国立西洋美術館。軽快なコンクリート打ちっぱなしの建物が、目に飛び込む。世界的な建築家ル・コルビジェ設計によるもので、世界遺産に登録されている。
まずは、この美術館建設のきっかけからスタートしよう。それは、松方幸次郎による「松方コレクション」だった。
松方幸次郎は、明治政府で首相も務めた松方正義の三男。川崎造船所(川崎重工業の前身)の社長となり、巨大な富を築く。
ただ、その富は戦争を抜きには語れない。第一次世界大戦の開戦を機に松方は鉄を買い占め、大型船の建造を急ピッチで始めた。やがて戦争によって船不足となった欧米各国からのオファーが殺到。こうして蓄えられた富が、後に絵画購入の資金となったという、ちょっとほろ苦いエピソードが残っている。
松方の美術品収集は、1916~18年と1921~22年の2回が主なる時期。今では一大コレクションとなっているロダン作品はパリに出かけての交渉だった。
パリのロダン美術館の館長だったレオンス・ベネディットの指導の下に主要な作品入手に成功した。
また、モネ作品については直接フランス・ジヴェルニーのモネ邸を訪れ直交渉によって18点の作品を購入することに成功した。
ただ、この後川崎造船所の経営悪化が待っていた。購入したコレクションは第一次世界大戦後までパリに残されたままで、敵国人財産としてフランス政府に差し押さえられてしまう。
結局サンフランシスコ平和条約後の交渉の際、フランスからの寄贈という形でようやく1959年4月に日本に到着することになった。
このような経緯でようやく日本にたどり着いた作品群の展示場所として企画されたのが今の美術館の建物だ。1959年に完成したこの建物は、近代建築の先駆者ル・コルビジェに設計が依頼された。打ちっぱなしのコンクリートでサッシのないガラス、円柱もコンクリートを使うなど、彼独特の理念に基づいて設計され、2016年には世界遺産に登録されている。
正面のすっきりとした壁面は、自然石を素材としており、天候によって質感を変える。晴れれば陰影のある景色を見せ、雨なら黒く落ち着いた質感を表現する。
1階のピロティは、柱だけで開放的な空間にしており、大規模建築にありがちな威圧的な感じを払しょくしている。
また、天井の高さは226cmに設定されている。これは西洋人(身長平均183㎠)を標準として、人が手を伸ばした高さ(226cm)で、快適な空間が提供される。この基準はコルビジェがモデルロールと呼ぶ黄金比の寸法で、同美術館には全体にモデルロールが採用されている。