日々の恐怖 1月27日 顔(4)
床に頭を思い切り打つと思ったその瞬間に、Bは自分の布団の上で我に返った。
しばらくの間、自分がどうなったのかもBにはわからなかったが、もし今のがただの夢じゃなかったら、と思うとAが心配になり、電話したのだと言う。
そして、本棚の前で自分が落とした本が確かにあることをAから聞いて、夢じゃないと確信し、今すぐ部屋から出るように促したのだそうだ。
Bの話を最後まで聞いたAは、困惑することしかできなかった。
外に出た時、Bが自分のすぐ近くにいたのだろうか?
そして自分の部屋で奇妙な目に遭い消えた後、入れ違いに自分が戻ったということなのか?
今まで何事もなく平穏に暮らしてきたあの部屋に、本当にそんなものがいるのだろうか?
AはBに礼を言い、朝になってから部屋に戻ると約束して電話を切った。
外が明るくなり、車や人の通りが増えた頃に、Aは意を決して部屋に戻った。
中はカーテンを閉めたままで真っ暗だった。
玄関、廊下の電気を点けたまま、本棚の方に注意しながら、部屋の電気のスイッチを点けた所で、Aは気付いた。
Bに急き立てられ慌てて部屋を出たAは、電気を消さなかったはずなのだ。
結局、契約の関係もあり、2ヶ月後にAはそのアパートから引っ越した。
2か月の間、Aは本棚の上に盛り塩を置いていた。
Aにはその間何事も起きなかったという。
Bには無事を知らせるつもりで何度か電話を掛けたが、相当その時の体験が堪えたらしく、 すぐに向こうから切ってしまうようになったため、再び疎遠になってしまった。
引っ越してからは、Bからの電話もなく、Aも何事もなく新居で平穏な生活を送ったという。
これが、AとBの二人が体験した奇妙な出来事の一部始終です。
私は、大学を卒業した直後のAからこの話を聞き、その後Bに電話で確認し、二人の話した内容を一つにまとめてみました。
二人とも現在は何事もなく、Bは時間が経過したこともあり、気軽にこのことを人に話せるようになったことや、Aはあれから何度も連絡をくれたのに申し訳ないことをしたと言っていました。
Aの部屋には本当に何かがいたのか。
Bは本当にAの部屋に夢の中で行ったのか。
何かいたとしたら、何故Bは助かったのか。
何故疎遠だったBが引き寄せられたのか。
今となっては何も分かりません。
ただ、そのアパートは学生に人気で、あの時の部屋も、きっと何も知らない誰かが住んでいるはずだとAは言います。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ