大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 8月4日 Sからの電話(4)

2015-08-04 18:36:16 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 8月4日 Sからの電話(4)


そう思った時、口を押さえられたままの女の表情が変化した。
 女は微かに眉を顰めてSを軽く睨んだ。

“ 何だ!?”

と思った瞬間、急に誰かに襟首を掴まれたように、Sは体が引き倒された。
 押さえつけていた両手が女の顔から離れ、勢いよく仰向けに倒れて行く。
女の口が何か動いていたが、Sには何を言っているのか聞こえなかった。
床に頭を思い切り打つと思ったその瞬間に、Sは自分の布団の上で我に返った。

 しばらくの間、自分がどうなったのかもSにはわからなかったが、もし今のがただの夢じゃなかったら、と思うとKが心配になり、電話したのだという。
そして、本棚の前で自分が落とした本が確かにあることをKから聞いて、夢じゃないと確信し、今すぐ部屋から出るように促したのだそうだ。
 Sの話を最後まで聞いたKは、困惑することしかできなかった。

“ 外に出た時、Sが自分のすぐ近くにいたのだろうか?
そして自分の部屋で奇妙な目に遭い消えた後、入れ違いに自分が戻ったということなのか?
今まで何事もなく平穏に暮らしてきたあの部屋に、本当にそんなものがいるのだろうか?”

KはSに礼を言い、朝になってから部屋に戻ると約束して電話を切った。
 外が明るくなり、車や人の通りが増えた頃に、Kは意を決して部屋に戻った。
中はカーテンを閉めたままで真っ暗だった。
 玄関、廊下の電気を点けたまま、本棚の方に注意しながら、部屋の電気のスイッチを点けた所で、Kは気づいた。
Sに急き立てられ慌てて部屋を出たKは、電気を消さなかったはずなのだ。

 結局、契約の関係もあり、2ヶ月後にKはそのアパートから引っ越した。
2か月の間、Kは本棚の上に神社で買って来たお守りを置いていた。
Kにはその間何事も起きなかったという。
 Sには無事を知らせるつもりで何度か電話を掛けたが、相当その時の体験が堪えたらしく、すぐに向こうから切ってしまうようになったため、再び疎遠になってしまった。
引っ越してからは、Sからの電話もなく、Kも何事もなく新居で平穏な生活を送ったという。
 これが、KとSの二人が体験した奇妙な出来事の一部始終です。
私は、大学を卒業した直後のKからこの話を聞き、その後Sに電話で確認し、二人の話した内容をまとめてみました。
二人とも現在は何事もなく、Sは時間が経過したこともあり、気軽にこのことを人に話せるようになったことや、Kはあれから何度も連絡をくれたのに申し訳ないことをしたと言っていました。
 Kの部屋には本当に何かがいたのか。
Sは本当にKの部屋に夢の中で行ったのか。
何かいたとしたら、何故Sは助かったのか。
何故疎遠だったSが引き寄せられたのか。
それは、今となっては何も分かりません。
ただ、そのアパートは学生に人気で、あの時の部屋も、きっと何も知らない誰かが住んでいるはずだとKは言います。









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