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ぽかぽか春庭「ペンタゴンペーパーズ」

2018-09-22 00:00:01 | エッセイ、コラム


20180922
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>事実と真実(1)ペンタゴンペーパーズ最高機密文書

 ペンタゴン・ペーパーズ( Pentagon Papers 原題The Post)は、2017年のアメリカ映画。
 主演のメリル・ストリープは、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされましたが、受賞はフランシス・マクドーマント(スリー・ビルボード)でした。
 作品賞もノミネートのみ。スピルバーグは、監督賞のノミネートなし。でも、いい映画と思いました。

 史実での「ペンタゴン・ペーパーズ」の原題は「ベトナムにおける政策決定の歴史、1945年-1968年」"History of U.S. Decision-Making Process on Viet Nam Policy, 1945-1968」ベトナムがフランス植民地だった時代(F・ルーズベルト大統領時代)から、ニクソンに至るまでの各時代のベトナム施策が詳細につづられた「最高機密文書」です。

 映画では、ベトナム戦争のさなかに、1971年、ニクソン大統領が作成を命じたベトナムに関する報告書が中心になっていました。 

 映画は、政府がその存在をひた隠しにした最高機密文書を、ニューヨークタイムズとワシントンポストというアメリカの二大主要新聞が暴露した経緯を描いています。

 「ペンタゴンペーパーズ」。真実を隠し、国民をだましてきた政府を憎み、真実の報道にかけた新聞社の、報道への信念が描かれます。また、専業主婦からやむを得ず新聞社主になった女性の成長物語でもあります。

 スピルバークが「報道」をテーマに映画を作ろうと思ったのは、現在のアメリカの状況、すなわち、自分に都合の悪いことを報道したニュースなどはすべて「フェイクニュース.うそ報道」と切って捨てるトランプ大統領の存在と、そういう大統領を支持する勢力の拡大に一石投じる、という意味合いがあったのだろうと感じます。

 ひるがえって、思うに。
 「政府が国民をだます」ということに、怒りも痛痒も感じない国民が多数を占める国にとって、いったい「真実」とはなんでしょうか。

 「自分と妻がいささかでも関わっていたことがわかったら、辞任する」と言っていた人が、「それは収賄に関わっていたら、という意味であって、収賄事案じゃないことは明らかになった」と、ふんぞりかえって「この件はかわした」と、言う人を、与党は党をあげて持ち上げようとしている。ふぅ、この国では真実なんて愛されなくてもいいんだな、自分にさえ都合がよければ、だれが嘘をつこうと気にしない風土であるのだ、と思いながら「ペンタゴンペーパーズ」を見ていました。

 ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、ワシントン・ポストの編集主幹にして、トクダネハンター。新聞社内では「海賊」と呼ばれているやり手記者です。
(ベンは実在の人物。1921-2014。この映画に描かれたころは50歳。93歳で死去)
 トム・ハンクスは撮影時には60歳になっていましたが、働き盛りの記者を生き生きと演じていました。
 ワシントンポストの社主は、キャサリン・グラハム(呼び名はケイ。メリル・ストリープ)。こちらも実在の女性(1916-2001)です。1998年出版の自伝によりピュリッツアー賞を受賞)

 ケイの夫は、ケイの父親が社長だった新聞社を受け継ぎました。しかし、周囲のだれにもわからない理由で自殺してしまいます。専業主婦からいきなり社長になったケイを、周囲の人たちはみなが「危なっかしい、ほんとに新聞社を維持していけるのか」と、不安に思っています。
 ストリープの演技、最初はおどおどと経営にかかわっていき、自信なさそうな演技。最後の決断をしたあとは、見違えるように「この新聞はわたしの魂」と思える顔つきになっています。

 最高機密文書の持ち出し。ニューヨークタイムズとワシントンポストの報道合戦。政府の新聞発行差し止め命令と裁判のゆくえ。
 はらはらドキドキの展開を経て、映画の最後のシーンは、ウォーターゲート事件の発端。キャサリン・グラハムがポスト紙に掲載を決断し、ニクソンを辞任に追い込んだ事件です。

 また、エンド・クレジットに「ノーラ・エフロンに捧ぐ」という文字がでています。j女性監督のエフロン(1941-2012)は、「めぐり逢えたら」「ユーガットメール」などを残しました。
 ノーラの元夫は、ウォーターゲート事件を報道した記者のひとりです。

 新聞社が政府によって取り潰されるかもしれない、という事態を迎えて、ケイが決断した「真実を報道するのが新聞の使命」を、スピルバークはアメリカ社会につきつけたと思います。
 しかし、2018年、トランプはますます増長。
 トランプ政権側近中の側近にして首になったバノンからのリーク情報をもとにしたといわれる『炎と激怒("FIRE AND FURY: Inside the Trump White House")』に対しては、例によって「虚偽の本フェイクブック」と決めつけ、販売差し止めを要求しています。内容がまったくの嘘なら、ほうっておいて、真実を国民に知らせればいいだけ、と思うのは対岸の火事だからかな。どうなっていくんでしょうか。

 真実はどうでもいい国の「トランプのポチ君」も、ますます増長していくでありましょう。そういう国ですから。

<つづく>
コメント (2)
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