日々の恐怖 1月10日 赤ん坊(2)
振り返っても誰もいません。
私は怖くなって、
「 もう帰ろうかな・・・・。
明日、朝早く来てしようかな・・・。」
と声に出して言いました。
急いでPCの電源を切って、荷物をまとめて立ち上がり、背後のドアの方へ振り返ろうとしたときに、自分の右側(リハビリ道具が色々置いてある)が目に入りました。
そのシルバーカーが2台並んでいる前に、一人の小さなお婆さんが立っていました
その身長は私の肩まで程です。
徘徊なんかはよくあることですが、ドアは開けた形跡が無いし、入院患者にこんなお婆さんがいた覚えもありません。
新しい方なら、私達リハ関係者には通達があるはずです。
一瞬で、もの凄い悪寒を感じて固まってしまった私の方へその老女は近づいて来て、私の腰に手を回し抱き着きました。
そして、恐怖で動けない私を濁った目でじっと見上げ、ゆっくりと赤い口を大きく開け、
「 おぎゃァ!」
と赤ん坊のような泣き声を出しました。
どれくらい経ったかわかりませんが、私は思い切り名前を呼ばれ、強く肩を叩かれました。
「 ООさん!?ООさん!!」
ハッとして振り返ると、3階の看護師長が立っていました
なんでも、リハ室から甲高い悲鳴が聞こえたので慌てて来てみると、私が呆けた様な顔で、声だけは凄く大きな声で叫んでいたそうです。
後ろには2人の看護師と介護師さんがいました。
そこで私は安心して泣き出してしまいました。
今では何だったのか、誰だったのかは判りません。
あの後、結局その病院は辞めてしまいました。
ただ、その時の同僚とは今でもたまに連絡しますが、私がいた頃も日常茶飯事だった足音やナースコール、笑い声などは、今でも頻繁に起こっているそうです。
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