日々の恐怖 8月21日 傘(3)
女性はベンチに座り、自分の膝に肘をついて顔を手で被っていました。
傘を持っていないのか、ずぶ濡れでした。
一瞬驚きましたが、このまま見て見ぬ振りをすることができず、
「 どうしましたか?」
と声をかけました。
しかし、返事はありません。
私はバイト先の傘をベンチに立てかけて言いました。
「 もう1本傘を持ってますので、これを使ってください。」
それでも、返事はありませでした。
正直、不気味でした。
傘を残しその場から離れ、家を目指しました。
公園内の階段を上る途中で、やはりあの女性が心配になり、警察に連絡しようとしましたが、携帯がありません。
バイト先で充電をしたまま忘れてきてしまったようです。
ホント、最悪でした。
でも携帯電話は必要なのです。
その日は確か木曜日で、月・火・水・木というバイトスケジュールだったので、どうしても取りに行きたかったのです。
バイト先へ戻るために、仕方なく来た道を引き返します。
傘を貸してからほんの2、3分しか経っていませんでしたが、ベンチに女性はいませんでした。
その後小走りで公園の駅側の出入口まで行きましたが、女性は見当たりませんでした。
公園内にはトイレがあるため、そこに行ったのかと思い深くは考えませんでした。
バイト先へ戻り、携帯を回収しました。
寒かったので、ホットコーヒーを飲みながら店長には傘の件を簡単に説明しました。
店長は傘を見知らぬ女性に渡したことよりも、そこに女性がいたことについて怖がっていました。
さらにはその状況で近寄るとかありえないし、そもそも公園のルートで帰るとかアホじゃないのかと言われる始末です。
ちなみに店長は女性です。
怖がらせたくは無かったので、女性が無反応だったことや、終始手で顔を被ったままだったことは伏せておきました。
店長にアホ呼ばわりされましたが、少し出来事を振り返りました。
深夜24時過ぎに大雨の中、ひと気の無い公園でずぶ濡れになっている女性です。
しかも話しかけても返事は無く、顔も手で被ったままです。
たしかに不気味です。
だから、その後は公園を通らずに遠回りして帰りました。
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