大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 8月23日 霞草と小菊

2015-08-23 19:46:45 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 8月23日 霞草と小菊


 先行上映の前券買いに、近所の映画館へ行った。
たった5分、眼を離していた隙に、チャリ紛失。
 あちこち探し回ったが見つからない。

“ やられた!”

と思ってその足で交番へ届けてきた。
 チャリ泥棒にやられたのは、大学入学以来これで2度目だった。
前のは盗まれたきり、ついに戻ってこなかった。
 お巡りさんに、

「 見つかり次第連絡するが、すぐにというのは難しいねえ。」

と言われた。
この前と同じだ。
とりあえず、安い中古品でも見繕ってみようかと思った。


 2週間後、届け出た交番から思いがけず電話があった。

「 見つかったから取りに来てください。」

とのことだった。
 盗難現場の最寄り駅から、6駅も離れた町だという。
チャリ泥棒のヤツ、随分と遠乗りをしたもんだ。
そこまで自分で引き取りに行くのは面倒だったが、何はともあれこれ幸いと、電車に乗って行った。
 駅名は知っていたが、降りるのは初めてだった。
駅舎は旧国鉄の雰囲気を残す寂れた建物だった。
駅前にも煉瓦の旧い倉庫が残っていた。
昼下がりの町に殆ど人通りは無かった。
 教えられた駅前交番を訪ねると、入り口にあったあった、可愛いMyチャリが。
早速手続きをしてもらおうとすると、中年のお巡りさんが言った。

「 盗難自転車がこんなに早く見つかるなんてねえ。
普通はまずありませんよ。」

俺は言った。

「 届けを受けて、方々探して下さったんでしょう?」

お巡りさんは首を振った。

「 いや、我々が見つけたんじゃないんです。
住民の方たちから通報があったんです。
こういうことは珍しいんですよ。」

ちょっと様子が変だった。

「 通報?
これ、一体どこで見つかったんですか?」

お巡りさんは答えなかった。
 黙って俺を見ていたが、

「 ちょっと待っててください。」

と奥へ引っ込んだ。
 俺が訝しく思って待っていると、お巡りさんは何だかえらくかさの張った紙包みを抱えて戻ってきた。

「 これに心当たりがありますか?」

包みを開けた。
すっかり萎びて色あせた、霞草と小菊のものすごく大きな花束だった。

「 前籠にぎっしり詰め込んであったんですよ。
これを見つけた近所の人たちが何人かね、余りに気味が悪いっていうんで、それぞれ通報してきたんです。
持ち主が無事かどうか、とにかく確かめてくれって。」

気味が悪いのはこっちの方だった。
 チャリの籠に花束なんて、訳が分からない。
大体これは、この町のどこで見つかったんだ?
持ち主が無事かどうかを、複数人が警察に訊いてくるなんて、どう考えてもおかしいだろ。
 思わずチャリに眼を遣った。
前籠の縁が裂けて針金で留められていた。
 お巡りさんが言った。

「 あのねえ、もう一度訊くけど、あなた本当に何も心当たりないんですか?」

心当たりなんてまったくない。









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