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ぽかぽか春庭「入試スピーキング」

2018-09-02 00:00:01 | エッセイ、コラム
20180902
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>ことば古今東西(2)入試スピーキング

 春庭の予言「2020年から大学入試にとりいれられようとしているスピーキング試験は、失敗します」あるいは、「格差を増大していきます」

 だって、スピーキング指導ができる教師が全国の高校に何人いるんでしょうか。おおかたの高校では、入試付け焼刃として外部から大学入試対策スピーキング教師をやとってドタバタするんでしょうが、それは学生の「英語で話す力」にはなっていかず、格差増大を招くだけだと思います。

 外部のスピーキング対策教師を十分に雇える私立高校と、一般的な公立校との差が広がり、さらに、スピーキングのための家庭教師をやとったり、塾に通わせられるお金を持つ親を持つ子とそうでない子の格差も広がるでしょう。

 たぶん、政府えらいさんが狙っているのは、この「英語もしゃべれず、大学入試突破できないような子供は大学もあきらめて、非正規労働者になって年収200万円ほどで、ほどほどに暮らしていきなさい。日本社会は、お金持ちだけで回していきますから」ということなんだろうと思います。

 指導者不足だけの問題ではありません。高校生の日本語力が確実に低下しています。ワープロソフトの劇的な発達があり、校正ソフトが文章を治してくれるようになったので、ひと昔前に比べて、学生が書くレポートの文章、読むに耐えないひどすぎるというレポートは少なくなりました。
 ネットの中の文章を引用することもふえたので、教師の注意点は、「うますぎる文章は、ネットからの丸写し」ということに気をつければいいのです。検索すれば、元ネタはすぐにわかります。

 しかし、大学生の日本語力は、年々低下していると言わざるを得ません。全国調査によると、大学生の読書時間は、一日ゼロ時間という者が5割を超えました。大学生全体の1日の読書時間は平均23.6分だそうです。
 友達同士のメールやラインのやりとりでは絶対に語彙は増えません。知っている語だけを使いまわしているだけで、新しい語彙を仕入れる場がないのです。

 この20年間、日本語によって日本人学生と接している教師として、学生の語彙数がどんどん少なくなっている現実を感じてきました。
 授業活動のひとつとして、毎年NTT語彙力調査というのを、日本語教師志望者に実施しています。日本語がいったいいくつくらい頭の中に入っているか、という検査方法があるのです。

 高校生3万語、大学生4万語、社会人5万語が、平均的な語彙数として出されています。
 私自身が検査したときは、7万語という結果が出て大いに不満を感じました。10万語くらいは頭のなかにあると思っていたので。でも、井上ひさしがこの検査をやってみて、10万語は知っていると思ったのに、検査してみたら7万語と出たので、不満だ、とエッセイに書いていたので、ま、そんなものなのだろうと思います。

 で、学生たちの平均的な語彙数、年々低下しています。
 23区内にある大学のなかでは、中の上、という大学ですから、日本の高校生の平均的なところが進学してくる大学と思います。(もちろん、偏差値などだけでは大学の教育力はわかりませんが、25年間に、国立3校私立5校に出講してきた観察によれば、学生の語彙レベルの差というは、偏差値が大いに反映されています)

 読解力も語彙力もなく、日本語で自分自身の考えを論理的に述べることができない日本語力の高校生。で、日本語で話せないことが、どうして英語で話せるのか?

 たとえば、大学入試レベルにあたる英検2級のスピーキング問題。2級の英語語彙数は5000語レベルです。

 過去問のテーマを分析して、出そうなテーマでスピーキング練習は学校や塾でも行われるでしょうが、まったく予想されなかった問題が出題された場合、その問題について、受験者自身の考えを問うような質問に対して、受験者は自分自身で考察して英語で表現できるのでしょうか。

 面接官が受験者に質問をしたあと、受験者が自分の意見をいう、という場合、練習したことのある質問なら答えられるでしょうが、聞いたこともない内容のとき、受験者自身の思考力、論理構成力が問題になります。

 練習パターンにあった質問。たとえば。
面接官「Today, many people buy secondhand goods such as used books and used clothing. Do you think more people will buy secondhand goods in the future?」(こんにち、多くの人々は古本や古着などの中古品を買っています。あなたは、将来、さらに多くの人々が中古品を買うようになると思いますか)

受験生「Yes,I think that they will.]
面接官「Why do you think so.
さて、受験生、なんと答える。

また、別の例。

 ①はやぶさの帰還などを題材にした宇宙開発史の英文を読む。(60語程度の英文を20秒で黙読し、次に音読をする)
 ②日本人事業者が宇宙ロケットを飛ばすイラストを見る。

 学生に課せられるのは、③イラストを英語で説明する ④面接官の質問に対して、自分の意見を言う。
 という問題が出たとして。

 「民間宇宙開発のひとつとして、日本人事業者がロケット打ち上げを計画して、失敗しました。あなたは、民間事業者が宇宙開発に乗り出す意義について、どのように考えますか」

 日本語で答えられる高校生はどれほどいる?まして英語で。
 私には、ようでけん。できる高校生、えらい。

(1)音読したパッセージに関する質問:1問
(2)3コマのイラストを説明する問題:1問
(3)カードのトピックに関する受験者の意見を述べる問題:1問
(4)一般的な事柄に関する受験者の意見を述べる問題:1問
という英検2級のスピーキング問題の形式は今後変わることもあり得ますし、大学入試のスピーキングはこれとは別の形式かもしれません。

 こんなふうに英語スピーキング入試について、あれこれ心配していますが、実をいうと、平均的私立大学では、入試によって入学してくる新入生は、5割を切っています。大半は、高校の成績をもとにした推薦入試。また、自己推薦を含むAO入試(昔は一芸入試などもありました)によって入学してきます。
 文科省のお役人の息子なら、少々点数低くても、親が大学に便宜を図れば医学部合格だってきるみたいですけれど、一般家庭ではねぇ。 

 2020年にこの入試が実施されるとしても、春庭はすでに大学講師職を退職したあとになりますので、どんな学生が大学に入ってくるのか、観察できず残念です。
 がんばってね、高校生!(無責任な応援)

<つづく>
コメント (2)
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