日々の恐怖 1月30日 客商売
10年くらい前の話です。
私はスナックでバイトをしていた。
スナックには、雇われママとそのご主人がいて、私ともう一人、5歳年上のお姐さんとで回していた。
みんな仲が良くて、私とお姐さんの送り迎えはご主人がしていた。
ある時、このご主人から携帯で、
「 ちょっと早いけど迎えに行っていいか?」
と聞かれて、
「 はい、お待ちしてます。」
と答えた。
で、スナックに着くと、ご主人が、
「 夕べ、鍵締めて帰ったんだけど、今日、来てみたら椅子もテーブルも無茶苦茶なんだ。
鍵を持ってるのは、俺だけだしなぁ・・・・。」
店内は無茶苦茶だった。
二人でそれを片付けて、
「 今までも、たまにこんな事があったんだよなぁ・・。」
「 ママさんは知ってるんですか?」
「 うん、知ってる。
一人でここに来ないようにしてる。
繊細な人だから・・・・。」
「 お祓いとかしたらどうですか?」
「 客商売だし、あまりしたくないな・・・。」
そんな事を話して、淡々と仕事をした。
後日、酔っ払ったママさんから、
「 あんた、テーブルや椅子が動くって聞いて辞めないよね。」
「 別に私に被害がないので・・・。」
「 私は怖いよ。
本当に怖い。
今すぐ何もかも放り出したいけど・・・。」
この話をした10日後、ママとご主人は夜逃げした。
お姐さんと私はちょっと途方にくれたけど、私は別のバイトに受かり、お姐さんは実家に帰った。
あの椅子やテーブルが動く現象がなんなのか分からないけど、ママたちの夜逃げ後、あの店に入る店子は半年くらい単位で替わっている。
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