この大聖堂の大きな特徴は、全面に張り巡らされたステンドグラス。その総面積は6500㎡。13世紀から現代に至るまでの様々なステンドグラスを目にすることが出来る。有名なシャルトル(2500㎡)の2・6倍もの広さを持ち、その壮大さで「神のランプ」とも称されている。
中でもシャガールの手掛けたステンドグラスは傑作だ。その詳細を見て行こう。
大聖堂の一番奥北側、宝物庫ドアの上にその1つがある。ここには創世記の物語が描かれる。
左端は「イサクの犠牲」。アブラハムの家族の元に、ある日神のお告げが届く。その内容は「息子のイサクを殺して神への貢物とせよ」というもの。厚い信仰心を持つアブラハムは、そのお告げ通りイサクを殺そうとする。 その瞬間、神の使いが現れて、「あなたの信仰心はよくわかった」とその行為をやめさせたという創成期の物語だ。
心を鬼にして立ち上がった刃物を持つアブラハムと、無心に眠るイサク。子を犠牲にするほどの覚悟と、神への真の信仰との葛藤が、暗いブルーに包まれた画面を支配する。
この濃いブルーが。強烈な印象を植え付けて行く。
次の場面は「ヤコブとエホバの天使の闘い」。ヤコブは先ほどのイサクの次男だ。そのヤコブが川を渡ろうとした時何者かにつかまる。格闘の中でヘロヘロになりながら闘い続けるヤコブ。名を聞かれて「ヤコブ」と名乗ったところ、相手は「これからイスラエル(神に勝つ者)と呼ばれるだろう」と告げる。
この「何者か」は天使として描かれるが、この天使は妙になまめかしい。
次は「ヤコブの夢」。ある日ヤコブは不思議な夢を見る。天に通じる梯子を神の使い達が上下してる。そして枕元に立った神は「決してヤコブを見捨てない。子孫たちは増え続けるだろう」と宣託を授ける。
梯子を上り下りする神の使い達も、何か優しさのイメージだし、赤が支配する画面は鮮烈だ。
画面下部に横たわるヤコブは、もうすっかり成人してひげを蓄えている。
一番右端、4枚目は「モーゼと燃える木」。ヤコブの子孫レビの両親の間に生まれたのがモーゼ。彼はエジプトで迫害を受けるユダヤ人を連れてカナンの地へ旅立つ英雄。モーゼの十戒も有名だ。
聖書をテーマにしたシャガール独特の鮮やかな色彩の饗宴。一枚ごとに交互に現れる赤と青の絶妙なコントラストによって、暗い聖堂の中でくっきりと浮かび上がる悠久の物語は、現場に立ったものに至福の時間を与えてくれる。