日々の恐怖 11月10日 老い(2)
私が八つか九つくらいの時ではなかったか、そのヨシ子ちゃんが亡くなった。
三日程寝付いたと思ったら、半時間ばかり呻いて苦しんだ末に息を引き取ったそうである。
葬儀には母だけが行った。
遺骨は郷里に持って行ったのか、それとも郷里の誰かが引き取りにきたのか、とにかく本家の墓には名は入っていない。
それから一年ほど経った、あれは春の彼岸の時分じゃなかったか、私も母に連れられて行ったのだから、たぶんそうだろう。
私は母の隣に座り、叔母達にチヤホヤされながら出された寿司でも食べていたんだろうと思う。
途中尿意を催したので厠にたった、厠は廊下の突き当を右に曲がったところにあったと記憶している。
明治初期に建てられた、かなり古い家なので、廊下は細く、暗い、床は飴色に光っていた。
用を済ませ、また廊下の突き当りまで来ると、正面に狭くて暗い階段がある
三階に続く階段である、随分と急で電灯も付いているのか、いないのか、上がり切った所は暗くて見えない。
そして、その中程より少し上の所にヨシ子ちゃんが立っていた。
いつもの、あのニコニコとした顔で、私に手招きをしていた。
怖くはあったろう、しかし、私はまだ三階に足を踏み入れたことが一度もなかった、何か上がってはいけない雰囲気が昔からあった気がする
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