知りぬべし。
帝釈天帰幸の後。厚恩に報ひたてまつらんがために。北方五十町を隔てて毎夜丑の刻の参詣をはじめたてまつる。天長地久一切衆生所求円満。無病延命佛法人境常住繁昌。治定也。
天長二年歳次乙已六月十三日 金剛遍照撰之敬白」