ボッティチェリは40代に入ってサンバルナバ祭壇画を完成させる。彼の聖会話作品としては最大規模のものの1つで、当初サンバルナバ聖堂の主祭壇に設置された。
中央に聖母子。
聖母子の左にオリーブの枝を持つ聖バルナバ、その隣には司教冠をかぶった聖アウグスティヌス、端がアレクサンドラの聖カタリナ。
右側には洗礼者ヨハネと司教冠をかぶる聖イグナティウス、上方にいる大天使ミカエルは3本の針を持つ。
聖母子の上左にはいばらの冠を持つ天使も。
全体的に、みなそれぞれに虚ろな表情に終始しており、ほとんどコミュニケーションは成立していないように見える。このころからボッティチェリの絵には不安と焦燥の色が濃くなり始める。
受胎告知を見てみよう。
1481年、初期に手掛けた作品。
受胎を知らせる大天使ガブリエルは、到着したばかりなのだろうか、宙に浮いている。この大天使のポーズは「ヴィーナスの誕生」のゼフィロスのポーズにも転用されている。
お辞儀する聖母マリアのところには、聖霊の光を表す放射状の金色の筋が、天使の左アーチの向こうから中央のアーチをくぐってマリアに達している(この写真では残念ながらよく見えません)。
このころは聖母や天使にも清新さが感じられる。
次に1489年から90年の受胎告知。
チェステッカの受胎告知と呼ばれる。
ガブリエルはひざまずいて聖母を見上げる。
呼びかけに振り替える聖母マリア。戸惑いながらも突き出された右手とひねりのポーズが印象的だ。
ただ、マリアが感情を押し殺したように無表情なのが、この時期のボッティチェリの心を表しているかのように見える。
その背景には、フィレンツェのルネサンスを支えてきたメディチ家の衰退と、極端な教条主義を唱えるサボナローラの台頭などが影響を及ぼしていた。