金堂の横に五重塔がすらりと立つ。711年に再建されたものが今に残されている。貴重な木造塔だ。
高さは31.6m。非常に軽やかな安定感を感じる。それを裏付ける理由がちゃんと存在する。
というのは、5つある屋根のうち一番下の屋根(初層)に比べて、最上層の屋根の幅は半分の大きさにになっているのだ。 この大きさの差は逓減率と言われ、法隆寺五重塔の逓減率は0.5となる。
上層と最下層との差が大きければそれだけ下に重心が来るわけで、どっしりとした安定感が膨らむ。また、一種の遠近法にもなることから、軽やかさも増すと思われる。
ちょっと調べてみると、この逓減率は時代が新しくなるほど大きくなっている。主な例を並べてみよう。
まずは法隆寺
建立は700年ころで逓減率は0.503。
次は奈良の室生寺。建立は800年ころ。 逓減率は0.594。
平安時代の京都・醍醐寺。建立は951年。 逓減率は0.617。
再び奈良・興福寺。ただ建立は鎌倉時代になって1426年。 逓減率は0.690まで広がっている。
京都・東寺の現在の塔の建立は江戸時代に入って1644年。 逓減率は0.75にまでなって上下の差はあまり感じなくなっている。
こうした時代変遷による逓減率の変化がどうして起きたかはわからないが、ちょっと興味深い気がする。
五重塔を過ぎて大宝蔵院に向かう途中、鏡池に立ち寄ると、句碑が立っていた。よく見ると見覚えのある言葉が並んでいた。
「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」
おお、正岡子規のあの有名な句。これは初めて法隆寺を訪れた時(高校の修学旅行)よりもっと前から知っていた句だった。