日々の恐怖 11月27日 チエ(1)
俺の父親には妹がいたらしい。
俺にとっては叔母にあたるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。
原因不明。
待望の娘が死んでしまい、婆さんは大層落ち込んでいた。
見兼ねた爺さんが婆さんにフランス人形を買い与えると、婆さんはそのフランス人形に叔母と同じ名前のチエと名付けて可愛がった。
毎日撫で、傍に置き、綺麗にしてやり、共に寝たそうだ。
それが変わったのが、俺の妹が生まれてからだった。
女が生まれて、婆さんは凄く喜んでいた。
両親共働きだったし、代わりに婆さんが妹を大層可愛がって育てた。
俺も可愛がられたけど。
それで、今まで大切にされていたチエの定位置は、婆さんの枕元でなく仏間になった。
誰もいない仏壇だけがある仏間だ。
俺はよく先祖へ挨拶しろと、夕飯前に御神酒を上げにそこへ行かされていた。
暗くてくそ寒い、不気味な部屋だった。
小学校高学年の時、いつも通り御神酒を上げに仏間に入り、仏壇に手を合わせた。
その時、誰かが後ろに立っているような気がした。
振り返ると何でもない、いつも通りピンクのドレスのチエがいるだけだ。
それがその時は妙に怖かったのと、多感な時期だったのもあって思わず、
「 なんだよ、文句あるのかよ、かかってこいよ!」
と、チエを挑発した。
馬鹿だな。
居間に戻って家族に、
「 チエに睨まれた!」
と報告すると婆さんが激怒した。
後にも先にも婆さんがあんなに怒った事はない。
怒る婆さんに合わせるように父親も激怒、ゲンコツをくらった。
俺涙目。
その時は謝って、それで終わり。
問題が起きたのは、数日後だった。
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