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日々の恐怖 5月30日 沈丁花(3)

2021-05-30 09:39:58 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 5月30日 沈丁花(3)




 そして、お地蔵さんのよだれかけを指差しました。

「 ほら。
ここにな、だいぶ掠れてしもうちょんけど、なんか書いてあるの、わかるかえ?」
「 ん? あぁ、これ。
汚れかと思った。
なんち書いちょんの?」
「 このお地蔵さんたちの名前と、亡くなった年。
あんたが遊びよったのは、このお地蔵さんたちよ。」

予想外の言葉に驚く私に、祖母はこのお堂とお地蔵さんの由来を話してくれたのでした。

 今はもう跡形もありませんが、40年ほど前は、お堂の裏手には池がありました。
自然にできたものではなく、火事の際に使われる防火用水として、人工的に作られた池でした。
この池に、ふたりの男の子が落ちて亡くなったことがあったそうです。
 ふたりは兄弟でした。
7歳の兄と、3歳の弟。
池のすぐ近くに住み、しょっちゅうそのあたりで遊んでいました。
小さいけれど活発な弟を、兄はよく世話していたそうです。
 人工の池なので浅いところはなく、いきなり深く掘り込まれています。
そのため一度落ちると子どもが自力で上がるのは難しく、池には危ないから近づかないようにと、普段から大人たちはうるさく言っていました。
兄の方はそれがわかる年齢でしたから、弟の方が先に落ちて、それを兄が助けようとしたのではないか。
そんな憶測が大人たちの間で立てられましたが、誰も見ていた者はおらず、真相はわかりません。
 祖母はその頃、ちょうど私の父にあたる長男を身ごもっていました。
そのため子どもたちの死が他人事とは思えず、とても恐ろしかったといいます。
 子どもたちの家族、特に両親の悲しみは深く、池のすぐ近くにお堂を建て、小さなお地蔵さんをお祀りしました。
母親は毎日欠かさずお参りし、お正月前には頭巾とよだれかけを、毎年新調していたそうです。
 次第にこのお地蔵さんは、近所の女性たちからも、子どものお守りとしてお参りされるようになりました。
生まれてきた子の健やかな成長を、あるいは、生まれてこられなかった子の、次の世での幸せを、そんな願いを胸に、多くの女性がお参りに来ていたそうです。









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