エッフェル塔が完成した時 歓迎の声とともに批判も起きた
当時はまだ19世紀 パリは都市改造を終えたばかりだった
街並みは石造り 7階建てのビルが整然と並ぶ姿に整備された
対して突如立ち上がったのは 330mと桁違いに高くそびえる鉄骨の塔
「パリの景観を破壊するゲテ物」 「鐘楼の骸骨」「巨大な黒い煙突」
そんな反対の声は 特に文学者芸術家などの識者から上った
だがやがて 塔の持つ美しさや機能性街との相性などが理解され始め
民衆からも 親しみの眼でとらえられるようになった
反対派の1人だった 文学者モーパッサンは
ある時エッフェル塔の中にあるレストランで 食事をしているところを目撃された
「あんなに反対していたのに どうして?」 と尋ねられると
「だってパリの街で エッフェル塔を見ずに済む場所は
ここしかないから」 と話したという
実はモーパッサン自身 しばしば塔に通うようになっていた
こうしてエッフェル塔は あのスマートな形態や雄大な眺めとともに
唯一無二の パリの象徴になって行った
モーパッサンではないが エッフェル塔に昇れば塔そのものは見えない
これまでの経験で 塔をよりよく見ることが出来る場所を見つけた
1つはデパート ギャラリーラファイエットの屋上
ここはオペラ座のすぐ裏側なので エッフェル塔だけでなく
塔を含めた市中心部の風景を 間近に見ることが出来る
最もお薦めのロケーションは モンパルナスタワー展望デッキだ
高さ210mもあるうえ エッフェル塔を真正面平行に見ることが出来る
私は日没時に そこに上ってみた
後方にうっすらと姿を見せる 新開発地区ラ・デファンスのビル群を従え
暮れ行くパリの空を背景に 無数の光の粒を集めて
燦然と輝きを増してゆく エッフェル塔の雄姿は
「ああ パリに来た」との実感を全身で感じる
鮮烈な記憶として 今も心に残っている