日々の恐怖 8月22日 傘(4)
家に帰って1時間ほど経ちました。
既に部屋の電気は消し、布団に入っていました。
“ ピンポン。”
インターホンが鳴りました。
自宅はワンルームだったのですが、玄関が1階でドアを開けるとすぐに階段があり、部屋は2階という造りでした。
備え付けのインターホンがカメラ付きだったので、人が来たときは階段を降りずに確認ができます。
モニターを見るとさっきの女性が映っていました。
手で顔を被っていました。
“ ピンポン。”
手で顔を被ったままなのに、インターホンが鳴ります。
“ おかしい・・・。”
私はモニターを見つめたまま固まってしまいました。
1分ほどするとモニターの画面が消えました。
インターホンの仕様で呼び鈴に出ないと勝手に画面が消えます。
その瞬間、ドアが、
“ ガチャガチャガチャガチャ!”
もう泣きそうでした。
布団をかぶり、震えつつもじっとしていました。
5時なると店長が退勤の時間なので、電話をしました。
店長はまだ店の中にいて、帰る準備をしていたそうです。
店長に電話をしたのは、傘の件を話しているのが店長だけだったからです。
この時は、携帯を取りに戻って本当に良かったと心の底から思いました。
「 さっき傘を貸した女性が、家のドアをガチャガチャしてくるんです。」
「 それって、危ない人かもね。」
「 どうしたら、いいんでしょうか?」
「 そうねえ・・・・。」
店長が、そう言った直後、
「 わっ!」
と声を上げ電話が切れました。
これは後から聞いた話なのですが、私と話している途中に、
“ ゴン!”
という音が店のドアから聞こえたそうです。
店のドアはガラスでできていて外が見えるのですが、そこには手で顔を被った女性が立っていたそうです。
悲鳴をあげ目を一瞬逸らすと女性の姿はなくなっており、ドアの外にはバキバキに折れた傘があったそうです。
その後、住んでいるところがバレているのはヤバいと思い引っ越しましたが、バイトは卒業まで続けました。
今でも店には客として通っていますが、あれ以来奇妙な出来事は起きていません。
店長を含めて良く飲み会をしますが、何回もこの話が話題にでてくるほど怖い体験でした。
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